2020年4月 7日 (火)

水害時 避難イコール避難所Go! だけ,ではない

今は新型コロナウィルス感染症で大変で,洪水・土砂災害の避難の話なんかしてられないよ,と思われるかもしれません.その気持ちもよく分かります.しかし,もしかすると現在の状況下で重要となってくるかもしれないポイントがあると思いましたので,話を絞って書き述べてみることにしました.とは言っても,極力誤解を避けるために,回りくどい長文(約5800字)です.図表は取り急ぎ,省略しています.

■3月末に公表された水害時の「避難」に関する報告書から
2020年3月31日に,2019年の洪水・土砂災害での課題を踏まえた様々な取組について,3つの報告書が公表されました.

●内閣府
令和元年台風第19号等を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)
http://www.bousai.go.jp/fusuigai/typhoonworking/index.html

●国土交通省
河川・気象情報の改善に関する検証報告書
https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo03_hh_001018.html

●気象庁
防災気象情報の伝え方の改善策と推進すべき取組について
~令和元年度に実施した「防災気象情報の伝え方に関する検討会」における検討結果~
http://www.jma.go.jp/jma/press/2003/31a/20200331_tsutaekata_report2.html

これら3点の報告は相互に連動しており,私はいずれにも委員または助言者として参加させていただきました.無論,以下の文章はこれらの検討会等とは無関係で,私の個人的な考えです.

一連の報告書で述べられていることは,基本的にはこれまでの取組の強化や,制度周知の徹底が中心と言っていいでしょう.情報の伝え方や強調の仕方の工夫はありますが,「新たな情報の新設」などはありません.これは良いことだと思います.ここ十数年,目立った洪水・土砂災害が起こる都度,その「教訓」を「生かし」,「『わかりやすい』情報や制度」が新設される,といったことが繰り返されてきました.その結果,「『わかりやすい』情報」が多く,複雑になり,その整理が必要ではないかという声も上がるようになりました.

昨年2019年3月29日に公表された内閣府「避難勧告等に関するガイドライン(平成30年度)」は,「警戒レベル」という5段階の数字による表に様々な情報を当てはめることにより,複雑化した情報の整理の第一歩としたものと,筆者はとらえています.今回の一連の検討では,このガイドラインは改定されませんでした.これも私は良かったと思っています.毎年のように改定されるガイドラインは,「改善」ではありましょうが,それを普及させる自治体の現場,受け止める私たちの社会のことを考えれば,あまり良いこととは言えないと私は思っています.

今回の3点の報告書で,注目されるポイントはいくつかあるのですが,昨今の状況に関わりそうな一点に絞って話を続けます.それは,洪水・土砂災害時の避難については,

「避難イコール避難所Go! だけ,ではない」

ということだと思います.これは,今回の報告書で新たに出てきた話ではなく,近年のガイドライン等でもたびたび強調されているところで,今回更に強く呼びかける方向が示されたものと理解しています.

このようなことを言うと,「行政は避難せよと言っているではないか,避難所へ行くなというのか」「一刻も早く避難することが東日本大震災の教訓ではないか」,といった不信感を持たれるかもしれません.私が言っているのは「避難するな」という話ではありません.「避難とは,どのような場合にも,一定の避難場所に移動することが有効なわけではありません」という話です.「わかりにくい」かもしれません.しかし,自然災害は自然現象に起因するものです.自然は複雑で「わかりにくい」ものです.「自然」と向き合うためには話を単純化せず,私たちも少し汗をかかなければならないと,私は思います.

■そもそも「避難」とはなんだろう
内閣府「避難勧告等に関するガイドライン 避難行動・情報伝達編(平成31年3月)」には,

「避難行動」は、数分から数時間後に起こるかもしれない自然災害から「命を守るための行動」である。

との記述があります.その上で,

避難勧告等の対象とする避難行動については、命を守るためにとる、次の全ての行動を避難行動としている。<中略>
 ① 指定緊急避難場所への立退き避難
 ② 「近隣の安全な場所」(近隣のより安全な場所・建物等)への立退き避難
 ③ 「屋内安全確保」(その時点に居る建物内において、より安全な部屋等への移動)

と書かれています.このうちの①が一般にイメージされる「避難」でしょうか.しかし,それだけが「避難」ではなく,場所や状況によっては②や③も「避難」であり,けっしてこれらが「間違った行動」ではないことが書かれています.

■津波と水害では「避難」のあり方が異なる
そもそも,避難のあり方は,原因となる自然現象によって異なります.津波災害の避難であれば,「海岸付近で強い揺れを感じたら,少しでも早く高い場所へ移動すること」が「避難」である,と理解してほぼ間違いではないと言っていいでしょう.しかし,洪水・土砂災害は津波との相違点,共通点があります.

  1. 危険が予測される段階から危険な状況の発生までに時間的余裕があることが多い.ただし,その幅は数日~数時間,場合によるとほぼ無いこともあるなど,ばらつきも大きい
  2. 海岸付近に限定されず,全国どこでも発生するが,地形的に起こりやすい場所,起こりにくい場所がある
  3. 建物内にとどまることにより命の危険を免れうることがかなり期待されるが,建物内では助からないこともしばしばある
  4. 屋外で行動中に洪水,土砂災害に見舞われると,命の危険につながる可能性がかなり高い

私の最近約20年間の洪水・土砂災害犠牲者1259人を対象とした調査では,犠牲者の発生場所は「屋外」が47%,「屋内」51%と屋内外はほぼ半々です.土砂災害については82%が「屋内」ですが,洪水など水関連犠牲者では「屋外」が71%,強風や高波の犠牲者も「屋外」が79%に上ります.土砂災害については危険な場所にある建物から立退き避難することが有効ですが,不用意に屋外を行動すると,水などに襲われてしまうという危険性があるわけです.

家屋が倒壊・流失する状況では,屋内にいても犠牲者が出る可能性が高まります.土砂災害,特に土石流に見舞われると家屋全体が倒壊してしまうことも珍しくありません.一方洪水で家屋が流失するケースは,堤防が決壊した場所や,堤防のない河川の脇などに限定され,浸水だけで家屋が流失することはほとんどありません.浸水だけならば,建物の上層階に移動できれば命は助かることが期待できます.筆者の調査では,浸水による屋内犠牲者が目立った平成30年7月豪雨や,2019年台風19号でも,2階建て建物の2階で亡くなった犠牲者は明確には確認できていません.

つまり,洪水・土砂災害からの避難は,場所や状況により,「適切な行動」がかなり多様で,一律に「指定避難場所へ避難」とだけ覚えておくことが良いとは言えないと思います.

一方,洪水,土砂災害の犠牲者は,その多くが「起こりうる場所」で発生していることは,犠牲者を軽減する上で重要なポイントでしょう.先にも挙げた私の調査では,土砂災害犠牲者の87%が,土砂災害危険箇所等の付近で発生しています.水関連犠牲者が浸水想定区域付近で亡くなったケースは41%と多数派とは言えませんが,地形的に見ると,洪水の可能性がある「低地」で亡くなった犠牲者が92%でです.けっして「起こるはずもない場所で多くの犠牲者が生じている」訳ではありません.なお,この調査結果については内閣府報告書にも収録いただいています.

■内閣府報告書の「避難行動判定フロー」を読む
こうした洪水・土砂災害犠牲者発生状況に関する知見も元に,今回の内閣府報告書には,「避難行動判定フロー」及び「避難情報のポイント」という資料が収録されました(50~53ページ).まずは「避難行動判定フロー」を見ましょう.

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ここでは,ハザードマップを参照し,自宅がどのような危険性があるかを確認する際のポイントが上げられています.なお,大前提としてハザードマップは,家一軒ごとの危険性の有無を明確にしめせるような精度はないので,あまり細かくは見ないで欲しいところです.「自宅付近」の危険性を読むつもりで見たいところです.

ああ,そういうややこしい話はいい,はっきり,分かりやすく言え,と思われるかもしれません.すみません,繰り返しますが,自然はややこしいのです.情報にはばらつきや幅があります.時間,空間的に,かなり幅を持ってみる,という姿勢について,ご理解をお願いします.「避難行動判定フロー」もあまり単純な図にはなっていません.フローの分かれた先に,「ああでもない,こうでもない,こういう場合もある」みたいなことが書いてあります.

「避難行動判定フロー」ではまず

家がある場所に色が塗られていますか?

とあります.これをまず確認することが重要です.「いいえ」,つまり,色が塗られていない場所では,闇雲に「避難所Go!」をする必要性は低いといえます.そういったところにいるのであれば,むしろ屋外を行動して難に遭うことを避けるために,自宅にとどまることが重要でしょう.

ただし「いいえ」となっても,絶対に安全とは言いきれません.特に中小河川の付近では「地形的に洪水が起こりうるけど,情報整備が間に合っておらず,色が塗られていない」事がかなりあります.堤防がない小さな河川のすぐ脇,というような場合は,色が塗られていなくても洪水の影響を受けうる,と考えていただいても大きな間違いではないでしょう.

さて話を続けます.「避難行動判定フロー」で,

家がある場所に色が塗られていますか?→はい→災害の危険があるので、原則として、自宅の外に避難が必要です。→例外

という流れがあります.その先の枠内に

※浸水の危険があっても、

①洪水により家屋が倒壊又は崩落してしまうおそれの高い区域の外側である

②浸水する深さよりも高いところにいる

③浸水しても水がひくまで我慢できる、水・食糧などの備えが十分にある場合は自宅に留まり安全確保をすることも可能です。

※土砂災害の危険があっても、十分堅牢なマンション等の上層階に住んでいる場合は自宅に留まり安全確保をすることも可能です。
とあります.

ここです.つまり,「避難イコール避難所Go!」ではないですよ,それぞれの自宅の場所や建物の状況を確認し,自宅にとどまることも選択肢の一つですよ,という話です.土砂災害の場合は,「少しでも斜面から離れた部屋に」を追加しても良かったかもしれません.

「避難行動判定フロー」の裏面ではこのあたりについて更に強調する言葉が続いています.

・「避難」とは「難」を「避」けることです 安全な場所にいる人は、避難場所に行く必要はありません
・避難先は小中学校・公民館だけではありません 安全な親戚・知人宅に避難することも考えてみましょう

ここでは明記されていませんが,金銭的な負担もいとわないのであれば,危険性の低い場所にあるホテルや宿泊施設に宿泊するといった選択肢も十分ありうると思います.

■「避難所に集まる人を少しでも減らす」
さて,新型コロナウィルス感染症の流行状況下と,この避難の話にどんな関係があるか,なんとなくおわかりかと思います.新型コロナウィルス感染症の流行を抑制する方法として,密閉・密集・密接の「3つの密」を避けることが重要であるといわれています.災害時の避難所は,まさにこの「3つの密」の場ではないか,と心配する人もいるかと思います.この問題は非常に難しく,「こうすれば確実に安全だ」という対策はなかなか立てられないのではないかと思います.

そうなると,「避難所に集まる人を少しでも減らす」という考え方も,あくまでも方法論の一つとしては,考えられることではないかと思います.「避難行動判定フロー」に示された情報を参考に,避難の必要性が高くない人は自宅にとどまる,避難の必要性がある人も,なるべく避難場所を使わない避難の方法を考えておく,という形で難を避け,どうしても避難場所を使わねばならない人が避難場所を利用する,という方向です.これは,新型コロナウィルス感染症の流行状況下に限らず,避難場所の対応能力が必ずしも十分でない場合もあることを考えると,一般的な洪水・土砂災害時であっても的外れな方向ではないのではないか,と思っています.

無論これは,非常に微妙な話であり,逆に危険を惹起しかねない危うさもあります.「避難場所に集まらなくても良いのだ」という考え方「だけ」が強く印象づけられ,闇雲に「コロナも怖いし避難は止めよう」という考え方が広がってしまう,という危険性です.あくまでも「避難イコール避難所Go! だけ,ではない」です.「避難所に行かなくていい」と【だけ】言っているのではありません.避難場所に移動すること以外にも,いろいろな「避難」のあり方があり,それを平時から考えておくことが重要で,それは簡単とは言わないけど,不可能でもない,ということです.

はい,また「わかりにくい」話になりました.すみません,繰り返しになりますが,自然と向き合うのは「わかりにくい」ことの連続です.どこかに「これさえ理解すれば解決!」みたいな「コツ」はありません.「こうすればいい」という,すべての人に一律適用可能な「ノウハウ」もありません.私たち自身のおかれた条件があまりにも多様なため,私たちそれぞれが考えておくしかないのだと思います.

残念ながら,「避難イコール避難所Go! だけ,ではない」という考え方で準備を進めたとしても,新型コロナウィルス感染症の流行状況下での避難所についての課題がきれいに解決するわけではありません.最も効果的に機能したとしても,部分的な解決策の一つにすぎないでしょう.ただ,防災対策はそもそもそうした「一発解決にはならない細々した対策」の積み重ねでありましょう.また,この考え方は,新型コロナウィルスの危機が去ったあとでも有効な対策の一つになり得ると思います.

「避難」については,いろいろなお考えがあると思います.私がここで述べた考え方に反発を感じる方もいるかもしれません.私は「みんな必ずこうすべきだ」と述べるつもりは全くありません.あくまでも一つの考え方です.

なお,大変申し訳ありませんが,個々の場所について「どうしたらよいのか」というご質問に対応できる余裕がこちらにはありません.ご理解をいただきますようお願い申し上げます.

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2020年3月28日 (土)

時評=災害への備えは人それぞれ 個々に必要性考えて

3月26日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.

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時評=災害への備えは人それぞれ 個々に必要性考えて

 取材や講演の際などに,「防災のため住民が備えておくべきものは?」といった質問を受けることがある.筆者は「身近な備え」は専門でないので,「詳しくありませんが」と前置きした上で,「自分にとって必要なもの,使えなくなると困るものを用意しておけばよいのでは」などと答えるようにしている.

 このように答えると(おそらくは筆者の思い込みだろうが)「期待外れ」といった様子の反応を見るような気がする.更に想像を逞しくすると,「○○という防災グッズが有効です,□□災害の教訓では△△が役立ちました」のような「ノウハウ」を聞きたかったのかな,などという気もする.少し申し訳ない気分にもなるが,自分自身があまり重要だと思っていない話を,人にお勧めはできない.

 「自分にとって必要なもの」は,人により様々だと思う.「乳幼児がいる世帯では子ども用おむつの必要性が高いが他の世帯では必要ない」などはわかりやすいだろうが,そう単純な話ばかりではない.備蓄食のように誰もが必要としそうなものでも,実際に自分が食べたいもの,食べられるもの,など具体的に考えていけば,誰もが同じものを備えれば良い,とはならないだろう.あるいは,災害用備蓄食(災害用のグッズ全般かもしれないが)は,量や質の割に高額なこともよくあるが,高額品を揃えるか,なにか他の方法を講じるか,このあたりも人によって考え方が分かれるところだろう.

 「必要なもの」も,それをどう保管するかという問題もある.これは人それぞれの住まいの様子によっても話が大きく変わるだろう.保管に便利だからと地下室に備蓄していたら,急な浸水で備蓄品が真っ先に使えなくなった,などということもあるかもしれない.備蓄を考える以前に,その地域で起こる災害について知っておくことも必要だ.

 災害への備え方は,どのような人が,どこで,どのように暮らしているか,まさに人それぞれだろう.「正解」が何かはそもそも難しく,仮に「正解」があったとしても,それを実際に実施し続けることができるかという問題もある.目新しい「ノウハウ」を求めるのではなく,自分自身のこととして,具体的に考えてみることが重要だろう.

 

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2020年1月31日 (金)

時評=住まい選びの条件 「防災最優先」は困難

1月29日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.「防災最優先で暮らせますか?」と書かずに,「防災最優先で私は暮らせません」と書いて自己保身を図っております.

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時評=住まい選びの条件 「防災最優先」は困難

 今年も年度末が近づいてきた.新たな年度からは新しい土地で暮す予定の方もおられよう.賃貸,持ち家,いずれにせよ新たな住まいを選ぶとき,どのような条件を考えるだろうか.まずはどの程度のスペースが必要か考えねばならない.予算がどれくらい,も重要だ.勤め人なら勤務先へのアクセスは重要なポイントになる.生活面からは,商業施設など日常的に利用する施設へのアクセスも考慮する必要があろう.子供のいる世帯なら,学校へのアクセス,あるいはその学校の評判なども気になろう.


 災害に対する安全性を考える人もいるかもしれない.地震は専門でないので詳しく分からないが,地形等から「地震に対して安全性の高い場所」を判断することはなかなか難しそうだ.ただ,建築基準が大きく変わった1981年以前とそれ以降の建物では,地震の際の被害の程度が変化していることは知られており,築年数は判断材料となりそうだ.洪水・土砂災害については本欄でも繰り返し触れているように,「起こりうるところで,起こりうることが発生する」が基本である.ハザードマップ等で危険箇所となっている場所や,河川の近くなどを避けるといった判断もあり得る.「避難の仕方を確認」より,「そもそも避難しなくても良いような場所を選んで住む」事も重要だと思う.


 しかし,これら条件を満たす物件を探すことは極めて困難だろう.不動産関係のサイトで希望条件を増やすと,数千件の候補がたちまち数件程度に絞られる,といった経験のある方もいよう.災害の危険性がある居住地も少なくない.たとえば山梨大学の秦康範先生の解析によると,洪水の浸水想定区域(大河川周辺を中心に指定)の居住者だけでも2015年時点の全人口の28%に上るという.防災の諸条件を考慮となると,候補物件数は更に限定的となろう.


 筆者はこれまで何度となく転居を経験したが「防災最優先」で住まいを選べたことなどない.住まい選びに限った話ではないが,日常生活のあり方を「防災最優先」で構築することは少なくとも筆者には困難だ.我々一人一人が,考えられる危険性を知った上で,何を優先するかを考え,危険性も受け入れつつ暮らしていく事が重要ではなかろうか.

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2019年12月30日 (月)

2019年台風19号等による人的被害についての調査(速報 2019年12月30日版)を公開します

当方ではこれまで,風水害犠牲者の発生状況についての調査を継続的に行っています.今回の台風19号についても同様な調査を実施中で,すでに11月12日現在の速報を当ブログで公開しています.

http://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-ca0bcc.html

その後の調査結果を反映するとともに,加筆を行った資料を公開します.

2019台風19号等による人的被害についての調査(速報 2019年12月30日版)

主な加筆事項は下記です.

  • 10月25日の千葉県などでの大雨による犠牲者13人を集計対象に追加(このため表題を「台風19号等」に変更)
  • 「洪水」で「屋内」犠牲者の内訳(建物階数,浸水深など)を追加
  • 避難行動ありの犠牲者の内訳を追加
  • 犠牲者発生場所(屋内)と都市地域の関係を追加

更に下記の集計結果を追記した資料を公開します(2020/01/10,01/11訂正と追記)

2019年台風19号等による人的被害についての調査(速報 2020年1月11日版)

主な加筆事項は下記です.

  • 5年ごとの年代別犠牲者数
  • 外力別犠牲者の年代構成
  • 遭難場所別犠牲者の年代構成
  • 屋内犠牲者の外力別年代構成(2020/1/11追記)
  • 屋内犠牲者に限定した土砂災害危険か所と浸水想定区域との関係(2020/01/11一部訂正)

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白河市表郷.通行中の車が洪水流に流され,1人が死亡したと推定される現場付近.2019年12月21日撮影.

 

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2019年12月 6日 (金)

時評=直近の災害事例に強い関心 広い視点から議論を

11月14日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.目先で起こった災害事例のことばかりに注目し,振り回された議論をするのはいかがなものか,という,みなさまのお気持ちに沿わない内容です.

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時評=直近の災害事例に強い関心 広い視点から議論を

 10月12~13日に日本列島を通過した台風19号は,本県をはじめ全国で死者・行方不明者87人(11月3日消防庁資料)などの大きな被害をもたらし,今なお各地で発災後の厳しい対応が続いている.

 この台風では特に洪水の被害が目立った.筆者の調査では,洪水で流されたり河川付近を通行中に転落するなど,水関連の犠牲者は63人で,犠牲者中の7割を占める.筆者の1999~2018年の風水害犠牲者1259人の調査では水関係犠牲者は42%なので,本事例の水関係犠牲者はかなり多かったと言える.また,床上・床下浸水家屋の合計は6万8千棟に上る.床上浸水などの指標の意味は時代ととも変化し単純な比較はできないが,この台風による浸水関係の家屋被害は最近20年間で最大規模となる可能性が高い.

 筆者は10月末に静岡県,神奈川県などに居住する人を対象に調査を行ったが,台風上陸前日に「自宅が暴風による被害を受けるかもしれない」とイメージした人は静岡で6割,神奈川で7割に,「自宅が数日以上にわたって停電するかもしれない」とイメージした人は静岡,神奈川とも6割弱に上った.一方,洪水可能性がある付近に居住と推定される回答者でも「自宅が洪水による被害を受けるかもしれない」とイメージしたのは静岡で3割,神奈川で4割ほどだった.暴風を心配した人に対し,洪水を心配した人は比較的少なかった印象がある.この理由は明確には分からないが,9月上旬に房総半島などを襲った台風15号の暴風による家屋損壊や,長期停電が印象に残っていたのかもしれない.

 災害に対する関心は時間とともに急速に低下する事はよくいわれ,たとえば京都大学の矢守らの研究ではその低下速度は5年で10分の1,10年で100分の1といった見方もある.これは,直近の災害事例に対しては強く関心が持たれるが,少し前の災害に関しては薄れていく可能性も示唆している.

 自然災害は様々な様相を見せる.大きな災害が起こった直後は,その直近の災害に目を向けた議論が活発になりやすいが,直近の災害に見られた「課題」は,災害に関わる「課題」のあくまでも一つに過ぎない.目先のことばかりにとらわれず,広い視点からの議論が重要だと考えている.

 

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2019年11月13日 (水)

2019台風19号による人的被害についての調査(速報 2019年11月12日版)を公開します

※この資料の加筆版を公開しました.(2019/12/30)

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当方ではこれまで,風水害犠牲者の発生状況についての調査を継続的に行っています.

http://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2019/10/post-b96593.html

今回の台風19号についても同様な調査を実施中です.調査自体はまだ進行中ですが,災害発生から1ヶ月となりますので,現時点までの調査結果を簡単にとりまとめたので公表します.

主な要点は以下の通りです.

  • 人的被害の概要
    • 犠牲者数は近年の事例では2011年台風12号,2004年台風23号と同程度
    • 家屋被害は1999年以降で最大規模だが,家屋被害(社会に加わった外力の規模)に対し人的被害が少なかった可能性も
  • 犠牲者発生の原因外力
    • 「洪水」「河川」の比率が,近年の風水害としてはかなり高い
  • 犠牲者発生場所
    • 近年の風水害に比べ「屋外」犠牲者の比率がやや高い
    • 「屋外」犠牲者中では「車内」での犠牲者の比率がかなり高い
    • だからといって「車は危険だから避難は徒歩で」ではない.人も車も簡単に流されてしまうから,風雨が激しいときの屋外行動をなるべく避けることが重要
  • 避難行動
    • 「避難行動あり」犠牲者率は近年の他の風水害と同程度
  • 災害危険箇所と犠牲者発生場所
    • 「土砂」犠牲者数は相対的に少なく,傾向についてはなんとも言えない
    • 「洪水」「河川」犠牲者の5割強が浸水想定区域内.近年の風水害よりはむしろ範囲内が多い
    • 「洪水」「河川」犠牲者のほぼ全員が地形的に洪水の可能性がある「低地」で発生.近年の他の風水害と同傾向
  • 地形分類図の活用を
    • 浸水想定区域の整備には時間がかかる.すでにある地形分類図が,「洪水」「河川」犠牲者発生位置をほぼ的中させている.情報としての課題は多いが,積極的活用(関連情報整備,読み解ける人材の育成等)を図れないか

2019台風19号による人的被害についての調査(速報 2019年11月12日版)

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2019年11月12日 (火)

11月5日栃木県内現地踏査雑感

11月5日,栃木県内現地踏査.こちらは鹿沼市草久で,県道の陥没部分に車が転落し,1人が犠牲となった現場.道路付近は浸水したようには見られない.河川沿いの道路だが,河川の護岸が損壊しているわけではない.よくある形態ではなく,ちょっと私にはメカニズムが分からない.

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鹿沼市奈佐原町.この付近の河川内の車の中で1人の犠牲者が確認されている.位置はよく分からないが,上流側のどこかで川に転落したのかと思われる.自宅から会社の様子を見に行ったらしいとの報道もあり,これは時々見られる被害形態.

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栃木市薗部町.遭難場所は分からないが,この付近では,避難途中(徒歩とみられる)に洪水に流された1人が水路内で発見され死亡が確認された.付近の永野川には破堤も見られ,ところにより1m前後の浸水がみられた.破堤箇所付近でも流失家屋は確認できない.

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栃木県足利市寺岡町.避難途中の車が流され,1人の犠牲者が生じた地点付近.旗川と出流川の間に位置するが,両川が上流の各所で越流し,平地部分の広い範囲を水が流れていた状況と思われる.出流川に向かってやや低くなっており,浸水深が深くなったものかもしれない.
付近では一部で家屋への浸水が見られるが,流失したと思われる家屋は見られなかった.避難途中の遭難であったというのも痛ましいところ.

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この付近は浸水想定区域(想定最大)はギリギリ範囲内くらい,計画規模では範囲外.[重ねるハザードマップ]

地形的には扇状地で,旧河道とも読めるようだ.洪水の影響を受けうるところ.[重ねるハザードマップ]

 

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2019年11月 3日 (日)

11月1日宮城・福島県内現地踏査

11月1日,宮城県,福島県の台風19号被災地を現地調査.宮城県丸森町千刈場.阿武隈川,支流・内川の合流部付近で,1人の人的被害が発生.付近の浸水深は道路面から1.4m前後.流失家屋は見られない.

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浸水想定区域(計画規模)であり,想定浸水深も概ね想定に近い規模だろうか.[重ねるハザードマップ]

付近は氾濫平野,自然堤防が混在する地域で,地形的にも洪水の影響は受けうる地域.[重ねるハザードマップ]

11月1日,宮城県丸森町竹谷.阿武隈川支流新川の近く.付近の2箇所で計2人の人的被害が発生.この写真付近の浸水深は道路面から2.0m前後.この地点の東側水田付近では3m以上のところも.流失家屋は見られない.

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この付近は,浸水想定区域(計画規模),浸水想定区域(想定最大)ともに範囲外となる.[重ねるハザードマップ]

しかし,地形で見ると氾濫平野で,洪水の影響は受けうる地域.「洪水に見舞われるはずもない場所」ではない.[重ねるハザードマップ]

この話についてはこちらも
http://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2019/10/post-da6534.html


11月1日,宮城県丸森町上林西.阿武隈川支流五福谷川がこの地点の西側で大きく流路を変えて流下し,県道を洪水流や土砂が覆った.通行中の車で1人の人的被害が発生.

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この付近は,浸水想定区域(計画規模),浸水想定区域(想定最大)ともに範囲外となる.しかし,地形で見ると旧河道及び氾濫平野で,洪水の影響は受けうる地域.現在の五福谷川は谷を抜けたところで北側に流下しているが,旧河道の位置に沿って東側に流下したと思われる.[重ねるハザードマップ]

五福谷川に沿ってやや上流側に移動したところ.山地河川洪水の様相が見られ,新たな流路や,自然堤防の形成が見られるか.

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ただし,この付近での流失家屋は意外に限定的と思われる.少なくとも下記の写真付近には流失した住家はないようで,写真南西側,川の上流側には数世帯程度流失家屋が見られる.[地理院地図]

11月1日,福島県いわき市平赤井諸荷.夏井川の近く.1人の人的被害が発生.付近の浸水深は道路面から2.2m前後.流失家屋は見られない.

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付近は,重ねるハザードマップでは浸水想定区域(計画規模)のいずれにもなっていない.土地分類基本調査では自然堤防で,地形的にも洪水の影響は受けうる地域.[重ねるハザードマップ]

福島県いわき市平平窪.夏井川の近く.付近ではそれぞれ別の場所で4人の人的被害が発生.付近の浸水深は道路面から2.5m前後.嵩上げしている家屋もみられ,そうした家屋での浸水深はやや浅い.流失家屋は見られない.

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付近は,重ねるハザードマップでは浸水想定区域(計画規模)のいずれにもなっていない.土地分類基本調査では自然堤防と谷底平野が混在する地域で,地形的にも洪水の影響は受けうる地域.[重ねるハザードマップ]

 

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10月31日福島県内現地踏査雑感

10月31日,福島県内の台風19号被災地を現地調査.福島県須賀川市館取町.阿武隈川支流釈迦堂川の近くで,少なくとも2人の人的被害が発生.付近の浸水深は道路面から3.0m前後で,1階天井に達する程度.流失した家屋は見られない.

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付近は氾濫平野,自然堤防,旧河道が混在する地域で,地形的にも洪水の影響は受けうる地域.[地理院地図]

浸水想定区域(計画規模)であり,想定浸水深も概ね想定に近い規模だろうか.[重ねるハザードマップ]

福島県郡山市大町二丁目.阿武隈川支流逢瀬川近くで,少なくとも1人の人的被害が発生.こちらも浸水深は3m前後で,1階天井に達する程度.流失した家屋は見られない.

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付近の浸水したとみられる範囲は氾濫平野で,地形的にも洪水の影響は受けうる地域.[地理院地図]

浸水想定区域(計画規模)であり,浸水深は計画規模の想定浸水深よりは深く,想定最大と比べると想定の範囲内というところだろうか.[重ねるハザードマップ]

福島県本宮市本宮字南町裡.阿武隈川および支流安達太良川近くで,この地区では少なくとも3人の人的被害が発生.浸水深は3m弱.やや嵩上げした家屋も見られるが,1階床上から天井に近い程度の浸水.流失した家屋は見られない.

Pa317208

付近の浸水したとみられる範囲は自然堤防,氾濫平野,旧河道が混在し,地形的にも洪水の影響は受けうる地域.[地理院地図]

浸水想定区域(計画規模)であり,想定浸水深も概ね想定に近い規模だろうか.[重ねるハザードマップ]

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2019年10月31日 (木)

2019年台風19号災害時の災害情報に関するアンケート【2019/10/29速報版】

当方では,台風19号による影響を受けた,神奈川県,長野県,静岡県の一部を対象に,台風接近前後の対応や,防災情報に対する認識などについての調査を実施しました.主な結果は以下のようになります.

  • 警戒レベルの数値と,避難勧告等の言葉の関係を適切に認知は3~4割
  • 「災害発生情報」という言葉は,レベル1や2と認識の回答が4割で,危険性の高い情報と受け止められていない可能性
  • 「狩野川台風に匹敵」という情報は8割前後の回答者が聞いていた.狩野川付近で大きな被害というイメージにある程度つながった可能性
  • 居住市町村での被害は神奈川,静岡では6割程度がイメージ.長野では3割程度
  • 自宅の停電,暴風の被害は比較的多くの回答者がイメージ,洪水をイメージした回答者は少
  • 実際には特別警報が発表されていない地域でも6割前後が発表と認識
  • 台風上陸当日の外出予定を何らかの形で取り止め・変更した回答者は,神奈川,静岡では8割以上が実施だが,長野では6割程度

調査結果概要スライド - 20191031report.pdf

20191029_v2

 

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