2016年11月 2日 (水)

「避難準備情報」の言葉の変更に思うこと

「避難準備情報」の言葉がわかりにくいので変更すべきでは,という議論があるので,筆者の考えをメモしておきたい.
 
「避難準備情報」がはじめて明文化された2005年「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」では,「避難準備(要援護者避難)情報」と表記され,要援護者等は避難行動を開始,他の者は避難準備を開始,が「求める行動」とされていた.2005年版ガイドライン作成の背景は,2004年が10個の台風が上陸するなど風水害が多く,避難勧告発令をためらったケースや,要援護者等が犠牲となったケースが目立ったことがあったように筆者は受け止めている.
 
2005年版ガイドラインやその検討報告をみると,このときの避難準備情報は,避難勧告より早い段階でなんらかの行動を促すという意味もあったが,どちらかというと要援護者に対する支援という意味合いが強かったように感じられた.
 
なお,2005年版ガイドラインの重要事項は,避難準備情報の規定もあるが,避難勧告の客観的基準や,その発令範囲を明確化するための目安を示した点も大きかっただろうと,筆者は評価している.
 
しかし,その後も「避難勧告の発令をためらう」というケースが後を絶たず,特に2013年伊豆大島,2014年広島での避難勧告の遅れがかなり話題となった.判断基準にも課題はあったが,「避難勧告を出す」ということのハードルの高さも一因ではと議論された.「避難勧告を出す」のハードルとは,空振り批判を恐れる,避難所開設や役所内の体制立ち上げなど費用面の不安など,さまざま.
 
ガイドラインで,避難勧告より前段階に出せる「避難準備情報」がありながら「避難準備情報は要援護者向けの情報」と思われ,一般住民も含めた「勧告の前段階の情報」として活用されなかった側面も.このあたり,いくつかの災害事例を見た印象として筆者自身が持っていることだけど,もっと定量的に当時調べておくべきだったと反省している.
 
こうした教訓から,2015年版ガイドラインでは,(要援護者避難)がとれ「避難準備情報」に明快化された.また要配慮者の立ち退き避難とともに,他の者も「立ち退き避難の準備を整えるとともに<中略>自発的に避難を開始することが望ましい」とされた.
 
今仮に,避難準備情報を「要配慮者避難情報」等に変更する場合,いわば2005年ガイドラインへの回帰とも言える状況となる.しかしそうなると,避難勧告より早い段階で要支援者以外の人に注意を喚起する意味は非常に読み取りにくくなる気がする.
 
「一般向け避難準備情報」と「要配慮者避難情報」を設ける,という考え方もありうる.しかし,両者の発令基準を変えることは合理的でないと思われ,ただでさえ複雑だとされる避難関連情報がさらに複雑化することが懸念される.
 
合成して「避難準備・要配慮者避難開始情報」とするという考えもありそうだ.しかし,もともと「わかりにくい」という話から始まったのに,この言い回しが「わかりやすい」といえるだろうか.たとえばYahooの避難情報ページ https://goo.gl/1oC2gj では,避難準備情報は「避難準備」と4文字に略記され,避難指示(赤),避難勧告(橙),避難準備(黄)と色分け表示されている.「要配慮者避難情報」となったら?
 
かりに「避難準備情報」の語を変える場合,すでにある程度定着して,全国各地のハザードマップ,防災関連資料等に記載された言葉をすべて書き換え,新たな言葉を普及啓発していくという大きなコストが生じることも懸念される.避難勧告,避難指示も含めて,たとえばすべて数字で示すとかの抜本的な改定を行うならばこうしたコストも意義があるように思うが.部分的な用語変更ではどうだろう.
 
筆者も「避難準備情報」という言葉がわかりやすく,ベストな言葉だとはおもわない.しかし,「要配慮者が避難開始するという意味がわかりにくい」という理由で,この言葉だけを変えることは,防災関連情報全体としてのメリットがあまり大きくないように感じられる.
 
無論今のままでよいとは思わない.しかし,言葉を換える以外の改善策も考えてもいいのではなかろうか.意味の周知を徹底することは当然考えられる.単に「避難準備情報発令」というだけでなく,その意味を合わせてアナウンスすることを定型化するなどもありだろう.防災気象情報や河川水位情報で導入されているような,「色」を決めて表記するなどもありそうだ.
 
どうするにせよ,改善するためには,こうした思いつきの羅列ではなく何らかの根拠の積み上げが必要だろう.時間がないが,筆者自身も努力してみたい.

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2016年10月27日 (木)

大川小学校災害に関する仙台地裁の判決から思うこと

10月26日に仙台地裁で出された,東日本大震災時の大川小学校での人的被害についての判決文を入手する機会を得たので,一読しての個人的な印象を書き留めておきたい.
 
筆者は,災害情報に関する研究者ではあるが,裁判や法律に関する専門的知見は持たない.あくまでも災害に関する研究者としての私見であることをお断りしておきたい.
 
大川小学校は,小学校という本来安全であるべき場で多数の子ども達が犠牲となったもので,このことは言葉が尽くせないほどに痛ましい.その上でも,やはりこれは非常に厳しい判決となったという印象だ.
 
判決は,東日本大震災発生前の段階で大川小学校関係者が,学校周辺への津波の可能性を認識しておらず具体的な避難場所等を決めておかなかったことや,地震発生から15時半頃までの間に校庭にとどまったという判断については,注意義務違反ではなかったとした.15時半頃,石巻市の広報車が伝えた北上川河口付近の松林を津波が越えているという情報に接して以降は,大規模な津波が到達することを予見できたとしており,この広報車による情報に重きを置いている.
 
このように,震災前から地震直後と,津波到達直前で分け,予見可能性をやや限定的に判断していることは,現に15時半以降に児童らの避難行動が行われていることも考えると,一定の理解ができる.たとえば「(震災前の時点でも)想定外の事態にも当然備えなければならなかった」「地震発生直後に当然大きな津波は予見できたはずだ」といった,幅広い予見可能性が認められたわけではないことは,率直に言ってよかったと思っている.
 
一方,15時半頃以降に目指した避難場所(三角地帯広場)が,大規模な津波の襲来を予見している中での判断としては不適当であり,裏山が避難場所として支障はなかったと判断している.事前の予見可能性ではなく,津波到達直前の避難場所の判断に主に過失を認めているようだ.
 
つまり,津波到達直前には,津波は堤防を確実に越え,三角地帯広場への避難では低すぎると判断できたはずであり,かつ裏山を避難場所として選択しなかったことが不適当だという見方のようだ.しかし,内陸部での津波の挙動について誰もが的確な知識があるとは思えず,当時において三角地帯広場の高さと予想されるその場所での津波の高さをとっさに比較できたはずだというのは,かなり厳しい判断だと思う.
 
また,崖崩れなども懸念され,必ずしも明瞭な道のない裏山を避難先として選択しなかったことが不適当だというのも,かなり厳しい判断だと思う.判決は「現実に津波の到来が迫っており,逃げ切れるか否かで生死を分ける状況下にあっては,列を乱して各自それぞれに山を駆け上がることを含め,高所への避難を最優先すべきであり」とあるが,このような考え方が広く一般化したのは東日本大震災以降ではなかろうか.無論このような判断ができれば,それに越したことはないが,当然そうすべきだったとまで言えるだろうか.
 
また,住民と相談し,裏山への避難について反対されたことについて,判決は「(住民)の意見をいたずらに重視することなく,自らの判断において児童の安全を優先し,裏山への避難を決断すべきであった」としているが,住民と混在した避難場所での状況を踏まえると,そのような「判断」を「すべきだった」と言うのが現実的か,難しいのではなかろうか.
 
大川小学校およびその周辺は,津波からの避難を考えるにしても,迷うことなく避難先を選択,移動することが難しい立地であったと思われる.釜谷地区の住民の死亡率は84%(石巻市検証報告書)とされている.これは今回の震災による犠牲者率としてかなり高い.例えば陸前高田市では浸水域人口に対する犠牲者率11%,500mメッシュごとの地区人口に対しても最大で30%ほどである(筆者調査).このことは津波来襲を予見し,確実な避難をすることが難しい地区だったことを示唆している.このような場所で,いわば「的確なとっさの判断」を行わなかったことが不適当であるとされるのは,管理者(ここでは教員)にとってかなり厳しいことだと思う.
 
判決では,管理者(ここでは教員)が災害進行中の「的確なとっさの判断」が当然行われるべきであったとしているようにおもえる.しかしこれは,災害前に事態を予見しておくことよりもむしろ応用的な高い能力を求めているように感じられる.
 
行政関係者や教育関係者に限らず,誰もが「管理者」になり得る.こうした高い能力の行使を管理者に求めることは,我々の誰もが重い責任を追うことになる.それに我々は社会全体として対応できるだろうか.また,自然災害時の「管理者」故意ではない判断にこうした厳しい責任追及がおこなわれることが,関係者の口を過度に重くさせ,客観的な原因分析を阻害する可能性も懸念される.
 
こうした能力が求められるのであれば,教員,行政職員等,民間も含め管理者となり得る立場の人に対する研修,教育機会の充実(予算の投入)がますます重要になってくるが,それとて「とっさの判断」を適切に行うことに効果的かどうかは難しく,教育をしているのだからとさらに厳しい責任追及を行うようなことにつながらないかも心配される.
 
一方,被災後の校長,生存教員,市などの対応については注意義務違反は認められなかった.しかし,本裁判に至った心情的な背景としては,被災後の関係機関の遺族らへの対応に課題があった可能性は否定できない.ただしこのことも,単純に批判できるものではないと思う.災害後の現地機関は,未経験,かつ平常時をはるかに上回る業務量を抱え,丁寧な対応ができなくなる可能性がある.被災地域の各種機関を,いかに支えていくかも大きな課題だろう.
 
※「三角地帯」を「三角広場」と誤記していたので修正しました.(2016/11/01)
 

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2016年9月19日 (月)

2016/9/11岩手県岩泉町現地踏査雑感

9月11日も岩泉町内の人的被害発生場所を中心に現地踏査.小本川下流部に,災害後初めて行った.数百m程度の谷底平野全体を洪水流が流れている印象.写真は袰野地区.水田だったところが河原のようになっている. pic.twitter.com/158Js8jHPT

乙茂地区のグループホーム付近遠景.現水面からホーム等のある低地面まで比高は4,5m程度.高水敷という印象.明治期の地形図では辺り一帯が川と表記されてたが,高水敷が水田化され,近年になって建物が建ってきたという所だろうか. pic.twitter.com/8Ssb3w8WHd

グループホームのすぐ上流側では,住宅地図に住家として表記されている建物が少なくとも3棟流失していた.ただしこれらに伴う人的被害は確認されていない. pic.twitter.com/HJA6qeaUMC

岩手県内の死者・行方不明者24人のうち,家屋流失に伴うものは2人,屋内で洪水にが10人(うちグループホーム9人),土砂2人,他は屋外で洪水に見舞われた可能性.当初の印象より屋外で洪水が多い(洪水ではこれがもともと多い).ただし現時点の判断,今後変わる可能性大いにあり.

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2016/9/10岩手県岩泉町・葛巻町現地踏査雑感

9月10日,11日と,岩泉町の被災地を,人的被害発生場所を中心に現地踏査.道はだいぶ啓開されてきたが,大きく決壊したところなどはまだまだの印象.普段なら20分程度の所を3時間かけて迂回など.10日夕方には国道106号の宮古-盛岡間が通れるようになり,おかげで帰路は比較的スムースに盛岡に戻れた.

今回の岩手,北海道での人的被害はほとんどが洪水起因と考えていたが,岩泉町二升石で行方不明者が生じたと報じられている場所は,土砂災害(土石流)起因と考えてよいか.建物倒壊には至っていないが,土砂の堆積が見られる. pic.twitter.com/cYmZRBUXQq

二升石の現場は,支川と本川が合流する地点にあり,本川側に多量の土砂が堆積している.支川側は家屋付近で勾配が5~6度,本川側は1~2度.河道が満砂状態. pic.twitter.com/77v3vSCLxm

岩泉町内は洪水による被害が目立つが,土砂流出箇所も無数に見られる.土砂による人的被害が多数見られなかったのはたまたまの結果かもしれない.目先で目立った事象ばかりに眼を向けないよう注意が必要.

先週も行った安家地区を再訪.あらためて確認したところ,安家地区中心部付近では住宅地図上の住家が6棟完全に流失している.写真の箇所はそれぞれ住家2棟が流失した. pic.twitter.com/qAhVANPYBn

洪水による住家(小屋などでなく)の流失は,近年ではそれほど見られないので,一つの地区で6棟はまとまった被害.ただしこれに伴う人的被害は今のところ行方不明者1人.関心が持たれるが,今のところは(判断材料が乏しいので)何も言えない.

迂回したついでに,2006年10月の岩井県葛巻町での豪雨被災地の跡を少し見てみた.写真はだいたい同じ場所(本日の方が数十m下流側)で,下が当時,上が本日.ザ「河川改修」でしょうか. pic.twitter.com/vU4Lbps4gS

先の写真の川(元町川)も,今回河岸が大きく浸食されているところも見られました.写真の改修区間では大きな被害はないようでしたが,ざっと見た印象ですのであまり正確な話ではありません.

2006年の葛巻での災害では,変な角度から論文を書いた→「2006年10月6日から9日に北日本で発生した豪雨災害時に見られた行方不明者覚知の遅れ」自然災害科学,2007. goo.gl/TC46NG

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2016年9月 9日 (金)

大雨時の避難行動-河川水位情報 活用を

9月8日付け静岡新聞「時評」欄に掲載された筆者の寄稿記事です.8月末の東北・北海道での豪雨災害発生より前に入稿した原稿ですが,原稿が出る前にまたしても洪水災害発生となってしまいました.岩手県岩泉町の災害に限っていえば,山間部で水位観測所の少ない地域でした.「やっぱり役に立たないじゃないか」ではなくて,行き届いていない地域は当然ありますが,役に立つ地域も多くあるわけですから,「使えない」と決めつけず,活用していくことが重要だと思っています.
 
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時評=大雨時の避難行動-河川水位情報 活用を
 
 昨年,関東から東北の広い範囲に被害をもたらした「平成27(2015)年9月関東・東北豪雨」からまもなく1年となる.この豪雨に伴って様々な災害が生じたが,茨城県常総市(鬼怒川)などでの堤防決壊,各地の河川での越水(堤防がある川で水が堤防からあふれだすこと)など,洪水による災害が目立つ事例であった.
 
 「水につかる(浸水)」現象は大別すると「洪水」と「内水氾濫」の2種類がある.洪水は主に堤防の決壊や河川の水が堤防を越えたりすることにより起こる浸水をさし,内水氾濫は大雨によって地表の水が増えて河川等への排水が追いつかなくなり,側溝などから水があふれ出す浸水を指す.
 
 ただし両者は明確に区別できない場合も少なくない.洪水,内水氾濫ともに浸水による家屋や農地などの被害があるが,洪水の場合は堤防決壊箇所付近での家屋の流失,道路走行中の車や人が流されるなど,より深刻な被害に繋がる場合がある.
 
 洪水は,自分がいる場所を見回している限りでは,「突然水がやってきた」と感じるかもしれない.しかし,何の前触れもなく突然洪水が発生することは考えにくい.大量の降雨→近隣の河川水位が上昇→越水や堤防決壊が発生→浸水開始,というケースがほとんどである.雨や,河川の水位に注意していれば,不意打ちは回避できる可能性がある.
 
 河川水位は重要な情報だが,大雨の中で川にちかづくことは危険で推奨できない.筆者の最近約10年間の調査では,「水田,用水路,川などの様子を見に」でかけて亡くなった人が,全犠牲者の11%にも達する.
 
 水位は主な川の多くの地点で観測されており,国土交通省「川の防災情報」,Yahoo!「天気・災害」,静岡県「サイポスレーダー」などのホームページや,SBSとNHKテレビのデータ放送で見ることができる.主な観測所については,注意する基準の水位が設定されており,たとえば「氾濫危険水位」を超えると,その観測所の周辺で水が川からあふれ出す可能性があることを意味する.
 
 まずはハザードマップで自宅や勤務先付近の浸水の可能性を確認し,大雨の時には河川の水位情報にも目を向けたい.「ここが浸水するとは思わなかった」「突然水がやってきた」といった声は少しでも減らしたい.

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2016年9月 4日 (日)

2016/9/2岩手県岩泉町現地踏査雑感

2016年9月2日,岩手県北部の豪雨被災地を数時間現地踏査.通れない道が多くて移動にかなり手間取る状況.

久慈市役所付近の浸水痕跡.0.2m程度の歩道からの高さなので,道路面からの浸水深は約1m程度というところか. pic.twitter.com/hQtcgyyLLC

久慈-田野畑-安家-久慈,と移動したが,斜面崩壊は田野畑-安家-久慈の内陸部では至る所で見られ,沢からの土砂流出も多く,数十cm程度の礫を含む小規模な土石流と思われるものも散見された.これは岩泉町安家地区にて. pic.twitter.com/jHPKLYLSMi

洪水により家屋が流失し,人的被害が発生した可能性がある岩泉町安家地区.崩壊,土石流によるものではなく,洪水による家屋被害と思われる. pic.twitter.com/SRNM6JKDIV

岩泉町安家(元村)地区は,はば数百mほどの谷底平野の河川(安家川)沿いの集落.現河道沿の最低位面上に家屋が並び,これらが被害を受けている.その両側,比高1~2m程度の段丘面(かな)上の家屋の被害は軽微のように見えた. pic.twitter.com/EMGdYsoQT5

岩泉町安家地区の写真を1点追加.安家小中学校近くの「新橋」.欄干上を洪水流は超えているが,右手樹木への流下物付着状況から最大浸水深は欄干の少し上くらいか.付近では道路面から2.5m位の浸水も見られた. pic.twitter.com/7q95GCCXjJ

岩泉町安家の中心部(元村)付近での調査写真等を検討したところ,住家が少なくとも4世帯流失していた.洪水による家屋流失は近年の水害ではあまり多くなく,激しい状況だったことがうかがえる.一方4世帯流失で人的被害は行方不明者1名ということも関心が持たれるところ.

先日の現地踏査では,ごく限定的なところしか見ていないのでなんともいえないが,写真を示した安家地区のような,河道沿いの家屋等の損壊は小規模なものも含めれば散見された.見ていない地域にも同様な被害はあってもおかしくないと思う.

低地の洪水に比べ相対的に洪水の流速が早くなりやすい(建物等を破壊しやすい),山地河川の洪水が今回の岩泉の災害の特徴的な面の一つと思う.グループホームを巡る課題はそれで重要だが,そこだけに焦点が当てられると,山地河川の洪水という課題が見落とされることも心配される.

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2016年台風10号に伴う岩手県岩泉町のグループホーム被災について雑感

2016年台風10号による豪雨に伴って発生した洪水により,岩手県岩泉町のグループホーム「楽ん楽ん」で,死者9人の人的被害が生じた.

いわゆる要支援者関連施設で風水害による犠牲者が出ることは繰り返し懸念されていたが,実際に犠牲者に繋がる実例はかなり稀で,私が調べている2004年以降では,2009年防府市で土砂災害により7人(後関連死3人追加認定)が唯一の例.洪水によるケースは確認できない.

要支援者関連施設について,私は十分知見を持たない.災害現象としての課題とは別に,こうした施設の運営上の課題もいろいろあると思われ,この点については言及できない.少なくとも「情報不足」「情報が届いていれば」というだけの問題ではないように思う.

グループホーム「楽ん楽ん」はこのあたりか.浸水想定区域図は整備されていないか.まあ,それはそうだろう. pic.twitter.com/7N1fbMZDWl

グループホーム「楽ん楽ん」の付近,国土調査の5万分の1地形分類図でみると「谷底平野及び氾濫平野」となっている.地形的に洪水及び洪水による災害が発生しない「想定外」な場所とはいえない.

なお,地形分類図は「あれは違う」とか言うご意見をいただく事が想定されるので提示しない.いつも思うことだけど,地形分類図を平時には「防災教育に有効」とか言っているくせに,いざ災害時に参照すると「その図は間違っている,定義がどうのこうの」とか言う人たちは,早く「間違ってない地形分類図」を全国整備することに尽力して欲しいと思う.

犠牲者の出たグループホームの付近は,量的にはそれほど激しい雨は降っていなかったけど,上流でたくさん降ってしまった.これが影響している可能性はあるかもしれない.あくまでもぼんやりした思いつきの話.

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2016年台風10号 降水量資料

AMeDAS岩泉と,小本.いずれも2006年撮影.小本は小本川近くの低地.30日24時から欠測になっているが,洪水でやられたのかな. pic.twitter.com/kkTVnP5gCb

8/28~30のAMeDAS岩泉の降水量推移.29日から弱い雨が降り続け,30日夕方の4時間ほどに集中的に降り,20時過ぎには上がっている. pic.twitter.com/48J4GdE9k4

8/28~30のAMeDAS岩泉の降水量の過去の記録との比較.1時間~6時間降水量が1976年以降最大となっているが,24,48時間は大きくない.72時間が過去最大とほぼ同じ.主に短時間降水量が大きかった降り方. pic.twitter.com/zLrYOTHRyW

8/28~30のAMeDAS岩泉の降水量推移と過去の記録との比較.欠測となったのは24時以降なので本図は影響なし.小本は人的被害が発生した場所にちかいが,過去の記録を全く更新していない.それほど激しい雨は降っていないようだ. pic.twitter.com/zbt4vGjetg

グループホーム「楽ん楽ん」付近の小本川から下流約5kmほどのところに岩手県赤鹿水位観測所がある模様.30日夕方から水位が上がりはじめ,ピークは20時前後か. pic.twitter.com/LetTjIYJYq

犠牲者の出たグループホームの付近は,量的にはそれほど激しい雨は降っていなかったけど,上流でたくさん降ってしまった.これが影響している可能性はあるかもしれない.あくまでもぼんやりした思いつきの話.

8/27~31の北東北のアメダスデータによる1時間降水量と3時間降水量のそれぞれ最大値の分布.×が1976年以降最大値(統計期間10年以上)を更新した地点.1時間と3時間の両方を更新したのは岩泉のみ. pic.twitter.com/Ab5NQz4Qy3

8/31 24時の北東北のアメダスデータによる72時間降水量の分布.こちらは最大値更新観測所がない.主に短時間の降水量が大きかった事例であることが示唆される. pic.twitter.com/eNi4yLXIHG

8/27~31の道東の1,時間降水量最大値の分布.いずれも最大値更新地点がみられない.ただし解析雨量の積算値(近く気象庁から出てくるでしょう)を見ると日高山脈内に強い降雨域が見られ,AMeDASだけでは議論できない事例といえそう. pic.twitter.com/U5jqLdRXTQ

8/31 24時の道北の72時間降水量.こちらは「ぬかびら源泉郷」で最大値更新だが,日高山脈付近がよくわからないのは1,3時間降水量と同様.AMeDASだけで見ればの話で「山の中の雨量がわからない」事はありませんから,念のため. pic.twitter.com/g1r1HXcy1T

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2016年8月23日 (火)

台風接近時の情報の見方としてあらためて気になること

台風接近時の情報の見方について,どうにも気になることをあらためて書いてみました.

台風の「中心」付近は,風は一番強い可能性が高いけど,雨も一番強いわけではありません.雨は台風の中心から数百km以上離れた所で強く降ることがごく普通にあります.「中心」「上陸」などという,あえて言うならば「半世紀前に重要だったが今となっては『雑』な情報」に気をもむのではなく,レーダー等で素直に雨雲の様子を見ましょう.

台風の中心付近で雨が激しいわけではない,というのは「台風の目だから」ではありません.そもそも台風の雨雲は「中心は目で雲がなく回りに厚い雲が同心円状に広がってる」のではなく,渦巻き状に厚い雲,薄い雲が中心を取り巻いています.「台風の目」もことさらに注目しすぎるのもどうかと思います.

台風に伴う雨の特性(気象庁)

http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/3-1.html

「台風の中心で雨が最も強いわけではない」は,レーダー画像を見れば一目瞭然です.下記画像では,中心からはるか離れた北西側に雨の強いところが分布しています. pic.twitter.com/tCjKShFthg

雨は固体じゃありませんから,流れていったり,しみこんだりします.「今激しく降っているところ」だけに注意ではなくて,「これまでにどれくらい降ったか」(土砂災害警戒判定メッシュ情報とか),「流れてきたものはどれくらいか」(河川の水位とか,最寄りの観測所だけでなく上流の観測所も)にも要注意です.

台風に限らず,豪雨時に「田んぼの様子を見に」の危険性は最近かなり注意されてきた感があり,これはよいことだと思いますが,実はそうした犠牲者は全体の6.7%,「川などの様子を見に」を合わせて11.4%です(当方調べ goo.gl/Q2UzKt ).少なくはないが,「田んぼの様子を見に」だけの強調も少し不安を覚えます.

むしろより単純に「雨風激しいときは外をうろつかない」も重要かもしれません.全犠牲者の約半数,水関係の犠牲者の8割以上が「屋外」で亡くなっています. pic.twitter.com/UE0vNzQcjG

これも台風に限った話ではありませんが,「夜の災害が怖い」とよく言われます.しかし,筆者による2004-2014年の風水害犠牲者の調査(当方調べ goo.gl/Q2UzKt )からは亡くなった方の遭難時間帯は夜昼ほぼ半々です.昼間は「少し無茶してしまう」事による遭難,といった可能性もありそうです.夜は夜の怖さが,昼は昼の怖さがある,と考えた方がいいように思います. pic.twitter.com/6LtvF7hoRI

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2016年6月29日 (水)

改めて考える地震対策-耐震が一丁目一番地

6月25日付け静岡新聞「時評」欄に掲載された筆者の寄稿記事です.繰り返し指摘されていることですが,人的被害(最も深刻な被害)は明らかに古い家屋に集中しています.
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 「平成28年熊本地震」発生から約2ヶ月.この間に3回ほど現地を調査で訪れた.地震は私にとって専門外の現象でもあり,いろいろと知らなかったことにも出会った.この地震では,地震そのものによる直接死者・行方不明者が50人に上った.避難生活などに伴う関連死者数はまだ流動的だが,6月14日静岡新聞朝刊では関連死疑いが20人とも伝えられる.
 
 死者・行方不明者が50人以上となった自然災害は,1980年代以降でも本事例を含めて15事例,仮に70人以上では11事例である.50人以上の被害となったことは大変痛ましいが,決して「未曾有」ではなく繰り返し発生している規模だ.日本が厳しい自然環境下にあることにあらためて愕然とさせられる.
 
 現地を見て最も印象的なことは,すでに多く伝えられてはいるが,「激しく倒壊しているのは主に古い家屋である」だった.比較的新しい家屋の倒壊,損壊も見られたが,大局的には古い家屋の被害の方が目立った.
 
 筆者は今回の地震による犠牲者発生状況の調査を進めているが,地震による建物等倒壊に伴って亡くなった方は38人で,そのうち所在家屋が現在の耐震基準とおおむね同等の1980年代半ば以降の新築だった可能性が高いのは今のところ2人(1世帯)である.犠牲者は明らかに古い家屋に集中している.
 
 4月14日の「前震」があり,その直後は避難したが「もう大丈夫だろう」と考え16日夜は自宅に戻り,「本震」で亡くなったことが伝えられている.確かにそうしたケースも少なくないが,ほとんどが古い家屋での犠牲者だったことを考えると,「もう大丈夫だろう」という判断によって厳しい結果となったというよりは,そもそも家屋自体に主な原因があったと考えた方がいいのかもしれない.
 
 いくら一生懸命避難袋を作り,サバイバル知識を身につけ,緻密な津波避難訓練をしていても,古い家屋に居住し地震発生とともに建物倒壊で命を失っては,それらの「備え」は何の役にも立たない.耐震化の支援策も様々用意されている.賃貸であれば「比較的新しい家屋を選ぶ」ことも立派な対策となる.地震対策の一丁目一番地は耐震化である,とあらためて考えている.

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