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2011年12月 6日 (火)

「避難勧告」の難しさ -静岡新聞寄稿記事より-

11月11日付静岡新聞「時評」欄に掲載された寄稿記事を紹介します.「避難勧告」は2011年後半の防災に関する大きなキーワードになりましたが,以下は「避難勧告」についての私の考え方の要約でもあります.

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「自治体の避難勧告-地域を知り、各自でも判断」

 9月21日から22日にかけて台風15号が日本列島に接近・上陸し,静岡県をはじめ各地に被害をもたらしたことは記憶に新しい.名古屋市では100万人以上に避難勧告が出された.本格的な浸水が始まる前に避難勧告が出され,タイミングとしては概ね適切だったようだが,実際に避難した人が少なかったこと,避難勧告の情報が住民に十分伝わらなかった可能性があることなどが課題としてあげられている.

一方,9月上旬に日本列島を襲った台風12号は紀伊半島を中心に最近10年間でも最大規模の被害をもたらしたが,このときは大きな被害が発生する前に避難勧告を出せなかった自治体が目立ったことが話題となった.

 避難勧告とは,災害対策基本法によって定められている制度であり,「災害が発生し、又は発生するおそれがある場合」に,市町村長が「避難のための立退きを勧告」するものである.また「急を要すると認めるとき」は,「避難のための立退きを指示することができる」とされ,これは「避難指示」と呼ばれている.避難指示の方が,避難勧告よりも時間的・状況的に切迫している際に出される情報だが,いずれも罰則はなく強制力はない.

 避難勧告,避難指示ともに,その判断・発令は原則として市町村長のみにゆだねられており,国や県は直接関与しない.市町村は国や県から出される様々な情報や,現地の状況を見つつ避難勧告・指示を出している.出す場合の判断基準をマニュアル化している自治体もあるが,災害は様々な姿を見せるため,マニュアルだけに頼ることはできず,刻々と変化する状況に応じた判断が求められることも多い. 

 自治体が避難勧告を出すことをためらう要因も多い.避難勧告を出しても結果的に大きな被害が出なければ「空振り」といった批判の声が上がる.あるいは,避難所の準備ができていない,今から避難をはじめてはかえって危険かも知れない,といった懸念が持たれることもある.また,判断するための情報が十分に集められないこともある.特に台風・大雨の場合は,災害がいつ,どこで発生するのかを予見しにくく,市町村役場の限られた人材では対応が難しい面がある.

 事の是非はともかく「災害発生前に避難勧告が出されないことは珍しくない」という現実を我々は受け止めなければならないだろう.つまり,避難勧告が出ていないとしても,それは「自治体がまだ安全であると判断・保証している訳ではない」ととらえるべきである.避難勧告は「避難許可」ではない.避難勧告が出ていなくても,これは危険だと思う状況であれば,自主的に安全な場所に退避する事が望まれる. 

 無論,いざというときに各自がこのような判断をすることは簡単ではない.日頃から身の回りの地域ではどのような種類の災害が起こりうるかを知り,災害に結びつく予兆となる気象情報,河川情報などはどこで見ることができるかなどを確認しておくことが重要になる.災害への「備え」とは避難袋を作って避難訓練をすることばかりではない.災害の観点から地域を知ることがあらゆる地域防災のスタートラインである.

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