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2013年10月24日 (木)

伊豆大島「なぜ大雨特別警報が出なかったんだ!」の声に違和感

伊豆大島の災害に際して,「なぜ大雨特別警報が出なかったんだ」という声が強いけど,これには強い違和感を覚えます.

定義上、大雨特別警報は「広い範囲で数十年に一度程度発生する大雨」が発生あるいは発生が予想される場合に発表される情報といえます.気象庁による細かな定義を挙げると、①48時間降水量及び土壌雨量指数において、50年に一度の値以上となった5km格子が、共に府県程度の広がりの範囲内で50格子以上出現,または,②3時間降水量及び土壌雨量指数において、50年に一度の値以上となった5km格子が、共に府県程度の広がりの範囲内で10格子以上出現、となります.また,気象庁公表資料では明示してありませんが,大雨特別警報を判定する対象格子は陸上のみで,海上の格子は含まれないことになっているようです.

今回の伊豆大島豪雨では,そもそも豪雨域が狭く,さらに離島部であるために陸上のメッシュが少ないことから,結果的に大雨特別警報の発表対象の現象とはならなかった,という状況のようです.

大雨特別警報は,広い範囲での豪雨が対象,という説明は気象庁が特別警報を説明する資料にはたいてい出ていて,私自身が作って資料にも明記していました.もっとも,このことをことさらに強調して説明をしていたわけではないですから,「数十年に一度」の部分は印象に残っても,「広い範囲」が抜け落ちてしまったことはありそうです.

大雨特別警報は,その定義から考えて,離島部では出にくいということは、気象庁公開の資料でもこれまでほぼ全く説明されてきませんでしたし、私自身もしてきませんでした.このことについては,私も不明であったと言うしかありません.

今回のことを「教訓」に,大雨特別警報についての「見直し」を,と叫ぶ声がかなり強いと感じます.しかし,私は「見直し」についてはあまり賛同できません.

まず,「狭い範囲の豪雨でも特別警報を出せるように」という方向は全く賛成できません.この方向に改変すれば,明らかに大雨特別警報の発表頻度を増やすことになります.大雨特別警報が出すぎではないか,という見方だってできそうなところに,さらに発表頻度を増やすような改変は変だと思います.

そもそも,特別警報だけが防災気象情報ではありません.特別警報が出る前の段階で様々な対応を取ることが基本であり,特別警報は「最後の背中押し情報」です.背中を押されなかったから対応できなかった,という考え方は,特別警報以外の防災気象情報を軽視している見方とも言え,それでは困る,ということを特別警報の解説を行う過程でも強く言ってきたところです.

また,大雨特別警報はまだ始まったばかりの制度です.いったん作った制度(定義)は,たまたま目立った特定の一事例に引っ張られてころころと変えていくべきものではないと思います.

ここ10年ほど,ちょっと目立つ災害があるたびに「改善」ということで防災気象情報に手が入れられてきた経緯があります.土砂災害警戒情報とか,洪水予報の呼称変更などがその例として挙げられます.しかしそのやり方は,いわばパッチワーク的というか,その時々に問題となったところだけを少しずつ手を入れるようなやり方だったように思います.その結果として,防災気象情報が「体系的」でなくなって来たのではないかと感じています.

これは私だけの問題意識ではなく,現に気象庁は「防災気象情報の改善に関する検討会」を設置して,防災気象情報のレベル化を軸として,情報体系の整理が提言されたところです.この提言に沿って,1,2年後に防災気象情報の体系が整理される方向が見えてきています.

すなわち,極めて近い将来に防災気象情報はその姿を変えることが予定されている訳です.それを目前にして,「離島の豪雨に対応するための大雨特別警報のあり方見直し」という,極めて局所的な制度改変を行うことは,無駄な手間を増やすだけのように思います.

情報に関わる制度(定義)を改変すれば,それを伝えるメディアの伝え方,説明の仕方も変えなければなりません.伝達するシステム構築、解説する人や主体的に活用する人に対する研修・説明などにもかなりの手間と時間が必要です.情報の内容を変えることはそういう影響だってあります.仮に「いい情報」ができたとしても、それですぐにうまくいくわけではありません.

無論,見えてきた課題を放置しておいて良いということではありません.個々の災害において何があったのか,どのような課題が顕在化したのかを整理しておくことは当然必要です.

今回顕在化した課題は「離島では大雨特別警報が出にくい」ということでしょう.その問題を改善するのであれば,特別警報という制度本体をいじるまでもなく,離島で激しい現象が予想される際には当該市町村に気象台から強く警告する,といった方策の強化の方が効果的だと思います.つまり,情報の内容を改変するのではなく,使い方を変えていくということです.それならば短時間のうちにも対応できる可能性があります.たとえば、すでに一部構築されつつある,市町村長と気象台・国出先機関のホットライン構築の推進強化などは,効果的ではないかとおもいます.

堤防などのハード対策は,いいものを作りさえすればすぐに効果が出ます.しかし、防災情報のようなソフト対策は,受益者である人間の側が動かなければ効果を発揮しません.質的向上がすぐに効果につながらないのがソフト対策です.拙速でなく,冷静な議論が必要だと思います.

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