2021年4月 9日 (金)

線状降水帯情報の新設に思う まず「危険度分布」活用

(2021年04月01日付静岡新聞への寄稿記事)

 

 気象庁「防災気象情報の伝え方に関する検討会」で、「線状降水帯」に関する気象情報の新設が提案されている。同会資料によれば「顕著な大雨に関する気象情報」を新設し、「○○地方では、線状降水帯が発生した可能性があり」といった文言で伝えることが考えられている。

 

 線状降水帯とは、気象庁の予報用語では「次々と発生する発達した雨雲が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる(一部略)強い降水をともなう雨域」とされている。近年では、2020年7月の熊本県南部、2018年7月の広島県などの豪雨災害時にみられている。

 

 同会で気象庁が示したアンケート結果では、「線状降水帯を観測した場合に気象庁が情報提供することについてどう思いますか」の質問に対し、「情報を提供して欲しい」が92%だった。線状降水帯だけに着目すればこうした結果となるのは当然で、筆者自身もこう答えると思う。線状降水帯の発生を解説的な情報として伝えることに違和感はない。しかし、防災気象情報全体を眺めると、すでに多種の情報が存在するなかで、さらに新たな種類の情報を増やしてよいものか、疑問も感じる。

 

 「氾濫警戒情報」「内水氾濫危険情報」「土砂災害警戒情報」「記録的短時間大雨情報」「高潮氾濫危険情報」「早期注意情報」「竜巻注意情報」。これらは筆者が「知名度が低いのでは」と思う防災気象情報で、この他にも様々な情報がある。あるいは、「大雨特別警報」「暴風特別警報」はあるが、「洪水特別警報」は存在しない。これら情報の意味や危険度をだれもが完全に理解できるだろうか。率直に言って筆者もその自信はない。

 

 「線状降水帯」は大雨をもたらす気象現象の1つであり、それ自体が洪水・土砂災害をもたらすのではない。洪水・土砂災害をもたらすのは「大雨」であり、その原因が時には台風であり、低気圧であり、線状降水帯である。原因に関係なく「大雨」による災害の危険度を高低を細かな地域毎に示す情報として気象庁は、洪水・土砂災害などの「危険度分布」を運用している。「防災」を考えたいのなら、まず活用すべきはこの情報ではなかろうか。

 

【追記】

 
 文中で挙げた気象庁「防災気象情報の伝え方に関する検討会」については下記に資料が挙げられています。線状降水帯の情報については、主に第8回、第9回で議論されています。

 

気象庁|防災気象情報の伝え方に関する検討会
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kentoukai/tsutaekata/tsutaekata_kentoukai.html

 

 まずあらためて強調しておきますが、筆者は線状降水帯に関する情報なぞ一切必要ないとは考えていません。「台風」とか「発達した低気圧」のように、激しい気象現象が生じていることを、解説的な情報の「内容」として伝えることは意義があると考えています。

 

 また、線状降水帯という言葉の定義が必ずしも明確になっていない状況下で、言葉自体が社会的に広く認知されつつあることを考えると、気象庁により言葉を何らかの形で定義し(今後の研究・技術的進展に伴い定義は少しずつ変化してもよいでしょう)、個々の事例について「線状降水帯が発生」と、ある種の「認定」を行うことも意義があると思います。

 

 しかし、既に膨大な「種類」の気象情報がある中で、「線状降水帯が発生」という「(やや目立つ)新たな種類の情報」を増やすことにはためらいを感じます。ここ数年、線状降水帯に関わる大雨による災害がいくつか目立つ形で発生しました。しかし、大雨にともなう被害をもたらすのは線状降水帯だけではありません。台風による雨も考えられますし、線状降水帯による大雨のような短時間・集中的な降り方だけでなく、長時間降り続くタイプの雨である場合もあります。あるいは気象現象としては、高潮とか暴風なども無視できません。目先の出来事としては線状降水帯に関心が持たれ、その情報が必要だ、という気持ちになるかもしれませんが、それだけ注意していればいいわけでもありません。「線状降水帯ではないから安心」などということもありません。

 

 となると、注意すべきは線状降水帯とか台風とかいった「大雨をもたらす現象」よりは、「大雨による危険度はどうなっているか」のほうが、端的で「わかりやすい」のではないでしょうか。こうした、洪水などの「危険度分布」は「キキクル」という愛称がつきましたが、気象庁のトップページから参照できます。

 

 繰り返しますが、線状降水帯についての情報を一切出すべきではないとは思っていません。ただ、いろいろな災害がある都度、新たな種類の情報を増やしたり、呼称を変えたりすることによって、情報が膨大・複雑になってきたことを考えると、気象情報や避難情報については、整理統合も目指していった方がいいように感じます。

 

 正直なところ、「防災のために役立つよい情報を出そうとしているのに邪魔をするのか」といった批判が予想され、この記事を書くことに対しては、かなりおびえを感じています。これはあくまでも私の考え方であり、これに従うべきだと、他人に押しつけるものではないことはご理解いただければと思います。

 

※この記事はnoteにも書いています。
https://note.com/disaster_i/n/n76286ce91c5f

 

2021年2月11日 (木)

外出予定を見合わせる 災害時 被害軽減に有効

(2021年02月03日付静岡新聞への寄稿記事)

 災害時の「避難」とは「避難所へ行く」だけではなく、「難を避ける」ための行動全般を指す、と近年強調されている。「避難所へ行く」ことは目的ではなく一手段であり、場所や状況に応じた対応が必要ということである。

 

 「難を避ける」行動のひとつとして「外出予定を見合わせる」が考えられる。たとえば、台風接近時に出勤などの外出を取り止めるといった対応である。「避難所へ行く」に比べ実施のハードルが低い対応かもしれない。また、「避難所へ行く」が有効なのは洪水・土砂災害などの危険性がある場所が中心だが、「外出予定を見合わせる」はその場所の災害危険性の高低に関わらず、ほとんどの人にとって有効な対応となりうる。

 

 筆者の調査結果では最近約20年間の風水害犠牲者の約半数は屋外で遭難している。そのほとんどは避難とは無関係で、用事・仕事などで屋外に外出したケースである。また、すべての屋外犠牲者についての確認はできないが、その多くは自宅の倒壊など自宅にいても命を落とすような状況は生じていなかった可能性が高い。あくまでも結果論だが、「外出予定を見合わせる」ことでこれら犠牲者の多くは生じなかった可能性もある。

 

 災害時に「外出予定を見合わせる」ことはすでに多くの人が実施している可能性もある。2019年10月台風19号の際に筆者が静岡県、神奈川県で行った調査では、勤務先への出勤予定があった人の7割前後、個人的な用事での外出予定があった人の8割前後が予定を取り止めたと回答した。

 

 近年、荒天が予想される際に鉄道などが計画的に運休することが珍しくなくなった印象がある。あるいは、コロナ禍を経てのテレワーク推進や、体調が悪いときには無理して出勤しないという呼びかけの日常化などもあり、何らかの支障が予想される際に「外出予定を見合わせる」ことを私たちの社会が受け入れやすくなった面もあるのではないか。無論、災害の危険性が高い場所など「避難所へ行く」の重要性が高いケースはある。あらゆる時点・場面で「外出予定を見合わせるだけでよい」訳ではないが、「外出予定を見合わせる」ことも災害時に有効な被害軽減策の一つであるととらえることも重要ではなかろうか。

 

【追記】

 風水害時の「避難」のあり方が多様であった方がよいだろう、というのはたびたび申し上げているところで、今回の記事もその話題の1つです。「立退き避難」せず自宅にいたところ自宅が倒壊するなどして犠牲となった人について、「避難していれば助かったのでは」と考えることは自然なことで、それが間違いというつもりはありません。しかし、風水害犠牲者全体の約半数が屋外で遭難していることを考えると、避難場所等への立退き避難【だけ】で犠牲者を大きく軽減することは難しそうに思います。この記事で挙げた「外出予定を見合わせる」も、それが唯一の正解ではありませんが、犠牲者軽減手段の1つとしてもう少し注目されてもよいのでは、と思っています。

 

 「外出予定を見合わせる」は、避難所等への立退き避難に比べれば「やりやすい」対応のようにも思います。とはいえ、個人的な用事ならまだしも、自分以外の人も関わるような行事等に「悪天候だから」という理由で欠席することは実際にはなかなか容易でないとも思います。実は、私自身が講師であった講演会を「悪天候」を理由にキャンセルしたり、取りやめを働きかけたことが何回かあります。そうしてとりやめた講演会主催地付近でそれなりの規模の災害が結果的に起きたこともありますが、何事も無かったこともあります。いずれにせよ、主催者や関係者のみなさまには迷惑はおかけしたと思っていますし、二度と頼みたくないと思われた方もいるだろうなと思っています。

 

 「他人事」として「空振りを恐れるな」を言うことはたやすいですが、「自分事」、というか「他人も関わっている自分事」になると本当に難しいところだなと思います。なお、「風水害犠牲者全体の約半数が屋外で遭難」については、下記記事をご参照ください。

 

台風などの風水害犠牲者の半数は屋外で遭難 風雨が激しいときの屋外行動は要注意(牛山素行) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/ushiyamamotoyuki/20200904-00196557/

 

 「2019年10月台風19号の際に筆者が静岡県、神奈川県で行った調査では、勤務先への出勤予定があった人の7割前後、個人的な用事での外出予定があった人の8割前後が予定を取り止めた」については、残念ながら論文化等ができていないのですが、下記に集計結果概要だけは公表しています。

 

2019年台風19号災害時の災害情報に関するアンケート【2019/10/29速報版】
http://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2019/10/post-f8284d.html

 

 なお、2020年台風10号接近時の「外出予定を見合わせる」行動についての調査の概要を、3/19~20に行われる日本自然災害学会学術講演会で口頭発表する予定です。

 

【2021/04/16追記】自然災害学会で発表した上記の話題についての予稿集原稿は、下記に掲載しました。
牛山素行:2020年台風10号接近時の住民の「予定変更行動」について,日本自然災害学会第39回学術講演会講演概要集,pp.115-116,2021
http://www.disaster-i.net/notes/2020jsnds.pdf

 
※この記事はnoteにも書いています。
https://note.com/disaster_i/n/ncc43fa236f56

2021年1月 1日 (金)

2021年 新年のご挨拶

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謹んで新春のご挨拶を申し上げます.

昨年は何かと大変な年でしたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

新年が少しでもよい年になりますよう、願っています。今年もよろしくお願いいたします。

(写真 東海道本線・富士川橋梁)

 

2020年11月27日 (金)

風水害被災現場を見る 多様な視点から記録

(2020年11月26日付静岡新聞への寄稿記事)

 

 先日あるテレビ局から、十数年前に起こったある風水害被災現場の写真を持っていないかとの照会を受けた。覚えのある地名で、確かに現地調査しており、数点の写真を提供できた。災害後の地域の取組を紹介する番組で、写真は放送のお役に立ったようだ。土砂災害で一人の方が亡くなった所で当時報道もあったが、全国的に注目されたような場所ではなかった。筆者のところに照会が来たのは、取材過程で地元の方から、筆者が当時現場に来たようだとの情報を得たためと聞いた。

 

 当時この現場での聞き取りや、関係者への問合せなどをした記憶はないが、写真と現地を見てのメモは筆者のホームページ上で公開している。地元の方は、これをご覧になり覚えておられたのかもしれない。思いがけずお役に立てた事をありがたく思うとともに、こうした記録を残しておく事の重要性をあらためて感じた。

 

 筆者は規模の大きな風水害が発生するとなるべく早い時期に、人的被害が生じた箇所を中心に現地調査を行う。調査の主目的は、現場の被害形態、規模、周囲の状況などを目で見て確認する点にある。気象データ、地理情報、空中写真などの定量的・俯瞰的な資料の参照も必須だが、現地でなければ得られないものも確かにある。

 

 こうした筆者の視点からの記録はごく限定的なものに過ぎない。災害には実にさまざまな側面がある。制度的、行政的な記録も行われるが、それだけでなくさまざまな人達が災害現場を訪れ、さまざまな専門的視点から観察、記録、分析を行っており、その結果が被害軽減を図る上で大変重要な役割を果たしていると思う。

 

 今年も7月の九州地方での豪雨などの風水害が発生したが、新型コロナウィルス感染症の流行状況を考慮し、筆者は現地調査をすべて見合わせた。同様な判断は各所で行われたのではなかろうか。現地に赴く人を制限しても得られる視点もあるだろうが、現地を見る人が減る事で、例年なら記録に残されたかもしれない視点、知見のいくつかが、今年の災害においては残らなかった可能性はあるように思う。すぐに何か解決策を提示できるものではないが、感染症の流行にはこうした影響もあるのではないかという事は、念頭に置いておきたい。

 

【追記】

 

 本記事、ある種「課題の指摘」のような内容もあるので、「これこれすべきだ」といった「課題解決策」が入らないと収まりが悪い感じもあるかもしれませんが、適当な思いつき的「課題解決策」を上げるのが大変好きでないので、言及していません。「これこれすべきだ」的な事を口に(文字に)するのは、そのことに自分自身も一定の時間を割いて関わる覚悟があるときだけにしたい、と思っています。

 

 ところで記事やこの追記でも、当該の写真の場所についてぼやかした書き方をしているのは、最近では個々の被災現場について写真を多く公開したり詳しく言及したりする事をなんとなくためらうようになっているためです。以前はかなり多くの現場について10枚、20枚と写真を上げたりしていましたが、最近だと例えば下記のように(昨年の台風19号の現地調査)1つの現場について1,2枚で、漠然としたコメントを上げるスタイルが中心に。現場は見ているけど写真はあえて出さない事も増えました。

http://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-b4dc35.html

 このような判断の背景には、「よそものが被災地にカメラを向けるな!」といった声を感じるという事があるのですが、被災した様子を記録に残す事は意義があると今回も感じましたし、ためらいながらも、試行錯誤をしていくところかなと思っています。

 

※この記事はnoteにも書いています。

 

2020年11月24日 (火)

台風接近時の高潮発生 人的被害なくても注意

 高潮それ自体への注意喚起、というよりは、近年起こっていないタイプの災害にも要注意、というお話です。2020年9月30日付静岡新聞への寄稿記事です。

 
 
台風接近時の高潮発生 人的被害なくても注意

 

 台風や前線の活動などの激しい気象現象により生じる災害は風水害と呼ばれ、その形態には様々なものがある。筆者が調査している1999~2019年の風水害による死者・行方不明者(以下では犠牲者と略し基本的に関連死者を除く)1373人全体で見ると、土砂災害が44%、洪水など水関連が44%、強風・高波などその他が12%の割合である。令和2年7月豪雨の犠牲者は86人で8割弱は洪水などの水関連、昨年の台風19号では同88人の7割強が水関連と、この2事例では水関連犠牲者が目立った。しかし、平成30(2018)年7月豪雨では犠牲者230人のうち土砂災害が5割強、平成29(2017)年九州北部豪雨では同41人中土砂災害が5割強。被害形態はそれぞれの事例に特徴がある。

 

 風水害による被害形態のうち近年大きな人的被害がみられないのが高潮災害だろう。高潮は高波と混同されやすいが、繰り返し打ち寄せる波ではなく、台風などの接近時に海水面全体が高くなる現象である。特性は異なるが見た目では津波のような現象とも言える。高潮が生じると、海近くの低い土地では大規模な河川洪水と同様な状況になる場合があり、海岸付近では高潮と高波の双方の影響を受ける。

 

 高潮による人的被害は、2004年台風16号による高松市と倉敷市での3人以降発生しておらず、まとまった被害では1999年台風18号による熊本県不知火町(現・宇城市)の12人が最後である。高潮の発生自体は珍しくなく、近年の県内でも2017年台風21号の際に静岡市の由比漁港で漁港施設が損壊するなどの被害が生じている。

 

 高潮は干満の影響も大きく、同規模の高潮でも満潮時に重なるか否かで被害規模が変わってくる。先日の台風10号でも山口県の瀬戸内側などで高潮が生じたが、潮位上昇のピーク時刻が予想より3時間ほど遅くなった事で、予想されていたほどの潮位にならなかった可能性があることが9月16日の気象庁資料に示されている。

 

 高潮による人的被害が長く生じていないのは、防災対策の効果も少なくないと推測されるが、偶然の結果という面もあるだろう。私たちは、直近の災害事例に目が奪われがちだが、そうした災害だけが怖いわけではない。最近起こっていないタイプの災害にも注意を向ける事が重要ではなかろうか。

 

※この記事はnoteにも書いています。

 

2020年7月31日 (金)

避難しない自由 個別の判断 尊重したい

 7月30日付静岡新聞「時評」への寄稿記事です.「避難しない自由」 これは許せない人は絶対に許せないでしょう.意見が分かれることは承知の上で,ひとつの考え方としてあえて書いてみました.色々追記したいことはあるのですが,きりがない気もするので,900字の制限の中で書いた文章のママでまずは挙げておきます.
 
時評=避難しない自由 個別の判断 尊重したい

 

 今回の話題は,意見が分かれるところと思う.受け入れがたい人もいるかもしれないが,このような考え方もあるのだと思っていただければありがたい.「避難=避難所へ行くこと」だけではないという話を5月の本欄で述べた.避難とは難を避けるための行動を広く指すが,ここでは風水害時に自宅から別の場所へ移動するという形の避難に絞って議論したい.

 まず仮定条件を決めたい.自宅は木造平屋,ハザードマップでは浸水想定区域内で想定される浸水の深さは3~5mとしよう.この深さだと平屋は完全に水没する可能性がある.この自宅にいるときに大雨で避難勧告が出たとする.内閣府の「避難行動判定フロー」を参考にすれば,この場合の「とるべき行動」は,自宅から指定緊急避難場所や,安全な場所にある親戚・知人宅などに移動(避難)することになる.

 
 この住民が,洪水時には自宅全体が水没する可能性があることを理解しており,避難勧告が出たことも認識していた場合,「自分は避難しない」という判断は認められるだろうか.災害対策基本法では,避難勧告(避難指示も同様)に応じなくても罰則の既定はない.法制度的には「避難しない自由」がないとまでは言えなさそうだ.一方で,「避難を拒む人がいると,避難を呼びかけに行く人が危険にさらされ迷惑だ」といった,避難しない自由などない,という考え方もあるだろう.

 

 上記の仮定では話を災害の危険度だけに単純化したが,現実には災害とは無関係の個別的な様々な事情もあるだろう.あるいは,コロナ禍の中で避難所に行くことの危険性と風水害で被害を受ける危険性のどちらが重いと捉えるか,といった判断は簡単には答えが出せなさそうだ.

 

 第三者から見たら「避難所へ避難すべき」と思う状況でも,当事者にとっては「自宅にいた方がよい」と判断されることもあるのではないか.さして理由もなく「避難しない」と判断することは適切とは思えないが,よく考えて危険性も受け入れた上で「避難しない」と判断している人を「避難させる」事を筆者はしたくないし,自らもされたくないと思う.その意味で,「避難しない自由」はあるのではないかと筆者は思うが,どうだろうか.

 

※この記事はnoteにも書いています。

 

2020年7月28日 (火)

今後はこのブログはnoteに移行します

 突然ですが,これまでブログで書いてきた内容については,今後はnoteに移行しようと思っています.

https://note.com/disaster_i

 ココログには10年以上蓄積がありますし,ブログの方が使い勝手がよいところもあると思いますから,閉じるつもりはありません.使い方は順次考えていこうと思っています.

 

2020年6月 5日 (金)

コロナ禍,災害対応 避難所以外の選択肢も

2020年6月3日付静岡新聞「時評」欄に,下記の記事を寄稿しました.「避難=避難所へ」だけではないという話が,新型コロナウィルス感染症の流行状況下においても重要ではないか,という趣旨の記事です.

 

コロナ禍,災害対応 避難所以外の選択肢も(静岡新聞「時評」寄稿記事)

 

 「『避難』とは『難』を『避』けることです 安全な場所にいる人は、避難場所に行く必要はありません」

 これは,内閣府の「令和元年台風第19号等を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について」という報告中の「避難行動判定フロー」に明記された言葉である.「避難」とは「避難所へ行く」ことと連想されやすい.無論「避難所へ行く」が間違いではないが,あくまでも「手段」の一つであり「目的」ではない.

 広辞苑で「避難」の語を引くと「災難を避けること.災難を避けて他の所へのがれること」とある.自然災害について言えば,洪水,土砂,津波など,人に危害を与えうる自然現象から逃れ,助かることが「避難」の目的だろう.そのためには,現象の影響を受けない「他の所」へ移動すれば良く,そこが避難所であろうがなかろうが,どうでも良いはずである.また,すでに現象の影響を受けにくい所にいるならそこは「他の所」であり,動かないことが「避難」になる.

 津波避難は,「揺れたら高いところへ」と単純にとらえても大きな問題はない.一方,洪水・土砂災害は様々な状況があり話が単純でない.たとえば筆者の調査では,洪水・土砂災害犠牲者のほぼ半数は屋外で遭難している.このほとんどは「避難行動中」ではなく,日常生活の中で車や徒歩で移動して亡くなっている.雨風が激しいときに屋外で行動することは大変危険性が高い.

 「避難行動判定フロー」ではハザードマップで身の回りの危険性を確認した上で,洪水や土砂災害の危険性が低い場所や,予想される浸水深より高い建物や堅牢なマンション等にいる場合は,そこにとどまることも避難行動になるとしている.また,危険性の低い場所にある親戚,知人宅への避難も考えられるともある.

 新型コロナウィルス感染症の流行が懸念される中,災害時の避難が大変悩ましい状況である.避難所の感染症対策は重要だが,避難所に集まる人を減らすことも対策の一つではないか.他に選択肢のない人のために避難所は当然必要だが,身の回りの危険性を把握した上で,「避難所へ行かなくても良い暮らし方」を考えることは,コロナ流行下に限らず,今後を見据えても重要なことだと思う.

 

[追記1]参考資料など

 内閣府の「令和元年台風第19号等を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)」はこちらにあります.
http://www.bousai.go.jp/fusuigai/typhoonworking/index.html
 紹介した「避難行動判定フロー」の抜き書きはこちらです.
http://www.bousai.go.jp/fusuigai/typhoonworking/pdf/houkoku/campaign.pdf
 「筆者の調査では,洪水・土砂災害犠牲者のほぼ半数は屋外で遭難している」と書きましたが,これについては下記などが参考となるでしょう.
http://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2019/10/post-b96593.html

  

[追記2]「避難場所に行く必要はありません」は静岡では以前から
 「安全な場所にいる人は、避難場所に行く必要はありません」というフレーズは,全国レベルでは最近強調されるようになったことですが,静岡県内では,(風水害ではなく地震災害を念頭に置いたものではありますが)以前からこうしたことが言われてきました.

 私は2009年に静岡県に移ってきたのですが,その際に「いわゆる防災先進地としての静岡」ならではだなと感心したのは,行政機関自身が「安全な場所にいる人は、避難場所に行く必要はありません」という趣旨のことを明言していることを知ったときでした.

 たとえば,静岡県が発行している「自主防災新聞」という刊行物がありますが,その第79号(2011年8月発行)には,地震災害時においてもいくつかの条件を挙げたうえで「自宅付近の安全が確認できれば避難地へ行く必要はありません」と書かれています.
http://www.pref.shizuoka.jp/bousai/e-quakes/data/toukei/jishubousai/79/79_02.html ※このページだけ見ると平成28年12月26日に更新された情報のようにも見えてしまいますが,これは2011年8月発行の資料を転記したものです.

 あるいは,静岡県地震防災センターのサイト内には「避難を考えよう『避難すべきかどうか、考えてみよう!』」というページがあり,ここでも条件を挙げた上で「住宅の耐震性もある場合は、避難の必要はありません」とあります.このページがいつからあるか詳しく分かりませんが,「東海地震」「警戒宣言」といった単語があることから,少なくともここ数年のものではないとは思います.
http://www.pref.shizuoka.jp/bousai/e-quakes/shiraberu/hinan/03/01.html

 こうした記述からは,静岡県における地震防災の目標は,「避難所に真面目に集まる人を増やすこと」ではなく,「地震が起きても自宅で暮らせる人を増やすこと(耐震化等の推進)」なのだな,と感じられました.

  

[追記3]常に「避難所へ行くな」ではありません
 「避難所に避難する」という行動に対して否定的と受け止められる言説に対しては,強い反感が生じることを経験的に知っていますからあえてしつこく書きますが,「あらゆる場合において避難所へ行くなと言っているわけではない」事は強調しておきます.

 また,ここで述べているのは,事前に安全確保のための避難をできる可能性がそれなりにある風水害の,「事前」の避難についてのことです.災害発生後に自宅が損壊して居住できなくなった場合をはじめとして,避難所に行かざるを得ないことは当然あります.

 またここでは「指定避難所」「指定緊急避難場所」の区別を厳格にしていませんが,「指定避難所」「指定緊急避難場所」いずれについても,「あらゆる場合においてそこへ行くことだけが正しいわけではない」という点では同様だと思っています.

 筆者は「避難所へ行く」という行動をあらゆる場合において否定するものではありません.多様な「避難」のあり方がある,と考えています.また,様々な危険性(自然災害に関われ事に限らず)を比較検討した上で「避難所へ行かない」という判断をすることも否定すべきではないと考えています.このあたりは人により大きく考えが変わるところでしょうから,「こちらが正しい,こう考えるべき」と申し上げるつもりはありません.判断するのは自分自身だと思います.

  

[追記4]大前提は「絶対に安全な場所」などはないということ
 誤解を生みそうなので更に追記しておきます.ハザードマップなどで身の回りの災害の危険瀬を確認しておくことは重要ですが,ハザードマップは「絶対に災害など起こらない場所」を保証しているものではありません(下記note記事).自然現象は様々な複雑性,不確実性を持っていますから,例外的なことは起こり得ます.絶対確実に安全な避難方法などというものはありませんから,少しでも難を逃れるために,余裕を持って情報をとらえ,個々の場面で最善の努力をはらう事が重要でしょう.

 

※この記事は、noteにも書いています。静岡新聞「時評」投稿記事については、バックアップの意味から、ブログにも挙げていこうと思っています。

 

2020年4月23日 (木)

「豪雨による人的被害発生場所と災害リスク情報の関係について」を公開

 最近刊行された,「自然災害科学」Vol.38, No.4に掲載された当方の論文「豪雨による人的被害発生場所と災害リスク情報の関係について」Photo_20200423224501 公開しました.
http://www.disaster-i.net/notes/2020jsnds38-4.pdf

 要旨は下記の通りで,ここのところ私が強調している「洪水・土砂災害による犠牲者は基本的には起こりうるところで発生している」という話の基礎となる論文です.

  • 日本の豪雨災害による死者・行方不明者(犠牲者)の発生位置と,災害リスク情報(ハザードマップや地形分類図等)の関係について解析
  • 筆者は1999~2018年の豪雨災害犠牲者1259人分についてのデータベースを構築している.本研究ではこのうち,洪水や河川に接近などの水関係犠牲者と,土砂災害による犠牲者767人を解析対象.
  • 土砂災害犠牲者の87%は,土砂災害危険箇所の付近で発生していた.一方,洪水等の水関係犠牲者で,浸水想定区域付近で発生した者は42%だった.
  • ただし,水関係犠牲者について地形分類図による情報との関係を検討すると,犠牲者の85%は地形的の洪水の可能性がある低地で発生していた.
  • 洪水などの水関係犠牲者や,土砂災害犠牲者のほとんどは,地形的に災害が起こりうるところで発生していると言っていい.ただし,ことに居住地付近の洪水の危険性を理解するためには,現在のハザードマップだけでは不十分である.地形分類図に関する分かりやすい情報の整備が重要である.

なお,要旨では上げていませんが,昨年の台風19号等で話題となった,「土砂災害危険箇所等に指定されていない場所で土砂災害による犠牲者が発生」というケースについても検討しています.調査対象期間中の土砂災害犠牲者497人中32人が該当し,少数ではあるもののこれまでも発生していることを示しています.また,これらの内訳は,32人中16人は,緩やかな斜面や小さな谷など,土砂災害危険箇所等に指定されにくい場所であったこと,他は,制度的に土砂災害危険箇所等の対象とならないところなどであったことも示しています.

何を今更,と思うかもしれませんが,原稿自体は昨年の台風19号より前に投稿していたものですが,査読,掲載までは時間がかかるものです.

 

2020年4月 7日 (火)

水害時 避難イコール避難所Go! だけ,ではない

今は新型コロナウィルス感染症で大変で,洪水・土砂災害の避難の話なんかしてられないよ,と思われるかもしれません.その気持ちもよく分かります.しかし,もしかすると現在の状況下で重要となってくるかもしれないポイントがあると思いましたので,話を絞って書き述べてみることにしました.とは言っても,極力誤解を避けるために,回りくどい長文(約5800字)です.図表は取り急ぎ,省略しています.

■3月末に公表された水害時の「避難」に関する報告書から
2020年3月31日に,2019年の洪水・土砂災害での課題を踏まえた様々な取組について,3つの報告書が公表されました.

●内閣府
令和元年台風第19号等を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)
http://www.bousai.go.jp/fusuigai/typhoonworking/index.html

●国土交通省
河川・気象情報の改善に関する検証報告書
https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo03_hh_001018.html

●気象庁
防災気象情報の伝え方の改善策と推進すべき取組について
~令和元年度に実施した「防災気象情報の伝え方に関する検討会」における検討結果~
http://www.jma.go.jp/jma/press/2003/31a/20200331_tsutaekata_report2.html

これら3点の報告は相互に連動しており,私はいずれにも委員または助言者として参加させていただきました.無論,以下の文章はこれらの検討会等とは無関係で,私の個人的な考えです.

一連の報告書で述べられていることは,基本的にはこれまでの取組の強化や,制度周知の徹底が中心と言っていいでしょう.情報の伝え方や強調の仕方の工夫はありますが,「新たな情報の新設」などはありません.これは良いことだと思います.ここ十数年,目立った洪水・土砂災害が起こる都度,その「教訓」を「生かし」,「『わかりやすい』情報や制度」が新設される,といったことが繰り返されてきました.その結果,「『わかりやすい』情報」が多く,複雑になり,その整理が必要ではないかという声も上がるようになりました.

昨年2019年3月29日に公表された内閣府「避難勧告等に関するガイドライン(平成30年度)」は,「警戒レベル」という5段階の数字による表に様々な情報を当てはめることにより,複雑化した情報の整理の第一歩としたものと,筆者はとらえています.今回の一連の検討では,このガイドラインは改定されませんでした.これも私は良かったと思っています.毎年のように改定されるガイドラインは,「改善」ではありましょうが,それを普及させる自治体の現場,受け止める私たちの社会のことを考えれば,あまり良いこととは言えないと私は思っています.

今回の3点の報告書で,注目されるポイントはいくつかあるのですが,昨今の状況に関わりそうな一点に絞って話を続けます.それは,洪水・土砂災害時の避難については,

「避難イコール避難所Go! だけ,ではない」

ということだと思います.これは,今回の報告書で新たに出てきた話ではなく,近年のガイドライン等でもたびたび強調されているところで,今回更に強く呼びかける方向が示されたものと理解しています.

このようなことを言うと,「行政は避難せよと言っているではないか,避難所へ行くなというのか」「一刻も早く避難することが東日本大震災の教訓ではないか」,といった不信感を持たれるかもしれません.私が言っているのは「避難するな」という話ではありません.「避難とは,どのような場合にも,一定の避難場所に移動することが有効なわけではありません」という話です.「わかりにくい」かもしれません.しかし,自然災害は自然現象に起因するものです.自然は複雑で「わかりにくい」ものです.「自然」と向き合うためには話を単純化せず,私たちも少し汗をかかなければならないと,私は思います.

■そもそも「避難」とはなんだろう
内閣府「避難勧告等に関するガイドライン 避難行動・情報伝達編(平成31年3月)」には,

「避難行動」は、数分から数時間後に起こるかもしれない自然災害から「命を守るための行動」である。

との記述があります.その上で,

避難勧告等の対象とする避難行動については、命を守るためにとる、次の全ての行動を避難行動としている。<中略>
 ① 指定緊急避難場所への立退き避難
 ② 「近隣の安全な場所」(近隣のより安全な場所・建物等)への立退き避難
 ③ 「屋内安全確保」(その時点に居る建物内において、より安全な部屋等への移動)

と書かれています.このうちの①が一般にイメージされる「避難」でしょうか.しかし,それだけが「避難」ではなく,場所や状況によっては②や③も「避難」であり,けっしてこれらが「間違った行動」ではないことが書かれています.

■津波と水害では「避難」のあり方が異なる
そもそも,避難のあり方は,原因となる自然現象によって異なります.津波災害の避難であれば,「海岸付近で強い揺れを感じたら,少しでも早く高い場所へ移動すること」が「避難」である,と理解してほぼ間違いではないと言っていいでしょう.しかし,洪水・土砂災害は津波との相違点,共通点があります.

  1. 危険が予測される段階から危険な状況の発生までに時間的余裕があることが多い.ただし,その幅は数日~数時間,場合によるとほぼ無いこともあるなど,ばらつきも大きい
  2. 海岸付近に限定されず,全国どこでも発生するが,地形的に起こりやすい場所,起こりにくい場所がある
  3. 建物内にとどまることにより命の危険を免れうることがかなり期待されるが,建物内では助からないこともしばしばある
  4. 屋外で行動中に洪水,土砂災害に見舞われると,命の危険につながる可能性がかなり高い

私の最近約20年間の洪水・土砂災害犠牲者1259人を対象とした調査では,犠牲者の発生場所は「屋外」が47%,「屋内」51%と屋内外はほぼ半々です.土砂災害については82%が「屋内」ですが,洪水など水関連犠牲者では「屋外」が71%,強風や高波の犠牲者も「屋外」が79%に上ります.土砂災害については危険な場所にある建物から立退き避難することが有効ですが,不用意に屋外を行動すると,水などに襲われてしまうという危険性があるわけです.

家屋が倒壊・流失する状況では,屋内にいても犠牲者が出る可能性が高まります.土砂災害,特に土石流に見舞われると家屋全体が倒壊してしまうことも珍しくありません.一方洪水で家屋が流失するケースは,堤防が決壊した場所や,堤防のない河川の脇などに限定され,浸水だけで家屋が流失することはほとんどありません.浸水だけならば,建物の上層階に移動できれば命は助かることが期待できます.筆者の調査では,浸水による屋内犠牲者が目立った平成30年7月豪雨や,2019年台風19号でも,2階建て建物の2階で亡くなった犠牲者は明確には確認できていません.

つまり,洪水・土砂災害からの避難は,場所や状況により,「適切な行動」がかなり多様で,一律に「指定避難場所へ避難」とだけ覚えておくことが良いとは言えないと思います.

一方,洪水,土砂災害の犠牲者は,その多くが「起こりうる場所」で発生していることは,犠牲者を軽減する上で重要なポイントでしょう.先にも挙げた私の調査では,土砂災害犠牲者の87%が,土砂災害危険箇所等の付近で発生しています.水関連犠牲者が浸水想定区域付近で亡くなったケースは41%と多数派とは言えませんが,地形的に見ると,洪水の可能性がある「低地」で亡くなった犠牲者が92%でです.けっして「起こるはずもない場所で多くの犠牲者が生じている」訳ではありません.なお,この調査結果については内閣府報告書にも収録いただいています.

■内閣府報告書の「避難行動判定フロー」を読む
こうした洪水・土砂災害犠牲者発生状況に関する知見も元に,今回の内閣府報告書には,「避難行動判定フロー」及び「避難情報のポイント」という資料が収録されました(50~53ページ).まずは「避難行動判定フロー」を見ましょう.

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ここでは,ハザードマップを参照し,自宅がどのような危険性があるかを確認する際のポイントが上げられています.なお,大前提としてハザードマップは,家一軒ごとの危険性の有無を明確にしめせるような精度はないので,あまり細かくは見ないで欲しいところです.「自宅付近」の危険性を読むつもりで見たいところです.

ああ,そういうややこしい話はいい,はっきり,分かりやすく言え,と思われるかもしれません.すみません,繰り返しますが,自然はややこしいのです.情報にはばらつきや幅があります.時間,空間的に,かなり幅を持ってみる,という姿勢について,ご理解をお願いします.「避難行動判定フロー」もあまり単純な図にはなっていません.フローの分かれた先に,「ああでもない,こうでもない,こういう場合もある」みたいなことが書いてあります.

「避難行動判定フロー」ではまず

家がある場所に色が塗られていますか?

とあります.これをまず確認することが重要です.「いいえ」,つまり,色が塗られていない場所では,闇雲に「避難所Go!」をする必要性は低いといえます.そういったところにいるのであれば,むしろ屋外を行動して難に遭うことを避けるために,自宅にとどまることが重要でしょう.

ただし「いいえ」となっても,絶対に安全とは言いきれません.特に中小河川の付近では「地形的に洪水が起こりうるけど,情報整備が間に合っておらず,色が塗られていない」事がかなりあります.堤防がない小さな河川のすぐ脇,というような場合は,色が塗られていなくても洪水の影響を受けうる,と考えていただいても大きな間違いではないでしょう.

さて話を続けます.「避難行動判定フロー」で,

家がある場所に色が塗られていますか?→はい→災害の危険があるので、原則として、自宅の外に避難が必要です。→例外

という流れがあります.その先の枠内に

※浸水の危険があっても、

①洪水により家屋が倒壊又は崩落してしまうおそれの高い区域の外側である

②浸水する深さよりも高いところにいる

③浸水しても水がひくまで我慢できる、水・食糧などの備えが十分にある場合は自宅に留まり安全確保をすることも可能です。

※土砂災害の危険があっても、十分堅牢なマンション等の上層階に住んでいる場合は自宅に留まり安全確保をすることも可能です。
とあります.

ここです.つまり,「避難イコール避難所Go!」ではないですよ,それぞれの自宅の場所や建物の状況を確認し,自宅にとどまることも選択肢の一つですよ,という話です.土砂災害の場合は,「少しでも斜面から離れた部屋に」を追加しても良かったかもしれません.

「避難行動判定フロー」の裏面ではこのあたりについて更に強調する言葉が続いています.

・「避難」とは「難」を「避」けることです 安全な場所にいる人は、避難場所に行く必要はありません
・避難先は小中学校・公民館だけではありません 安全な親戚・知人宅に避難することも考えてみましょう

ここでは明記されていませんが,金銭的な負担もいとわないのであれば,危険性の低い場所にあるホテルや宿泊施設に宿泊するといった選択肢も十分ありうると思います.

■「避難所に集まる人を少しでも減らす」
さて,新型コロナウィルス感染症の流行状況下と,この避難の話にどんな関係があるか,なんとなくおわかりかと思います.新型コロナウィルス感染症の流行を抑制する方法として,密閉・密集・密接の「3つの密」を避けることが重要であるといわれています.災害時の避難所は,まさにこの「3つの密」の場ではないか,と心配する人もいるかと思います.この問題は非常に難しく,「こうすれば確実に安全だ」という対策はなかなか立てられないのではないかと思います.

そうなると,「避難所に集まる人を少しでも減らす」という考え方も,あくまでも方法論の一つとしては,考えられることではないかと思います.「避難行動判定フロー」に示された情報を参考に,避難の必要性が高くない人は自宅にとどまる,避難の必要性がある人も,なるべく避難場所を使わない避難の方法を考えておく,という形で難を避け,どうしても避難場所を使わねばならない人が避難場所を利用する,という方向です.これは,新型コロナウィルス感染症の流行状況下に限らず,避難場所の対応能力が必ずしも十分でない場合もあることを考えると,一般的な洪水・土砂災害時であっても的外れな方向ではないのではないか,と思っています.

無論これは,非常に微妙な話であり,逆に危険を惹起しかねない危うさもあります.「避難場所に集まらなくても良いのだ」という考え方「だけ」が強く印象づけられ,闇雲に「コロナも怖いし避難は止めよう」という考え方が広がってしまう,という危険性です.あくまでも「避難イコール避難所Go! だけ,ではない」です.「避難所に行かなくていい」と【だけ】言っているのではありません.避難場所に移動すること以外にも,いろいろな「避難」のあり方があり,それを平時から考えておくことが重要で,それは簡単とは言わないけど,不可能でもない,ということです.

はい,また「わかりにくい」話になりました.すみません,繰り返しになりますが,自然と向き合うのは「わかりにくい」ことの連続です.どこかに「これさえ理解すれば解決!」みたいな「コツ」はありません.「こうすればいい」という,すべての人に一律適用可能な「ノウハウ」もありません.私たち自身のおかれた条件があまりにも多様なため,私たちそれぞれが考えておくしかないのだと思います.

残念ながら,「避難イコール避難所Go! だけ,ではない」という考え方で準備を進めたとしても,新型コロナウィルス感染症の流行状況下での避難所についての課題がきれいに解決するわけではありません.最も効果的に機能したとしても,部分的な解決策の一つにすぎないでしょう.ただ,防災対策はそもそもそうした「一発解決にはならない細々した対策」の積み重ねでありましょう.また,この考え方は,新型コロナウィルスの危機が去ったあとでも有効な対策の一つになり得ると思います.

「避難」については,いろいろなお考えがあると思います.私がここで述べた考え方に反発を感じる方もいるかもしれません.私は「みんな必ずこうすべきだ」と述べるつもりは全くありません.あくまでも一つの考え方です.

なお,大変申し訳ありませんが,個々の場所について「どうしたらよいのか」というご質問に対応できる余裕がこちらにはありません.ご理解をいただきますようお願い申し上げます.

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