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2015年7月11日 (土)

そもそも「災害」とはなにか

 あえて刺激的な表現を使うが,「地震は災害ではない」.あるいは「台風」も災害ではないし,「津波」も災害ではない.大辞林第2版で「災害」を調べると,「地震・台風・洪水・津波・噴火・旱魃(かんばつ)・大火災・伝染病などによって引き起こされる不時のわざわい.また,それによる被害」とある.すなわち,地震,台風などは災害を引き起こす原因となる自然現象であり,災害ではない.専門的な言葉では,これらをHazardと呼ぶ.Hazardを指す日本語として一般に定着しているものはないが,たとえば水谷(2002)は「自然力」,日本自然災害学会(2002,事項執筆・渡辺正幸)は「加害力」と呼んでいる.「外力」という言葉が使われる場合もあり,ここでは「外力」を用いる.
 
 外力が自然界だけに作用した場合,それは自然の営みにすぎない.しかし,同じ規模の外力が人間社会に作用すれば,それは災害となる.ごく単純な例を挙げれば,砂漠の真ん中で巨大地震が発生しても,それは災害にはならない.しかし,同じ規模の地震が人口密集都市付近で発生すれば災害となりうる. 

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図 1 外力と災害
 
 すなわち,外力だけでは災害は起こらない.災害に関して考えるとき,ともすれば外力の大きさ,激しさに目が向けられがちだが,外力の激しさは災害を引き起こす要素の一つであり,それだけで災害の規模が決まるものではない.
 
 例を挙げよう.2008年6月14日に発生した平成20年岩手・宮城内陸地震は,マグニチュード7.2,最大震度6強(岩手県奥州市,宮城県栗原市)が記録された.近年のわが国で発生した地震としては比較的規模の大きな地震であり,特に山間部で大規模な地すべり,斜面崩壊,土石流などが発生した.写真 1は,宮城県栗原市の荒砥沢ダム上流域で発生した大規模地すべりで,幅900m,長さ1400m,移動土砂量約7000万立方メートルと推定されている(井良沢ら,2008).これは,日本で明瞭な記録が残っている地すべりの中でも最大規模の現象である.広範囲にわたって地形が大きく変化したため,付近の道路などは大きく損壊したが,この地すべりに起因する損壊家屋,人的被害はともに皆無である.また,この地震による被害の合計は,死者・行方不明者23名,住家の全壊30棟,半壊146棟などであった(総務省消防庁,2009a).

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写真1
 
 近年の他の被害地震として,例えば2007年7月16日の新潟県中越沖地震(マグニチュード6.8,最大震度6強)による被害は,死者15名,住家全壊1331棟,半壊5709棟などとなっている.岩手・宮城内陸地震と中越沖地震は,人的被害は同程度だが,家屋被害の量は比べものにならない.地震の規模だけで見れば,岩手・宮城内陸地震の方がむしろ大きいと見なせる.まさに,外力の大きさが,被害を直接決めるものではないことを示唆している.
 
 一方,当然のことであるが,外力無くして災害は発生しない.「災害の風景」というと「避難所でつらい生活を送る被災者」であり,「災害への対応」とは被災者支援,ボランティアであるといったイメージが持たれやすいかもしれない.しかし,構造的に考えると,「被災者」は外力が社会に作用し,かつ社会の許容力を越えなければ発生しない.無論,被災者支援が重要なことは言うまでもない.しかし,被災者支援が災害対策のすべてではない.外力があり,それを受ける社会があり,その結果として被災者が生じるのである.
 
 外力にばかりに目を向けることも適切ではない.しかし,それと同様に被災者にばかり目を向けることも適切ではない.我々は,災害というものを,外力発生を中心とした一連の現象としてとらえていかねばならない.
 
[参考文献]
井良沢道也・牛山素行・川邊洋・藤田正治・里深好文・檜垣大助・内田太郎・池田暁彦:平成20年(2008)岩手・宮城内陸地震により発生した土砂災害について,砂防学会誌,Vol.61, No.3, pp.37-46,2008.
水谷武司:自然災害と防災の科学,東京大学出版会,207p.,2002.
日本自然災害学会:防災事典,築地書館,543p.,2002.
総務省消防庁:平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(第78報),http://www.fdma.go.jp/detail/811.html,2009a.
総務省消防庁:平成19年(2007年)新潟県中越沖地震(第52報),http://www.fdma.go.jp/data/010909161410293740.pdf,2009b.

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