2019年10月14日 (月)

降水量は単純な合計値よりも既往最大比が重要では

台風19号に伴う大雨で,気象庁のAMeDAS観測所の24時間降水量の既往最大値に対する比が150%以上に達している地点があることが,私の集計で分かった.

今回特に大雨が記録された東日本の12都県のAMeDAS観測所のうち,統計期間20年以上の観測所273箇所について集計したもので,比が大きかったのは栃木県の葛生164%,長野県の菅平158%,神奈川県の相模湖で148%など.概算値であり,今後修正となることがある.

単純な24時間降水量の分布を見ると,静岡県などの値が大きくなるが,既往最大比の分布は長野県東信・北信や,東京の西部,福島・宮城県境など,洪水などの被害が目立っている地域で値が大きくなっているように読み取れる.

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降水量は地域によって降りやすさが大きく異なり,普段から多くの雨が降っている地域と少ない地域では,同じ降水量でも災害へのつながりやすさが異なるため,単純な値の大きさでは危険性を読み取ることが難しい.過去の記録と比べてみることが重要.

普段からよく降るところでは,絶対値として大きな雨が降ってもそれほどひどいことにはならないけど,同じ量の雨が,ふだんあまり降らないところでは大きな被害をもたらすこともあるというのが定性的な傾向.これは,社会側の「防災力」によるというよりは(ハード対策の計画規模が違ってくるから無関係とまではいわないけど),自然の側がどれくらいの雨に耐えれるようになっているか,という問題.たとえば,雨の多い地域では,もともと河川の幅も広いというような話.だからこそ,大雨警報なんかの基準値(今はとても難しい指数になっちゃって簡単に説明できないけど)は,地域によってかなり異なっている.「100mm降ったら災害に注意」なんてのはどこでも言えることではない.

気象庁の「洪水警報の危険度分布」や「土砂災害警戒判定メッシュ情報」は,過去の降水量記録などから地域ごとの雨の降りやすさ(雨に対するその土地の弱さ)を考慮した段階表示になっており,単純な降水量より,防災重要な指標なのかもしれない.

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2019/10/13 台風19号災害静岡市・箱根町現地踏査

10月13日,静岡市内と箱根を現地踏査.高潮により陸上まで海水の遡上が見られた清水港付近。道路面からセンチ前後程度のところまで深水の痕跡が認められる。この付近では建物が流出したり損壊したりした様子は認められない。

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2017年の台風の際には高潮高波で漁港の施設にも被害が生じた由比漁港。漁港の建物にも外観上大きな被害は認められない。

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芦ノ湖の湖尻水門。平常時の様子を知らないので比較ができないけれども川底の植生などから考えると水が上がっていることはわかる。

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14時20分頃現在、芦ノ湖の水はまだ高い状態で、湖畔の一部は浸水している。痕跡などから、ピークよりは水は30センチ程度下がっていると思われる。

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当然元箱根付近も湖畔付近は浸水しています。一方でやっているお店もあります。とても静かな箱根が堪能できるかもしれません。

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今回の台風で最大の24時間降水量を記録し、さらにこの値はアメダス全地点全期間の24時間降水量として第2位となったアメダス箱根のある箱根町芦之湯付近。文句なしの記録的な大雨を記録した時点ではあるけれども、その場所で大規模な土砂災害が起こったり、洪水が生じたりするわけでは必ずしもないというのが,降水量という指標の難しいところ.

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これが今回の箱根の降水量と既往記録の比較.箱根の既往記録と比べると1-3時間降水量は既往最大と同程度で,4-48時間は既往を更新,72時間は既往最大以下.12時間はAMeDAS全地点全期間最大を超過し,24時間は同程度.量的にも記録的な大雨と言っていいでしょう.

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2019年10月12日 (土)

風水害ではどのように犠牲者が生じているのか(2019/10/12版)

私が専門的に調べている,洪水・土砂災害でどのように犠牲者が生じているか,というお話をします.1999-2018年の風水害による死者・行方不明者1259人分の集計結果です.

犠牲者を生じた原因外力で相対的に多いのは土砂災害で全体の5割弱,それに次ぐのが洪水(川からあふれた水で流された),河川(増水した川に近づいた)です.風や,海岸付近での波などによるケースは,合わせて1割程度です.「増水した川に近づいた」と聞くと,「田んぼの様子を見に行き,用水路に転落」というケースが思い浮かぶかもしれませんが,こうしたケースは全体の5-6%くらい.日常の中で車や徒歩で移動していて川に落ちたケースの方が多くなっています.

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土砂災害では,土石流による被害が特に激しい様相を見せます.この写真のように,3件あった住家が跡形もなくなってしまうようなことは,決して珍しいものではありません.

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土砂災害のうち,いわゆるがけ崩れでも犠牲者が生じます.この写真のように,崩れた土砂の量が少なくても,人的な被害につながることもよくあります.斜面と反対側の部屋にいるかどうかで運命が分かれるようなこともあるようです.

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平野部の比較的新しい家屋では,浸水だけで家が流されて犠牲者が生じるようなことはほとんどありません.流されるとすれば,堤防が決壊した周辺などに限定されます.ただ注意が必要なのは,決壊する場所は最後まで分からないことです.堤防沿いはどこでも可能性があるとも言えます.ところによっては「家屋倒壊危険ゾーン」といった範囲が示されていることもあり,一つの目安にはなります.

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堤防がないような,山間部の中小河川は洪水と無縁ではなく,むしろ破壊力は大きいとも言えます.この図のように,元あった河川が横方向に河岸を浸食し,河川沿いの家屋を流失させて犠牲者が生じることもあります.

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水の流れだけで家屋が流されてしまうことは稀ですが,車や人は簡単に流されてしまいます.これは8月末の佐賀の豪雨のケース.道路を通行中の車が右手の水田の方に流されて犠牲者が生じたようです.こうしたケースをよく見かけます.

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河川に近づいて亡くなるケースでは,河川沿いの道路の路肩が崩れ,それに気がつかず車が転落するケースをよく見かけます.橋は流されなかったが,取り付け部の盛土が流されてそこに転落というケースもありますし,小さな側溝で犠牲者が生じることもあります.

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犠牲者全体で見ると,遭難した場所は屋内と屋外がほぼ半々.風水害犠牲者の約半数は,何らかの形で屋外行動中に亡くなっている,とも言えます.屋外行動中といっても避難中というケースは少数で,多くは様々な移動などで屋外にいたところ遭難したケースです.

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何らかの避難行動をとったが亡くなった,という方は全犠牲者の1割弱です.

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原因外力別に見ると,土砂災害犠牲者は屋内で亡くなった人が8割ですが,洪水,河川の水関連を合わせると7割,風や波の関係では8割が屋外です.危険な場所にある家屋からどこかへ避難することも重要ですが,移動する距離はなるべく短くした方がいいのかもしれません.

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土砂災害による犠牲者は,9割弱がハザードマップ等に示された土砂災害危険箇所かその近傍(地図の誤差の範囲内程度)で亡くなっています.

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一方,洪水,河川といった水関係の犠牲者は,ハザードマップ等に示された浸水想定区域付近での犠牲者は4割程度です.中小河川などでは浸水想定区域の指定が進んでいない場合がある事などが背景として考えられます.行政は何やってるんだケシカランとかは全然思いません.

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ただし,地形的に見れば,水関係の犠牲者は,洪水の可能性がある低地(標高×m以下の低い土地という意味ではありません.地形分類上の低地です)で亡くなっている人がほとんどです.でも地形分類の情報は使うのがなかなか難しいです.

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特に,堤防などがない中小河川では,相対的に川と同じくらいの高さにある場所は,洪水の影響を受けうる,と理解しておくのも一つの考え方かもしれません.

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2019年9月30日 (月)

時評=災害教訓に学ぶ難しさ 多くの事例収集重要

9月18日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.「ある災害事例の教訓「だけ」に注目することは,かえって危険な対応をもたらすこともありうる」というお話.ぼうさいを教えたがる人が怒り出しそうな話だとは思っていますが.

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時評=災害教訓に学ぶ難しさ 多くの事例収集重要

 「過去の災害教訓に学べ」といった話をよく聞く.これは無論重要なことだ.しかし,ある災害事例の教訓「だけ」に注目することは,かえって危険な対応をもたらすこともありうる.

 1982年5月26日に発生した日本海中部地震では,主に津波により104人の犠牲者を生じたが,被害の多かった秋田県内で「地震が起きたら浜へ出ろ」という言い伝えがあり,実際に地震直後に海岸に向かって避難した人もいたことが話題となった.1939年に同県内で発生した地震の犠牲者(27人)の多くが建物倒壊や土砂災害で死亡したことからこのような言い伝えが生じたのでは,と考えられている.また,本来はこの言葉の後に「浜へ出たら山を見ろ,動かなかったら山へ登れ」が続いていた,とも言われている(1982年5月29日付秋田魁新報).

 こんな言い伝えを信じることは現在では考えられない,と感じるかもしれない.しかし,似たようなことは現代でも決して無縁ではない.たとえば平成30年7月豪雨で大規模な浸水被害を受けた岡山県倉敷市真備地区では,1976年の水害を経験した住民が「大雨が来ても、あの時くらいだろう」と考え,結果的に天井まで浸水した自宅から救助された話が報じられている(2018年7月20日付読売新聞).過去に災害を経験した事が,かえって次の災害時の適切な行動を阻害することは「経験の逆機能」とも呼ばれ,しばしば見られることが知られている.

 自然災害を構成する個々の要素,例えば「大雨が降ったら川があふれる」「深夜に大雨が降った」といったことは,過去から繰り返し生じているが,それらの組合せは無数にある.ある災害の「教訓」とは,こうした無数の組合せの一つに関わる「教訓」にすぎない.「様々な災害事例の教訓」に学ぶことが重要だろう.

 日本海中部地震の例では,「浜へ出ろ」の後に続いていた言葉が欠落したらしい,という点も注目される.災害の教訓や知識が,時を経ると簡略化されてしまう事がありうることを示唆している.災害に関する情報を「簡単に」「わかりやすく」とよく言われるが,言葉を「簡単に」することで,致命的に誤った情報を伝える可能性があることには,十分注意しなければならないだろう.

 

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2019年9月 4日 (水)

2019年8月28日九州北部の豪雨 9月2日現地踏査雑感

●牛津川の越流関係
佐賀県を流れる牛津川では氾濫発生情報が出され,国交省資料では佐賀県小城市,多久市の3カ所で越流とある.なお今回の大雨では,他河川でも破堤は生じていない.これら越流ら起因すると思われる浸水範囲が国土地理院の浸水推定段彩図で示されている.

浸水推定段彩図: http://maps.gsi.go.jp/#14/33.271424/130.143288/&base=std&ls=std%7C20190828_kyusyu_0828dansaizu%7Clcmfc2&blend=00&disp=110&lcd=lcmfc2&vs=c0j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f0&d=v

写真は佐賀県小城市小城町池上付近の牛津川の越流個所と思われる場所.国交省資料では「牛津川 12.2km 左岸」とある付近.堤内地側に草が倒れているが,堤体は侵食などの損壊は見られない.
位置:https://goo.gl/maps/kwbc9w5oJyTSf4Vn6

P9026554

小城市小城町池上の越流箇所近くには,低地に盛土した道があり,この道ののり面が一部損壊.治水地形分類図,地形図を見てもわかるように,この付近では低地には基本的に家屋は立地しておらず,家屋の流失損壊は見られず,深い浸水の被害も明瞭には見られなかった.
治水地形分類図: http://maps.gsi.go.jp/#15/33.272741/130.167977/&base=std&ls=std%7C20190828_kyusyu_0828dansaizu%7Clcmfc2&blend=00&disp=101&lcd=lcmfc2&vs=c0j0h0k0l0u0t0z0r0s1m0f0&vs2=f0&sync=1&base2=std&ls2=std&disp2=1

P9026559

このあたり,浸水想定区域で,計画規模でも2~5mとなっているから,想定外というような事態ではなさそう.
重ねるハザードマップ: https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=33.273875,130.163548&z=15&base=pale&ls=seamless%7Ctameike_raster%2C0.8%7Cflood_list%2C0.8%7Cflood_list_l2%2C0.8%7Cdisaster1&disp=01100&vs=c0j0l0u0

牛津川12.6km右岸の越流箇所(多久市東多久町大字別府付近)は,おそらくここ.こちらも洪水による家屋の流失などの被害は見られないが,低地に立地した家屋で浸水被害が見られた.なお,牛津川14.4km左岸の越流箇所は,よくわからなかった.
位置:https://goo.gl/maps/Ko4qQzJAxQFdaPgv5

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牛津川の越流氾濫で,国土地理院の浸水推定段彩図で最も深い3m程度の浸水が示されている小城市小城町池上の山崎排水機場付近.有刺鉄線の上から2本目あたりまで浸水痕跡が見られ,簡易計測では右の畑面を0とした場合の浸水深は約3.5m
浸水推定段彩図: http://maps.gsi.go.jp/#14/33.271424/130.143288/&base=std&ls=std%7C20190828_kyusyu_0828dansaizu%7Clcmfc2&blend=00&disp=110&lcd=lcmfc2&vs=c0j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f0&d=v

P9026511

ただしこの付近も低地に住家の立地は見られず,家屋の流失,倒壊などの被害も見られない.
治水地形分類図: http://maps.gsi.go.jp/#15/33.261352/130.178174/&base=std&ls=std%7C20190828_kyusyu_0828dansaizu%7Clcmfc2&blend=00&disp=101&lcd=lcmfc2&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s1m0f0&vs2=f0&sync=1&base2=std&ls2=std&disp2=1

P9026531

浸水想定区域も,計画規模でやはり想定浸水深2~5m.「想定外」とは言えないと思われる.
重ねるハザードマップ: https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=33.261352,130.177624&z=15&base=pale&ls=seamless%7Ctameike_raster%2C0.8%7Cflood_list%2C0.8%7Cflood_list_l2%2C0.8%7Cdisaster1&disp=01100&vs=c1j0l0u0

 

●佐賀県武雄市武雄町武雄
武雄市武雄町武雄の武雄川付近で,通行中の車が流され50代男性が亡くなったとみられる現場付近.付近は国土地理院の浸水推定段彩図では浸水が判読されていないが,写真右手のごみ集積所付近で約0.8m浸水とみられる.手前が上流側だが,道路面の勾配は1度未満.また,家屋の損壊は全く見られない.

P9026613

個人的に委縮があり,場所はピンポイントでは示さないが,大体このあたり.計画規模でも武雄川のすぐ近くは浸水想定区域となっており,大体想定通りの現象という感じがする.
重ねるハザードマップ: https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=33.184354,129.999923&z=16&base=pale&ls=seamless%7Ctameike_raster%2C0.8%7Cflood_list%2C0.8%7Cflood_list_l2%2C0.8%7Cdisaster1&disp=01100&vs=c0j0l0u0

こうした,洪水時に車や徒歩で屋外を移動中に死亡したケースは洪水犠牲者の半数程度,20年間で百数十人規模に上り,よく見られるもの.この現場の光景は,なんとなく平成27年9月関東・東北豪雨時の宮城県栗原市栗駒での同形態の被害現場(写真)に似ており,既視感の強い現場だった.

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●福岡県八女市立花町山崎
こちらは福岡県八女市立花町山崎で,通行中の車が流され70代男性が亡くなったとみられる現場付近.川(柳川用水路)にかかる橋の付近で浸水深は道路面から約0.8m.

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川沿いの道路を見ると上流側からわずかに下り勾配となり,少しずつ浸水深が深くなっていた模様.道路左手の住宅の敷地内はほとんど浸水はなかったとみられる.

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この付近でも家屋の流失や損壊などは見られず,床上浸水などの激しい浸水もほとんど見られないように思われた.局所的な浸水と思われるが,静かに浸水が生じているのではなく,河川のすぐわきで流れがあったと思われる.気が付きにくい浸水とも思われ,洪水時の屋外行動の難しさを改めて実感した.

こちらもピンポイントの場所は示さないが,大体このあたり.やはり浸水想定区域である.
重ねるハザードマップ:https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=33.202795,130.574023&z=16&base=pale&ls=seamless%7Ctameike_raster%2C0.8%7Cflood_list%2C0.8%7Cflood_list_l2%2C0.8%7Cdisaster1&disp=01100&vs=c0j0l0u0

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2019年7月31日 (水)

時評=大雨の際の避難行動 流れる水に近づくな

  7月18日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.以前からいろいろな所でしている話です.「いかにもな話で人に教えたくなる防災豆知識」ではなく,基本に立ち返りましょう,という,ぼうさい熱心な人のお気持ちを逆なでする内容です.なお,記事で省略した事項について補足しました.

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時評=大雨の際の避難行動 流れる水に近づくな

 防災パンフレットなどで,「洪水時に歩ける深さは××cm」という趣旨の話を目にすることがある.これは誤りとまでは言えないが,命に関わる誤解を誘発しかねない危険な「防災豆知識」だと感じている.

 「××cm」という数字を見ると,「××cmまでなら大丈夫だな」と思いそうだが,その判断は適切でない.洪水時に人が流されてしまう条件は,水深だけでは決まらず,水深と流速の組合せによる.水深が浅くても,流速が速ければ流されてしまう.さらにこれは,年齢,体格などにも左右される.これらのことは,水の力に関する基本的な法則からも説明可能であり,実験結果もある.(*1)

 車も安全とは言えない.少し古いが,JAFが1984年に行った実験(*2)では,60cm冠水した道路に進入すると,30~40mほど走行したところでエンストを起こし,車は浮き気味になったという.この実験は静止した水中だが,流れがあれば浮き始めた車は流される可能性がある.実際の災害現場でも,道路外に流されて転送・損壊している車をよく見かける.

 1999~2018年の風水害犠牲者1259人について筆者が調査した結果では,全体の47%,594人が屋外(車中も含む)で亡くなっており,洪水に流されたり川に転落した犠牲者に限定すると71%が屋外での死者である.雨が激しく降る中での屋外移動は非常に危険性が高いことが示唆される.

 大雨の際に行動する上で何よりも重要な知識は「流れる水には近づくな」だろう.水深がどの程度などという知識はどうでもよく,流れている水に立ち入ると命を落とすかもしれない,という単純な知識で十分だと思う.水は少しでも低いところに向かって流れる.流れる水から逃れる方法は,少しでも高いところへ移動することだ.少しでも高いところであれば,目指すべき場所は避難場所であろうとなかろうと,どこでも良い.

 さらに重要なことは,流れる水に近づく状況に陥らないことである.早めの対応が第一で,数階建て以上の堅牢な建物や浸水の危険性が低い場所にいるなら,外出を控えることも避難行動の一つである.無論,大雨の時は洪水だけでなく,土砂災害にも目配りが必要だ.洪水時には水に勇気を持って立ち向かう必要性などない.水からは逃れなければならない.
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*1) この種の実験としては色々あるのですが,最近私がよく引用するのは,関西大学の石垣先生のもので,NHK「そなえる防災」に記事があります.

https://www.nhk.or.jp/sonae/column/20131219.html

 この記事中の図1は非常に重要で,流されてしまうかどうかが水深と流速の組合せで大きく変わるということだけでなく,「成人男性」「女性高齢者」など,年齢などでもかなり違いがあることを示しており,特定の水深「だけ」を覚え込むことの危険性をよく示しています.ただ,「歩くことが困難となる50cm」という記述があるのがとても残念です.前後をよく読めば,50cmを目安にしててはならないことが分かるのですが,「防災知識」を「分かりやすく」伝えようとする場面では,こうした記述「だけ」が要約されてしまうことが懸念されるので,ほんとうに残念です.

*2) JAFは近年も類似の実験をしていて,下記に動画付きで公開されています.

http://www.jaf.or.jp/eco-safety/safety/usertest/submerge/detail1.htm

http://www.jaf.or.jp/eco-safety/safety/usertest/submerge/detail2.htm

 ただ,これらのページには,冠水道路に進入した後,「車は浮き気味になった」という明確な記述がないので(動画から多分そうだろうと推測はできますが),古い実験の話を引用しました.引用元は,高橋和雄・高橋裕「クルマ社会と水害」(九州大学出版会,1987年)です.上記の石垣先生の記事中にも,「車の模型を用いた実験では、水深が40cm、流速が1.5m以上になると流れ出す」という記述があります.

20190729

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2019年6月 3日 (月)

「大雨警戒レベル」に関する補足的なメモ

●「警戒レベル4 全員避難」の頻度が増えるとは思えない

警戒レベルが導入されて「警戒レベル4 避難」の頻度が多くなる,という受け止め方をかなり良く耳にするのだけど,なぜそのように思うのかが分からない.

ガイドラインで例示される避難勧告などの発令基準は今回全く変わっていないから,避難勧告等の頻度が増えることは,少なくとも仕組みとしては考えられない.

あるいは,「避難勧告をためらうな」はもう数年前から言われていることで,今回から強調されるようになった訳ではなく,そうしたかけ声が今回から強化されて避難勧告等の頻度が増える,とも思えない.

ただ,気象庁が積極的に「土砂警出しました!,警戒レベル4相当ですよ!,避難を!」と言うらしいので,「警戒レベル4で避難だと呼びかけられた感」の頻度が上がる可能性はあるかもしれない.ただし,大雨警報や土砂警の頻度は下がる傾向らしいから一概には言えないとも思われる.


●「警戒レベルは誰が発令するのか」についての補足

避難情報などはどこから出るのか,という点を,避難勧告等ガイドラインの図に加筆してみました.

元図で,左右が青と緑に分かれているところも含意があって,河川や気象情報はあくまでも「住民が自ら行動をとる際の判断に参考となる情報」.警戒レベルそのものであって「住民に行動を促す情報」は,市町村から出る避難勧告等となる.

「いろいろな所から出て,その意味も順序も分からない」という「声」に答えてこの表が作られた,ということなんだと思う.

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●「災害発生情報」はどうなるんだろう

私が見る範囲で割に言及が少なくて不安を感じるのが,「警戒レベル5 災害発生情報」.これ,ガイドライン上では,はん濫発生情報が出たときに市町村が発令できることが明記されているだけで,他にはほとんど具体的なことは決まっていない.

たとえば,道路に土砂が出て物理的な通行止めが発生したら,十分「災害発生」になり得て,それを持って当該地域は「警戒レベル5 災害発生情報発表」になりうる.ただし,どのような状況で「発生」の線引きができるかは,はっきり言って誰にも分からない.

一方で,なんとなく「警戒レベル5」であるように感じそうな大雨特別警報は警戒レベル5そのものではない.特別警報が出たから警戒レベル5発令します,はダメ.ガイドラインでは,「大雨特別警報は、洪水や土砂災害の発生情報ではないものの、災害が既に発生している蓋然性が極めて高い情報として、警戒レベル5相当情報[洪水]や警戒レベル5相当情報[土砂災害]として運用する。ただし、市町村長は警戒レベル5の災害発生情報の発令基準としては用いない」と固く禁じられている.

警戒レベル5は,あくまでも市町村が出す(ことができる)「災害発生情報」だけ.大雨特別警報は警戒レベル5に相当する情報で,警戒レベル5ではない.

また,「災害発生情報」は必ず発表しなければならない情報ということではないこともなかなか分かってもらえないかもしれないと懸念している.「災害が発生したのに警戒レベル5にしなかった,警戒レベル5にしていれば避難して助かったのに」という批判は,ガイドラインの趣旨に照らして的外れ.

しかし,「大雨特別警報は警戒レベル5に相当する情報であって,警戒レベル5では断じてない」なんていう概念は,圧倒的な「誤解」の前に消し飛んでしまうんじゃないのかしら,とも思う.

しかしそうなると,市町村単位で警戒レベルが上下してしまうけど,「警戒レベルは市町村単位」というのも根強い誤解としてみられるので,この点も誤解に現実がついていくことになるのかも,とかも思う.

 

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2019年5月27日 (月)

時評=警戒レベル4で「避難」-能動的な行動を促す

5月22日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.今出水期から始まる風水害の「警戒レベル」についての簡単な紹介文です.

なお,風水害「警戒レベル」については,下記動画でも私見を述べています.
https://youtu.be/MP0cf8iNdag

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時評=警戒レベル4で「避難」-能動的な行動を促す

 市町村が出す「避難勧告」等については,内閣府の「避難勧告等に関するガイドライン」に整理されている.2005年の策定後たびたび改訂され,今年3月29日にも改訂版が公表された.

 今改訂では,避難の情報が「警戒レベル」という数値で整理されたことが特徴だ.「警戒レベル1~5」の5段階があり,数字が大きいほど危険性が高い.「警戒レベル」という新たな情報が発表されるようになったのではなく,既存の避難勧告などの情報が警戒レベル1~5のどれに位置するか整理されたと考えてよい.

 警戒レベル1は気象庁が発表する「早期注意情報(警報級の可能性)」,警戒レベル2は同じく「注意報」.通常の居住地域にいる人に行動の必要はなく,避難のための確認などの段階だ.警戒レベル3は市町村が出す「避難準備・高齢者等避難開始」.高齢者など避難に時間がかかる人や,危険性の高い地域の人はそろそろ避難を開始する段階.

 警戒レベル4は市町村が出す「避難勧告」および「避難指示(緊急)」だ.勧告と指示が一つのレベルであることが注目される.「勧告が出たが指示がまだなので大丈夫だと思った」などの声を聞くことがあるが,大変な誤解である.勧告の段階で相当危険性は高い.勧告,指示にこだわらず「警戒レベル4で避難」と理解してよい.

 警戒レベル5は,洪水や土砂災害などの発生が確認されてしまった段階.災害の発生は即時の確認が困難なことも多いので,警戒レベル5は「可能な範囲で発令」となっている.警戒レベル5を待ったり,出なかったことを批判するなどは見当外れと言っていい.

 警戒レベルとして整理された避難勧告などは市内全域で一斉に出るわけではない.危険性の高まった地区単位で出される.洪水,土砂災害の危険性がある地区はハザードマップなどで公表されており,日頃から自分の生活圏の災害の危険性を理解しておくことが極めて重要だ.また「避難=避難場所へ行くこと」ではなく,差し迫った危険から命を守る行動全般が避難行動であることも留意したい.

 ガイドラインは,様々な情報を活用した住民自身の能動的な行動の重要性を強く訴えている.被害の軽減は,我々自身の取り組みにかかっている.

 

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2019年3月18日 (月)

時評=命つないだ気仙中-津波想定 地道な訓練

3月14日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.東日本大震災時の岩手県陸前高田市立気仙中学校の生徒らの避難等に関する内容です.
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時評=命つないだ気仙中-津波想定 地道な訓練
 
 東日本大震災時,岩手県沿岸部のある中学校.校舎は標高約2メートル,河川の堤防脇で河口からは300~400m程度と,ほぼ海岸付近.地震発生直後,生徒らは日頃の訓練やこれまでの地震時と同様に,標高約10メートルの広場へ避難したが,川の水位が下がったのを見てさらに高所を目指し裏山へ避難,林内で場所を変えつつ,近くの公民館に移動し二晩を過ごし,3日目に被害を受けなかった小学校に入った.中学生たちが通っていた3階建て校舎は屋上まで津波に覆われ,学区内では全世帯の79%が全壊,260人が死亡または行方不明となったが,在籍の生徒・教職員約百人は,欠席者も含め全員が無事だった.
 
 「今頃何を言っているんだ,先進的な防災教育が実践されて子どもが助かった有名な話じゃないか」と思われるかもしれない.おそらく多くの人が記憶しているのは,岩手県釜石市鵜住居地区の釜石東中学校の話かと思われる.上記の話はそれではない.岩手県陸前高田市気仙町(けせんちょう)の気仙(けせん)中学校(2018年3月閉校)でのことである.
 
 気仙中の話を見聞きした方は少ないだろう.たとえば朝日,毎日,読売を検索すると,この話を報じる記事は8年間に6件,そのうち全国面記事は2件のみ,静岡新聞では残念ながら確認できなかった.
 
 文科省「東日本大震災における学校等の対応等に関する調査」によれば,ハザードマップなどで津波の浸水が予想されていた場所または実際に津波が到達した場所にあった学校は149校,うち津波による死亡・行方不明の児童生徒がいた学校は20%で,犠牲者の多くは下校中に津波に見舞われたものと記されている.痛ましい被害が生じたことは間違いないが,一方で少なからぬ児童生徒の命が助かった事も忘れてはならないだろう.
 
 気仙中の当時の校長は,津波を想定した避難訓練や津波体験者の防災講話を毎年実施していたこと,生徒達が津波の恐ろしさと避難の大切さを聞かされ続けて育っていたこと,これまでの津波警報等の際にも実際に避難してきたことなどを記している(岩手県教育委員会東日本大震災津波記録誌).気仙中のようなことは,三陸地方では例外的な話ではないと筆者は思う.地道で,息の長い積み重ねが重要ではなかろうか.
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 それぞれのお考えによって,おそらくこの文章を当方の意図とは異なる方向でとらえる方がきっといると想像される話題なので,いくつも注記しておきます.
 
 まず,私は,いわゆる「釜石の奇跡」(その後この言い方が推奨されていないことはよく知っていますがあえて「わかりやすく」するために使います)と呼ばれる事象について否定的な意見は持っていません.また,その立役者とされる当時群馬大,現東大の片田先生に対しても批判的な気持ちは全くありません.片田先生とは20年ほどの付き合いで,私にとって数少ない「価値観を共有し信頼できる災害研究者」であり,「盟友」(私がだいぶ年下ですが)だと思っています.
 
 いわゆる「釜石の奇跡」がよく知られる一方で,あたかも釜石だけで子どもが助かり,他の地域ではそうではなかったかのように思われているのではないか,と感じることがあり,今回の寄稿に至りました.
 
 また,釜石を含め,子どもが助かったケースが少なくないのだから,助けられなかったケースの方はミスである,といった言説に共感するものでもありません.
 
 気仙中学校の状況については,震災発生1カ月後くらいにはあらましのことは耳にしていましたが,これまであまり明示的に文章にしたことはありませんでした.というか,様々な気持ちから,ためらい続けてきました.8年たって,やっとためらいの程度が少し下がったようです.
 
 なお私自身は,震災前,震災後ともに気仙中学校と直接的なかかわりがあったわけではありませんので,同校内のことについては特に知識はありません.
 
 気仙中学校は震災後7年間,別の場所を仮校舎として継続し,2018年3月に閉校しました.一方,震災前に使われていた同校の校舎は,いわゆる震災遺構として保存されることが決まっており,現在も震災発生直後に近い姿を目にすることができます.この場所はいずれ「高田松原津波復興祈念公園」の一角となる見込みです.
 
 なお,私はいわゆる災害遺構の保存については,推進すべきとも,すべきでないとも,どちらとも思いません.多くの人が賛同できるなら残すのもよし,そうでないならば撤去するのもよしだと思います.「災害遺構は当然保存すべきだ,お前らは意識が低い,あとで後悔するぞ」みたいなことを言う「学識者」に対しては怒りを覚えます.
 
 遺構保存には,将来にわたって社会的な負担が生じると予想され,大変な面もあると思います.維持が困難となる局面もあるかもしれませんが,それはそれでやむを得ないかもしれないと思っています.そこにかかわる多くの人たちによって,考えていくしかないだろうと思っています.

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2019年3月 1日 (金)

時評=「想定外」に違和感-乱発せず情報生かせ

1月16日付け静岡新聞「時評」欄に下記記事を寄稿しました.「想定外」という言葉についてあらためて考えてみたものです.
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時評=「想定外」に違和感-乱発せず情報生かせ
 「想定外」という言葉を,東日本大震災頃以降よく聞くようになったように思うが,その言葉の使われ方に違和感を覚えることもある.静岡新聞で「想定外」が含まれる記事数を検索すると,2003~2010年は20~82件で平均45件に対し,2011年は274件と急増しその後も毎年100件以上がほとんどで,2011~2018年の平均は131件だった.記事中の出現頻度は確かに増している.
 
 デジタル大辞泉(小学館,年3回更新)によれば「想定外」は「事前に予想した範囲を越えていること」とあり,「想定」は「ある条件や状況を仮に設定すること」とある.なお「想定外」は新語のようで,広辞苑第六版(岩波書店,2008年刊)や明鏡国語辞典(大修館書店,2011年刊)では見出し語に含まれていない.
 
 防災の計画を策定する際,具体的な対応計画のための基礎資料として,何らかの条件を設定してどのような被害が起こりうるかを計算した「被害想定」を作成することがある.「被害想定」で設定した規模を越える現象が発生すれば,それは「想定外」と言っていいだろう.たとえば河川の堤防などの構造物は,大河川では100年に1回程度発生する規模の洪水を想定して設計される事が多い.この規模を越える洪水は「起こり得ない」訳ではなく,必ず起こる.しかしそれに対応する堤防等は広大な土地や巨大な費用が必要となるため,現実的に対応可能な規模の現象を想定して設計されているに過ぎない.
 
 こうした防災計画上の想定を越える現象を「想定外」と呼ぶことに違和感はないが,一方で「想定外」という語が濫発されているのではないかと感じることもある.たとえば,ハザードマップで危険性が示されていた地域で想定規模の現象が起こった際に,その想定を知らなかったからといって「想定外だ」というのは適切ではないように思う.
 
 「温暖化でなにが起こるか分からない」といった声を聞くこともあるが,何もかも皆目見当がつかないわけではなく,過去100年程度の間に起こっていない巨大な現象が近年頻発しているわけでもない.むしろ情報の整備や予測精度の向上で,一昔前より「想定しやすくなっている」面も少なくない.安易に「想定外」と言うことなく,様々な情報を生かしていきたい.

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