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2011年7月 2日 (土)

大震災時の津波被害-想定だけでは防げない

6月29日付静岡新聞「時評」欄に,当方の下記寄稿が掲載されました.「想定外に備えよ」という声がよく聞かれますが,それ以前の問題があるように思っています.

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時評=大震災時の津波被害-想定だけでは防げない

 東日本大震災において,「想定外」という言葉がよく使われるが.津波や地震などの「現象を想定すること」と,「想定した現象に対応すること」は異なることに注意をしなければならない.
 岩手県田野畑村について,津波浸水想定区域図と,今回の津波の浸水範囲を見比べると,今回の浸水範囲は明らかに浸水想定区域の範囲内に収まっている.三陸地方では集落内の数百メートル毎に津波避難場所があることが一般的で,田野畑村も例外ではない.先日筆者は同村の全津波避難場所を踏査したが,津波の到達した避難場所は1箇所もなかった.すなわち,田野畑村では,津波の浸水範囲や,避難場所の設置位置は,想定の範囲内だったことになる.しかし,同村沿岸部の集落はいずれも津波により集落の原形をとどめないまでに破壊され,村内で36名が死亡・行方不明となっている.津波浸水想定区域という形で「現象」を想定しても,その現象を防ぎきるための防潮堤などのハード構造物が,予算事情などにより整備できない事は一般的に見られることである.同村のように,いわば想定の範囲内の津波であっても,甚大な被害を生じ,想定した現象に対応できなかったケースは,今回の被災地の中でもけっして珍しくはない.
 ところで,同村の死者・行方不明者36名は,村内の津波浸水区域内の人口の2.3%に相当する.たとえば阪神・淡路大震災時の神戸市の犠牲者は人口比で0.31%であり,近年の日本の災害による犠牲者の人口比として2.3%はかなり大きな値である.しかし,見方を変えれば,津波が襲われた地域に居住する人の9割以上は何らかの避難行動をとって助かったとも言える.同村の津波避難場所はいずれも十分に高いところに置かれており,かつほとんどの避難場所で,さらに高いところへ避難するための道がつけられているなど「想定外」の現象に対する備えも考慮されていたように思われる.これらの結果として,壊滅的な被害を生じた中で人的被害をある程度軽減できたのではないかと筆者は考えている.
 6月16日付本紙によれば,静岡県内で津波対策が必要な海岸線の延長279キロのうち10.6%が防潮堤や水門などが未整備だとのことである.避難など地域でもできるソフト面の対応にも課題は多そうだ.想定の現象に対しても我々は必ずしも万全な備えをしていないし,そもそも想定を行うだけで被害軽減が図られるわけでもない.「想定外」の事態に備えることは無論重要である.しかし,現在の「想定内」に対しても我々はまだやり残していることが多くあるのではなかろうか.

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