自然災害を学ぶ(1.私のバックグラウンドと専門領域)
(牛山素行,2007:自然災害を学ぶ,自然災害科学,Vol.25, No.5, pp.442-444. より)
1.私のバックグラウンドと専門領域
筆者の現在の専門領域は,豪雨災害を中心とした自然災害科学と,災害情報学である.「気象学」や「水文学」ではなく,「自然災害科学」などという「専門領域」があるのか,というご意見もあるかと思われるが,筆者は,Hazardを専門とするのではなく,災害そのものを専門としたいと考えており,「専門は?」と問われたときは,上記のように答えることにしている.
筆者が災害や防災に関心を持ったのはいつ頃からかは分からないが,少なくとも小学校高学年時には,台風通過時に天気図を書いたり気象観測を行ったりしていた記憶がある.観測はかなり好きな遊び(?)であり,比較的測りやすい気温などとともに,降水量も自作の簡易雨量計で観測していた.はじめて現実の災害を目にしたのは,中学3年の時である.筆者は当時長野県の諏訪湖付近に住んでいたが,この年,台風にともなう豪雨により,諏訪湖が溢水し周辺の市街地が広範囲にわたって浸水した.自宅は被災しなかったが,この激しい現象に強い関心を抱き,浸水した地域を踏査した.この時見たり経験した様々なことが,結果的にはその後の筆者の生き方を決めたように感じている.
大学は,信州大学農学部の森林工学科に入学し,砂防工学系研究室に所属した.もっとも,砂防そのものはあまり研究したことがなく,学部の頃は雨氷という着氷現象の一種による森林被害に関する研究を行っており,気象観測や,被害林分に関する統計解析などを行っていた.博士課程では,豪雨災害による被害の統計解析や,当時萌芽期にあったネットワーク通信による(人と人との)災害時の情報交換に関する研究を行っていた.このようなことをしていた学生を置いてくれた,当時の先生方には本当に感謝している.
学位取得後,ポスドクとして東京都立大学の地理学教室にお世話になった.当時の仕事は災害と関係ないものだったが,もともと関心のあった地理学の専門家と身近に接し,議論を交わすことができた事はたいへん有意義だった.その後,京都大学防災研究所にポスドクとして異動することができた.この時に所属したのが土木の水文系の研究室(当時は洪水災害分野)であり,以来,土木分野の仕事が多くなっていった.京大の後にお世話になったのが,東北大学災害制御研究センターの津波工学研究室だった.地震系のハザードについては素人同然であり,津波そのものの研究をしたわけではなかったが,津波災害に伴う避難など,災害と人の関わりに関する調査研究を行う機会を与えていただいた.現在所属している岩手県立大学総合政策学部は,いわゆる学際系の学部であり,そのなかで,地域災害論という,災害そのものについての専任教員として活動させていただいている.
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