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2007年8月16日 (木)

「国内最高気温更新」と言ってよいものか

ここ2週間ほど,東日本から北日本を中心に高温状態が続いていますが,本日8月16日は各地でかなり高い気温が記録されました.気象庁HPの「今日の全国観測値ランキング(8月16日) 15時30分現在」をみますと,

埼玉県 熊谷 40.9℃ 14:42
岐阜県 多治見 40.9℃ 14:20

という記録が見られます.この記録を元に,「国内最高気温が更新された」という報道が一斉に為されました.

<国内最高気温>40.9度 岐阜県多治見市と埼玉県熊谷市(毎日) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070816-00000044-mai-soci

埼玉・熊谷も40・9度 日本最高に並ぶ(産経) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070816-00000925-san-soci

多治見と熊谷で40・9度…74年ぶり国内最高気温(読売) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070816-00000005-yom-soci

この情報は,間違いというわけではありません.「日本の気象官署及びAMeDAS観測所における最高気温」は,1933年7月25日の山形における40.8℃ですから,これを更新したことは確かです.しかし,これより高い気温がいくつか記録されていることも確かであり,よく知られているところでは,1923年8月6日の徳島県撫養における42.5℃という記録があります.

この撫養の記録を「非公式の記録」と呼んでいる例が散見されますが,同意できません.この記録は,区内観測所と呼ばれる,AMeDAS観測網展開(1970年代中頃)以前に,気象庁が各地の役所や個人などに委託して観測を行っていた観測所で記録されたものです.気象庁と全く関係のない組織が独自に行っていた観測というわけではありませんし,昔の気象庁の刊行物(「観測所気象月報」など)には部内のデータとして掲載されていたものです.

気象庁HPの,「ホーム > 気象統計情報 > 過去の気象データ検索  > 歴代全国ランキング」には確かにこの記録は載っていません.しかし,このページに載っているものが「公式記録」で,それ以外は「非公式」だなどということは,気象庁HPには書かれていません.

このページの掲載条件としては,「全国の現在観測を行っている観測所について、観測開始または移転等により観測環境が変わった時からの観測史上1位の値を地点ごとに比較し、大きい順(または小さい順)に上位10位を示しました。」とありますから,AMeDAS化の際にほぼ全てが移転・観測環境が変化した区内観測所のデータが載っていないのは当たり前のことで,「公式」とか「非公式」といった次元の話ではありません.百歩譲って,区内観測所が「気象庁の職員により直接管理された観測所ではないから,非公式観測所」だと考えるとしても,やはりこのページに掲載されている記録のみが「公式記録」であるとは思えません.「気象庁の職員により直接管理された観測所」であり,現在は全廃された,「気象通報所」の記録が,このページには収録されていないからです.このページに収録されているのは,電子化されたデータ,と言った方がよいかと思います.

ちなみに,この記録は「気象庁監修 気象業務支援センター発行 気象年鑑」には掲載されています.

無論,今日が記録的な暑さだったこと自体を否定するつもりはありません.また,昔の百葉箱での気温観測では,晴天時には気温が高めに出る傾向があるという問題もあり,撫養の記録を無条件で現代の記録と比較することにも難しい面があります.ただ,区内観測所の記録のような,先人が汗水垂らして蓄積してきたデータがあっさり踏みにじられる(無視される)ことに対して,どうしてもやりきれない思いがする,というだけです.

昔のことや,目立たないことがあっさり忘れられる,というのは,なにも数十年も前の話だけではありません.ここ数日のメディアだけを見ていると,「今年は猛暑,地球規模で暑い」という印象が持たれそうです.

この記事など完全にその論調.
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070813-00000933-san-soci

Tem5dhi00_2 Tem30dhi00 5日平均気温で見ると,東日本,北日本での平年偏差が非常に高くなっています.しかし,西日本太平洋側などはそれほどのことはなさそうで,厳しい暑さは「地球規模」どころか,「全日本」ですらなさそうです.更に,30日平均でみると,ほとんど平年並みの所ばかりのようにすら見えてきます.今年の7月が比較的低温だったためです.

「実感と違う,データを使ったごまかしじゃないか」と思うかも知れませんが,気候統計とはこういうもので,逆に言えば,「目先の印象の影響を受けやすい我々人間に知恵をつけてくれるために気候統計が存在する」と言ってもいいでしょう.

今年は6月が全国的に高温傾向,7月が逆に低温傾向でした.週間予報では,今週末以降は暑さが和らぐようですから,このまま行きますと,今年の夏季(気候統計では6~8月)全体は,「記録的な暑さ」というような状況にはならないのではないかと思います.

6月の天候(気象庁)
http://www.jma.go.jp/jma/press/0707/02a/tenko0706.html
7月の天候(気象庁)
http://www.jma.go.jp/jma/press/0708/01b/tenko0707.html

人間は忘れやすいものです.それは仕方がありません.また,広い範囲に目を行き届かせるということも容易なことではありません.私自身,けっして人に偉そうなことが言える者ではありません.しかし,だからこそ自戒を込めて言いたいのです.あと少し,ほんの少しでいいのです.◆時間的に,空間的に広い眼を持ちたい◆

ここ数日,過去の豪雨災害による人的被害の整理分析をしていました.あとほんの少しでよいから,時間的・空間的に広い眼で自然(災害)をみていたら・・・,と悔やまれる事例をいくつも見ました.今日の記事がいつにもまして感情的なのは,このためかも知れません.失礼いたしました.

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» [編集日誌]2007-08-17(Fri): 74年ぶりの国内最高気温 [ACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG) - ブログ版]
昨日、8月16日は岐阜県多治見市と埼玉県熊谷市で気温40.9度を記録し、1933年7月25日に山形県山形市で記録された40.8度を74年ぶりに更新したと報道されている。しかし、専門家の見解には、また異なるものがあるようだ。牛山素行さんが、 この情報は、間違いというわけではあ... [続きを読む]

受信: 2007年8月19日 (日) 11:19

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受信: 2007年9月 1日 (土) 01:23

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