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2020年11月27日 (金)

風水害被災現場を見る 多様な視点から記録

(2020年11月26日付静岡新聞への寄稿記事)

 

 先日あるテレビ局から、十数年前に起こったある風水害被災現場の写真を持っていないかとの照会を受けた。覚えのある地名で、確かに現地調査しており、数点の写真を提供できた。災害後の地域の取組を紹介する番組で、写真は放送のお役に立ったようだ。土砂災害で一人の方が亡くなった所で当時報道もあったが、全国的に注目されたような場所ではなかった。筆者のところに照会が来たのは、取材過程で地元の方から、筆者が当時現場に来たようだとの情報を得たためと聞いた。

 

 当時この現場での聞き取りや、関係者への問合せなどをした記憶はないが、写真と現地を見てのメモは筆者のホームページ上で公開している。地元の方は、これをご覧になり覚えておられたのかもしれない。思いがけずお役に立てた事をありがたく思うとともに、こうした記録を残しておく事の重要性をあらためて感じた。

 

 筆者は規模の大きな風水害が発生するとなるべく早い時期に、人的被害が生じた箇所を中心に現地調査を行う。調査の主目的は、現場の被害形態、規模、周囲の状況などを目で見て確認する点にある。気象データ、地理情報、空中写真などの定量的・俯瞰的な資料の参照も必須だが、現地でなければ得られないものも確かにある。

 

 こうした筆者の視点からの記録はごく限定的なものに過ぎない。災害には実にさまざまな側面がある。制度的、行政的な記録も行われるが、それだけでなくさまざまな人達が災害現場を訪れ、さまざまな専門的視点から観察、記録、分析を行っており、その結果が被害軽減を図る上で大変重要な役割を果たしていると思う。

 

 今年も7月の九州地方での豪雨などの風水害が発生したが、新型コロナウィルス感染症の流行状況を考慮し、筆者は現地調査をすべて見合わせた。同様な判断は各所で行われたのではなかろうか。現地に赴く人を制限しても得られる視点もあるだろうが、現地を見る人が減る事で、例年なら記録に残されたかもしれない視点、知見のいくつかが、今年の災害においては残らなかった可能性はあるように思う。すぐに何か解決策を提示できるものではないが、感染症の流行にはこうした影響もあるのではないかという事は、念頭に置いておきたい。

 

【追記】

 

 本記事、ある種「課題の指摘」のような内容もあるので、「これこれすべきだ」といった「課題解決策」が入らないと収まりが悪い感じもあるかもしれませんが、適当な思いつき的「課題解決策」を上げるのが大変好きでないので、言及していません。「これこれすべきだ」的な事を口に(文字に)するのは、そのことに自分自身も一定の時間を割いて関わる覚悟があるときだけにしたい、と思っています。

 

 ところで記事やこの追記でも、当該の写真の場所についてぼやかした書き方をしているのは、最近では個々の被災現場について写真を多く公開したり詳しく言及したりする事をなんとなくためらうようになっているためです。以前はかなり多くの現場について10枚、20枚と写真を上げたりしていましたが、最近だと例えば下記のように(昨年の台風19号の現地調査)1つの現場について1,2枚で、漠然としたコメントを上げるスタイルが中心に。現場は見ているけど写真はあえて出さない事も増えました。

http://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-b4dc35.html

 このような判断の背景には、「よそものが被災地にカメラを向けるな!」といった声を感じるという事があるのですが、被災した様子を記録に残す事は意義があると今回も感じましたし、ためらいながらも、試行錯誤をしていくところかなと思っています。

 

※この記事はnoteにも書いています。

 

2020年11月24日 (火)

台風接近時の高潮発生 人的被害なくても注意

 高潮それ自体への注意喚起、というよりは、近年起こっていないタイプの災害にも要注意、というお話です。2020年9月30日付静岡新聞への寄稿記事です。

 
 
台風接近時の高潮発生 人的被害なくても注意

 

 台風や前線の活動などの激しい気象現象により生じる災害は風水害と呼ばれ、その形態には様々なものがある。筆者が調査している1999~2019年の風水害による死者・行方不明者(以下では犠牲者と略し基本的に関連死者を除く)1373人全体で見ると、土砂災害が44%、洪水など水関連が44%、強風・高波などその他が12%の割合である。令和2年7月豪雨の犠牲者は86人で8割弱は洪水などの水関連、昨年の台風19号では同88人の7割強が水関連と、この2事例では水関連犠牲者が目立った。しかし、平成30(2018)年7月豪雨では犠牲者230人のうち土砂災害が5割強、平成29(2017)年九州北部豪雨では同41人中土砂災害が5割強。被害形態はそれぞれの事例に特徴がある。

 

 風水害による被害形態のうち近年大きな人的被害がみられないのが高潮災害だろう。高潮は高波と混同されやすいが、繰り返し打ち寄せる波ではなく、台風などの接近時に海水面全体が高くなる現象である。特性は異なるが見た目では津波のような現象とも言える。高潮が生じると、海近くの低い土地では大規模な河川洪水と同様な状況になる場合があり、海岸付近では高潮と高波の双方の影響を受ける。

 

 高潮による人的被害は、2004年台風16号による高松市と倉敷市での3人以降発生しておらず、まとまった被害では1999年台風18号による熊本県不知火町(現・宇城市)の12人が最後である。高潮の発生自体は珍しくなく、近年の県内でも2017年台風21号の際に静岡市の由比漁港で漁港施設が損壊するなどの被害が生じている。

 

 高潮は干満の影響も大きく、同規模の高潮でも満潮時に重なるか否かで被害規模が変わってくる。先日の台風10号でも山口県の瀬戸内側などで高潮が生じたが、潮位上昇のピーク時刻が予想より3時間ほど遅くなった事で、予想されていたほどの潮位にならなかった可能性があることが9月16日の気象庁資料に示されている。

 

 高潮による人的被害が長く生じていないのは、防災対策の効果も少なくないと推測されるが、偶然の結果という面もあるだろう。私たちは、直近の災害事例に目が奪われがちだが、そうした災害だけが怖いわけではない。最近起こっていないタイプの災害にも注意を向ける事が重要ではなかろうか。

 

※この記事はnoteにも書いています。

 

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