2019年6月 3日 (月)

「大雨警戒レベル」に関する補足的なメモ

●「警戒レベル4 全員避難」の頻度が増えるとは思えない

警戒レベルが導入されて「警戒レベル4 避難」の頻度が多くなる,という受け止め方をかなり良く耳にするのだけど,なぜそのように思うのかが分からない.

ガイドラインで例示される避難勧告などの発令基準は今回全く変わっていないから,避難勧告等の頻度が増えることは,少なくとも仕組みとしては考えられない.

あるいは,「避難勧告をためらうな」はもう数年前から言われていることで,今回から強調されるようになった訳ではなく,そうしたかけ声が今回から強化されて避難勧告等の頻度が増える,とも思えない.

ただ,気象庁が積極的に「土砂警出しました!,警戒レベル4相当ですよ!,避難を!」と言うらしいので,「警戒レベル4で避難だと呼びかけられた感」の頻度が上がる可能性はあるかもしれない.ただし,大雨警報や土砂警の頻度は下がる傾向らしいから一概には言えないとも思われる.


●「警戒レベルは誰が発令するのか」についての補足

避難情報などはどこから出るのか,という点を,避難勧告等ガイドラインの図に加筆してみました.

元図で,左右が青と緑に分かれているところも含意があって,河川や気象情報はあくまでも「住民が自ら行動をとる際の判断に参考となる情報」.警戒レベルそのものであって「住民に行動を促す情報」は,市町村から出る避難勧告等となる.

「いろいろな所から出て,その意味も順序も分からない」という「声」に答えてこの表が作られた,ということなんだと思う.

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●「災害発生情報」はどうなるんだろう

私が見る範囲で割に言及が少なくて不安を感じるのが,「警戒レベル5 災害発生情報」.これ,ガイドライン上では,はん濫発生情報が出たときに市町村が発令できることが明記されているだけで,他にはほとんど具体的なことは決まっていない.

たとえば,道路に土砂が出て物理的な通行止めが発生したら,十分「災害発生」になり得て,それを持って当該地域は「警戒レベル5 災害発生情報発表」になりうる.ただし,どのような状況で「発生」の線引きができるかは,はっきり言って誰にも分からない.

一方で,なんとなく「警戒レベル5」であるように感じそうな大雨特別警報は警戒レベル5そのものではない.特別警報が出たから警戒レベル5発令します,はダメ.ガイドラインでは,「大雨特別警報は、洪水や土砂災害の発生情報ではないものの、災害が既に発生している蓋然性が極めて高い情報として、警戒レベル5相当情報[洪水]や警戒レベル5相当情報[土砂災害]として運用する。ただし、市町村長は警戒レベル5の災害発生情報の発令基準としては用いない」と固く禁じられている.

警戒レベル5は,あくまでも市町村が出す(ことができる)「災害発生情報」だけ.大雨特別警報は警戒レベル5に相当する情報で,警戒レベル5ではない.

また,「災害発生情報」は必ず発表しなければならない情報ということではないこともなかなか分かってもらえないかもしれないと懸念している.「災害が発生したのに警戒レベル5にしなかった,警戒レベル5にしていれば避難して助かったのに」という批判は,ガイドラインの趣旨に照らして的外れ.

しかし,「大雨特別警報は警戒レベル5に相当する情報であって,警戒レベル5では断じてない」なんていう概念は,圧倒的な「誤解」の前に消し飛んでしまうんじゃないのかしら,とも思う.

しかしそうなると,市町村単位で警戒レベルが上下してしまうけど,「警戒レベルは市町村単位」というのも根強い誤解としてみられるので,この点も誤解に現実がついていくことになるのかも,とかも思う.

 

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2019年5月27日 (月)

時評=警戒レベル4で「避難」-能動的な行動を促す

5月22日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.今出水期から始まる風水害の「警戒レベル」についての簡単な紹介文です.

なお,風水害「警戒レベル」については,下記動画でも私見を述べています.
https://youtu.be/MP0cf8iNdag

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時評=警戒レベル4で「避難」-能動的な行動を促す

 市町村が出す「避難勧告」等については,内閣府の「避難勧告等に関するガイドライン」に整理されている.2005年の策定後たびたび改訂され,今年3月29日にも改訂版が公表された.

 今改訂では,避難の情報が「警戒レベル」という数値で整理されたことが特徴だ.「警戒レベル1~5」の5段階があり,数字が大きいほど危険性が高い.「警戒レベル」という新たな情報が発表されるようになったのではなく,既存の避難勧告などの情報が警戒レベル1~5のどれに位置するか整理されたと考えてよい.

 警戒レベル1は気象庁が発表する「早期注意情報(警報級の可能性)」,警戒レベル2は同じく「注意報」.通常の居住地域にいる人に行動の必要はなく,避難のための確認などの段階だ.警戒レベル3は市町村が出す「避難準備・高齢者等避難開始」.高齢者など避難に時間がかかる人や,危険性の高い地域の人はそろそろ避難を開始する段階.

 警戒レベル4は市町村が出す「避難勧告」および「避難指示(緊急)」だ.勧告と指示が一つのレベルであることが注目される.「勧告が出たが指示がまだなので大丈夫だと思った」などの声を聞くことがあるが,大変な誤解である.勧告の段階で相当危険性は高い.勧告,指示にこだわらず「警戒レベル4で避難」と理解してよい.

 警戒レベル5は,洪水や土砂災害などの発生が確認されてしまった段階.災害の発生は即時の確認が困難なことも多いので,警戒レベル5は「可能な範囲で発令」となっている.警戒レベル5を待ったり,出なかったことを批判するなどは見当外れと言っていい.

 警戒レベルとして整理された避難勧告などは市内全域で一斉に出るわけではない.危険性の高まった地区単位で出される.洪水,土砂災害の危険性がある地区はハザードマップなどで公表されており,日頃から自分の生活圏の災害の危険性を理解しておくことが極めて重要だ.また「避難=避難場所へ行くこと」ではなく,差し迫った危険から命を守る行動全般が避難行動であることも留意したい.

 ガイドラインは,様々な情報を活用した住民自身の能動的な行動の重要性を強く訴えている.被害の軽減は,我々自身の取り組みにかかっている.

 

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2019年3月18日 (月)

時評=命つないだ気仙中-津波想定 地道な訓練

3月14日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.東日本大震災時の岩手県陸前高田市立気仙中学校の生徒らの避難等に関する内容です.
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時評=命つないだ気仙中-津波想定 地道な訓練
 
 東日本大震災時,岩手県沿岸部のある中学校.校舎は標高約2メートル,河川の堤防脇で河口からは300~400m程度と,ほぼ海岸付近.地震発生直後,生徒らは日頃の訓練やこれまでの地震時と同様に,標高約10メートルの広場へ避難したが,川の水位が下がったのを見てさらに高所を目指し裏山へ避難,林内で場所を変えつつ,近くの公民館に移動し二晩を過ごし,3日目に被害を受けなかった小学校に入った.中学生たちが通っていた3階建て校舎は屋上まで津波に覆われ,学区内では全世帯の79%が全壊,260人が死亡または行方不明となったが,在籍の生徒・教職員約百人は,欠席者も含め全員が無事だった.
 
 「今頃何を言っているんだ,先進的な防災教育が実践されて子どもが助かった有名な話じゃないか」と思われるかもしれない.おそらく多くの人が記憶しているのは,岩手県釜石市鵜住居地区の釜石東中学校の話かと思われる.上記の話はそれではない.岩手県陸前高田市気仙町(けせんちょう)の気仙(けせん)中学校(2018年3月閉校)でのことである.
 
 気仙中の話を見聞きした方は少ないだろう.たとえば朝日,毎日,読売を検索すると,この話を報じる記事は8年間に6件,そのうち全国面記事は2件のみ,静岡新聞では残念ながら確認できなかった.
 
 文科省「東日本大震災における学校等の対応等に関する調査」によれば,ハザードマップなどで津波の浸水が予想されていた場所または実際に津波が到達した場所にあった学校は149校,うち津波による死亡・行方不明の児童生徒がいた学校は20%で,犠牲者の多くは下校中に津波に見舞われたものと記されている.痛ましい被害が生じたことは間違いないが,一方で少なからぬ児童生徒の命が助かった事も忘れてはならないだろう.
 
 気仙中の当時の校長は,津波を想定した避難訓練や津波体験者の防災講話を毎年実施していたこと,生徒達が津波の恐ろしさと避難の大切さを聞かされ続けて育っていたこと,これまでの津波警報等の際にも実際に避難してきたことなどを記している(岩手県教育委員会東日本大震災津波記録誌).気仙中のようなことは,三陸地方では例外的な話ではないと筆者は思う.地道で,息の長い積み重ねが重要ではなかろうか.
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 それぞれのお考えによって,おそらくこの文章を当方の意図とは異なる方向でとらえる方がきっといると想像される話題なので,いくつも注記しておきます.
 
 まず,私は,いわゆる「釜石の奇跡」(その後この言い方が推奨されていないことはよく知っていますがあえて「わかりやすく」するために使います)と呼ばれる事象について否定的な意見は持っていません.また,その立役者とされる当時群馬大,現東大の片田先生に対しても批判的な気持ちは全くありません.片田先生とは20年ほどの付き合いで,私にとって数少ない「価値観を共有し信頼できる災害研究者」であり,「盟友」(私がだいぶ年下ですが)だと思っています.
 
 いわゆる「釜石の奇跡」がよく知られる一方で,あたかも釜石だけで子どもが助かり,他の地域ではそうではなかったかのように思われているのではないか,と感じることがあり,今回の寄稿に至りました.
 
 また,釜石を含め,子どもが助かったケースが少なくないのだから,助けられなかったケースの方はミスである,といった言説に共感するものでもありません.
 
 気仙中学校の状況については,震災発生1カ月後くらいにはあらましのことは耳にしていましたが,これまであまり明示的に文章にしたことはありませんでした.というか,様々な気持ちから,ためらい続けてきました.8年たって,やっとためらいの程度が少し下がったようです.
 
 なお私自身は,震災前,震災後ともに気仙中学校と直接的なかかわりがあったわけではありませんので,同校内のことについては特に知識はありません.
 
 気仙中学校は震災後7年間,別の場所を仮校舎として継続し,2018年3月に閉校しました.一方,震災前に使われていた同校の校舎は,いわゆる震災遺構として保存されることが決まっており,現在も震災発生直後に近い姿を目にすることができます.この場所はいずれ「高田松原津波復興祈念公園」の一角となる見込みです.
 
 なお,私はいわゆる災害遺構の保存については,推進すべきとも,すべきでないとも,どちらとも思いません.多くの人が賛同できるなら残すのもよし,そうでないならば撤去するのもよしだと思います.「災害遺構は当然保存すべきだ,お前らは意識が低い,あとで後悔するぞ」みたいなことを言う「学識者」に対しては怒りを覚えます.
 
 遺構保存には,将来にわたって社会的な負担が生じると予想され,大変な面もあると思います.維持が困難となる局面もあるかもしれませんが,それはそれでやむを得ないかもしれないと思っています.そこにかかわる多くの人たちによって,考えていくしかないだろうと思っています.

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2019年3月 1日 (金)

時評=「想定外」に違和感-乱発せず情報生かせ

1月16日付け静岡新聞「時評」欄に下記記事を寄稿しました.「想定外」という言葉についてあらためて考えてみたものです.
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時評=「想定外」に違和感-乱発せず情報生かせ
 「想定外」という言葉を,東日本大震災頃以降よく聞くようになったように思うが,その言葉の使われ方に違和感を覚えることもある.静岡新聞で「想定外」が含まれる記事数を検索すると,2003~2010年は20~82件で平均45件に対し,2011年は274件と急増しその後も毎年100件以上がほとんどで,2011~2018年の平均は131件だった.記事中の出現頻度は確かに増している.
 
 デジタル大辞泉(小学館,年3回更新)によれば「想定外」は「事前に予想した範囲を越えていること」とあり,「想定」は「ある条件や状況を仮に設定すること」とある.なお「想定外」は新語のようで,広辞苑第六版(岩波書店,2008年刊)や明鏡国語辞典(大修館書店,2011年刊)では見出し語に含まれていない.
 
 防災の計画を策定する際,具体的な対応計画のための基礎資料として,何らかの条件を設定してどのような被害が起こりうるかを計算した「被害想定」を作成することがある.「被害想定」で設定した規模を越える現象が発生すれば,それは「想定外」と言っていいだろう.たとえば河川の堤防などの構造物は,大河川では100年に1回程度発生する規模の洪水を想定して設計される事が多い.この規模を越える洪水は「起こり得ない」訳ではなく,必ず起こる.しかしそれに対応する堤防等は広大な土地や巨大な費用が必要となるため,現実的に対応可能な規模の現象を想定して設計されているに過ぎない.
 
 こうした防災計画上の想定を越える現象を「想定外」と呼ぶことに違和感はないが,一方で「想定外」という語が濫発されているのではないかと感じることもある.たとえば,ハザードマップで危険性が示されていた地域で想定規模の現象が起こった際に,その想定を知らなかったからといって「想定外だ」というのは適切ではないように思う.
 
 「温暖化でなにが起こるか分からない」といった声を聞くこともあるが,何もかも皆目見当がつかないわけではなく,過去100年程度の間に起こっていない巨大な現象が近年頻発しているわけでもない.むしろ情報の整備や予測精度の向上で,一昔前より「想定しやすくなっている」面も少なくない.安易に「想定外」と言うことなく,様々な情報を生かしていきたい.

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2019年1月23日 (水)

「防災豆知識」に要注意

日本災害情報学会のNews Letter No.76(2019/1)に,次の寄稿をしました.「防災熱心な方」に対する嫌みです.

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柔軟な防災を
 
 防災に関する「豆知識」が世に溢れている.なんらかの「教訓」に基づく「豆知識」も多いが,机上の空想ではないか,と思うような「豆知識」もある.「豆知識」は頭に入りやすい(ように工夫されているというべきか).「防災を学んだぞ」という達成感にも寄与しそうだ.学んだ「豆知識」を人に教えたい,という善意の気持ちにもつながりやすそうだ.
 
 「豆知識」には要注意と私は思う.災害には様々な姿がある.特定事例の「教訓」に基づく「豆知識」でも,次に起こる事例の際には負の効果を生むこともあり得る.「わかりやすく」する過程で致命的な誤認が紛れ込むこともある.どこかで教わった「豆知識」を振り回し,「こうしなければならない」と教えたがる「教条的防災」には十分注意せねばならないと思う.
 
 防災は易しくない.幅広い知識,見識を培い,柔軟な視点で取り組むことが必要だと思っている.
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なお,News Letterのバックナンバーは,約1年遅れで公開されています.関心をお持ちの方は下記をご覧ください.
 

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2019年1月 7日 (月)

自然災害科学中部地区研究集会(2019/3/2)の発表者募集ご案内

下記の要領で研究集会を実施します.発表者の申込を受け付けておりますので,ご検討ください.
 
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名称:2018年度自然災害科学中部地区研究集会
主催:自然災害研究協議会中部地区部会・静岡大学防災総合センター
期日:2019年3月2日(土)
場所:静岡大学 静岡キャンパス 大学会館(静岡市駿河区大谷836)
 
申し込み方法等につきましては,下記のHPをご覧ください.
 
この研究集会は学会の地方大会のような場です.研究者,技術者,院生,卒論生などの発表を歓迎いたします.中部地区以外の方も発表してかまいませんので,ふるってご参加ください.

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2019年 新年のご挨拶

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謹んで新春のご挨拶を申し上げます.

 
災害と,社会に向き合うことに疲れを感じつつあります.ことに,「社会」と向き合うことには疲れ果てました.できる限りやるしかないと思っておりますが,どこまでもつものやら.
 
ご指導,ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます.
 
(写真:東武ワールドスクエア)

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2018年12月13日 (木)

時評=風水害は、いつ集中?-昼も夜も警戒が必要

11月1日付け静岡新聞「時評」欄に下記記事を寄稿しました.思い込みや,「自分の体験」に依拠して防災教えたがる人にもういい加減つかれてきました.

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時評=風水害は、いつ集中?-昼も夜も警戒が必要
  「夜の災害(風水害)が怖い」といった趣旨の話を聞くことがある.たとえば2014年8月22日付朝日新聞社説は「伊豆大島や広島のケースでは、雨が夜更けに強まったことが自治体の対応を鈍らせた」と指摘している.「伊豆大島」は2013年10月,「広島」は2014年8月の豪雨災害を指す.
 
 これが誤りということではない.内閣府の「避難勧告等に関するガイドライン」ではこうした災害の教訓も元に,「夜間・早朝に避難勧告を発令するような状況が想定される場合には、その前の夕刻時点において避難勧告を発令する」など,夜間の災害に注意喚起する記述が見受けられる.
 
 夜間は,寝ている間に急に天候が悪化し「寝込みを襲われる」ことや,就業時間外のため行政機関などの組織的対応に難しさがあること,何らかの対応行動をとるにも暗闇で見通しがきかないなど,災害対応を阻害する要因がいろいろと考えられる.しかし,だからといって夜の災害ばかりを警戒することも適切でない.
 
 筆者の1999~2017年の風水害犠牲者1011人を対象とした調査では,犠牲者発生時間帯は夜間(18~06時)48%,昼間(06~18時)47%,不明5%で,被害の実態としては「犠牲者は夜間に集中している」状況ではなさそうである.夜間の災害対応に難しさがあることは間違いない.しかし,対応が難しいのは夜だけで昼は大丈夫という訳ではない.夜には夜の,昼には昼の怖さがある.
 
 「昼の怖さ」はイメージしにくいが,「無理な行動をとりやすい」面があるのではなかろうか.多くの人が起きて行動している時間帯なので,少し無理をして移動,帰宅しようとして難に遭うケースが見受けられる.また,様々な形で「様子を見に」行って遭難するケースも昼間が目立つ.
 
 平成30年7月豪雨の犠牲者231人については,夜間72%,昼間24%と,夜間の犠牲者が多かった.しかし,少しこまかく見ると18~24時が40%,24~06時が32%であり,多くの人が起きていたと思われる時間帯の被害が多く,「寝込みを襲われる」ケースが多数を占めたわけではないことがわかる.
 
 自然災害には様々な姿がある.特定の事例にもとづく「教訓」ばかりに目を向けるのではなく,広い視野から考えることが重要だと筆者は考えている.

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2018年9月14日 (金)

平成30(2018)年7月豪雨による人的被害等についての調査(速報)(2018/09/10版)

 9月10日に行われた,防災学術連携体シンポジウム「西日本豪雨災害の緊急報告会」で発表した,下記資料を公開しました.これまでに速報会等で公表した資料を,最近の資料を加えて加筆修正したものです.

平成30(2018)年7月豪雨による人的被害等についての調査(速報)(2018/09/10版)
 
 当方の,平成30年7月豪雨に関する調査関係の資料は,下記ページに整理しています.
 
平成30(2018)年7月豪雨による災害に関するメモ
 
 上記ページに整理しているのはこのブログ内の記事です.このブログのタグ「2018年7月豪雨」で,一連の記事を参照できます.
 

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時評=西日本豪雨の避難情報ー早期勧告 生かされず

 9月5日付け静岡新聞「時評」欄に下記記事を寄稿しました.平成30年7月豪雨に関しての「(避難勧告が出ていたのに)避難指示への切り替えが遅い!」という批判に対する違和感を書いたものです.
 
これまでの「時評」記事
 
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時評=西日本豪雨の避難情報ー早期勧告 生かされず
 
 平成30年7月豪雨に関する様々な報道の中で「避難指示が遅かった」といった趣旨の論調が見られたことが気になった.たとえば7月15日付読売新聞は,主に洪水により死者52人(8月14日現在)が生じた岡山県倉敷市の市長記者会見を伝える記事中で「6日深夜から7日未明に出した避難指示の判断が遅かったとの声もあるが、『市として、その時にできる判断をしたと思っている』と述べた」と,やや批判的に報じている.
 
 避難に関する情報は「避難準備・高齢者等避難開始」→「避難勧告」→「避難指示(緊急)」の3段階が用意されている.避難準備は,避難に時間のかかる人や危険な場所にいる人の避難開始を,避難勧告は対象地域全員の速やかな避難を,避難指示は極めて危険な状況であることから直ちに避難を,それぞれ呼びかけるものだ.なお「避難」とは「避難所へ行く」事だけではなく,差し迫る危険から様々な手段で安全確保を図ることを意味する.
 
 避難準備は早期の行動開始を促すいわば予備的とも言える情報だが,避難勧告と避難指示は何らかの安全確保行動の実施を明確に呼びかけるかなり重い情報である.それゆえに,空振りを恐れるなどして避難勧告の発令をためらううちに被害が生じたケースが相次いだことなどをふまえてガイドラインの整備が進み,ここ1,2年は避難勧告が早期に出るようになった.
 
 倉敷市では同市真備地区全域に避難指示を出したのが,堤防からの越流・決壊が生じ始めた後の7月7日01時30分だったことが批判されているが,その数時間前の6日22時にすでに避難勧告は出されていた.
 
 倉敷市のケースは例外的ではなく,今回の豪雨では比較的早期に避難勧告が出されていたケースが他にも見られている.災害後に避難勧告が出ることもしばしばあった数年前と比べれば飛躍的な改善とも思える.この状況下で「避難指示が遅い」と批判するのは,避難勧告の軽視のようにも感じられる.
 
 気象情報や避難の情報は,その精度を高める,早期に出すなどの改善を図っても,情報の受け手である我々国民が活用しなければ効果を発揮しない.被害軽減のために,我々自身も最善を尽くすことの重要性がますます高まっているのではなかろうか.

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