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2018年5月21日 (月)

気象庁「地方公共団体防災担当者向け気象防災ワークショッププログラム」

同日発表の「スパコンで予報改善」の話題と異なり,全く注目されなかったみたいだけど,5月16日に気象庁が「地方公共団体防災担当者向け気象防災ワークショッププログラム」を公開しました.本件について,普段怖くてあまりしていない「監修」という立場に加わりました.

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同プログラムの概要説明 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jma-ws2/docs/00_about.pdf 中に私のコメントが載っていますが,「軽い気持ちでワークショップなんかやるんじゃねえ」みたいなひどいことが書いてあります.
 
このプログラムは,「土砂災害編」「中小河川洪水災害編」の2種類が用意され,それぞれについて運営マニュアル,事前学習資料,当日の教材や進行のためのスライドが用意されているものです.
 
運営マニュアルより,私が重要と思うことを挙げておきます.「気象防災ワークショップは防災気象情報や災害対応などの技術的な知見に基づいており、人の命にかかわるテーマに関する議論を行うことになるため、ワークショップの実施にあたって技術的な知見からの助言が不可欠です」
 
私は「防災ワークショップ」的な営為に対して批判的です.無論メリットも少なくないのですが,そこにいる「みんな」だけで盛り上がって,科学的,技術的,社会制度的に適切で無いことが「地域の総意」として固められてしまう危険性をはらんでいるからです.
 
「地域のことは住民が一番よく知っている」といった言説にも批判的です.地域の「日常」のことは、当然そこに暮らす住民が一番よくわかっているはずですが,自然災害は典型的な「非日常」の現象です.広い視点からの知見を盛り込まなければならないはずです.
 
残念ながら,「全国各地域の現場において,広い視点から災害・防災について考える」ための知見や仕組みは極めて未成熟です.このワークショップ,まだまだ成長途上のものとは思いますが,一つの試みではあろうかと思います.
 
言うまでもなきことかとは思いますが,私は「監修」者にすぎませんので,このワークショッププログラムは,構築に関わった多くの方々の取り組みの成果です.厳しい日程の中取り組まれたみなさまに頭の下がる思いです.

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2018年5月14日 (月)

時評=土砂災害-「前兆」頼りすぎるな

5月9日付け静岡新聞「時評」欄に下記記事を寄稿しました.何回かツイートしている件を文章化したものです.添付の図は参考のためにつけたもので,紙面には掲載されていません.
 
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時評=土砂災害-「前兆」頼りすぎるな
 
 土砂災害が発生する際には,「前兆現象」があるので注意せよ,といった話をよく聞く.このこと自体は何も間違った話ではない.たとえば,平成29年5月12日付の政府広報オンライン「土砂災害のおそれのある区域は全国に約67万区域!」の中では,前兆現象として,「がけから水が湧き出る」「山鳴りがする」「急に川の水が濁り、流木が混ざり始める」「腐った土の匂いがする」「降雨が続くのに川の水位が下がる」など(一部抜粋)が挙げられている.しかし,こうした「前兆」に頼りすぎると,かえって危険である.
 
 これら現象を「前兆」のほとんどは「すでに山のどこかが壊れはじめている」ことに起因するものである.たとえば「腐った土の匂いがする」は,斜面が崩壊して攪拌された土砂の匂いが漂ってきたものであり,「急に川の水が濁り、流木が混ざり始める」は,崩壊した土砂が河川に流れ込み,土石流となって動き始めていることを示唆する.すなわちこれらは,「前兆」というよりは「発生」を示す現象と理解した方が適切である.
 
 土石流の速度は概ね時速20~40km前後,流れる距離は数百~数千m程度が目安である.仮に時速40kmとすれば1分間で667mを流下する.ということは,なんらかの「前兆」を覚知しても,残された時間は秒単位しか期待できない.「前兆」と聞くと,それを待って行動開始すれば良いかのような印象が持たれるが,実際に使える時間はほんのわずかである.「前兆」覚知後の行動開始では,手遅れとなることが懸念される.
 
 なお,「地すべり」と呼ばれる現象では,斜面全体がゆっくり(基本的には1日数cm程度)と動きはじめ,やがて大きく動くことがある.この場合は「地面がひび割れ・陥没」などの「前兆」が確認され,監視・対策がとられうる.2013年4月の浜松市天竜区春野町での地すべりもこのような経過をたどった.地すべりの場合「前兆」は有効と言っていい.しかし,大雨に起因するがけ崩れや土石流は,話が全く異なる.
 
 大雨に起因する土砂災害の「前兆」なら,基本に立ち返り「いつもと違う大雨」「ただならぬ増水」に目を向けて欲しい.これらの情報は,その場で目で見るばかりでなく,テレビやネットでも確認できる.

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2018年5月 9日 (水)

石巻市大川小学校災害 石巻市が上告方針との報を聞いて

大川小学校を巡る裁判は,5月8日に石巻市議会が,最高裁への上告を承認する議案を賛成多数で可決し,上告の方向に向かうことになった.控訴審判決については
に雑感を挙げたが,上告の方向となったことを受けて,追記をしておきたい.
 
本件に関し,被害に遭った方々の気持ちを考えるといたたまれないものがあり,このような争いが長引くことが良いことだとは思えず,何らかの解決の道はないものかと思う.
 
その一方で,ハザードマップや被害想定という情報に対する捉え方や,個々の現場における平時・災害時の対応を巡る現実の状況を考えると,今回の上告によって,さらに検討が加えられることは,今後の防災対策を考える上で重要かとも思われる.
 
控訴審判決は,事前に予見すべきだったのは東日本大震災の津波ではなく,震災前に公表されていた想定宮城県沖地震による津波であるとしているが,むしろそれならばなおさら被害想定やハザードマップから読み取れる「予見可能性」について,震災後の日本人の「常識」を踏まえて幅広く認めたものと思われ,現代の知見(としてもかなり高度な)で,過去の人の行動を裁いたものとして,どうしても違和感が拭えない.
 
防災上の計画は何らかの情報を目安にしなければそもそも作ることが難しい.ハザードマップや被害想定はそのための一資料である.ハザードマップが完璧なものではないことを理解することは必要だが,ではどの規模の現象まで想定して備えれば妥当なのか(現時点はともかく震災前の時点で妥当だったのか),控訴審判決を読むと戸惑いを感じる.
 
自然災害に関する予測は不確実性が高く,被害の有無が偶然の結果であることも少なくない.自然災害に対して「確実な安全性の確保」ができるように考えること自体,自然の脅威に対する過小評価になるのではなかろうか.災害時に,故意に対応を阻害したようなケースは別として,自然災害による被害の結果責任を組織や個人に対して問うこと自体も難しいのではないか.
 
なお,控訴審判決をみるところ,震災前の被害想定,津波シミュレーション,防災計画の構築や読み取り方について,被告・原告側の解釈が行き違っており,双方の主張ともに,筆者には十分理解できないところがあった.特にシミュレーションについては私の専門から外れ,微妙なところでもあり,具体的な言及はできないが,津波の被害想定に関する技術的な専門家の知見をもっと聞きたいと感じた.この点については,もう少し慎重に検討した方が良いように思われた.
 
上告審の結果の如何に関わらず,控訴審判決の内容が防災に関わる現場に与える影響はかなり大きいだろう.まずはマニュアル作り・防災計画作成などが対策として進められるだろうが,この判決で求めているような高度な判断は,ちょっとした講習で「心構え」を聞き,「みんなで考える」ような方法では全く対応できないだろう.一般的な教職員は無論のこと,県や市町村の防災関係職員も,現時点であってもこうした判断力を身につける機会が十分だとは言えない.
 
いずれにせよ、ちょっとした工夫や、単なる指針の策定などだけでは解決するものではないだろう。たとえば自然科学・社会科学などの幅広く高度な専門知識を持った人材(1人ではなくチーム等も含め)を多数育成・雇用することなども考えられるが,一般に人材育成や,継続的な確保への新たな予算支出は困難も多い.いずれにせよかなりの程度の経費と時間が必要だとおもわれる。そうした負担に社会全体として耐えられるか、考えていかなければならないと思う。
 
本件に関しては、相反する様々な考え方があるかと思います.当方のような考えを見るだけで不快だと思われるかもしれません.あくまでも,一つの考え方として申し述べているものであることをご理解いただければ幸いです.

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