2018年7月17日 (火)

「流れる水には近づくな」「土砂災害の前兆に頼るな」

 もう少し書こうかと思ったけど時間が無いので,先日のツイートにすこしだけ加筆.
 
 よく防災パンフレットなどで目にする記述,「徒歩での避難が難しくなるとされる50センチ」.これはとても危険な知識のように思う.このような伝え方をすると,「50cmまでなら歩ける」と思われてしまいそう.流速が速ければもっと浅くても流されるし,体格や年代性別によってもだいぶ話が変わる.

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このあたり,詳しくは関西大学の石垣先生が以前に書かれたコラムが参考になる.
 
 防災上の知識として単純化するなら「人も車も簡単に流される.流れる水には近づくな」でよいと思う.普通の人にとって,水に勇気を持って立ち向かう必要は無い.水からは逃れないといけないと思う.

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 でもそう言うと必ず怒り出す人がいて,「実際に水に取り囲まれたらどうするのか!,運動靴!,ロープ!,探り棒!」とかいう話に.そんな状況にならないように早めの行動をする事が何よりも重要.どうしてもだめなときは,少しでも高いところに逃れる.つまるところ,「最善を尽くす」しかない.
 
 これとよく似た「危ない防災知識」が,「土砂災害の前兆現象」だとおもう.これについては最近のコラム記事を参照ください.
 
時評=土砂災害-「前兆」頼りすぎるな

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2018年7月15日 (日)

平成30(2018)年7月豪雨 倉敷市真備地区での流失家屋の判読

 住家に激しい被害が生じ,そこに人が居れば犠牲者が発生する可能性は高い.犠牲者を生じうる家屋被害の情報としては,「全壊」などの統計値がまず考えられる.しかし現在の基準(内閣府:災害に係る住家の被害認定基準運用指針)では,1階天井まで浸水だけでも「全壊」と判定されることになっている.つまり,犠牲者の発生に直接結びつかない家屋被害が「全壊」に計上されることがあり得る.このため,完全に流失・倒壊した建物数に関する情報が必要となる.一方近年の災害時には,国土地理院が発災直後に被災地の空中写真を撮影し,オルソ化してWeb版の「地理院地図」で公開することが一般的で,災害前後の空中写真を比較判読することにより,流失家屋を読み取れる可能性がある.
 
 ここではまず,平成30年7月豪雨により激しい浸水被害を受けた,岡山県倉敷市真備地区を対象に,地理院地図から被災前後の空中写真判読を行った.用いたのは,被災後の空中写真は国土地理院撮影の「高梁川地区(7月9日撮影),同(7月11日撮影)」を,被災前の空中写真は,地理院地図収録の「全国最新写真(シームレス)」である後者の撮影時期は,2007年以降とされている.読み取り範囲は第3次メッシュを単位として,下記の範囲とした.

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 流失家屋の判読は筆者自身の読図によるものである.被災前後の空中写真を比較し,下記の2種類に該当すると読み取れる家屋を流失家屋と見なした.
  • 「流失(完全)」:被災前に存在した建物が完全に流失または倒壊し建物としての形状が認められない
  • 「流失(変形)」:被災前に存在した建物で形状が明らかに変形しているまたは一部が流失している
 判読結果には個人差がありうる.また,空中写真での判読であり,現地で見れば変形していると分かるものでも,判読できていない場合もありうる.空中写真でも分かる程度の大きな被害を受けた家屋と考えてもよい.また,空中写真撮影後に撤去された家屋もありうるので,Googlemap,ストリートビュー,ゼンリン住宅地図も合わせて参考とした.
 判読対象家屋は,被災当時のゼンリン住宅地図において番地記載がある建物とした.従って,同一敷地内にある建物であっても番地記載の無い建物(物置,車庫などと考えられる)は対象外としている.
 判読結果が下記である.作図は埼玉大学谷研究室のGeocoding and Mappingによる.背景図は地理院地図である.緑色の■が流失家屋と判読された家屋の位置である.今回の判読範囲では,7箇所が判読された.

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 比較のため,同様な方法で判読した,平成29(2017)年7月豪雨による,山地河川洪水で被害を受けた福岡県朝倉市の,赤谷川中下流域での判読結果を示す.地図の縮尺,範囲は真備地区とほぼ同じである.朝倉市内では,土砂災害による流失家屋も多かったが,この図の範囲内の多くは洪水(山地河川洪水)によるものと考えてよい.

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 真備地区と赤谷川中下流を比較すると,後者の方が多くの流失家屋が生じている.真備地区の洪水は,平野部の破堤氾濫であり,洪水の形態がやや異なり,被害の出方に違いが出ていると言っていい.被害形態として類似している平成27(2015)年9月関東東北豪雨による茨城県常総市もいずれ判読したい.概略的に判読したところでは,おそらく朝倉市のケースよりかなり流失家屋は少なく,真備地区と同程度と思われる.
 
 流失家屋が少ないことは,被害が軽微であることを意味しない.ことに今回の真備地区では,2階軒先(5m程度)まで浸水した家屋が多く見られ,常総市での被害よりははるかに浸水の程度が激しい.家屋自体は残っても,家財に大きな被害が出ていることが予想され,決して軽微な被害ではない.さらに,深い浸水によると思われる人的被害もかなりの規模に上っている.
 
 また,平成30年7月豪雨全体では,特に土砂災害による大きな被害を受けた地域において,多数の流失家屋が生じている事は間違いない.本稿はあくまでも,真備地区の流失家屋の規模を読み取ることだけを目的としたものであり,平成30年7月豪雨による被害全体を矮小化する意図は全くない.
 
※本稿の一部は,2018年9月の日本自然災害学会で口頭発表予定の内容を転載したものです.

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7月14日倉敷市真備地区現地踏査雑感

 7月14日午後,倉敷市真備町を現地踏査.写真は小田川の箭田橋付近左岸側の破堤箇所.応急改修が概ね終わったように見える.たいしたものだ.場所はこのあたり

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 箭田橋付近破堤箇所の近く.数棟の家屋が流失したと思われる.破堤箇所の正面ではなく,やや上流側の家屋が流失している.
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 7月7日の朝日新聞にあった画像https://twitter.com/asahi_photo/status/1015394952547717120に見られた道路標識.場所はこのあたり.看板下部の道路面からの高さを測ってみたところやはり約5m(規格なんだから当たり前か).道路面からの浸水深は約5mと見てよさそう.なお,当日の画像がピーク水位の時点であるとは限らないことは注意が必要.ただし,周囲の建物の浸水痕跡から類推すると,この付近でほぼ5m弱がピーク水位とみてもよいように思えた.

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 真備地区では他にも2箇所ほど見て,後は車で流しただけだが,浸水深は深いところが目立つものの,やはり流失家屋が至る所に見られるような状況ではなかった.被害がひどくないという話ではなく,この付近では,深い浸水が目立ったことが特徴ということ.
 

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2018年7月14日 (土)

平成30(2018)年7月豪雨 家屋被害についての雑感・7月14日朝時点

この記事の「家屋被害」とは,全壊,半壊,一部損壊,床上浸水,床下浸水の合計値だね.この数え方で3万だと,近年でも何回もあるレベルでそれほど大きくは感じない.ただ,家屋被害は時間とともに大きく変化するから,現段階では大小は議論できないと思う.

全壊~床下浸水までの合計(仮に全家屋被害と呼ぶ)で,値が大きい近年の事例としては1999年台風18号で約10万7千棟(消防庁資料).これは風が強かったためか,一部損壊が非常に多く(全体の約半数),合計がこうなっている.ただし一部損壊以外でも決して少ない数字ではない.www.data.jma.go.jp/obd/stats/data…

「全家屋被害」で他に被害が多いのは,2004年台風23号で約7万5千棟(消防庁資料).これは人的被害も多く,広域で様々な被害の出た事例で,今回と形態的には共通点が多い. www.data.jma.go.jp/obd/stats/data…

1980年代以前だと,「全家屋被害」が10万棟以上という事例は全く珍しくなくて,ほぼ数年に1回程度発生している.近い時代で値が大きいものとしては1976年台風17号で,約45万4千棟(理科年表による).これは長良川が決壊して濃尾平野で大規模な浸水が発生した事例.www.data.jma.go.jp/obd/stats/data…

なお,リンクで挙げた気象庁のページにある家屋被害の数と,ここで示した数字がだいぶ違っていることもあるけど,災害統計というのはそういうもの.出典や,集計時期によって大きく異なる事は珍しくない.長い期間について均質なデータで比較することは結構難しい.

災害統計って本当に手強い.数字をそのまま読むことは要注意.

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2018年7月12日 (木)

平成30(2018)年7月豪雨 「夜(深夜)の災害」ばかりが怖いわけではない

 下記の記事は,今回の災害における,夕方から夜にかけての人が多く動いている時間帯の災害の恐ろしさの一端を表すものと感じた.
 
7月6日夜 広島で起きていたこと
 
 2013伊豆大島,2014広島の頃「夜(深夜)の災害がこわい」のフレーズがあまりに強調されることに強い違和感を覚え,抵抗した.怖いのは夜だけではない.
 
 ふたたび当方のこれまでの調査結果から.1999年以降の風水害犠牲者の発生時間帯別分類.夜と昼はほぼ半々.昼ならではの怖さは,「少し無理な行動(帰宅,迎え,仕事など)をとってしまう」ということでは,と考えている.

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 今回の災害は様々な時間帯に生じたので,どのような傾向があるかはまだ分からない.少なくとも「深夜だけ」という事はなさそうに思うが,様々な状況があったようにも思う,慎重に検討したい.特定事例の「教訓」だけに引っ張られることは本当にまずい,とあらためて痛感した.

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平成30(2018)年7月豪雨 家屋被害に関する予察

 今回の災害では家屋被害も相当程度と思われるけど,家屋被害の値は人的被害よりもさらに時間とともに変わるので,早い段階での言及はできない.7/125:30の消防庁資料で全半壊+床上で8316棟で,1999年以降でも上位7位相当.
 
 人的被害が多い=家屋被害が多い,とは必ずしも言えなくて,図は1999~2016年の主要風水害の事例別家屋被害と人的被害の関係.消防庁資料をもとに牛山作図.なんとなく相関がありそうに見えるけど,相関係数は0.24程度で,かなりばらついている.いろいろな状況次第という所.

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 なお,近年の風水害では,床上浸水が後日半壊などに判定替えされるケースがかなり多いようなので,「全半壊だけ」「浸水だけ」の値を見ると,災害の実体像を反映しない可能性が高い.過去事例との比較には,全半壊+床上が良さそう,と考えている.関連論文は下記.
 
牛山素行:日本の風水害人的被害の経年変化に関する基礎的研究,土木学会論文集B1(水工学),Vol.73,No.4,pp.I_1369-I_1374,2017.

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2018年7月11日 (水)

平成30(2018)年7月豪雨に関する人的被害の特徴については,今後順次調査を進めます

当方では今後,従来から実施してきた,
風水害人的被害に関する調査研究
を踏まえ,本災害の人的被害に関する解析を中心に調査を進めたいと考えています.図は当方調査による1999~2017年の風水害犠牲者の原因外力別分類,参考まで.

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平成30年7月豪雨の人的被害について,早めにまとめた方がいい状況も感じたのですが,現時点では状況不明なことが多すぎますので拙速な対応はしないことにしたいと思います.おおむね1ヶ月以内には,速報として報告する機会を作ることを目標としています.
 
人的被害を生じた現場だけで100箇所以上に上ると思われる.その多くにこれから足を運ぶことになるだろうが,今日の現場はそのほんの第一歩に過ぎないのか,と思うと,本災害のあまりにも大きな規模感が実感された.
 

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7月10-11日広島市付近現地踏査雑感

7月10日,広島市安佐北区口田南3丁目付近などを現地踏査.写真は口田南3丁目で土石流により複数の犠牲者が生じたと思われる付近.複数世帯の家屋が流失,倒壊していると思われた.

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10日時点で目立った被害現場は数カ所ほど見ただけなので,限定的な印象だが,犠牲者,家屋流失ともに複数生じている現場で,発災4~5日目にしては,メディア関係者,調査関係者などがほぼいないという印象があった.今回,激しい被害を生じた現場があまりにも多い事を象徴しているような感じがした.
 
7月11日は広島市安芸区,熊野町付近をいくつか現地踏査.写真は熊野町川角5丁目.この付近で斜面勾配7-8度くらいか.付近は土石流危険渓流,土砂災害警戒区域.ここに限らず,見た範囲ではやはり,地形的に土砂災害の可能性がある場所での被害が目立つ印象.

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この付近では,死者・行方不明者十数人の可能性とのこと.そうなると,1箇所の人的被害規模としては2003年水俣土砂災害時の最大被害のあった宝河内集(ほうごうち・あつまり)地区に近い.
 
水俣と比較すると,この地区への社会的注目度や,現地への人の集まり方(救出や支援の手が足りてないという話ではなく,実務的な様々な人の集まり方)があまりに小さい,という(あくまでも感覚的な)印象.繰り返しになるが,今回は現場があまりに多い,とあらためて思った.

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2018年7月 9日 (月)

平成30(2018)年7月豪雨の降水量・被害・情報面の特徴(7月9日14時所感)

 今回の豪雨は,「広い範囲に大量の雨が長時間にわたり降り続けた」事が大きな特徴と言える.たとえば2017年7月九州北部豪雨では,1時間降水量など短時間の降水量が非常に大きかったが,強い雨が継続したのは10時間前後で,今回とは様相が異なる.今回は,72時間降水量など,長時間の降水量が大きかったところが多く,気象庁AMeDAS観測所(統計期間10年以上)のうち7月7日に最大値を更新した観測所は116箇所となった.
 
 なお,72時間降水量も値自体が特別大きいわけではない.最大は高知県魚梁瀬で,まだ欠測の関係で値が不詳だが1400mm程度と思われ,これは全AMeDASの上位3位に相当する可能性.しかし他の観測所はいずれも1000mm以下で,全AMeDASの上位10位よりはかなり小さい.
 
 また,絶対値としての降水量が大きかった地域で大きな被害が出ているわけではない.被害が集中した広島市付近,倉敷市付近の72時間降水量は,高知県魚梁瀬と比べれば1/3近い数字である.瀬戸内地方はもともと降水量の少ない地域であり,その地域にとって大きな降水量が記録されたところで被害が出ているもので,これはごく一般的な傾向である.
 
 人的被害の全体像はまだ明らかになっていないが,2004年台風23号(死者行方不明者98人)や2011年台風12号(同98人)を上回ることは確実で,昭和57年7月豪雨(同345人)以来の被害規模といっていい.理科年表によれば,死者行方不明者が100人を超える事例は,1951年以降35回発生しているが,昭和58年7月豪雨(同117人)を最後に発生しておらず,30数年ぶりの発生となりそうだ.過去に繰り返し発生している規模ではあるが,ハード,ソフト両面の対策が進んだ現代において発生したことは大変痛ましい.

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 個々の現場で発生していることは,現在の映像で見る限りでは,特に巨大な崩壊や,起こったこともないような広範囲の浸水が見られているわけではない.被害が大きくなったのは,ひろい範囲に激しい外力が作用してしまったことが,まず第一の要因,というか,ほぼそれに尽きると思われる.詳細はまだ分からないが,発生している場所についても,地形的に起こりうるところで起こりうることが起こった」という印象がもたれる.
 
 今回の豪雨はいわゆる「不意打ち」タイプではない.7月5日に気象庁が異例の会見を行ったことは印象的で,予想は十分なされ,早期の警告も行われた.詳細は要検討だが,従来よりは避難勧告等も早期に出された可能性が高い.「予測精度の向上」「避難情報の整備」だけではダイレクトに被害軽減に繋がらない可能性があらためて示唆された印象もある.
 
 被害が大きいので言いにくいことだが,今後調べが進むと,早期の情報により,被害軽減が図られたケースも出てくる可能性はあるのではないかとも考えている.

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平成30(2018)年7月豪雨の降水量の特徴・7月8日現在

 今回の豪雨の降水量の大きさについて,7月8日夕方時点の資料をもとに簡単に整理する.今回は長時間降水量が大きく,72時間,48時間降水量を更新した観測所が多かった.以下,気象庁webより,72時間の更新箇所が多かった7月7日の図を示す.しかし,この図が数日前まで含めて参照できるようになったことはとてもよいと思う.

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Pre72h_mx01

 一方短時間降水量はそれほど記録的ではない.こちらは6,7,8日に1時間降水量の最大値更新観測所.更新観測所がないわけではないが,他の豪雨事例と比べても多くはない.長時間の降水量が大きかった特徴が分かる.

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 なお,72時間降水量も値自体が特別大きいわけではない.最大は高知県魚梁瀬で,まだ欠測の関係で値が不詳だが1400mm程度と思われ,これは全AMeDASの上位3位に相当する可能性.しかし他の観測所はいずれも1000mm以下で,全AMeDASの上位10位よりはかなり小さい.

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