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2011年6月 5日 (日)

津波災害においては「要援護者支援」が困難であることを直視するしかありません

下記静岡新聞の記事は,やや不本意なのでコメントさせていただきます.

袋井市での検討会での私の発言として,「牛山素行静岡大防災総合センター准教授は初回会合で『お年寄りを置いていくわけにはいきません』と真剣に取り組む姿勢を見せたが、それ以上触れることはなかった」と紹介されていますが,私はこんなことは言っていません.

東日本大震災で実際に発生した状況を見ると,お年寄りなどのいわゆる災害時要援護者を助けようとして犠牲になった人たちが,かなりの人数で確実に存在しているという事実があります.このような事実を見るときに「要援護者をみんなで助けて避難する」といった方策は,現実には実現困難なきれい事であることを直視しなければならない,という趣旨の発言はしました.つまり,「お年寄りを置いていくわけにはいきません」などという話とは正反対の指摘をしたのです.

「では要援護者を見殺しにしろと言うのか」という反論がきっと出て来ると思います.ですから,そういうきれい事では「地域防災」も「いのちをすくう」もできないことを直視しましょうと言っているのです.「ではどうしろと言うのか」と言われますね,きっと.しかし,そこから先は,誰かに決めてもらう話ではなくて,個人や地域が真剣に考えるしかないと思います.

あえて「対策」を挙げるとすれば,「要援護者」が津波災害等のリスクの存在するエリアに常住しないようなまちづくりを目指すことがあります.あるいは,「若者が死んでもいいから要援護者をみんなで守ろう」とか,逆に「若者の命を捨てさせることは忍びないのでいざというときはオレ達を捨てて逃げてくれ」といった地域合意をすることも有りでしょう.

そんなこと現実にはできない,残酷だ,人の気持ちがわからない,などと言われるかもしれません.私はそういった批判を恐れて,これまでこの種の「理想的防災論」はなるべく口にはしてきませんでした.しかし,東日本大震災での現実を目の当たりにして(というか私自身の後悔から),「これはきれい事な防災対策だ」と心の底で感じてるような「対策」については,たとえ理想論であっても「それはなんとかしなければ」と口に出そうと思います.

理想的防災をすぐに達成することは当然難しいでしょう.しかし,たとえ困難でも,時間をかければできることもあるでしょう.あるいは,本当は何かできることが見つかるのかも知れません.現実的な議論を重ねていくしかないと思います.

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大津波に備える~21日に避難訓練(中)=災害弱者対策-迅速誘導へ道筋遠く
2011.05.19 静岡新聞

 「足の悪い人らはどうすればいいかね」

 15日、袋井市の同笠海岸にほど近い浅羽南公民館。住民主導で実施した津波対策会議が3時間半の日程を終えようとしていたその時、出席者の1人が発した言葉に場の空気が変わった。

 「うちの近くのおじいちゃんもだいぶ年寄りだ」「東海地震が来ればここらはすぐに津波がやってくるって聞いた」。ほかの出席者が少しずつ重い口を開いていく。災害弱者の迅速な避難誘導は、参加していた誰もが重要性を認識していたはずだった。それだけに会議の最終盤になってようやく話題に上った事実が、かえって問題の難しさを印象づけた。

 「3・11」の衝撃はあまりに大きかった。多くの高齢者が津波の犠牲になり、助けに行った若者や消防団員も命を落としたと報じられた。遠州灘は津波被害ゼロとされてきた地域。ある住民は「今まで津波を考えてこなかった人間が、いざというとき他人のことまで気が回るだろうか」と表情は固い。

 避難場所や避難経路は新たに造ったり設計したりすれば対策構築にある程度の道筋が見えてくる。実際、この日も「命山」と呼ばれる人工台地の新規設置を市に依頼し、それを軸に避難計画を策定していこうという雰囲気ができていた。災害弱者誘導という難題には、出席者は展望をつかめないまま家路に就いた。

 袋井市は学識者らによる検討委を設置し国や県の対応を待たずに津波対策に乗り出したが、ここでもこの問題は懸案となる様相を示している。会長に就いた牛山素行静岡大防災総合センター准教授は初回会合で「お年寄りを置いていくわけにはいきません」と真剣に取り組む姿勢を見せたが、それ以上触れることはなかった。

 静岡新聞社の調査によると、掛川、袋井、磐田3市の沿岸部には2万人前後の高齢者が居住している。津波の発生時間帯や到達速度などにもよるが、単にハード整備では克服できないことは明らかだ。

 袋井市防災課の山本季男課長は「まずは避難可能な施設を把握するなど現状認識が先決」と強調する。高齢者が多く利用する掛川市の大東温泉シートピアの小田つとむ支配人は「津波が砂丘を越えるようなことは考えたこともなかった」と率直だ。“想定外”を想定する難しさに、当事者たちの苦悩は深い。

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