2007年8月21日 (火)

災害調査・長さを測る

災害調査において,何を「測る」かは専門分野によるが,比較的共通する項目として,「なんらかの長さを測る」がある.例えば,泥流の流れた距離を測る,崩壊した斜面の幅や高さを測る,洪水による浸水の深さを測るなど,測るものの規模も様々である.

何かを測る上では,測量関連の知識や道具がある程度役に立つ.ただ,測量というと,誤差を補正したりして,精密に測らなければならないというイメージがある(これは筆者のように学生時代に中途半端に測量を学んだものの思い込みかも知れないが)が,災害調査の場合は,ラフな値でも必要十分であることが多い.

例えば,崩壊の幅や破堤した堤防の長さなど,水平方向の長さの情報は(よほど局所的に厳密な検討をするのでない限り)最小単位1m,誤差±5m程度,洪水や津波の浸水痕跡など,鉛直方向の長さ(深さ)の場合でも最小単位0.1m,誤差±0.2mくらいが得られれば,ほとんどの用途は満たすであろう.

無論,測定値の精度は,調査目的によっても変わってくることには注意しなければならない.しかし,上記程度の精度であっても,量的な情報が得られているのと居ないのとでは,災害調査報告としての価値に大きな差があると言っていい.長さに限った話ではないが,災害調査報告では,簡単な指標で構わないので,量的な情報を盛り込むことを心がけたい.

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2007年8月11日 (土)

改訂・緊急災害調査の心得(6)

◆「できる範囲のことをする」ことが重要

 緊急災害調査では,調査時間も,資料整理・報告までの時間も限られていることが多い.したがって,あれもこれもと欲張った調査をするのではなく,情報収集,現地踏査とも,できる範囲内で得られたものを最大限に活用するよう努力するのが基本であろう.幸い,近年は多量のデータを迅速に入手することが容易になっている.災害直後に,インターネット上に掲示されている程度の情報を,あらためて相手方に電話をかけてFAXや郵送を依頼するような行為は,現代では迷惑行為であると断言できる.
 現代は,基礎的情報,被害情報,学会の動きなど多くの情報がインターネットを通じて流通するようになった.もはや,災害関連の情報は,特別な人のところに「集まる」のではなく,「集める」時代になったと言っていい.「できる範囲のことをする」とは言っても,その「できる範囲」は大きく広がっていると言えよう.

◆参考となる図書

 災害調査全般については,「自然災害調査の基礎」(水谷,1993)が,ほとんど唯一の良書である.洪水,土砂災害,地震,火山など幅広い災害事象ごとに,資料収集から現地調査などの方法を概説している.
 このほかは,それぞれの分野ごとの「調査法」に関する図書のなかから,その災害調査に関連する事項を探索して,参考にするということになる.筆者自身が参考になると思う図書としては,以下のものが挙げられる(発表年順).拙著も含まれているが,ご容赦いただきたい.

池谷浩:土石流対策のための土石流災害調査法,山海堂,1980.
松村和樹ほか:土砂災害調査マニュアル,鹿島出版会,1988.
水谷武司:自然災害調査の基礎,古今書院,1993.
正井泰夫・小池一之編:卒論作成マニュアル,古今書院,1994.
新井正:水環境調査の基礎,古今書院,1994.
牛山素行ほか:身近な気象・気候調査の基礎,古今書院, 2000.
佐藤郁哉: フィールドワークの技法,新曜社,2002.
大谷信介ほか:社会調査へのアプローチ 第2版,ミネルヴァ書房,2005.

 「調査法」は人により,対象により,様々である.災害調査にとって何より重要なことは,「調査法の教科書」を絶対視せず,その時々の調査目的に応じて,「この目的のためには何を調べればよいか」を考えることであろう.

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2007年8月 7日 (火)

改訂・緊急災害調査の心得(5)

◆現地で(2)  -人の話を聞く-

 被災地の行政機関,被災者などから話を聞くことによって有益な情報が得られることは間違いないが,トラブルに遭遇する可能性も高い.怒鳴られたり,なぐられたりするくらいのことはあるものと覚悟した方がよい.まず,相手が会話に応対できる状態かよく見極めて,手短に話を聞くよう心がけたい.また,名札を着用したり,所属機関名のついたヘルメットをかぶるなどして,自分の素性を相手にはっきり理解してもらえるようにすることも必要であろう.

 行政機関も,災害発生直後は混乱を極めており,災害後少し時間がたってから(災害の規模や機関にもよるが,1週間~1ヶ月後くらい)たずねることが望ましい.どうしても災害直後に話を聞きたい場合は,役所内のカウンターでの立ち話程度にとどめておき,後日電話や文書であらためて尋ねるなどの方法をとった方がいいだろう.

◆現地で(3) そこでしか入手できない資料を探す

 これは,条件的に可能であればのことであるが,「現地でなければ手に入らない資料」,あるいは,「現地の方が簡単に手に入る資料」の入手にも気を配っておきたい.最近では「現地でなければ手に入らない資料」は減りつつあるが,それでも現地ならではの資料は少なくない.現地の役所や避難所で配布,掲示されているが,ネット上には出てきていない「お知らせ」や,「被害状況報告」などは代表例だろう.もらって差し支えのないものはなんでももらってくるくらいの気持ちでいた方がいいだろう.

 「現地の方が簡単に手に入る資料」の例としては,その地域の地史など郷土資料が挙げられる.この種の資料は,現地の図書館に立ち寄ることができれば,必ず集積された棚があるので効率よく参照できる.遠隔地でも,図書館の相互貸借や国会図書館の利用などの方法で参照できないわけではないが,非常に手間がかかるし,予想外の資料を発見することはほとんど期待できない.

◆現地で(4) 測る

 緊急災害調査の主な目的の一つとして,何かを「測る」事が挙げられる.何を測るかは,それぞれの調査者の専門分野,関心の内容によってまったく異なるが,共通して言えることは,「すぐに消えてしまう情報を優先的に測る」ということであろう.たとえば,洪水などの浸水痕跡は,1週間も経過するとほとんど分からなくなってしまう事も珍しくない.調査目的に応じ,計画的に「測る」事が重要である.

 一昔前は,「災害調査=Hazardに関わる何らかの物理量を測ること」であり,その「測定」の結果を整理して,Hazardのメカニズムを解析,説明するのがすなわち「災害研究者」であったようなイメージを筆者は持っている.現代でも,Hazardのメカニズムを「解明」する事はもちろん必要なことであり,今後も取り組まれるべきだと思うが,災害そのものを観察する事にももっと力が注がれるべきではなかろうか.Hazardを観察するだけではなく,災害そのものの姿を明らかにするためには,なにを「測」ればよいのか,これについては,筆者にもまだ明確な方向が見いだせていない.

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2007年8月 6日 (月)

改訂・緊急災害調査の心得(4)

◆現地で(1) -まずたくさんの事実を見る-

 現地では,まずは可能な限り多くのものを見ることを心がける.カメラ,ビデオ等でなるべく多くの映像に残しておくといいだろう.撮影は過剰だと思えるくらい多くしておく方がよい.現地では多くのものを見たつもりでいたのに,映像に残っていなかった,ということがしばしばあるためである.筆者の場合,災害直後の現地調査では,1日あたり100~200枚程度の撮影を行っている.

 いまさら言うまでもないことだが,このような場面では撮影枚数を気にしなくてよいデジタルカメラが必須であろう.どのようなデジタルカメラがよいかは,調査目的や,調査者の慣れなどによるので一概には言えない.筆者の場合は,極力小型軽量で,手ぶれ防止機能に優れたものがよいと思っている.工事現場用の防水・防塵性に優れたものも魅力があるが,概ね大きくなってしまうので筆者は使用したことがない.通常のデジカメもそう簡単には故障しないと思うが,最も可能性があるとすれば落下による破損,水没であろう.これに対しては,カメラにストラップをつけて首からかけておけば概ね防ぐことができる.究極の故障対策としては,予備のカメラを持つことも考えられる.

 

手ぶれ防止機能は,薄暗くなってもそれなりの写真が撮影できる点が魅力的である.災害調査では,広い範囲を撮影したいことが多いので,ストロボだけでは効果が期待できない場合が少なくない.また,手ぶれ防止の代わりに高感度化しているタイプのカメラ(あるいはフィルム)もあるが,高感度で暗いところを撮影すると,非常に汚くなるので,あまり奨められない.

 撮影場所はこまめに記録しておくことが望ましいが,限られた時間では手が回らないことも多いので,地図上に移動ルートを書き記しておくだけでもよい.GPSを持っていれば,自分の移動ルートと時間を自動的に記録でき,撮影場所を記録することもできるのでさらに便利である.

 なお,被災家屋や被災者個人を撮影対象とするときは,相手の承諾を得るなど,細心の注意が必要である.どうしてもやむをえないとき以外は,遠景にとどめるなどの工夫が必要だろう.

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2007年8月 2日 (木)

改訂・緊急災害調査の心得(3)

◆調査計画を立てる・準備する

 災害の大まかな発生状況が理解でき,自分自身が何らかの調査活動を行う必要があると考えたら,具体的な調査計画を立てることになる.まずはっきりさせる必要があるのは,グループ調査をするのか,単身調査かである.グループ調査は,現地での活動の際にお互い助け合えることや,移動を効率よくできること,資料収集の効率が上がることなどメリットが多いが,日程調整が必要で迅速に動けない場合があることや,必ずしも自分が見たい場所を回れないこと,現地へ迷惑がかかりやすいなどのデメリットがある.単身調査の場合は何かと自由が利くことがメリットである.

 次に,移動手段を決める必要がある.このあたりは,調査者自身の事情や,必要な機材の多寡などの関係もあり,一概には言えないが,多くの場合は自動車の利用が中心となるだろう.無論,ほとんどの場合,災害直後の被災地の道路事情は混乱を極めているので,特に都市部の災害を調査しようとする場合は,公共交通や徒歩で移動できる範囲をまずは計画するという方向性もある.道路状況などの把握も,事前情報収集の範囲内である.

 筆者の場合,被災地に最も近い大都市まで航空機,新幹線などの公共交通機関で行き,そこでレンタカーを借りて現地入りするというスタイルがほとんどである.これは,筆者の災害調査では迅速性が最優先されることと,筆者自身が長距離の自動車運転が苦手なためである.一例として2004年の「平成16年福井豪雨」の際の筆者の行動を示す.なお,当時筆者は仙台在住であった.

7月18日
午前 福井県内で豪雨発生
午後 降水記録,被害記録の整理.筆者の観点からも「大規模」事例と判断.現地調査の準備,交通機関予約手配.
7月19日
6時頃 仙台発,東北新幹線で東京へ
11時頃 羽田発,空路,小松空港へ
12時頃 小松空港着,レンタカーで福井市内へ
13時頃 福井市内着,以降,付近を車&徒歩で移動
16時頃 現地(美山町付近)発
17時頃 小松空港着,17時半頃小松発,空路で仙台へ
18時半頃 仙台空港着

 この時の現地調査では,被災直後の現地観察が主たる目的で,訪問すべき箇所としては以下の付近を考えていた.

・福井市街の足羽川破堤箇所
・破堤箇所周辺の観察,浸水深などの記録
・足羽川中流域谷底平野部の被災状況
・山間部の土砂災害の状況

 このときの現地調査の状況は,下記に整理してある.

平成16年7月福井豪雨災害 研究関係情報
http://www.disaster-i.net/disaster/20040718/

 現地への携行品は,自分の専門分野に応じた機材のほか,地図,カメラ,野帳,雨具,食料,飲料水(水筒)などが挙げられよう.専門的な調査での地図というと国土地理院の地形図を考える人が多いかもしれないが,災害調査では,広範囲の地図をまとめて携行しやすく,各種の施設や目標物を確認しやすい冊子体の道路地図も案外便利である.飲食物は忘れがちであるが,災害直後は都市部であっても飲食物が入手しにくい場合もあるので,現地調達を前提とせず,軽い登山をするくらいのつもりで用意した方がよい.服装は作業着やスポーツウェアなどがよい.活動的になれることはもちろんだが,現地にいる人と同様な服装になることによって,無用な心理的摩擦を避ける意味もある

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2007年8月 1日 (水)

改訂・緊急災害調査の心得(2)

◆まずは動かず情報収集

 緊急災害調査には,迅速性が重要である.しかし,災害発生(あるいは開始)直後は,まずは自分の本拠地に腰を据えて,でき得る限りの情報収集を行い,「どこで,何が起こっているのか」を掌握することが必要である.かつては,災害直後の情報源はテレビ,新聞程度しかなかったが,現在はインターネットでかなりの情報を得ることができる.インターネット上の定番的なページの参照や簡単な検索で分かる程度の情報を得ずに闇雲に現地に行くのは,無駄足が多くなるといってももはや過言ではない(無論,調査目的にもよるが).

 まず見るのはいわゆる「ニュース」である.現代では,「ニュースを読む」とは,紙の新聞を読むのではなく,Webサイト上のニュース記事を読む事と理解してよく,災害時のニュース参照は特にそうなってきた.「災害時の紙の新聞記事をスクラップにする」という活動は,以前は意義があったが,現代ではもはや無駄な労力だと思う.ネット上に載らないローカル記事を保存するという意味に限定すれば意義があるが,全国紙の「紙」の記事をスクラップすることはもはやお奨めしない.そんな時間があるのならば他のことをした方がよい.

 全国紙の記事は,Yahoo!やgooなどのニュースページを見れば,無意識のうちに「比べ読み」できる.特定のキーワード(被災地の細かな地名など)が把握できれば,ニュース記事に限定した検索が効果的である.Yahooならばニュースページ内の検索窓で「ニュース記事」だけを対象に検索する.Googleならば Googleニュースからの検索をする.災害時のニュースとしては,地方紙の記事が大変有用である.YahooやGoogleから地方紙の記事も検索できるが,うまく引っかからない場合や,引っかかりすぎて逆にたどり着けないこともある.地方紙自身のサイトを直接見た方が手っ取り早いことも多い.

 web上のニュース記事は,一定期間が過ぎると消されてしまうことが多く,短いケースでは1日と保存されないことがある.参照した記事は電子的に保存すべきである.筆者の場合は,PDFとテキストの2形式で保存することが多いが,このあたりはそれぞれの環境や慣れにもよるところだろう.

 全国の被害状況の概要は,総務省消防庁サイトの「災害情報」ページに掲載される,災害事例毎の統括表が「原典」と言っていい.

総務省消防庁「災害情報」ページ (2007年)
http://www.fdma.go.jp/bn/2007/index.html

 ここには都道府県別の集計値が載るので,市町村毎の被害状況を知りたいときは,被災地の都道府県庁サイトを参照する.掲載方法や「探し方」は県によって大きく異なるが,全く発表されないということはまずなくなったので,ちょっと探して見つからないからとあきらめず,「必ずある」と確信を持って探す.他にも,内閣府防災担当,国土交通省河川局などのサイトにも詳しい被害状況などの情報が掲載される.

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2007年7月31日 (火)

改訂・緊急災害調査の心得(1)

◆はじめに

 災害調査とは言っても,調査手法自体は,一般的な地質調査,社会調査などと大きく変わるものではない.個別の調査項目に関する具体的な調査法は,それぞれの専門分野の参考書を参照すればよい.フィールドワークと呼ばれる仕事の経験者であれば,その経験をもとにした災害調査を行うことは技術的には容易であろう.

災害調査が一般的なフィールドワークと異なる点としては,(1)調査の対象となる事象が非常に早いスピードで変化すること,(2)調査対象に関して深刻な利害関係を持った人が数多く存在していること,などがある.すなわち,迅速性が重要であると同時に,慎重な調査姿勢が必要な,やや二律背反的な難しさを持つ調査であると考えてよい.ここでは,研究者・学生などを主な対象として,災害発生直後の調査(緊急災害調査)を中心に,調査時の留意点を整理してみたい.

◆前提の心構え

 特に災害発生直後の被災地において,被災者でもなく,公的機関でもなく,救援関係者でもない,「災害調査を目的とした人間」というのは,率直に言って単なる邪魔者であることを,まず自覚しておくべきである.調査内容によっては,被災者との間にトラブルが生じることも珍しくない.中途半端な気持ちで被災地を訪れるべきではない.現地では種々のトラブルに遭遇することを想定し,少しでも迷惑にならないよう心がけてから調査に取り組むべきである.

 無論,「被災者でもなく,公的機関でもなく,救援関係者でもない,災害調査を目的とした人間」も,明日の防災のためには必要な存在である.回りからの白い目に耐え,「自分は邪魔者である」という自責の念と戦いながら,「自分にしかできないこと」を遂行する使命感は持たなければならない.

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災害調査法

最近,災害調査や,災害に関連する調査研究の「やり方」を人に説明する機会が増えてきました.断片的なメモを作ったりすることもありますので,ブログ上でも「災害調査法」に関するメモを作っていこうかと思います.想定される内容は,調査道具の紹介,調査手法の紹介などです.

まずは「概論」がほしいところです.少し昔になりますが,

牛山素行,2001,緊急災害調査の心得,月刊地理,古今書院,Vol.46,No.4,p.10-16

として書いたものがありますので,これをもとに,現在は事情が変わったところや,私自身の考え方が変わったところを加筆修正して紹介したいと思います.

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