2016年9月19日 (月)

2016/9/11岩手県岩泉町現地踏査雑感

9月11日も岩泉町内の人的被害発生場所を中心に現地踏査.小本川下流部に,災害後初めて行った.数百m程度の谷底平野全体を洪水流が流れている印象.写真は袰野地区.水田だったところが河原のようになっている. pic.twitter.com/158Js8jHPT

乙茂地区のグループホーム付近遠景.現水面からホーム等のある低地面まで比高は4,5m程度.高水敷という印象.明治期の地形図では辺り一帯が川と表記されてたが,高水敷が水田化され,近年になって建物が建ってきたという所だろうか. pic.twitter.com/8Ssb3w8WHd

グループホームのすぐ上流側では,住宅地図に住家として表記されている建物が少なくとも3棟流失していた.ただしこれらに伴う人的被害は確認されていない. pic.twitter.com/HJA6qeaUMC

岩手県内の死者・行方不明者24人のうち,家屋流失に伴うものは2人,屋内で洪水にが10人(うちグループホーム9人),土砂2人,他は屋外で洪水に見舞われた可能性.当初の印象より屋外で洪水が多い(洪水ではこれがもともと多い).ただし現時点の判断,今後変わる可能性大いにあり.

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2016/9/10岩手県岩泉町・葛巻町現地踏査雑感

9月10日,11日と,岩泉町の被災地を,人的被害発生場所を中心に現地踏査.道はだいぶ啓開されてきたが,大きく決壊したところなどはまだまだの印象.普段なら20分程度の所を3時間かけて迂回など.10日夕方には国道106号の宮古-盛岡間が通れるようになり,おかげで帰路は比較的スムースに盛岡に戻れた.

今回の岩手,北海道での人的被害はほとんどが洪水起因と考えていたが,岩泉町二升石で行方不明者が生じたと報じられている場所は,土砂災害(土石流)起因と考えてよいか.建物倒壊には至っていないが,土砂の堆積が見られる. pic.twitter.com/cYmZRBUXQq

二升石の現場は,支川と本川が合流する地点にあり,本川側に多量の土砂が堆積している.支川側は家屋付近で勾配が5~6度,本川側は1~2度.河道が満砂状態. pic.twitter.com/77v3vSCLxm

岩泉町内は洪水による被害が目立つが,土砂流出箇所も無数に見られる.土砂による人的被害が多数見られなかったのはたまたまの結果かもしれない.目先で目立った事象ばかりに眼を向けないよう注意が必要.

先週も行った安家地区を再訪.あらためて確認したところ,安家地区中心部付近では住宅地図上の住家が6棟完全に流失している.写真の箇所はそれぞれ住家2棟が流失した. pic.twitter.com/qAhVANPYBn

洪水による住家(小屋などでなく)の流失は,近年ではそれほど見られないので,一つの地区で6棟はまとまった被害.ただしこれに伴う人的被害は今のところ行方不明者1人.関心が持たれるが,今のところは(判断材料が乏しいので)何も言えない.

迂回したついでに,2006年10月の岩井県葛巻町での豪雨被災地の跡を少し見てみた.写真はだいたい同じ場所(本日の方が数十m下流側)で,下が当時,上が本日.ザ「河川改修」でしょうか. pic.twitter.com/vU4Lbps4gS

先の写真の川(元町川)も,今回河岸が大きく浸食されているところも見られました.写真の改修区間では大きな被害はないようでしたが,ざっと見た印象ですのであまり正確な話ではありません.

2006年の葛巻での災害では,変な角度から論文を書いた→「2006年10月6日から9日に北日本で発生した豪雨災害時に見られた行方不明者覚知の遅れ」自然災害科学,2007. goo.gl/TC46NG

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2016年9月 9日 (金)

大雨時の避難行動-河川水位情報 活用を

9月8日付け静岡新聞「時評」欄に掲載された筆者の寄稿記事です.8月末の東北・北海道での豪雨災害発生より前に入稿した原稿ですが,原稿が出る前にまたしても洪水災害発生となってしまいました.岩手県岩泉町の災害に限っていえば,山間部で水位観測所の少ない地域でした.「やっぱり役に立たないじゃないか」ではなくて,行き届いていない地域は当然ありますが,役に立つ地域も多くあるわけですから,「使えない」と決めつけず,活用していくことが重要だと思っています.
 
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時評=大雨時の避難行動-河川水位情報 活用を
 
 昨年,関東から東北の広い範囲に被害をもたらした「平成27(2015)年9月関東・東北豪雨」からまもなく1年となる.この豪雨に伴って様々な災害が生じたが,茨城県常総市(鬼怒川)などでの堤防決壊,各地の河川での越水(堤防がある川で水が堤防からあふれだすこと)など,洪水による災害が目立つ事例であった.
 
 「水につかる(浸水)」現象は大別すると「洪水」と「内水氾濫」の2種類がある.洪水は主に堤防の決壊や河川の水が堤防を越えたりすることにより起こる浸水をさし,内水氾濫は大雨によって地表の水が増えて河川等への排水が追いつかなくなり,側溝などから水があふれ出す浸水を指す.
 
 ただし両者は明確に区別できない場合も少なくない.洪水,内水氾濫ともに浸水による家屋や農地などの被害があるが,洪水の場合は堤防決壊箇所付近での家屋の流失,道路走行中の車や人が流されるなど,より深刻な被害に繋がる場合がある.
 
 洪水は,自分がいる場所を見回している限りでは,「突然水がやってきた」と感じるかもしれない.しかし,何の前触れもなく突然洪水が発生することは考えにくい.大量の降雨→近隣の河川水位が上昇→越水や堤防決壊が発生→浸水開始,というケースがほとんどである.雨や,河川の水位に注意していれば,不意打ちは回避できる可能性がある.
 
 河川水位は重要な情報だが,大雨の中で川にちかづくことは危険で推奨できない.筆者の最近約10年間の調査では,「水田,用水路,川などの様子を見に」でかけて亡くなった人が,全犠牲者の11%にも達する.
 
 水位は主な川の多くの地点で観測されており,国土交通省「川の防災情報」,Yahoo!「天気・災害」,静岡県「サイポスレーダー」などのホームページや,SBSとNHKテレビのデータ放送で見ることができる.主な観測所については,注意する基準の水位が設定されており,たとえば「氾濫危険水位」を超えると,その観測所の周辺で水が川からあふれ出す可能性があることを意味する.
 
 まずはハザードマップで自宅や勤務先付近の浸水の可能性を確認し,大雨の時には河川の水位情報にも目を向けたい.「ここが浸水するとは思わなかった」「突然水がやってきた」といった声は少しでも減らしたい.

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2016年9月 4日 (日)

2016/9/2岩手県岩泉町現地踏査雑感

2016年9月2日,岩手県北部の豪雨被災地を数時間現地踏査.通れない道が多くて移動にかなり手間取る状況.

久慈市役所付近の浸水痕跡.0.2m程度の歩道からの高さなので,道路面からの浸水深は約1m程度というところか. pic.twitter.com/hQtcgyyLLC

久慈-田野畑-安家-久慈,と移動したが,斜面崩壊は田野畑-安家-久慈の内陸部では至る所で見られ,沢からの土砂流出も多く,数十cm程度の礫を含む小規模な土石流と思われるものも散見された.これは岩泉町安家地区にて. pic.twitter.com/jHPKLYLSMi

洪水により家屋が流失し,人的被害が発生した可能性がある岩泉町安家地区.崩壊,土石流によるものではなく,洪水による家屋被害と思われる. pic.twitter.com/SRNM6JKDIV

岩泉町安家(元村)地区は,はば数百mほどの谷底平野の河川(安家川)沿いの集落.現河道沿の最低位面上に家屋が並び,これらが被害を受けている.その両側,比高1~2m程度の段丘面(かな)上の家屋の被害は軽微のように見えた. pic.twitter.com/EMGdYsoQT5

岩泉町安家地区の写真を1点追加.安家小中学校近くの「新橋」.欄干上を洪水流は超えているが,右手樹木への流下物付着状況から最大浸水深は欄干の少し上くらいか.付近では道路面から2.5m位の浸水も見られた. pic.twitter.com/7q95GCCXjJ

岩泉町安家の中心部(元村)付近での調査写真等を検討したところ,住家が少なくとも4世帯流失していた.洪水による家屋流失は近年の水害ではあまり多くなく,激しい状況だったことがうかがえる.一方4世帯流失で人的被害は行方不明者1名ということも関心が持たれるところ.

先日の現地踏査では,ごく限定的なところしか見ていないのでなんともいえないが,写真を示した安家地区のような,河道沿いの家屋等の損壊は小規模なものも含めれば散見された.見ていない地域にも同様な被害はあってもおかしくないと思う.

低地の洪水に比べ相対的に洪水の流速が早くなりやすい(建物等を破壊しやすい),山地河川の洪水が今回の岩泉の災害の特徴的な面の一つと思う.グループホームを巡る課題はそれで重要だが,そこだけに焦点が当てられると,山地河川の洪水という課題が見落とされることも心配される.

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2016年台風10号に伴う岩手県岩泉町のグループホーム被災について雑感

2016年台風10号による豪雨に伴って発生した洪水により,岩手県岩泉町のグループホーム「楽ん楽ん」で,死者9人の人的被害が生じた.

いわゆる要支援者関連施設で風水害による犠牲者が出ることは繰り返し懸念されていたが,実際に犠牲者に繋がる実例はかなり稀で,私が調べている2004年以降では,2009年防府市で土砂災害により7人(後関連死3人追加認定)が唯一の例.洪水によるケースは確認できない.

要支援者関連施設について,私は十分知見を持たない.災害現象としての課題とは別に,こうした施設の運営上の課題もいろいろあると思われ,この点については言及できない.少なくとも「情報不足」「情報が届いていれば」というだけの問題ではないように思う.

グループホーム「楽ん楽ん」はこのあたりか.浸水想定区域図は整備されていないか.まあ,それはそうだろう. pic.twitter.com/7N1fbMZDWl

グループホーム「楽ん楽ん」の付近,国土調査の5万分の1地形分類図でみると「谷底平野及び氾濫平野」となっている.地形的に洪水及び洪水による災害が発生しない「想定外」な場所とはいえない.

なお,地形分類図は「あれは違う」とか言うご意見をいただく事が想定されるので提示しない.いつも思うことだけど,地形分類図を平時には「防災教育に有効」とか言っているくせに,いざ災害時に参照すると「その図は間違っている,定義がどうのこうの」とか言う人たちは,早く「間違ってない地形分類図」を全国整備することに尽力して欲しいと思う.

犠牲者の出たグループホームの付近は,量的にはそれほど激しい雨は降っていなかったけど,上流でたくさん降ってしまった.これが影響している可能性はあるかもしれない.あくまでもぼんやりした思いつきの話.

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2016年台風10号 降水量資料

AMeDAS岩泉と,小本.いずれも2006年撮影.小本は小本川近くの低地.30日24時から欠測になっているが,洪水でやられたのかな. pic.twitter.com/kkTVnP5gCb

8/28~30のAMeDAS岩泉の降水量推移.29日から弱い雨が降り続け,30日夕方の4時間ほどに集中的に降り,20時過ぎには上がっている. pic.twitter.com/48J4GdE9k4

8/28~30のAMeDAS岩泉の降水量の過去の記録との比較.1時間~6時間降水量が1976年以降最大となっているが,24,48時間は大きくない.72時間が過去最大とほぼ同じ.主に短時間降水量が大きかった降り方. pic.twitter.com/zLrYOTHRyW

8/28~30のAMeDAS岩泉の降水量推移と過去の記録との比較.欠測となったのは24時以降なので本図は影響なし.小本は人的被害が発生した場所にちかいが,過去の記録を全く更新していない.それほど激しい雨は降っていないようだ. pic.twitter.com/zbt4vGjetg

グループホーム「楽ん楽ん」付近の小本川から下流約5kmほどのところに岩手県赤鹿水位観測所がある模様.30日夕方から水位が上がりはじめ,ピークは20時前後か. pic.twitter.com/LetTjIYJYq

犠牲者の出たグループホームの付近は,量的にはそれほど激しい雨は降っていなかったけど,上流でたくさん降ってしまった.これが影響している可能性はあるかもしれない.あくまでもぼんやりした思いつきの話.

8/27~31の北東北のアメダスデータによる1時間降水量と3時間降水量のそれぞれ最大値の分布.×が1976年以降最大値(統計期間10年以上)を更新した地点.1時間と3時間の両方を更新したのは岩泉のみ. pic.twitter.com/Ab5NQz4Qy3

8/31 24時の北東北のアメダスデータによる72時間降水量の分布.こちらは最大値更新観測所がない.主に短時間の降水量が大きかった事例であることが示唆される. pic.twitter.com/eNi4yLXIHG

8/27~31の道東の1,時間降水量最大値の分布.いずれも最大値更新地点がみられない.ただし解析雨量の積算値(近く気象庁から出てくるでしょう)を見ると日高山脈内に強い降雨域が見られ,AMeDASだけでは議論できない事例といえそう. pic.twitter.com/U5jqLdRXTQ

8/31 24時の道北の72時間降水量.こちらは「ぬかびら源泉郷」で最大値更新だが,日高山脈付近がよくわからないのは1,3時間降水量と同様.AMeDASだけで見ればの話で「山の中の雨量がわからない」事はありませんから,念のため. pic.twitter.com/g1r1HXcy1T

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2016年8月23日 (火)

台風接近時の情報の見方としてあらためて気になること

台風接近時の情報の見方について,どうにも気になることをあらためて書いてみました.

台風の「中心」付近は,風は一番強い可能性が高いけど,雨も一番強いわけではありません.雨は台風の中心から数百km以上離れた所で強く降ることがごく普通にあります.「中心」「上陸」などという,あえて言うならば「半世紀前に重要だったが今となっては『雑』な情報」に気をもむのではなく,レーダー等で素直に雨雲の様子を見ましょう.

台風の中心付近で雨が激しいわけではない,というのは「台風の目だから」ではありません.そもそも台風の雨雲は「中心は目で雲がなく回りに厚い雲が同心円状に広がってる」のではなく,渦巻き状に厚い雲,薄い雲が中心を取り巻いています.「台風の目」もことさらに注目しすぎるのもどうかと思います.

台風に伴う雨の特性(気象庁)

http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/3-1.html

「台風の中心で雨が最も強いわけではない」は,レーダー画像を見れば一目瞭然です.下記画像では,中心からはるか離れた北西側に雨の強いところが分布しています. pic.twitter.com/tCjKShFthg

雨は固体じゃありませんから,流れていったり,しみこんだりします.「今激しく降っているところ」だけに注意ではなくて,「これまでにどれくらい降ったか」(土砂災害警戒判定メッシュ情報とか),「流れてきたものはどれくらいか」(河川の水位とか,最寄りの観測所だけでなく上流の観測所も)にも要注意です.

台風に限らず,豪雨時に「田んぼの様子を見に」の危険性は最近かなり注意されてきた感があり,これはよいことだと思いますが,実はそうした犠牲者は全体の6.7%,「川などの様子を見に」を合わせて11.4%です(当方調べ goo.gl/Q2UzKt ).少なくはないが,「田んぼの様子を見に」だけの強調も少し不安を覚えます.

むしろより単純に「雨風激しいときは外をうろつかない」も重要かもしれません.全犠牲者の約半数,水関係の犠牲者の8割以上が「屋外」で亡くなっています. pic.twitter.com/UE0vNzQcjG

これも台風に限った話ではありませんが,「夜の災害が怖い」とよく言われます.しかし,筆者による2004-2014年の風水害犠牲者の調査(当方調べ goo.gl/Q2UzKt )からは亡くなった方の遭難時間帯は夜昼ほぼ半々です.昼間は「少し無茶してしまう」事による遭難,といった可能性もありそうです.夜は夜の怖さが,昼は昼の怖さがある,と考えた方がいいように思います. pic.twitter.com/6LtvF7hoRI

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2016年6月29日 (水)

改めて考える地震対策-耐震が一丁目一番地

6月25日付け静岡新聞「時評」欄に掲載された筆者の寄稿記事です.繰り返し指摘されていることですが,人的被害(最も深刻な被害)は明らかに古い家屋に集中しています.
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 「平成28年熊本地震」発生から約2ヶ月.この間に3回ほど現地を調査で訪れた.地震は私にとって専門外の現象でもあり,いろいろと知らなかったことにも出会った.この地震では,地震そのものによる直接死者・行方不明者が50人に上った.避難生活などに伴う関連死者数はまだ流動的だが,6月14日静岡新聞朝刊では関連死疑いが20人とも伝えられる.
 
 死者・行方不明者が50人以上となった自然災害は,1980年代以降でも本事例を含めて15事例,仮に70人以上では11事例である.50人以上の被害となったことは大変痛ましいが,決して「未曾有」ではなく繰り返し発生している規模だ.日本が厳しい自然環境下にあることにあらためて愕然とさせられる.
 
 現地を見て最も印象的なことは,すでに多く伝えられてはいるが,「激しく倒壊しているのは主に古い家屋である」だった.比較的新しい家屋の倒壊,損壊も見られたが,大局的には古い家屋の被害の方が目立った.
 
 筆者は今回の地震による犠牲者発生状況の調査を進めているが,地震による建物等倒壊に伴って亡くなった方は38人で,そのうち所在家屋が現在の耐震基準とおおむね同等の1980年代半ば以降の新築だった可能性が高いのは今のところ2人(1世帯)である.犠牲者は明らかに古い家屋に集中している.
 
 4月14日の「前震」があり,その直後は避難したが「もう大丈夫だろう」と考え16日夜は自宅に戻り,「本震」で亡くなったことが伝えられている.確かにそうしたケースも少なくないが,ほとんどが古い家屋での犠牲者だったことを考えると,「もう大丈夫だろう」という判断によって厳しい結果となったというよりは,そもそも家屋自体に主な原因があったと考えた方がいいのかもしれない.
 
 いくら一生懸命避難袋を作り,サバイバル知識を身につけ,緻密な津波避難訓練をしていても,古い家屋に居住し地震発生とともに建物倒壊で命を失っては,それらの「備え」は何の役にも立たない.耐震化の支援策も様々用意されている.賃貸であれば「比較的新しい家屋を選ぶ」ことも立派な対策となる.地震対策の一丁目一番地は耐震化である,とあらためて考えている.

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2016年6月27日 (月)

2016年6月20~21日に熊本県付近で発生した豪雨による人的被害の主な特徴(速報)

PDF版  関連資料

 当研究室では,豪雨災害による人的被害(死者・行方不明者)の発生状況について,継続的な調査を行っている.2016年6月20~21日に熊本県付近で発生した豪雨にともなって生じた死者・行方不明者の発生状況について,主な特徴をとりまとめたので速報として報告する.本資料はあくまでも速報であり,今後大幅に変更となる可能性もある.

【要点】
  • 熊本県内で死者6人が生じた.2004~2014年の主要豪雨災害(2004-2014)の42事例の内,死者6人以上の事例は26事例あり,ほぼ毎年1回以上発生している被害規模である.
  • 原因外力別犠牲者数は洪水1人,土砂5人.2004-2014と比べ「土砂」が多い可能性がある.
  • 6人中5人が65歳以上であり,2004-2014と比べ高齢者に被害が偏在している可能性がある.
  • 6人中5人が「屋内」であり,2004-2014と比べ「屋内」が多い可能性がある.「土砂」では「屋内」が多い傾向があり,本事例では「土砂」が多いことから,特異な傾向ではないと思われる.
  • 「土砂」犠牲者5人全員が土砂災害危険箇所の「範囲内」と思われる.想定外の場所で犠牲者が生じている状況ではない.
1.はじめに
 当研究室では,近年発生した豪雨災害による死者・行方不明者(以下では「犠牲者」と略記する)について,行政資料,報道記事,現地調査などを元に,その発生日時,位置,原因外力,遭難状況などをとりまとめ,データベース化している(牛山,2015).ここでは,すでに整理している2004~2014年の主な豪雨災害42事例で生じた犠牲者712人(以下では「2004-2014」)と,2016年6月20~21日に熊本県付近で発生した豪雨で生じた犠牲者6人(以下「2016熊本」)を比較する.ただし,2016熊本の犠牲者数は2004-2014の犠牲者数と比べて値が小さいので,「比率」に関して厳密な議論はできない.また,2015年の調査対象死者・行方不明者は3事例11人あるが,現時点で未整理であるため2014年までの集計値を示している.
 
 2016熊本に関しては,行政機関の資料,新聞報道,テレビ映像,関連資料の収集を行うとともに,2016年6月21日に現地踏査を行った.
 
2.死者・行方不明者数の概要
 2016熊本では,熊本県内のみで死者6人(熊本市2人,宇土市2人,上天草市1人,甲佐町1人)が生じた(図1).2004-2014の主要風水害42事例の内,死者6人以上の事例は26事例あり,ほぼ毎年1回以上発生している被害規模である(図2).

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図1 死者・行方不明者発生場所

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図2 事例別死者・行方不明者数
 
3.原因外力別死者・行方不明者
 当研究室では,犠牲者をもたらした原因となった外力を「高波」,「強風」,「洪水」,「土砂」,「河川」,「その他」の6種に分類してある(表1).なお,「洪水」は河道外に溢れた水に起因する犠牲者で,「河川」は河道内の水に起因する犠牲者である.
 
 2016熊本では,洪水1人,土砂5人,その他は0人となった(図3).2004-2014では,洪水18.4%,河川,19.1%,土砂48.9%,強風 6.3%などとなっており,2016熊本では,土砂の犠牲者が多い可能性がある.
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図3 原因外力別犠牲者数
表1 原因外力の分類定義

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4.年代別死者・行方不明者
 65歳以上を高齢者と見なして分類すると,2004-2014では,65歳以上の犠牲者は385人(全犠牲者の54.1%),65歳未満324人(同45.5%)だった.参考までに2010年国勢調査では,65歳以上の人口は全人口の23.0%であり,犠牲者中の高齢者率は人口構成比に比べ極めて高い.
 
 2016熊本では,犠牲者6人中5人が65歳以上であり(図4),本事例においても高齢者に被害が偏在している可能性がある.

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図4 年代別犠牲者数
5.遭難場所別死者・行方不明者
 犠牲者の遭難場所を「屋内」(なんらかの建物の中)と,「屋外」(建物の外に滞在,歩行中,車等で移動中)に大別すると,2004-2014では「屋内」365人(51.3%)、「屋外」343人(48.2%)とほぼ同程度である.なお,図は示さないが原因外力別でみると,「土砂」のみは「屋内」が多い(86.5%)が,他の外力では「屋外」が多数派を構成しており,外力別に明瞭な相違がある.
 
 2016熊本では,犠牲者6人中5人が「屋内」であり,「屋内」犠牲者が多くなっている(図4).本事例では,土砂の犠牲者が多く,土砂では「屋内」での犠牲者の比率が高いことから,本事例に特異な傾向ではないと思われる.

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図5 遭難場所別犠牲者数

6.土砂災害犠牲者発生位置と危険箇所
 土砂災害については,ハザードマップ等で危険箇所が公表されている.「土砂」による犠牲者がこれらの危険箇所付近で発生しているかについて集計している(牛山,2016).集計対象は「土砂」の犠牲者の内,発生場所が世帯単位程度で特定できたものとし,危険箇所のデータとしては,国土数値情報の「土砂災害危険箇所」(土石流危険渓流,急傾斜地崩壊危険区域,地すべり防止区域)を用いている.土砂災害警戒区域ではない.これらいずれかの危険箇所内に位置していた場合を,土砂災害危険箇所の「範囲内」,いずれかの危険箇所から約30m以内にあった場合を「範囲近傍」,その他の場合を「範囲外」と判定した.
 
 2004-2014の「土砂」犠牲者の内,発生場所が世帯単位程度で特定できた243人の犠牲者については.「範囲内」174人,「範囲近傍」37人で,全体の87%が危険箇所内またはその近傍の範囲内で生じていた.
 2016熊本については,国土交通省の「重ねるハザードマップ」を参照し判定した.世帯単位で位置が特定できた「土砂」犠牲者5人の全員が土砂災害危険箇所の「範囲内」だったと思われる(図6).なお,「洪水」犠牲者1人も,洪水浸水想定区域の「範囲近傍」だった.2016熊本は,「平成28年熊本地震」により被害を受けた地域で生じた豪雨であり,地震の影響で土砂災害,洪水災害が生じやすくなっていた可能性があるが,犠牲者が発生した場所そのものは,「地震により新たに危険となった場所」ではなく,想定されている範囲内の場所だったと思われる.

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図6 犠牲者発生位置と土砂災害危険箇所の関係
7.備考
  • 本報告の数値等は速報値であり,今後の解析,再調査などにより,修正される場合がある.
  • 本報告に収録の内容や図表は,今後行われる学会の予稿集,刊行される論文などでそのまま用いられる場合があるが,災害調査という社会的な重要性を考慮し,論文等での刊行に先立ち公表しているものである.
参考文献
  • 総務省消防庁:6月20日からの梅雨前線に伴う大雨による被害状況等について(第7報),http://www.fdma.go.jp/bn/2016/detail/959.html,2016 (2016年6月23日参照).
  • 牛山素行:2004~2014年の豪雨災害による人的被害の原因分析,東北地域災害科学研究,No.51,pp.1-6,2015.
  • 牛山素行:発生場所から見た平成27年9月関東・東北豪雨災害による犠牲者の特徴,河川技術論文集,Vol.22,,pp.309-314,2016.

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2016年6月20~21日熊本県付近の豪雨 降水量資料

6月20~21日の熊本県付近での大雨について,降水量の記録を少し整理.なおここでは,過去のデータとの比較のため,すべて毎時00分観測の「1時間降水量」を基礎データとして使用している.降水量はAMeDAS観測値,分布図はMANDARAにて作成,背景図は地理院地図.

6/17~21の最大1時間降水量分布図.最大は甲佐124mm.60分降水量の150mmより小さいが最大値観測地点は変わらず.統計期間10年以上で1976年(観測所による)以降最大値更新は長崎,熊本,宮崎県内の6箇所.

6/17~21の最大3時間降水量分布図.最大は甲佐の196mm.統計期間10年以上の観測所で,1976年(観測所により異なる)以降最大値を更新したのは長崎,熊本県内の6箇所.1時間降水量とは更新箇所が少し違う.

6/21 24時の72時間降水量分布図.最大は宮崎県えびのの581mmで,今回被害が目立った益城,甲佐,宇土付近より大きな値を観測した地点が多数ある.最大値更新の地点はない.今回の短時間の豪雨に特徴があったとうかがえる.

甲佐の6/15~21の継続時間毎最大降水量と過去の記録を比較.今回は1~6時間降水量は同地点の1976年以降最大値を上回ったが,長時間の降水量はそれほど大きくない.いずれの記録もアメダス全地点最大値には及ばない.

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