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2010年9月23日 (木)

防災メール(含掲示板等)は無駄なのか

宮崎市では,いわゆる「防災メール」事業が不要なものとして仕分けられてしまったそうです.

宮崎市:初の事業仕分け 21事業中17事業、「不要」か「見直し必要」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100919-00000233-mailo-l45

筆者は,防災メールや防災掲示板など,「IT系技術を使えば災害時に情報を双方向でやりとりして,こんなことまでできちゃうっっっ」的な「技術開発」「提言」に,一般論としては懐疑的です.ただし,防災メール等が全く無駄なものではなく,その機能を発揮しうる場面も大いにあるとも確信しています.

まず,防災メール(掲示板等も含む)は「緊急時」は不得意なメディアだと思います.防災メールは緊急情報(災害前に危険を知らせる情報)伝達メディアのイメージが強いですが,防災メール自体は単に伝達手段であり,出す情報を用意できなければ防災メールを整備したところで地域防災力が上がるわけではありません.

また,メールは災害時に強いという思い込みがありますが,音声通話に比べればまだましという意味であり,災害時でも普段と全く同様に使えるわけではありません.

牛山素行,2005年8月16日宮城県沖の地震時の住民による情報利用実態,日本災害情報学会第7回研究発表大会予稿集,pp.107-112,2005
http://disaster-i.net/notes/2005JSDIS.pdf

一方,防災メールは,災害警戒~災害発生の時期より,むしろ,災害発生後しばらく経った,救出・救援の時期以降に機能を発揮すると考えています.防災無線で流している情報を文字にして配信する,といった方法での活用事例が実際にあります.

つまり,防災メールは,他の防災情報伝達手段を代替するものではなく,相互に補完し合うメディアだと思います.災害情報伝達システムを強靱にする有力な方法の一つは,「冗長化」(複数の伝達経路を持つことなど)です.防災無線等のメディアに加えて防災メールを整備することはまさに「冗長化」です.語感から「無駄」という印象を持つかも知れませんが,それは誤読です.

牛山素行,平成18年7月豪雨による災害の特徴 -長野県における被害を中心として-,平成18年度河川災害に関するシンポジウム
http://www.disaster-i.net/notes/20070306kasen.pdf

災害時に,行政機関と市民の間でリアルタイムに「双方向情報交換」が整然と行われたというケースは,実際にはほとんど存在しませんが,ごく稀に実例はあります.それが,2005年台風14号災害時の宮崎市です.

牛山素行,2005年9月台風14号による豪雨災害の特徴,第24回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.105-106,2005
http://www.disaster-i.net/notes/2005JSNDS.pdf

いわゆる「先進地」,「災害経験地」で,その後がうまく続かない話しはいくらでもありますが,よりによってあの宮崎市で,と思うと,残念でなりません.

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2010年9月22日 (水)

土砂災害発生危険雨量に関する昔の論文

10年ほど前の論文をpdf化して公開しました.

牛山素行・大井戸志朗・寶馨,2001:1999年広島豪雨災害資料による土砂災害発生危険雨量の設定とその実用性,河川技術論文集,No.7,167-170
http://disaster-i.net/notes/2001kasen.pdf

土砂災害発生の基準雨量設定に関する歴史的な文献を挙げることと,「実効雨量」についての説明メモをwebに載せる意味で,本論文を公開しました.

単純な積算雨量ではなく,時間的に離れた降雨ほど影響を低減させて積算していく「実効雨量」は,比較的単純明快でいい指標だと今でも思っていますが,最近あまり使われなくなってしまいました.やたらと計算方法が難しい「指標」が「いい指標」とは限らないと思うのですが.

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2010年9月21日 (火)

当たり前のことですが自助共助には限界があります

9月15日付け静岡新聞に,当方のコラムが掲載されました.

不快に感じられる人が多くいるであろう内容ですが,私は,これが事実に基づく認識だと思っています.感情論や印象論ではなく,事実を見つめるべきだと思います.せっかく一生懸命真面目にやっている人に対して,それを否定するなんて心を傷つけることをするな,といった議論が出てくるのであれば,もはや話しはかみ合いませんが.

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時評=「自助共助」の限界-「公助」と役割分担重要

 近年「自助・共助」すなわち個人や地域社会,企業等が災害時に自らの身を守り,互いに助け合う事の重要性が叫ばれている.このような指摘が聞かれるようになったのは,最近10年くらいのことであり,阪神・淡路大震災が大きなきっかけになっているようだ.内閣府がまとめている「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」では,同震災時に建物等の倒壊により数万人規模の生き埋め者が発生し,そのうち自衛隊,警察,消防などが救出した人は数千人規模であったとされている.すなわち,生き埋め者の大半は一般市民により救出されており,これが「大規模災害時には公的機関による支援(公助)には限界があり,自助共助が重要である」といった指摘の根拠の一つのようだ.災害対策において行政機関の果たす役割は大きいが,すべての個人に手をさしのべることは困難であり,「防災のことは行政にお任せ」といった考え方は適切ではない.しかし,「行政(よその人)は頼りにならないので自助共助(地域の人)でやっていく」という考え方があるとすれば,それは行き過ぎだと筆者は考える.

 「自助共助」というと,「災害時に助け合って生き延びる」といったイメージがあるかも知れないが,それは「自助共助」の一側面であってすべてではない.「自助共助でいのちをまもる」といったフレーズも聞かれそうだが,残念ながら「人的被害の大幅な軽減」という目的を達成する上では「自助共助」の役割は限定的である.上述のように,阪神・淡路大震災時の生き埋め者の大半がいわゆる自助共助による救出であったが,同じ「資料集」には死者の9割以上がほぼ即死だったことも示されている.「災害が発生したときに助け合う」というタイプの「自助共助」では,即死者の「いのちをまもる」ことは期待できない.残念ながら,「自助共助」で軽減できた可能性がある犠牲者は残りの1割弱だったと言わざるを得ない.即死者の多くは建物の倒壊などに起因しており,これを軽減するためには,壊れにくい建物を作るしかない.

 災害の種類によっては「自助共助」が人的被害軽減に直結する場合もある.津波災害が典型例で,海岸で強い地震を感知したら,互いに助け合って高所への迅速な避難行動をとることで犠牲者を減らすことが期待できる.また,災害後の避難生活,地域の復興といった場面では「自助共助」が果たす役割は少なくない.平時に地域での防災対策を考えることも重要な「自助共助」だろう.

 「自助共助」と「公助」は,それぞれ果たすべき機能が異なり,一方が他方を置き換えるものではない.地域の人「だけ」でがんばるのではなく,様々な技術,情報,人の知恵などを合わせた地域防災の取り組みが望まれる.

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2010年9月20日 (月)

岐阜などでの豪雨に関するコメントが朝日新聞に掲載

9月9日付け朝日新聞(名古屋朝刊)に,当方のコメントが掲載されました.コメントが短いので,「住民は努力すべきだ」と言わんばかりの内容になっていますが,あまり本意ではありません.また,手の打ちようのない豪雨災害であったようなニュアンスも気になります.

7月の八百津での豪雨災害については,土砂災害の危険性を警告する土砂災害警戒情報は,人的被害が発生する時間よりかなり早い時期に出されており,現場は急傾斜地崩壊危険箇所です.「想定」がどうのこうのというのであれば,十分「想定内」の現象であり,手の打ちようがなかったかのように言うのは賛同できません.

住民「のみ」に負担を強いるつもりはありません.地域全体が情報を活用しなければならないと考えています.

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(東海豪雨から10年:上)防災対策、追いつかず 「想定外」遅れる勧告 【名古屋】

 雨音が激しさを増す。パソコン画面に映し出された網目状の地図は次々と茶色に染まっていった。「土砂災害警戒情報ポータル」の危険度が最も高い、レベル4に達した。
 7月15日午後8時20分、岐阜県八百津町の町役場。2階の防災安全対策室から係長の大鋸(おおが)悟さんが3階の対策本部に駆け上がった。
 「危険レベルが上がりました」
 「避難所は大丈夫なんだな」。赤塚新吾町長が念を押す。20分後、該当する3地区に避難勧告を出した。
 ほぼ同じ時刻、役場から2キロほど離れた野上地区で、1軒の民家が土砂に押しつぶされた。3人が亡くなった。避難勧告は間に合わなかった。
 町は、雨量によって危険性がわかる土砂災害警戒情報に基づき、避難所を設けた。「避難準備情報」も出した。そして避難勧告も発令した。いずれも災害に備えて町がつくったマニュアルに従った。
 「もっと早く避難勧告を出すべきだったのでは」という批判が寄せられた。大鋸さんは「残念だったが、できることはやったと考えている。ただ勧告を出すような雨は経験がなかった」と振り返る。
 大きな災害とは無縁に近い小さな町。この日の降水量は238・5ミリと観測史上最高だった。
 豪雨が増えている。「傘が役に立たない」と言われる1時間に50ミリ以上の雨が降った回数は、全国で30年前の1・5倍に。観測地点も激増している=グラフ参照。
 これに対して、土砂災害警戒情報や指定河川洪水予報、市町村ごとの警報など、市町村が、県や国から得られる情報は10年間で飛躍的に増えた。住民を避難に導くための基準やマニュアルも設けるようになった。
 東海豪雨で、約4千戸が浸水被害を受けた愛知県の旧西枇杷島町(清須市)は当時、「河川の水が堤防を越えた」という現場の職員からの連絡を受けて避難勧告を出した。「今の基準に照らせば、当時より3時間早く勧告を出せる」と同市の担当者。
 ただ想定通りにはいかない。2008年の「8月末豪雨」で、愛知県岡崎市は午前2時に出した全世帯への避難勧告の遅れを批判された。判断基準にしていた大河川の水位は異常を示さず、急激な降雨量で基準にしていない中小河川が、あふれてしまったのだ。
 八百津町は岐阜県の豪雨災害検証委員会に出した「自己検証」で、こう書いた。「マニュアルに従った運用は、局地的豪雨では難しい」
 避難勧告は必ずしも避難行動にはつながらない。
 7月の岐阜県の豪雨で勧告や指示を受けた人のうち、実際に避難した人は死者が出た岐阜県八百津町で1・2%。避難しない理由を、6割が「しなくてよいと自分で判断した」と答えた(県調べ)。
 8月末に開かれた県の検証委員会。県幹部は「市民も進んで情報を取りにいってもらえれば」と被災を防ぐために住民自ら行動することの重要性に触れた。
 静岡大防災総合センターの牛山素行(もとゆき)准教授は「人は必要性を納得できなければ避難へと行動しない。そのためにも、住民は日頃から地域に具体的にどんな危険があるのかを知っておくことが必要だ」と指摘している。

<後略>

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2010年9月19日 (日)

自然災害学会の予稿2件を公開

9/16-17の日本自然災害学会で発表した2件について,予稿集の原稿を公開しました.

牛山素行・栗田幸将,全国大学の防災関係研究・教育部局の現状,第29回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.211-212,2010年9月17日.
http://disaster-i.net/notes/2010JSNDS.pdf

高柳夕芳・牛山素行,静岡県における1970年代以降の豪雨災害による犠牲者の特徴,第29回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.149-150,2010年9月16日.
http://disaster-i.net/notes/2010JSNDS_takayanagi.pdf

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2010年9月14日 (火)

7月下旬以降の「講演」リスト

今年7月下旬以降に行った「講演」について,本ブログでほとんど掲示してこなかったため,ここでまとめて掲示しておきます.一部は既報しています.

  • 「豪雨防災情報を生かす」,岡山県市町村長防災危機管理ラボ,(財)消防科学総合センター,岡山市,2010/7/23
  • 「近年の豪雨災害と災害情報をめぐる課題」,防災講演会 東海豪雨から10年、水害に備えて,愛知県・名古屋市・名古屋地方気象台,名古屋市,2010/8/6
  • 「近年の豪雨災害と災害情報をめぐる課題」,とよはし防災リーダー養成講座,豊橋市消防本部,愛知県豊橋市,2010/8/7
  • 「2010年2月28日のチリ地震津波に関するアンケート調査から」,防災気象講演会,静岡地方気象台・静岡県・静岡大学防災総合センター,静岡県浜松市,2010/8/17
  • 「2010年2月28日のチリ地震津波に関するアンケート調査から」,防災気象講演会,静岡地方気象台・静岡県・静岡大学防災総合センター,静岡県函南町,2010/8/19
  • 「近年の豪雨災害と災害情報をめぐる課題」,豊橋市職員テーマ別研修,豊橋市,愛知県豊橋市,2010/8/27
  • 「沿岸域の災害情報をめぐる課題」,遠州灘沿岸保全対策促進期成同盟会講演会,遠州灘沿岸保全対策促進期成同盟会,浜松市,2010/8/30
  • 「2010年2月28日のチリ地震津波に関するアンケート調査」,2010年2月28日のチリ地震津波に関するアンケート調査の結果報告会,静岡大学防災総合センター,岩手県陸前高田市,2010/9/1
  • 「近年の豪雨災害と災害情報をめぐる課題」,防災講演会,御前崎災害支援ネットワーク,静岡県御前崎市,2010/9/12
  • 「豪雨災害による人的被害」,静岡県防災士養成講座,静岡県,静岡市,2010/9/14

勘違いされる方がいるようですが,学会や研究会での発表は,私は「講演」には分類していませんし,それは私の特別な感覚でもないと思います.いわゆる「現場」と「アカデミズム」の間の距離は離れていく一方で,私自身はその狭間にいるのだなと,しみじみ実感しています.

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2010年9月13日 (月)

小山町豪雨災害現地踏査写真を公開

あまりにも遅すぎますが,9/9に静岡県小山町の豪雨災害現場を現地踏査した際の写真を整理公開しました.

2010年9月8日の台風1009号による豪雨災害に関するメモ
http://disaster-i.net/disaster/20100908/index.html

本災害に関しては,あまり追跡調査ができていませんが,今のところ本災害に関して特記すべき事項は見いだせていません.

私は災害現場では何の兵力にもなりません.私は,私のできることで防災に寄与したいと考えていますし,似たような貢献ができる人の育成に関与することが私の使命だと考えています.自分にできることを,自分が責任を持ってやれる範囲で実行し,世に示すことが,プロの仕事だと思っています.

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豪雨防災情報に対するインターネット利用者の認識

9月8日の水文・水資源学会で発表した下記タイトルについて,当日使用したポスターを公表しました.

牛山素行・栗田幸将,豪雨防災情報に対するインターネット利用者の認識・2010年,水文・水資源学会2008年研究発表会要旨集,pp.282-283,2010年9月8日.
http://www.disaster-i.net/notes/2010suisui.pdf

既に公表済みの下記報告書

大雨による災害と防災情報に関するアンケート 報告書 (2010年調査)
http://www.disaster-i.net/notes/100430report.pdf

を整理,加筆したものです.類似の調査を行うのは3回目で,その都度設問はいろいろ加えていますが,ややルーチンワーク化しつつあります.むろん,同様な調査を継続すること自体重要なことですので,今後も機会を見つけて続けるつもりではあります.また,データの他の利用法も考えているところですが,今のところいい成果は出ていません.

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2010年9月11日 (土)

お手上げ

各方面にご迷惑をおかけしているところですが,もうどうにもならない状況です.静岡で災害が発生して忙しくなっていると思われる向きもあるようですが,そうてではなく,今回の災害に関して当方ではもはや何もできる状況にありません.本当に申し訳ありませんが,業務処理に大幅な遅延が生じ,今後も改善の見込みはありません.新たな仕事をお受けできる見通しも困難です.

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2010年9月 9日 (木)

100909_13050001_3
静岡県小山町柳島地区の道路損壊

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神奈川・静岡県境付近での豪雨

2010年9月8日の豪雨に関する情報をすこしだけ整理しました.

2010年9月8日の台風1009号による豪雨災害に関するメモ
http://disaster-i.net/disaster/20100908/

降水量に関しての部分を再掲します.

  • 9月8日に,降水量の最大値(1979年以降で統計期間20年以上,以下同じ)を更新したアメダス観測所は,1時間降水量2箇所(千葉,小田原),24時間3箇所(神奈川・丹沢湖,石川・志賀,島根・西郷),48時間および72時間は0箇所だった.
  • AMeDASで24時間降水量が最も多かったのは丹沢湖で495mmだった.なお,気象庁以外の観測所では,須走(静岡県駿東郡小山町大字大御神字大洞山,標高780m)で24時間降水量686mm,最大1時間降水量123mm,水ノ木(神奈川県足柄上郡山北町世附字山神山929-6,標高610mm)で同787mm,同147mmなどが記録されている.
  • 今回の水ノ木の24時間降水量,1時間降水量は,全国AMeDASの1979年以降の全記録の中で比較しても,いずれも10位以内に入り,かなり大きな記録とは言っていい.ただし,須走,水ノ木などは過去の統計値が十分公開されていないので,これらの記録の位置づけについては何とも言えない.山間部では大きな記録が生じる場合があり,注意が必要である.
  • 神奈川,静岡県境付近は,山間部を中心に大きな降水量が記録されやすい地域でもある.AMeDASで挙げると,箱根(850m)の24 時間降水量最大値は565mm(2005/8/26)で,御殿場(468m)では同544mm(2007/9/7)の記録がある.丹沢湖でも,48時間降水量の最大値は598mm,72時間は735mmで,今回の記録はこれに全く及ばない.思いもよらない場所で,日本最大級の豪雨が発生したというほどではない.
  • 今回の降雨イベントはほぼ12時間以内に生じており,24時間以下の比較的短時間の降水量が大きかったことが特徴的かも知れない.

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