自然災害を学ぶ(2.どのように学んできたか)
(牛山素行,2007:自然災害を学ぶ,自然災害科学,Vol.25, No.5, pp.442-444. より)
2.どのように学んできたか
「自然災害科学」が学問領域として必ずしも確立されていないためなのか,「自然災害科学の基礎的教科書」と呼べるものは,現在でもごくわずかである.筆者の学生時代には更に少なかったように思う.「災害について学びたい」という気持ちは学生時代から強かったが,そもそも「災害について学ぶ」ということはどういう事なのか,何を学べばよいのかがわからず,既に体系化された様々な学問分野のなかから,手探りで材料を探し,学んできたのが実態である.「災害を学ぶためには具体的に何を学ぶべきか」というテーマは,現在の筆者にとっても,まだ未解決の課題である.
どのように学ぶべきかの指針が存在しない以上,学ぶためには,自分が関心を持った「災害関係の調査研究文献」を読み,その中で使われている知識について探索していくしかなかった.学会の口頭発表を聞くのも,そういった探索の効率的な手法の一つであった.より小規模な研究会に参加することも効果的だった.筆者は学生時代,東京地区の気象・気候系の学生・若手研究者で構成されていた「気候コロキウム」という研究会に参加していた.毎月1回の例会があるのだが,その場での濃密な議論は,極めて刺激的だった.
そして,もっとも多くのことを学び取れたのは,災害に関わる「現場」だと思う.学生時代には講義・演習科目の一環として数多くの巡検が組み込まれており,新旧の山地崩壊,地すべり,洪水などの跡地を訪ねた.現在の現地を見ると共に,災害当時の様々な記録を読むことから,「昔から似たような災害が各地で繰り返されている.そして,私たちはそのことをすっかり忘れ去っている」という事を感じた.この考えは,現在の私の調査研究活動を方向付ける,基礎原理のようになっている.学位取得後は,各種調査団の一員として,あるいは独自の企画により,最新の災害に触れる機会が増えた.1999年広島豪雨,2000年東海豪雨,2001年台湾の台風,2002年台風6号,2003年水俣土石流,2004年台風23号,2005年台風14号など,それぞれの年の最大規模豪雨災害は必ず現地調査をするよう心がけた.それぞれの災害において,何が問題なのか,を知る最も効率的な方法は現地を歩くことだと思う.現地の観察から,どのような資料収集,どのような解析が必要か見えてくる.被災地は急速に姿を変えていくので,現地踏査は早いほどよい.現在,筆者は遅くとも発災2,3日以内に現地に行くことを目指している.
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