2019年7月31日 (水)

時評=大雨の際の避難行動 流れる水に近づくな

  7月18日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.以前からいろいろな所でしている話です.「いかにもな話で人に教えたくなる防災豆知識」ではなく,基本に立ち返りましょう,という,ぼうさい熱心な人のお気持ちを逆なでする内容です.なお,記事で省略した事項について補足しました.

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時評=大雨の際の避難行動 流れる水に近づくな

 防災パンフレットなどで,「洪水時に歩ける深さは××cm」という趣旨の話を目にすることがある.これは誤りとまでは言えないが,命に関わる誤解を誘発しかねない危険な「防災豆知識」だと感じている.

 「××cm」という数字を見ると,「××cmまでなら大丈夫だな」と思いそうだが,その判断は適切でない.洪水時に人が流されてしまう条件は,水深だけでは決まらず,水深と流速の組合せによる.水深が浅くても,流速が速ければ流されてしまう.さらにこれは,年齢,体格などにも左右される.これらのことは,水の力に関する基本的な法則からも説明可能であり,実験結果もある.(*1)

 車も安全とは言えない.少し古いが,JAFが1984年に行った実験(*2)では,60cm冠水した道路に進入すると,30~40mほど走行したところでエンストを起こし,車は浮き気味になったという.この実験は静止した水中だが,流れがあれば浮き始めた車は流される可能性がある.実際の災害現場でも,道路外に流されて転送・損壊している車をよく見かける.

 1999~2018年の風水害犠牲者1259人について筆者が調査した結果では,全体の47%,594人が屋外(車中も含む)で亡くなっており,洪水に流されたり川に転落した犠牲者に限定すると71%が屋外での死者である.雨が激しく降る中での屋外移動は非常に危険性が高いことが示唆される.

 大雨の際に行動する上で何よりも重要な知識は「流れる水には近づくな」だろう.水深がどの程度などという知識はどうでもよく,流れている水に立ち入ると命を落とすかもしれない,という単純な知識で十分だと思う.水は少しでも低いところに向かって流れる.流れる水から逃れる方法は,少しでも高いところへ移動することだ.少しでも高いところであれば,目指すべき場所は避難場所であろうとなかろうと,どこでも良い.

 さらに重要なことは,流れる水に近づく状況に陥らないことである.早めの対応が第一で,数階建て以上の堅牢な建物や浸水の危険性が低い場所にいるなら,外出を控えることも避難行動の一つである.無論,大雨の時は洪水だけでなく,土砂災害にも目配りが必要だ.洪水時には水に勇気を持って立ち向かう必要性などない.水からは逃れなければならない.
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*1) この種の実験としては色々あるのですが,最近私がよく引用するのは,関西大学の石垣先生のもので,NHK「そなえる防災」に記事があります.

https://www.nhk.or.jp/sonae/column/20131219.html

 この記事中の図1は非常に重要で,流されてしまうかどうかが水深と流速の組合せで大きく変わるということだけでなく,「成人男性」「女性高齢者」など,年齢などでもかなり違いがあることを示しており,特定の水深「だけ」を覚え込むことの危険性をよく示しています.ただ,「歩くことが困難となる50cm」という記述があるのがとても残念です.前後をよく読めば,50cmを目安にしててはならないことが分かるのですが,「防災知識」を「分かりやすく」伝えようとする場面では,こうした記述「だけ」が要約されてしまうことが懸念されるので,ほんとうに残念です.

*2) JAFは近年も類似の実験をしていて,下記に動画付きで公開されています.

http://www.jaf.or.jp/eco-safety/safety/usertest/submerge/detail1.htm

http://www.jaf.or.jp/eco-safety/safety/usertest/submerge/detail2.htm

 ただ,これらのページには,冠水道路に進入した後,「車は浮き気味になった」という明確な記述がないので(動画から多分そうだろうと推測はできますが),古い実験の話を引用しました.引用元は,高橋和雄・高橋裕「クルマ社会と水害」(九州大学出版会,1987年)です.上記の石垣先生の記事中にも,「車の模型を用いた実験では、水深が40cm、流速が1.5m以上になると流れ出す」という記述があります.

20190729

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2019年6月 3日 (月)

「大雨警戒レベル」に関する補足的なメモ

●「警戒レベル4 全員避難」の頻度が増えるとは思えない

警戒レベルが導入されて「警戒レベル4 避難」の頻度が多くなる,という受け止め方をかなり良く耳にするのだけど,なぜそのように思うのかが分からない.

ガイドラインで例示される避難勧告などの発令基準は今回全く変わっていないから,避難勧告等の頻度が増えることは,少なくとも仕組みとしては考えられない.

あるいは,「避難勧告をためらうな」はもう数年前から言われていることで,今回から強調されるようになった訳ではなく,そうしたかけ声が今回から強化されて避難勧告等の頻度が増える,とも思えない.

ただ,気象庁が積極的に「土砂警出しました!,警戒レベル4相当ですよ!,避難を!」と言うらしいので,「警戒レベル4で避難だと呼びかけられた感」の頻度が上がる可能性はあるかもしれない.ただし,大雨警報や土砂警の頻度は下がる傾向らしいから一概には言えないとも思われる.


●「警戒レベルは誰が発令するのか」についての補足

避難情報などはどこから出るのか,という点を,避難勧告等ガイドラインの図に加筆してみました.

元図で,左右が青と緑に分かれているところも含意があって,河川や気象情報はあくまでも「住民が自ら行動をとる際の判断に参考となる情報」.警戒レベルそのものであって「住民に行動を促す情報」は,市町村から出る避難勧告等となる.

「いろいろな所から出て,その意味も順序も分からない」という「声」に答えてこの表が作られた,ということなんだと思う.

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●「災害発生情報」はどうなるんだろう

私が見る範囲で割に言及が少なくて不安を感じるのが,「警戒レベル5 災害発生情報」.これ,ガイドライン上では,はん濫発生情報が出たときに市町村が発令できることが明記されているだけで,他にはほとんど具体的なことは決まっていない.

たとえば,道路に土砂が出て物理的な通行止めが発生したら,十分「災害発生」になり得て,それを持って当該地域は「警戒レベル5 災害発生情報発表」になりうる.ただし,どのような状況で「発生」の線引きができるかは,はっきり言って誰にも分からない.

一方で,なんとなく「警戒レベル5」であるように感じそうな大雨特別警報は警戒レベル5そのものではない.特別警報が出たから警戒レベル5発令します,はダメ.ガイドラインでは,「大雨特別警報は、洪水や土砂災害の発生情報ではないものの、災害が既に発生している蓋然性が極めて高い情報として、警戒レベル5相当情報[洪水]や警戒レベル5相当情報[土砂災害]として運用する。ただし、市町村長は警戒レベル5の災害発生情報の発令基準としては用いない」と固く禁じられている.

警戒レベル5は,あくまでも市町村が出す(ことができる)「災害発生情報」だけ.大雨特別警報は警戒レベル5に相当する情報で,警戒レベル5ではない.

また,「災害発生情報」は必ず発表しなければならない情報ということではないこともなかなか分かってもらえないかもしれないと懸念している.「災害が発生したのに警戒レベル5にしなかった,警戒レベル5にしていれば避難して助かったのに」という批判は,ガイドラインの趣旨に照らして的外れ.

しかし,「大雨特別警報は警戒レベル5に相当する情報であって,警戒レベル5では断じてない」なんていう概念は,圧倒的な「誤解」の前に消し飛んでしまうんじゃないのかしら,とも思う.

しかしそうなると,市町村単位で警戒レベルが上下してしまうけど,「警戒レベルは市町村単位」というのも根強い誤解としてみられるので,この点も誤解に現実がついていくことになるのかも,とかも思う.

 

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2019年5月27日 (月)

時評=警戒レベル4で「避難」-能動的な行動を促す

5月22日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.今出水期から始まる風水害の「警戒レベル」についての簡単な紹介文です.

なお,風水害「警戒レベル」については,下記動画でも私見を述べています.
https://youtu.be/MP0cf8iNdag

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時評=警戒レベル4で「避難」-能動的な行動を促す

 市町村が出す「避難勧告」等については,内閣府の「避難勧告等に関するガイドライン」に整理されている.2005年の策定後たびたび改訂され,今年3月29日にも改訂版が公表された.

 今改訂では,避難の情報が「警戒レベル」という数値で整理されたことが特徴だ.「警戒レベル1~5」の5段階があり,数字が大きいほど危険性が高い.「警戒レベル」という新たな情報が発表されるようになったのではなく,既存の避難勧告などの情報が警戒レベル1~5のどれに位置するか整理されたと考えてよい.

 警戒レベル1は気象庁が発表する「早期注意情報(警報級の可能性)」,警戒レベル2は同じく「注意報」.通常の居住地域にいる人に行動の必要はなく,避難のための確認などの段階だ.警戒レベル3は市町村が出す「避難準備・高齢者等避難開始」.高齢者など避難に時間がかかる人や,危険性の高い地域の人はそろそろ避難を開始する段階.

 警戒レベル4は市町村が出す「避難勧告」および「避難指示(緊急)」だ.勧告と指示が一つのレベルであることが注目される.「勧告が出たが指示がまだなので大丈夫だと思った」などの声を聞くことがあるが,大変な誤解である.勧告の段階で相当危険性は高い.勧告,指示にこだわらず「警戒レベル4で避難」と理解してよい.

 警戒レベル5は,洪水や土砂災害などの発生が確認されてしまった段階.災害の発生は即時の確認が困難なことも多いので,警戒レベル5は「可能な範囲で発令」となっている.警戒レベル5を待ったり,出なかったことを批判するなどは見当外れと言っていい.

 警戒レベルとして整理された避難勧告などは市内全域で一斉に出るわけではない.危険性の高まった地区単位で出される.洪水,土砂災害の危険性がある地区はハザードマップなどで公表されており,日頃から自分の生活圏の災害の危険性を理解しておくことが極めて重要だ.また「避難=避難場所へ行くこと」ではなく,差し迫った危険から命を守る行動全般が避難行動であることも留意したい.

 ガイドラインは,様々な情報を活用した住民自身の能動的な行動の重要性を強く訴えている.被害の軽減は,我々自身の取り組みにかかっている.

 

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2019年3月18日 (月)

時評=命つないだ気仙中-津波想定 地道な訓練

3月14日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.東日本大震災時の岩手県陸前高田市立気仙中学校の生徒らの避難等に関する内容です.
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時評=命つないだ気仙中-津波想定 地道な訓練
 
 東日本大震災時,岩手県沿岸部のある中学校.校舎は標高約2メートル,河川の堤防脇で河口からは300~400m程度と,ほぼ海岸付近.地震発生直後,生徒らは日頃の訓練やこれまでの地震時と同様に,標高約10メートルの広場へ避難したが,川の水位が下がったのを見てさらに高所を目指し裏山へ避難,林内で場所を変えつつ,近くの公民館に移動し二晩を過ごし,3日目に被害を受けなかった小学校に入った.中学生たちが通っていた3階建て校舎は屋上まで津波に覆われ,学区内では全世帯の79%が全壊,260人が死亡または行方不明となったが,在籍の生徒・教職員約百人は,欠席者も含め全員が無事だった.
 
 「今頃何を言っているんだ,先進的な防災教育が実践されて子どもが助かった有名な話じゃないか」と思われるかもしれない.おそらく多くの人が記憶しているのは,岩手県釜石市鵜住居地区の釜石東中学校の話かと思われる.上記の話はそれではない.岩手県陸前高田市気仙町(けせんちょう)の気仙(けせん)中学校(2018年3月閉校)でのことである.
 
 気仙中の話を見聞きした方は少ないだろう.たとえば朝日,毎日,読売を検索すると,この話を報じる記事は8年間に6件,そのうち全国面記事は2件のみ,静岡新聞では残念ながら確認できなかった.
 
 文科省「東日本大震災における学校等の対応等に関する調査」によれば,ハザードマップなどで津波の浸水が予想されていた場所または実際に津波が到達した場所にあった学校は149校,うち津波による死亡・行方不明の児童生徒がいた学校は20%で,犠牲者の多くは下校中に津波に見舞われたものと記されている.痛ましい被害が生じたことは間違いないが,一方で少なからぬ児童生徒の命が助かった事も忘れてはならないだろう.
 
 気仙中の当時の校長は,津波を想定した避難訓練や津波体験者の防災講話を毎年実施していたこと,生徒達が津波の恐ろしさと避難の大切さを聞かされ続けて育っていたこと,これまでの津波警報等の際にも実際に避難してきたことなどを記している(岩手県教育委員会東日本大震災津波記録誌).気仙中のようなことは,三陸地方では例外的な話ではないと筆者は思う.地道で,息の長い積み重ねが重要ではなかろうか.
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 それぞれのお考えによって,おそらくこの文章を当方の意図とは異なる方向でとらえる方がきっといると想像される話題なので,いくつも注記しておきます.
 
 まず,私は,いわゆる「釜石の奇跡」(その後この言い方が推奨されていないことはよく知っていますがあえて「わかりやすく」するために使います)と呼ばれる事象について否定的な意見は持っていません.また,その立役者とされる当時群馬大,現東大の片田先生に対しても批判的な気持ちは全くありません.片田先生とは20年ほどの付き合いで,私にとって数少ない「価値観を共有し信頼できる災害研究者」であり,「盟友」(私がだいぶ年下ですが)だと思っています.
 
 いわゆる「釜石の奇跡」がよく知られる一方で,あたかも釜石だけで子どもが助かり,他の地域ではそうではなかったかのように思われているのではないか,と感じることがあり,今回の寄稿に至りました.
 
 また,釜石を含め,子どもが助かったケースが少なくないのだから,助けられなかったケースの方はミスである,といった言説に共感するものでもありません.
 
 気仙中学校の状況については,震災発生1カ月後くらいにはあらましのことは耳にしていましたが,これまであまり明示的に文章にしたことはありませんでした.というか,様々な気持ちから,ためらい続けてきました.8年たって,やっとためらいの程度が少し下がったようです.
 
 なお私自身は,震災前,震災後ともに気仙中学校と直接的なかかわりがあったわけではありませんので,同校内のことについては特に知識はありません.
 
 気仙中学校は震災後7年間,別の場所を仮校舎として継続し,2018年3月に閉校しました.一方,震災前に使われていた同校の校舎は,いわゆる震災遺構として保存されることが決まっており,現在も震災発生直後に近い姿を目にすることができます.この場所はいずれ「高田松原津波復興祈念公園」の一角となる見込みです.
 
 なお,私はいわゆる災害遺構の保存については,推進すべきとも,すべきでないとも,どちらとも思いません.多くの人が賛同できるなら残すのもよし,そうでないならば撤去するのもよしだと思います.「災害遺構は当然保存すべきだ,お前らは意識が低い,あとで後悔するぞ」みたいなことを言う「学識者」に対しては怒りを覚えます.
 
 遺構保存には,将来にわたって社会的な負担が生じると予想され,大変な面もあると思います.維持が困難となる局面もあるかもしれませんが,それはそれでやむを得ないかもしれないと思っています.そこにかかわる多くの人たちによって,考えていくしかないだろうと思っています.

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2019年1月23日 (水)

「防災豆知識」に要注意

日本災害情報学会のNews Letter No.76(2019/1)に,次の寄稿をしました.「防災熱心な方」に対する嫌みです.

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柔軟な防災を
 
 防災に関する「豆知識」が世に溢れている.なんらかの「教訓」に基づく「豆知識」も多いが,机上の空想ではないか,と思うような「豆知識」もある.「豆知識」は頭に入りやすい(ように工夫されているというべきか).「防災を学んだぞ」という達成感にも寄与しそうだ.学んだ「豆知識」を人に教えたい,という善意の気持ちにもつながりやすそうだ.
 
 「豆知識」には要注意と私は思う.災害には様々な姿がある.特定事例の「教訓」に基づく「豆知識」でも,次に起こる事例の際には負の効果を生むこともあり得る.「わかりやすく」する過程で致命的な誤認が紛れ込むこともある.どこかで教わった「豆知識」を振り回し,「こうしなければならない」と教えたがる「教条的防災」には十分注意せねばならないと思う.
 
 防災は易しくない.幅広い知識,見識を培い,柔軟な視点で取り組むことが必要だと思っている.
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なお,News Letterのバックナンバーは,約1年遅れで公開されています.関心をお持ちの方は下記をご覧ください.
 

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2019年1月 7日 (月)

2019年 新年のご挨拶

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謹んで新春のご挨拶を申し上げます.

 
災害と,社会に向き合うことに疲れを感じつつあります.ことに,「社会」と向き合うことには疲れ果てました.できる限りやるしかないと思っておりますが,どこまでもつものやら.
 
ご指導,ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます.
 
(写真:東武ワールドスクエア)

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2018年9月14日 (金)

時評=西日本豪雨の避難情報ー早期勧告 生かされず

 9月5日付け静岡新聞「時評」欄に下記記事を寄稿しました.平成30年7月豪雨に関しての「(避難勧告が出ていたのに)避難指示への切り替えが遅い!」という批判に対する違和感を書いたものです.
 
これまでの「時評」記事
 
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時評=西日本豪雨の避難情報ー早期勧告 生かされず
 
 平成30年7月豪雨に関する様々な報道の中で「避難指示が遅かった」といった趣旨の論調が見られたことが気になった.たとえば7月15日付読売新聞は,主に洪水により死者52人(8月14日現在)が生じた岡山県倉敷市の市長記者会見を伝える記事中で「6日深夜から7日未明に出した避難指示の判断が遅かったとの声もあるが、『市として、その時にできる判断をしたと思っている』と述べた」と,やや批判的に報じている.
 
 避難に関する情報は「避難準備・高齢者等避難開始」→「避難勧告」→「避難指示(緊急)」の3段階が用意されている.避難準備は,避難に時間のかかる人や危険な場所にいる人の避難開始を,避難勧告は対象地域全員の速やかな避難を,避難指示は極めて危険な状況であることから直ちに避難を,それぞれ呼びかけるものだ.なお「避難」とは「避難所へ行く」事だけではなく,差し迫る危険から様々な手段で安全確保を図ることを意味する.
 
 避難準備は早期の行動開始を促すいわば予備的とも言える情報だが,避難勧告と避難指示は何らかの安全確保行動の実施を明確に呼びかけるかなり重い情報である.それゆえに,空振りを恐れるなどして避難勧告の発令をためらううちに被害が生じたケースが相次いだことなどをふまえてガイドラインの整備が進み,ここ1,2年は避難勧告が早期に出るようになった.
 
 倉敷市では同市真備地区全域に避難指示を出したのが,堤防からの越流・決壊が生じ始めた後の7月7日01時30分だったことが批判されているが,その数時間前の6日22時にすでに避難勧告は出されていた.
 
 倉敷市のケースは例外的ではなく,今回の豪雨では比較的早期に避難勧告が出されていたケースが他にも見られている.災害後に避難勧告が出ることもしばしばあった数年前と比べれば飛躍的な改善とも思える.この状況下で「避難指示が遅い」と批判するのは,避難勧告の軽視のようにも感じられる.
 
 気象情報や避難の情報は,その精度を高める,早期に出すなどの改善を図っても,情報の受け手である我々国民が活用しなければ効果を発揮しない.被害軽減のために,我々自身も最善を尽くすことの重要性がますます高まっているのではなかろうか.

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2018年7月17日 (火)

「流れる水には近づくな」「土砂災害の前兆に頼るな」

 もう少し書こうかと思ったけど時間が無いので,先日のツイートにすこしだけ加筆.
 
 よく防災パンフレットなどで目にする記述,「徒歩での避難が難しくなるとされる50センチ」.これはとても危険な知識のように思う.このような伝え方をすると,「50cmまでなら歩ける」と思われてしまいそう.流速が速ければもっと浅くても流されるし,体格や年代性別によってもだいぶ話が変わる.

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このあたり,詳しくは関西大学の石垣先生が以前に書かれたコラムが参考になる.
 
 防災上の知識として単純化するなら「人も車も簡単に流される.流れる水には近づくな」でよいと思う.普通の人にとって,水に勇気を持って立ち向かう必要は無い.水からは逃れないといけないと思う.

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 でもそう言うと必ず怒り出す人がいて,「実際に水に取り囲まれたらどうするのか!,運動靴!,ロープ!,探り棒!」とかいう話に.そんな状況にならないように早めの行動をする事が何よりも重要.どうしてもだめなときは,少しでも高いところに逃れる.つまるところ,「最善を尽くす」しかない.
 
 これとよく似た「危ない防災知識」が,「土砂災害の前兆現象」だとおもう.これについては最近のコラム記事を参照ください.
 
時評=土砂災害-「前兆」頼りすぎるな

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2018年7月 6日 (金)

時評=災害時の安全確保-状況応じた避難が鍵

7月5日付け静岡新聞「時評」欄に下記記事を寄稿しました.「避難場所を覚えろ」といった声や,避難所への誘導がりをしたがる人に対する違和感を記事にしたものです.
 
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時評=災害時の安全確保-状況応じた避難が鍵
 
 「避難場所を覚えましょう」とよくいわれる.間違いとは言わないが,危ない面があると常々違和感を持っている.
 
 「避難とは避難場所へ行くこと」との単純な理解に様々な問題があることが近年指摘されている.内閣府「避難勧告等に関するガイドライン」では,「『避難行動』は、数分から数時間後に起こるかもしれない自然災害から『命を守るための行動』である」とし,形態として,①指定緊急避難場所への立退き避難,②「近隣の安全な場所」への立退き避難,③「屋内安全確保」を挙げている.命を守るための行動が重要であり,「避難場所へ行くこと」はその手段の一つに過ぎない.
 
 「避難所」の意味についても整理が進んでいる.現在の制度では,指定避難所「災害により住宅を失った場合等において一定期間避難生活をする場所」,指定緊急避難場所「切迫した災害の危険から命を守るために避難する場所」の2種がある.「命を守るための行動」で向かうのは主に指定緊急避難場所と言えるが,指定避難所と指定緊急避難場所が位置的に同一なことも多く,「避難所へ行くのは間違い,指定緊急避難場所へ行きなさい」とは単純に言えない.
 
 災害の種類により適切な避難場所が異なることも要注意.例えば低い場所の平屋や広場は,地震災害時ならばよいが大雨時の適切な避難場所とは言えない.各避難場所は,どの災害時に使うかが決められている事が多い.「避難所か,指定緊急避難場所か」より,「その避難場所はどの災害時に使うのか」を知る方が重要だ.
 
 そもそも避難の意味が災害によって異なる.地震災害では基本的に事後避難となる.自宅で暮らせなくなった場合に避難するのであり,自宅が健全ならば避難所へ行く必要もない.津波の場合は避難場所かどうかに関わらず,少しでも速く高いところへ移動することが重要.洪水や土砂災害では場所や状況により話がかなり変わる.また,災害種別ごとに指定された避難場所でも,予期せぬ危険に見舞われることもある.避難場所で安心してしまわず,状況を見つつの判断も重要だ.
 「避難場所を覚える」ことよりは,「避難の仕方を覚える」ことの方が,いざというときに応用が効くのではなかろうか.

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2018年6月 9日 (土)

気象防災ワークショップについての追記

5月21日に,
 
気象庁「地方公共団体防災担当者向け気象防災ワークショッププログラム」
というブログ記事を書きましたが,これについて追記.
 
その後,「気象庁地方公共団体防災担当者向け気象防災ワークショップ」について紹介する機会があって,その際にまたこの図のようにネガティブな紹介の仕方をしました.さらには「みんなでわいわいおもいつきの話し合い,ではダメです」なんて話までいたしました.

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ワークショップ的な取り組みに絡んでよく出てくる「気づき」っていう言葉が,私は大嫌い.で,「気づきの何がいけないんですか?」という人とは仲良くなれない,というのも経験的に判明しています.別に排除しようとは思いません.考えは多様であるべきですから.私は受け付けない,というだけのことです.
 
気象防災ワークショップについて重要だと思うこと.「人の命にかかわるテーマに関する議論を行うことになるため、ワークショップの実施にあたって技術的な知見からの助言が不可欠です」(気象防災ワークショップ運営マニュアルより)
 
つまり,参加者+自治体防災担当者はまず基本として,そこに加わる「専門家」は「ワークショップの専門家orコミニュケーションの専門家orまちづくりの専門家or訓練の専門家or計画の専門家」など『だけ』ではダメです,というのが私の意見.何らかの技術的・理工学的バックボーンを持った人の関与が必須でしょう,と思います.
 
ここでいう「何らかの技術的・理工学的バックボーンを持った人」の具体像は難しいけど,このWSでまず相談するなら気象台かなと.あとは自治体の技術系部署などが声をかけやすいところかと.このあたりは場合によりにけりでしょう.民間はダメということではなく,なんらかの「技術者」であることが重要という話.具体的には本当にケースバイケース.
 
それと,ワークショップ実施で「人を動かす」なら,ちゃんとお金も動かして欲しいもの.「ソフト防災=簡単・無料」と思われる雰囲気はなんとか変えていかないと,構造的に持たないと思う.「いいことやるのだからボランティアで」じゃ困る.
 
こういうこと言うから,「防災に熱心に取り組んでいる人」から嫌がられるのだ,ということは存じております.

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より以前の記事一覧