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2019年9月30日 (月)

時評=災害教訓に学ぶ難しさ 多くの事例収集重要

9月18日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.「ある災害事例の教訓「だけ」に注目することは,かえって危険な対応をもたらすこともありうる」というお話.ぼうさいを教えたがる人が怒り出しそうな話だとは思っていますが.

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時評=災害教訓に学ぶ難しさ 多くの事例収集重要

 「過去の災害教訓に学べ」といった話をよく聞く.これは無論重要なことだ.しかし,ある災害事例の教訓「だけ」に注目することは,かえって危険な対応をもたらすこともありうる.

 1982年5月26日に発生した日本海中部地震では,主に津波により104人の犠牲者を生じたが,被害の多かった秋田県内で「地震が起きたら浜へ出ろ」という言い伝えがあり,実際に地震直後に海岸に向かって避難した人もいたことが話題となった.1939年に同県内で発生した地震の犠牲者(27人)の多くが建物倒壊や土砂災害で死亡したことからこのような言い伝えが生じたのでは,と考えられている.また,本来はこの言葉の後に「浜へ出たら山を見ろ,動かなかったら山へ登れ」が続いていた,とも言われている(1982年5月29日付秋田魁新報).

 こんな言い伝えを信じることは現在では考えられない,と感じるかもしれない.しかし,似たようなことは現代でも決して無縁ではない.たとえば平成30年7月豪雨で大規模な浸水被害を受けた岡山県倉敷市真備地区では,1976年の水害を経験した住民が「大雨が来ても、あの時くらいだろう」と考え,結果的に天井まで浸水した自宅から救助された話が報じられている(2018年7月20日付読売新聞).過去に災害を経験した事が,かえって次の災害時の適切な行動を阻害することは「経験の逆機能」とも呼ばれ,しばしば見られることが知られている.

 自然災害を構成する個々の要素,例えば「大雨が降ったら川があふれる」「深夜に大雨が降った」といったことは,過去から繰り返し生じているが,それらの組合せは無数にある.ある災害の「教訓」とは,こうした無数の組合せの一つに関わる「教訓」にすぎない.「様々な災害事例の教訓」に学ぶことが重要だろう.

 日本海中部地震の例では,「浜へ出ろ」の後に続いていた言葉が欠落したらしい,という点も注目される.災害の教訓や知識が,時を経ると簡略化されてしまう事がありうることを示唆している.災害に関する情報を「簡単に」「わかりやすく」とよく言われるが,言葉を「簡単に」することで,致命的に誤った情報を伝える可能性があることには,十分注意しなければならないだろう.

 

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2019年9月 4日 (水)

2019年8月28日九州北部の豪雨 9月2日現地踏査雑感

●牛津川の越流関係
佐賀県を流れる牛津川では氾濫発生情報が出され,国交省資料では佐賀県小城市,多久市の3カ所で越流とある.なお今回の大雨では,他河川でも破堤は生じていない.これら越流ら起因すると思われる浸水範囲が国土地理院の浸水推定段彩図で示されている.

浸水推定段彩図: http://maps.gsi.go.jp/#14/33.271424/130.143288/&base=std&ls=std%7C20190828_kyusyu_0828dansaizu%7Clcmfc2&blend=00&disp=110&lcd=lcmfc2&vs=c0j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f0&d=v

写真は佐賀県小城市小城町池上付近の牛津川の越流個所と思われる場所.国交省資料では「牛津川 12.2km 左岸」とある付近.堤内地側に草が倒れているが,堤体は侵食などの損壊は見られない.
位置:https://goo.gl/maps/kwbc9w5oJyTSf4Vn6

P9026554

小城市小城町池上の越流箇所近くには,低地に盛土した道があり,この道ののり面が一部損壊.治水地形分類図,地形図を見てもわかるように,この付近では低地には基本的に家屋は立地しておらず,家屋の流失損壊は見られず,深い浸水の被害も明瞭には見られなかった.
治水地形分類図: http://maps.gsi.go.jp/#15/33.272741/130.167977/&base=std&ls=std%7C20190828_kyusyu_0828dansaizu%7Clcmfc2&blend=00&disp=101&lcd=lcmfc2&vs=c0j0h0k0l0u0t0z0r0s1m0f0&vs2=f0&sync=1&base2=std&ls2=std&disp2=1

P9026559

このあたり,浸水想定区域で,計画規模でも2~5mとなっているから,想定外というような事態ではなさそう.
重ねるハザードマップ: https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=33.273875,130.163548&z=15&base=pale&ls=seamless%7Ctameike_raster%2C0.8%7Cflood_list%2C0.8%7Cflood_list_l2%2C0.8%7Cdisaster1&disp=01100&vs=c0j0l0u0

牛津川12.6km右岸の越流箇所(多久市東多久町大字別府付近)は,おそらくここ.こちらも洪水による家屋の流失などの被害は見られないが,低地に立地した家屋で浸水被害が見られた.なお,牛津川14.4km左岸の越流箇所は,よくわからなかった.
位置:https://goo.gl/maps/Ko4qQzJAxQFdaPgv5

Edhpvhju0aak0u2

牛津川の越流氾濫で,国土地理院の浸水推定段彩図で最も深い3m程度の浸水が示されている小城市小城町池上の山崎排水機場付近.有刺鉄線の上から2本目あたりまで浸水痕跡が見られ,簡易計測では右の畑面を0とした場合の浸水深は約3.5m
浸水推定段彩図: http://maps.gsi.go.jp/#14/33.271424/130.143288/&base=std&ls=std%7C20190828_kyusyu_0828dansaizu%7Clcmfc2&blend=00&disp=110&lcd=lcmfc2&vs=c0j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f0&d=v

P9026511

ただしこの付近も低地に住家の立地は見られず,家屋の流失,倒壊などの被害も見られない.
治水地形分類図: http://maps.gsi.go.jp/#15/33.261352/130.178174/&base=std&ls=std%7C20190828_kyusyu_0828dansaizu%7Clcmfc2&blend=00&disp=101&lcd=lcmfc2&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s1m0f0&vs2=f0&sync=1&base2=std&ls2=std&disp2=1

P9026531

浸水想定区域も,計画規模でやはり想定浸水深2~5m.「想定外」とは言えないと思われる.
重ねるハザードマップ: https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=33.261352,130.177624&z=15&base=pale&ls=seamless%7Ctameike_raster%2C0.8%7Cflood_list%2C0.8%7Cflood_list_l2%2C0.8%7Cdisaster1&disp=01100&vs=c1j0l0u0

 

●佐賀県武雄市武雄町武雄
武雄市武雄町武雄の武雄川付近で,通行中の車が流され50代男性が亡くなったとみられる現場付近.付近は国土地理院の浸水推定段彩図では浸水が判読されていないが,写真右手のごみ集積所付近で約0.8m浸水とみられる.手前が上流側だが,道路面の勾配は1度未満.また,家屋の損壊は全く見られない.

P9026613

個人的に委縮があり,場所はピンポイントでは示さないが,大体このあたり.計画規模でも武雄川のすぐ近くは浸水想定区域となっており,大体想定通りの現象という感じがする.
重ねるハザードマップ: https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=33.184354,129.999923&z=16&base=pale&ls=seamless%7Ctameike_raster%2C0.8%7Cflood_list%2C0.8%7Cflood_list_l2%2C0.8%7Cdisaster1&disp=01100&vs=c0j0l0u0

こうした,洪水時に車や徒歩で屋外を移動中に死亡したケースは洪水犠牲者の半数程度,20年間で百数十人規模に上り,よく見られるもの.この現場の光景は,なんとなく平成27年9月関東・東北豪雨時の宮城県栗原市栗駒での同形態の被害現場(写真)に似ており,既視感の強い現場だった.

20181231 P1010083


●福岡県八女市立花町山崎
こちらは福岡県八女市立花町山崎で,通行中の車が流され70代男性が亡くなったとみられる現場付近.川(柳川用水路)にかかる橋の付近で浸水深は道路面から約0.8m.

P9026706

川沿いの道路を見ると上流側からわずかに下り勾配となり,少しずつ浸水深が深くなっていた模様.道路左手の住宅の敷地内はほとんど浸水はなかったとみられる.

P9026682

この付近でも家屋の流失や損壊などは見られず,床上浸水などの激しい浸水もほとんど見られないように思われた.局所的な浸水と思われるが,静かに浸水が生じているのではなく,河川のすぐわきで流れがあったと思われる.気が付きにくい浸水とも思われ,洪水時の屋外行動の難しさを改めて実感した.

こちらもピンポイントの場所は示さないが,大体このあたり.やはり浸水想定区域である.
重ねるハザードマップ:https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=33.202795,130.574023&z=16&base=pale&ls=seamless%7Ctameike_raster%2C0.8%7Cflood_list%2C0.8%7Cflood_list_l2%2C0.8%7Cdisaster1&disp=01100&vs=c0j0l0u0

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