2016年8月23日 (火)

台風接近時の情報の見方としてあらためて気になること

台風接近時の情報の見方について,どうにも気になることをあらためて書いてみました.

台風の「中心」付近は,風は一番強い可能性が高いけど,雨も一番強いわけではありません.雨は台風の中心から数百km以上離れた所で強く降ることがごく普通にあります.「中心」「上陸」などという,あえて言うならば「半世紀前に重要だったが今となっては『雑』な情報」に気をもむのではなく,レーダー等で素直に雨雲の様子を見ましょう.

台風の中心付近で雨が激しいわけではない,というのは「台風の目だから」ではありません.そもそも台風の雨雲は「中心は目で雲がなく回りに厚い雲が同心円状に広がってる」のではなく,渦巻き状に厚い雲,薄い雲が中心を取り巻いています.「台風の目」もことさらに注目しすぎるのもどうかと思います.

台風に伴う雨の特性(気象庁)

http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/3-1.html

「台風の中心で雨が最も強いわけではない」は,レーダー画像を見れば一目瞭然です.下記画像では,中心からはるか離れた北西側に雨の強いところが分布しています. pic.twitter.com/tCjKShFthg

雨は固体じゃありませんから,流れていったり,しみこんだりします.「今激しく降っているところ」だけに注意ではなくて,「これまでにどれくらい降ったか」(土砂災害警戒判定メッシュ情報とか),「流れてきたものはどれくらいか」(河川の水位とか,最寄りの観測所だけでなく上流の観測所も)にも要注意です.

台風に限らず,豪雨時に「田んぼの様子を見に」の危険性は最近かなり注意されてきた感があり,これはよいことだと思いますが,実はそうした犠牲者は全体の6.7%,「川などの様子を見に」を合わせて11.4%です(当方調べ goo.gl/Q2UzKt ).少なくはないが,「田んぼの様子を見に」だけの強調も少し不安を覚えます.

むしろより単純に「雨風激しいときは外をうろつかない」も重要かもしれません.全犠牲者の約半数,水関係の犠牲者の8割以上が「屋外」で亡くなっています. pic.twitter.com/UE0vNzQcjG

これも台風に限った話ではありませんが,「夜の災害が怖い」とよく言われます.しかし,筆者による2004-2014年の風水害犠牲者の調査(当方調べ goo.gl/Q2UzKt )からは亡くなった方の遭難時間帯は夜昼ほぼ半々です.昼間は「少し無茶してしまう」事による遭難,といった可能性もありそうです.夜は夜の怖さが,昼は昼の怖さがある,と考えた方がいいように思います. pic.twitter.com/6LtvF7hoRI

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2016年6月29日 (水)

改めて考える地震対策-耐震が一丁目一番地

6月25日付け静岡新聞「時評」欄に掲載された筆者の寄稿記事です.繰り返し指摘されていることですが,人的被害(最も深刻な被害)は明らかに古い家屋に集中しています.
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 「平成28年熊本地震」発生から約2ヶ月.この間に3回ほど現地を調査で訪れた.地震は私にとって専門外の現象でもあり,いろいろと知らなかったことにも出会った.この地震では,地震そのものによる直接死者・行方不明者が50人に上った.避難生活などに伴う関連死者数はまだ流動的だが,6月14日静岡新聞朝刊では関連死疑いが20人とも伝えられる.
 
 死者・行方不明者が50人以上となった自然災害は,1980年代以降でも本事例を含めて15事例,仮に70人以上では11事例である.50人以上の被害となったことは大変痛ましいが,決して「未曾有」ではなく繰り返し発生している規模だ.日本が厳しい自然環境下にあることにあらためて愕然とさせられる.
 
 現地を見て最も印象的なことは,すでに多く伝えられてはいるが,「激しく倒壊しているのは主に古い家屋である」だった.比較的新しい家屋の倒壊,損壊も見られたが,大局的には古い家屋の被害の方が目立った.
 
 筆者は今回の地震による犠牲者発生状況の調査を進めているが,地震による建物等倒壊に伴って亡くなった方は38人で,そのうち所在家屋が現在の耐震基準とおおむね同等の1980年代半ば以降の新築だった可能性が高いのは今のところ2人(1世帯)である.犠牲者は明らかに古い家屋に集中している.
 
 4月14日の「前震」があり,その直後は避難したが「もう大丈夫だろう」と考え16日夜は自宅に戻り,「本震」で亡くなったことが伝えられている.確かにそうしたケースも少なくないが,ほとんどが古い家屋での犠牲者だったことを考えると,「もう大丈夫だろう」という判断によって厳しい結果となったというよりは,そもそも家屋自体に主な原因があったと考えた方がいいのかもしれない.
 
 いくら一生懸命避難袋を作り,サバイバル知識を身につけ,緻密な津波避難訓練をしていても,古い家屋に居住し地震発生とともに建物倒壊で命を失っては,それらの「備え」は何の役にも立たない.耐震化の支援策も様々用意されている.賃貸であれば「比較的新しい家屋を選ぶ」ことも立派な対策となる.地震対策の一丁目一番地は耐震化である,とあらためて考えている.

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2016年6月27日 (月)

2016年6月20~21日に熊本県付近で発生した豪雨による人的被害の主な特徴(速報)

PDF版  関連資料

 当研究室では,豪雨災害による人的被害(死者・行方不明者)の発生状況について,継続的な調査を行っている.2016年6月20~21日に熊本県付近で発生した豪雨にともなって生じた死者・行方不明者の発生状況について,主な特徴をとりまとめたので速報として報告する.本資料はあくまでも速報であり,今後大幅に変更となる可能性もある.

【要点】
  • 熊本県内で死者6人が生じた.2004~2014年の主要豪雨災害(2004-2014)の42事例の内,死者6人以上の事例は26事例あり,ほぼ毎年1回以上発生している被害規模である.
  • 原因外力別犠牲者数は洪水1人,土砂5人.2004-2014と比べ「土砂」が多い可能性がある.
  • 6人中5人が65歳以上であり,2004-2014と比べ高齢者に被害が偏在している可能性がある.
  • 6人中5人が「屋内」であり,2004-2014と比べ「屋内」が多い可能性がある.「土砂」では「屋内」が多い傾向があり,本事例では「土砂」が多いことから,特異な傾向ではないと思われる.
  • 「土砂」犠牲者5人全員が土砂災害危険箇所の「範囲内」と思われる.想定外の場所で犠牲者が生じている状況ではない.
1.はじめに
 当研究室では,近年発生した豪雨災害による死者・行方不明者(以下では「犠牲者」と略記する)について,行政資料,報道記事,現地調査などを元に,その発生日時,位置,原因外力,遭難状況などをとりまとめ,データベース化している(牛山,2015).ここでは,すでに整理している2004~2014年の主な豪雨災害42事例で生じた犠牲者712人(以下では「2004-2014」)と,2016年6月20~21日に熊本県付近で発生した豪雨で生じた犠牲者6人(以下「2016熊本」)を比較する.ただし,2016熊本の犠牲者数は2004-2014の犠牲者数と比べて値が小さいので,「比率」に関して厳密な議論はできない.また,2015年の調査対象死者・行方不明者は3事例11人あるが,現時点で未整理であるため2014年までの集計値を示している.
 
 2016熊本に関しては,行政機関の資料,新聞報道,テレビ映像,関連資料の収集を行うとともに,2016年6月21日に現地踏査を行った.
 
2.死者・行方不明者数の概要
 2016熊本では,熊本県内のみで死者6人(熊本市2人,宇土市2人,上天草市1人,甲佐町1人)が生じた(図1).2004-2014の主要風水害42事例の内,死者6人以上の事例は26事例あり,ほぼ毎年1回以上発生している被害規模である(図2).

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図1 死者・行方不明者発生場所

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図2 事例別死者・行方不明者数
 
3.原因外力別死者・行方不明者
 当研究室では,犠牲者をもたらした原因となった外力を「高波」,「強風」,「洪水」,「土砂」,「河川」,「その他」の6種に分類してある(表1).なお,「洪水」は河道外に溢れた水に起因する犠牲者で,「河川」は河道内の水に起因する犠牲者である.
 
 2016熊本では,洪水1人,土砂5人,その他は0人となった(図3).2004-2014では,洪水18.4%,河川,19.1%,土砂48.9%,強風 6.3%などとなっており,2016熊本では,土砂の犠牲者が多い可能性がある.
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図3 原因外力別犠牲者数
表1 原因外力の分類定義

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4.年代別死者・行方不明者
 65歳以上を高齢者と見なして分類すると,2004-2014では,65歳以上の犠牲者は385人(全犠牲者の54.1%),65歳未満324人(同45.5%)だった.参考までに2010年国勢調査では,65歳以上の人口は全人口の23.0%であり,犠牲者中の高齢者率は人口構成比に比べ極めて高い.
 
 2016熊本では,犠牲者6人中5人が65歳以上であり(図4),本事例においても高齢者に被害が偏在している可能性がある.

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図4 年代別犠牲者数
5.遭難場所別死者・行方不明者
 犠牲者の遭難場所を「屋内」(なんらかの建物の中)と,「屋外」(建物の外に滞在,歩行中,車等で移動中)に大別すると,2004-2014では「屋内」365人(51.3%)、「屋外」343人(48.2%)とほぼ同程度である.なお,図は示さないが原因外力別でみると,「土砂」のみは「屋内」が多い(86.5%)が,他の外力では「屋外」が多数派を構成しており,外力別に明瞭な相違がある.
 
 2016熊本では,犠牲者6人中5人が「屋内」であり,「屋内」犠牲者が多くなっている(図4).本事例では,土砂の犠牲者が多く,土砂では「屋内」での犠牲者の比率が高いことから,本事例に特異な傾向ではないと思われる.

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図5 遭難場所別犠牲者数

6.土砂災害犠牲者発生位置と危険箇所
 土砂災害については,ハザードマップ等で危険箇所が公表されている.「土砂」による犠牲者がこれらの危険箇所付近で発生しているかについて集計している(牛山,2016).集計対象は「土砂」の犠牲者の内,発生場所が世帯単位程度で特定できたものとし,危険箇所のデータとしては,国土数値情報の「土砂災害危険箇所」(土石流危険渓流,急傾斜地崩壊危険区域,地すべり防止区域)を用いている.土砂災害警戒区域ではない.これらいずれかの危険箇所内に位置していた場合を,土砂災害危険箇所の「範囲内」,いずれかの危険箇所から約30m以内にあった場合を「範囲近傍」,その他の場合を「範囲外」と判定した.
 
 2004-2014の「土砂」犠牲者の内,発生場所が世帯単位程度で特定できた243人の犠牲者については.「範囲内」174人,「範囲近傍」37人で,全体の87%が危険箇所内またはその近傍の範囲内で生じていた.
 2016熊本については,国土交通省の「重ねるハザードマップ」を参照し判定した.世帯単位で位置が特定できた「土砂」犠牲者5人の全員が土砂災害危険箇所の「範囲内」だったと思われる(図6).なお,「洪水」犠牲者1人も,洪水浸水想定区域の「範囲近傍」だった.2016熊本は,「平成28年熊本地震」により被害を受けた地域で生じた豪雨であり,地震の影響で土砂災害,洪水災害が生じやすくなっていた可能性があるが,犠牲者が発生した場所そのものは,「地震により新たに危険となった場所」ではなく,想定されている範囲内の場所だったと思われる.

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図6 犠牲者発生位置と土砂災害危険箇所の関係
7.備考
  • 本報告の数値等は速報値であり,今後の解析,再調査などにより,修正される場合がある.
  • 本報告に収録の内容や図表は,今後行われる学会の予稿集,刊行される論文などでそのまま用いられる場合があるが,災害調査という社会的な重要性を考慮し,論文等での刊行に先立ち公表しているものである.
参考文献
  • 総務省消防庁:6月20日からの梅雨前線に伴う大雨による被害状況等について(第7報),http://www.fdma.go.jp/bn/2016/detail/959.html,2016 (2016年6月23日参照).
  • 牛山素行:2004~2014年の豪雨災害による人的被害の原因分析,東北地域災害科学研究,No.51,pp.1-6,2015.
  • 牛山素行:発生場所から見た平成27年9月関東・東北豪雨災害による犠牲者の特徴,河川技術論文集,Vol.22,,pp.309-314,2016.

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2016年6月20~21日熊本県付近の豪雨 降水量資料

6月20~21日の熊本県付近での大雨について,降水量の記録を少し整理.なおここでは,過去のデータとの比較のため,すべて毎時00分観測の「1時間降水量」を基礎データとして使用している.降水量はAMeDAS観測値,分布図はMANDARAにて作成,背景図は地理院地図.

6/17~21の最大1時間降水量分布図.最大は甲佐124mm.60分降水量の150mmより小さいが最大値観測地点は変わらず.統計期間10年以上で1976年(観測所による)以降最大値更新は長崎,熊本,宮崎県内の6箇所.

6/17~21の最大3時間降水量分布図.最大は甲佐の196mm.統計期間10年以上の観測所で,1976年(観測所により異なる)以降最大値を更新したのは長崎,熊本県内の6箇所.1時間降水量とは更新箇所が少し違う.

6/21 24時の72時間降水量分布図.最大は宮崎県えびのの581mmで,今回被害が目立った益城,甲佐,宇土付近より大きな値を観測した地点が多数ある.最大値更新の地点はない.今回の短時間の豪雨に特徴があったとうかがえる.

甲佐の6/15~21の継続時間毎最大降水量と過去の記録を比較.今回は1~6時間降水量は同地点の1976年以降最大値を上回ったが,長時間の降水量はそれほど大きくない.いずれの記録もアメダス全地点最大値には及ばない.

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2016年5月13日 (金)

自力避難困難者の支援-助ける側の安全 第一

だいぶ時間が経ってしまいましたが,4月13日付け静岡新聞「時評」欄に掲載された筆者の寄稿記事です.「避難を支援する=助けに行く」ととらえる事には強い違和感を覚えます.何よりも重要なのは「支援する人」も含めた各自の安全確保だと思います.

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時評=自力避難困難者の支援-助ける側の安全 第一
 
 災害時の「避難」を考える上で,自力避難が難しい人の支援は大きな課題となっている.近年の災害対策基本法改正で,高齢者,障害者,乳幼児など「自ら避難することが困難な者であってその円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要するもの」は「避難行動要支援者」と呼ばれ,行政機関による名簿作成が行われることになった.要支援者支援が必要なことは言うまでもないが,「避難を支援する=助けに行く」ととらえる事には,筆者は強い違和感を覚える.
 
 たとえば,地震災害は地震発生の瞬間に最も危険性が高まるタイプであり,「支援」は,状況が少し落ち着いてから要支援者の安否を確認に行く,といったスタイルが想定される.危険がある程度去った事後の活動が中心である.
 
 一方,風水害や津波災害など危険性が次第に高まっていくタイプの災害では,事前の活動の余地がある.しかし,危険性が高まる前に「助けに行く」活動を完了することはかなり難しい.
 
 「AさんがBさんを支援する」といった計画自体はよいが,これを「AさんがBさんを必ず助けに行く」ことととらえてしまうと,助かることが可能だったAさんまでが犠牲になってしまうことにもつながりかねない.
 
 「要支援者を見捨てるのか」「最後の1人まで見逃すな」といったご意見もあろう.しかし我々は東日本大震災で,消防団員254人,民生委員56人,警察官50人が死亡(消防庁資料など)したという,悲しく厳しい現実を見てしまった.すべてが「要支援者を助けるための犠牲者」とは言えないが,「支援する人」が多数亡くなったことは重く受け止めなければならない.
 
 まず何よりも重要なのは「支援する人」も含めた各自の安全確保である.2006年に全国社会福祉協議会が刊行した「民生委員・児童委員発 災害時一人も見逃さない運動実践の手引」にも「危険な状態の中で要援護者の救援を委員自らが行なうということではありません」とある.災害対策基本法でも「災害応急対策に従事する者の安全の確保に十分に配慮して、災害応急対策を実施しなければならない」とある.
 
 「命をかけて助けに行くことが基本」であってはならない.また,安全確保策は極力制度化しておく必要がある.「支援する人は各自の判断で退避」では「自分の判断で見捨ててしまった」と悔いを残すことになりかねない.簡単なことではないが,理想(形式)に陥らず,現実的な対策の検討が重要だろう.
 

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2016年5月 2日 (月)

平成28年熊本地震に伴う死者・行方不明者について・5/2現在メモ

5月1日までに得られた報道記事,各種地理情報等などを元に熊本地震の死者・行方不明者について整理中.公表されている直接死者数は49人,行方不明者1人.全員の遭難位置を町丁目程度まで確認,内8割はより詳細に確認.4/21時点でも集計したが,以下その後得た情報をもとに再集計した.

推定原因別に集計.8割が「倒壊」(構造物倒壊,部材落下,家具転倒など).中越は「その他(ショック死など)」を関連死と見なすかで構成比が変わる.岩手宮城だけが別で,中越,中越沖,熊本とも,比率的には倒壊が主を占める傾向は同様か. pic.twitter.com/yzYnBFcBdu

熊本地震の死者・行方不明者を遭難場所別にみると,屋内が9割以上.中越,中越沖も屋内は8割前後で,概ね同傾向.岩手宮城が別であるのも原因別構成比と同様. pic.twitter.com/2Akb9S2yxX

犠牲者の年代構成については4/21の集計 goo.gl/NzPywi と変わらない.

発生位置を原因現象別に分布図で.埼玉大学谷謙二研究室公開の「Google Maps APIv3を使ったジオコーディングと地図化」 http://goo.gl/2DW854 により作成.背景は国土地理院の色別標高図.

倒壊は広い範囲,土砂は南阿蘇の山間部のみ.益城町付近では台地と低地の境界付近に被害が集中のようにも見えるが,この付近では低地にほとんど家屋がなく,地形との関係かどうかは不明瞭. pic.twitter.com/l1JQa0Dqfx

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2016年5月 1日 (日)

平成28年熊本地震に伴う土砂災害関係死者・行方不明者について・5/1現在メモ

 熊本地震において,土砂災害で亡くなった方は9人.場所は大別するといずれも南阿蘇村内の立野地区(2人),河陽地区の高野台団地(5人),長野地区の宿泊施設(2人)の3箇所となる.また,南阿蘇村の阿蘇大橋付近で斜面崩壊に巻き込まれたとみられる人が1人おり,5月1日現在行方不明のままである.

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 立野地区の被災現場は古くからの集落で,被災世帯は少なくとも1967年の空中写真で現在位置にほぼ同じ形状の建物が確認できる.土石流危険渓流の範囲内ではないが数十m程度の位置で範囲近傍にあり,土砂災害警戒区域内に位置する.図は熊本県土砂災害情報マップより.図中「431-1-001-5」の文字の付近(あえて詳述しません)が被災世帯の場所で,イエローゾーンの範囲内.

 
 高野台団地の被災世帯は,空中写真からは1997~2003年の間に建設されたと推定される.土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域の指定範囲ではない.長野地区の被災した宿泊施設は,空中写真からは2003~2004年の間に建設されたと推定される.この場所も土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域の指定範囲ではない.
 
 4月30日付け毎日新聞によると,「熊本県によると、高野台団地と火の鳥温泉周辺の斜面は傾斜が30度未満で、過去に地滑りが起きた形跡がなく、土石流を起こしやすい地形でもないことから、警戒区域の指定を見送っていた」とのことで,土砂災害警戒区域の指定対象外の場所だったようである.
 
 土砂災害警戒区域等は有効な情報ではあるけど,その対象とならない場所でも土砂災害が起こることは,他の災害同様,当然あり得ることで,「見逃し」を少なくするための技術開発がさらに必要なことは当然のことである.しかし,立野地区の被災世帯に見るように,地震起因の土砂災害であっても,全く予想もつかないようなところで発生するケースばかりではない.既存の土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域といった情報は,地震による土砂災害の発生箇所を警戒する上でも有効だと思われる.

 豪雨災害についての調査ではあるけど,私の調査では土砂災害の犠牲者の9割前後は,土砂災害危険箇所の範囲内もしくはその近傍で発生している. http://goo.gl/Y3yLbJ 範囲外の場所での被害も生じることは当然あり得るが,大局的には有効な情報として活用すべきと思う.なおこの調査で土砂災害危険箇所「範囲外」と判別された犠牲者が比較的多かった事例の一つが,2012年九州北部豪雨の阿蘇市である.豪雨起因の土砂災害も含め,火山地帯の土砂災害警戒区域等指定にはさらに工夫が必要かもしれない.ただし,技術的な方法論については,専門外なので詳述できない.
 
 また,阿蘇大橋付近の斜面崩壊のように,住家等がない場所では地形的に土砂災害の可能性があっても土砂災害警戒区域等の指定対象となりにくいことも注意が必要.土砂災害警戒区域等ではないから,山間部であっても安全な場所という訳ではない.ハザードマップを見るだけではなく,土砂災害関係部署から情報を得て考えていくことが重要だろう.

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2016年4月22日 (金)

平成28年熊本地震に伴う死者・行方不明者について・4/21現在メモ

4月21日までに得られた報道記事などを元に推定した熊本地震の死者・行方不明者の発生位置(赤丸).町丁目レベルの推定なので数km程度の誤差はある可能性.背景は地理院地図.益城町,南阿蘇村が中心で,他は嘉島町,西原村など. pic.twitter.com/t2lcwbxvCr

熊本地震の死者・行方不明者を推定される原因別に集計し,最近の内陸型地震と比較.不明がまだ多いが,主な被害は「倒壊」(地震によって生じた構造物の倒壊や部材の落下,家具の転倒などに巻き込まれ,死亡した者).なおこの集計は,直接死のみを対象とし,「その他」には関連死は含まれない.  pic.twitter.com/x6u8M4Zjst

熊本地震の死者・行方不明者を年代別に見る.65歳以上の数が他事例より多い.比率(67%)では中越沖が高い(91%)が合計がかなり違うので比較は難しい.ちなみに2004-2013年の風水害犠牲者の65歳以上は56%でこれよりは高い. pic.twitter.com/zmO4HLP5gn

熊本地震の死者・行方不明者を遭難場所別に.まだ不明が多いが,屋内が多く,傾向としては中越,中越沖と似ているように思える. pic.twitter.com/g3u8ru90VC

本日現在で集計できるのはこのあたりまで.今後資料が集まった後で,結果が大きく変化する可能性はある.

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2016年4月16日 (土)

平成28年熊本地震に伴う犠牲者について・4/16 17時現在メモ

昨日4月15日時点で,今回の地震に伴う犠牲者についていくつかツイートしたものをブログに整理した.「平成28年熊本地震に伴う犠牲者について・4/15現在メモ」 goo.gl/lxxBCq

昨日の時点では,2007年新潟県中越沖地震による犠牲者の原因別人数を確認していなかったので,本日あらためて整理した.2004年新潟県中越地震,2008年岩手宮城内陸地震の犠牲者と並べてグラフに示す. pic.twitter.com/7j1OpV9V87

昨日も示したが,東日本大震災で特に被害の大きかった岩手宮城福島の3県以外で生じた犠牲者71人についての筆者の集計 goo.gl/8h3QA では原因別では倒壊15,土砂3,津波26,その他20,不明7.

4月16日時点の平成28年熊本地震に伴う死者数(14日からの一連)は,17時頃のNHKによれば32人とのこと.現時点では関連死は含まれないので筆者の分類であれば倒壊,土砂,火災,その他の合計に相当する.とすれば,中越,中越沖,岩手宮城内陸よりは規模が大きくなった可能性.

東日本大震災時の土砂災害犠牲者数,どこかに国交省の集計があったと思うけど,すぐ見つからないので自分の集計 goo.gl/8h3QA だと28人くらい.

まだよくわからない部分が多いが,今回の地震に伴う犠牲者数は,東日本大震災における「津波以外の直接死者数」よりはだいぶ少ないが,中越,中越沖,岩手宮城内陸といった最近20年間の主な地震災害の中では最大規模となった可能性があるとは言えそう.

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平成28年熊本地震に伴う犠牲者について・4/15現在メモ

「平成28年熊本地震」について,4月15日朝の段階で発表されている死者数は9人,「倒壊家屋の下敷きで窒息死多く」とのこと.死者9人は,2011年3月11日東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)以降で最大規模.

東日本大震災関連の個々の余震に伴う犠牲者数より多い.東日本大震災の犠牲者のほとんどは津波によるものと考えられ,地震の揺れによる犠牲者が結局どの程度だったのかは,結果的に津波による犠牲者に含まれた可能性もあることなどから明確にはわからないと言っていい.東日本大震災で特に被害の大きかった岩手宮城福島の3県以外で生じた犠牲者71人についての筆者の集計 http://goo.gl/8h3QA では,建物倒壊に関連する犠牲者は15人.ただし,住家が倒伏して生き埋めとなった犠牲になったケースは確認できなかった.

東日本大震災以前の地震災害で,比較的犠牲者が多かった事例は,2008/6/14岩手・宮城内陸地震(死者行方不明者25人)山間部の屋外での犠牲者がほとんどで,建物倒壊による犠牲者は確認できなかった(筆者調査 http://goo.gl/mxBi2 ).

岩手・宮城内陸地震の前で犠牲者が比較的多かった事例は2007/7/16新潟県中越沖地震(死者15人).この事例の犠牲者構成を私は精査していないので,詳細は今は知らない.

新潟県中越沖地震の前で犠牲者が比較的多かった事例は2004/10/23新潟県中越地震(死者68人).ただしこの68人の2/3程度は関連死で,地震の揺れに伴う直接死者は24人.そのうち建物倒壊に伴う犠牲者は10人(筆者調査 http://goo.gl/mxBi2 )

現時点ではまだなんとも言えない部分が多い.印象としては,建物倒壊に伴う犠牲者が比較的多く,建物倒壊に伴う犠牲者の規模は2007年新潟県中越沖地震や2004年新潟県中越地震に近い可能性がある.

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