9月1日に岡崎市を現地踏査
8/28-29の豪雨に見舞われた地域のうち,愛知県岡崎市を,明日9月1日に現地踏査することにしました.人的被害が発生した地域などを中心に考えています.
« 2008年7月 | トップページ | 2008年9月 »
8/28-29の豪雨に見舞われた地域のうち,愛知県岡崎市を,明日9月1日に現地踏査することにしました.人的被害が発生した地域などを中心に考えています.
定点観測システム機能せず 名古屋では大雨被害通報5件止まり
http://www.chunichi.co.jp/article/aichi/20080830/CK2008083002000046.html?ref=related
これは関心のもたれる話です.名古屋市で,あらかじめ登録されている「通報者」から災害時の情報を集めるシステムが稼動していたと言う話は以前から聞いていましたが,今回の豪雨ではその通報は5件にとどまったという記事です.まあそんなものだろうな,という印象を持ちます.
今回の事例は深夜におこっているため,このような通報がなされにくかった面はかなりあるでしょう.しかし,このような双方向の災害情報システムがなかなか機能しないということは,当方も以前から具体例を挙げて指摘しているところです.積極的に通報したいという人がいても,通報すべき事象がそういった人の周囲で起こるとは限らないということもありえます.
双方向情報交換が比較的機能した例として,2005年台風14号災害時の宮崎市がありますが,あの事例も,「整然と運用された」とは思いますが,「どこで,何が起きている」といった,災害時の対応につながるような情報は必ずしも多くはありませんでした.
いつもの話ですが,さまざまな情報システムはそれぞれが,on of them であると考えるべきで,一つ一つを取り上げて役に立った,役に立たないと決め付ける必要はないと思います.
今回の豪雨は,その発生場所などから,2000年東海豪雨を連想させる.しかし,端的に言えば,今回の豪雨は,その外力(降水量の規模)も,被害の程度も,東海豪雨とは比較にならない事例だったと言える.
東海豪雨時のAMeDAS観測所の最大24時間降水量は,愛知県の東海で557mmで,今回の愛知県・岡崎での24時間降水量302.5mmよりはるかに多い.降水量の多寡は,地域によって全く異なるので一般的には観測値そのもので直接比較はできないが,東海豪雨時の多雨域は今回の豪雨の多雨域に近接し,かつ地形的にも大きな違いがないので,この場合は直接比較しても大きな問題はない.
また,多雨域も東海豪雨時よりはるかに狭い.AMeDASで24時間降水量300mm以上を観測したのは岡崎のみだが,東海豪雨時には300mm以上の雨域は愛知県ほぼ全域に広がっていた.下記ページ内の図は東海豪雨時の2日降水量の分布図だが,このときの降雨イベントはほぼ24時間以内で終わっており,24時間降水量の分布図と大差はない.
http://disaster-i.net/disaster/20000911/distribution.html
被害の規模も,東海豪雨ほど激しいものには今のところなっていない.東海豪雨による被害は,2000年10月2日現在の総務省消防庁資料によると,全国で死者10名,住家全壊27棟,半壊77棟,一部損壊208棟,床上浸水27180棟,床下浸水44111棟だった.今回の被害はまだ全貌が明らかとなっていないが,床上浸水家屋数で見ると,少なくとも1桁以上は小さな規模である.外力が小さいのだから,その結果としての被害が少ないことも当然と思われる.
筆者は,ことさらに災害を過小に評価する意図は持っていない.過去の災害のことを速やかに忘却し,あたかも全く経験もしたことがないような現象が次々に発生しているかのようなとらえ方がなされることに懸念を持っているだけである.過去の災害の教訓「だけ」を重視することは無論好ましくない.しかし,あまりにもあっさりと過去の災害の実像や教訓を忘却することは,何とか防いでいかなければならないと思う.
筆者はこれまでAMeDASデータだけを用いて議論しているが,AMeDAS観測所でとらえられていないところで,もっと激しい現象が発生していた可能性は当然ある.
しかし,「川の防災情報」で参照できる,国土交通省や愛知県の雨量観測所で,岡崎市付近の観測所を参照すると,いずれも,24時間降水量はAMeDAS岡崎より小さな値になっている.少なくとも,今回豪雨に見舞われた岡崎市周辺では,地上雨量観測所でとらえられていない豪雨が広範囲に発生していたとは考えにくい.
8月29日消防庁第3報の時点では,死者・行方不明者は愛知県で2名である.断定はできないが,いまのところ災害と比較して大きくない.
この2名はいずれも洪水そのものによる犠牲者である.いずれも自宅にいたところ,浸水により遭難したものと思われる.このような避災形態は,洪水による被害形態としては一般的だと思われがちだが,実際にはこのような遭難形態はまれであり,筆者が整備している2004~2008年の豪雨災害による人的被害に関するデータベースによると,この間の犠牲者244名中同様な犠牲者は13名である.
洪水そのものによる犠牲者の多くは,車などでの移動中に遭難している.また,「溺死者」の3分の1以上は,水田などの見回りに行って用水路などに転落した犠牲者であり,洪水や浸水とは関係がない.今回の豪雨では,このような犠牲者がほとんど見られなかった.これはあくまでも類推だが,今回の豪雨は深夜に発生しており,外に出ている人が少なかったことが背景にあるのかもしれない.
豪雨災害時の人的被害に関する研究
http://disaster-i.net/research4.html
2008年8月29日の前線による豪雨災害に関するメモ
http://disaster-i.net/disaster/20080829/
を公開しました.気象データの処理システムが不調のため,降水量分布図などは示せません.文章情報が今のところ主体です.
昨日8月28日夜から29日朝にかけて,愛知県や神奈川県,東京都などで1時間降水量100mmを越えるような豪雨が発生しています.タイミング悪く,当方の降水量データ処理端末が不調で,データを迅速に示すことが出来ませんが,現在関連情報を整理中です.
本年は,1時間降水量など,ごく短時間の降水量に大きな値がたびたび記録されていましたが,24時間降水量などのまとまった時間の降水量ではそれほど大きな値が生じていませんでした.短時間に激しい雨が生じるが,長続きせず,かつ範囲も非常に狭いという豪雨が今年はよく見られていると思います.
短時間の豪雨だけでは大きな被害には結びつきにくいので,結果として,人的被害,家屋被害も,例年に比べれば比較的少ない状況が続いていました.
昨日から本日にかけては,24時間降水量の最大値(1979年以降で観測期間20年以上)を更新したAMeDAS観測所が2カ所(岡崎[愛知],久喜[埼玉])あり,今年の豪雨としては長時間の雨もやや強かったと思われます.まだ降雨が継続している地域もあり,被害状況も不明な点が多いので,まずは情報収集に当たりたいと思っています.
8月26~28日の間,水文・水資源学会2008年度研究発表会が東京大学生産技術研究所を会場に行われました.
http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/jshwr2008/
牛山は,26日のみ参加し,下記タイトルでポスター発表をしてきました.
牛山素行・吉田亜里砂・太田好乃,防災ワークショップにおける地形情報活用の試み,水文・水資源学会2008年研究発表会要旨集,pp.132-133,2008年8月26日.
http://www.disaster-i.net/notes/2008suisui.pdf
下記報告書を公開しました.
2008年6月14日岩手・宮城内陸地震および
2008年7月24日岩手県沿岸北部の地震経験地域を対象とした
緊急地震速報に関するアンケート調査報告書
http://disaster-i.net/notes/080815report.pdf
調査結果の主な内容は以下の通りです.
●背景・調査手法
●選択式設問から
●自由回答から
●コメント
昨日8月8日,財団法人消防科学総合センターおよび鹿児島県の主催による,「鹿児島県市町村長防災危機管理ラボ」にて講演をしてきました.
例によって,豪雨防災情報を生かす話ですが,今回は参加者がほぼ全員市町村長さんであったことから,少しウエイトの置き所を変え,情報の存在が認知されても使われない話,早めの避難勧告や結果としての「空振り」を容認する声が多いという話,無理な避難がかえって危険な場合もある話などに力点を置きました.
「無理な避難がかえって危険な場合もある話」の時によく使っている,平成18年7月豪雨時の鹿児島県大口市での写真と事例を紹介したのですが,まさにその大口市の市長さんが出席されており,関心を持っていただきました.地味な事例でも重要と思う話を取り上げ続けることの必要性をあらためて感じました.
8月4日付岩手日報に当方のコメントが載りました.
震災に備え家具固定作業奉仕へ 藤沢町大工組合
http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20080804_17
地元の大工組合が,高齢者世帯を対象に屋内の家具固定のボランティアをするという内容です.当方のコメントは次のように紹介されています.
県立大総合政策学部の牛山素行准教授(災害情報学)は「専門性を生かした共助、要援護者への支援の一つとして意義がある」とし、「全地域で追随して同じことをするのではなく、それぞれの必要性や被害の可能性に応じた取り組みを考えてほしい」とアドバイスする。
7/31に,神戸市東灘区の都賀川の災害現場付近を現地踏査した際の写真を公開しました.
2008年7月28日の停滞前線による豪雨災害に関するメモ
http://disaster-i.net/disaster/20080728/
都賀川現地踏査(2008/07/31)
http://disaster-i.net/photo/080731/080731p.htm
今回の災害現場となった都賀川は,地形的に急峻な流域を背後に持っていること,流域の都市化が非常に進んでいることなどから,豪雨の際に流出率が高く流出速度も速いという特徴(災害に対しては素因)を持っていた.また,都市部で河岸が親水公園としてよく整備され,人が集まりやすいところであったという,社会的素因も存在した.ここに,短時間の豪雨という誘因が加わって今回の災害となったものと言える.ただし,このような素因を持つ河川はけっして珍しいものではなく,都賀川が特異な条件を持っていたことによって発生した災害であるとの見方は妥当でない.
今回の現場が「特別に危険な場所」であったとは考えていないが,過去の事例を調べていたところ,あまりにも酷似した事例があったことに少々驚いた.1998年7月27日付朝日新聞記事に,以下のような記述が見られる.
二十六日午後二時ごろ、神戸市灘区岸地通一丁目の都賀川の河川敷と中州で、二組の家族連れが増水した流れに立ち往生しているのに近くの灘区民ホールの窪田武館長(六五)が気付き、一一九通報した。灘消防署員らが駆けつけ、中州まで川を横切るようにはしごを渡し、一組の家族連れを河川敷にいた家族連れと合流させ、道路につながる階段まで誘導して救助した。 調べによると、神戸市に住む会社員ら二組の家族計八人で、別々に河川敷でピクニックをしていたが、雨が降り始めたため、川の水面より高くなっている新都賀川橋の橋脚付近で雨宿りをしていた。いずれも乳児を連れており、水かさが増した川の流れに身動きがとれなくなったという。<中略>川の水深は普段、約三十センチだが、この日は降雨のため約六十センチになっていた。
この事例は,場所も,状況もほとんどそっくりで,日付や発生時刻まで近い.異なっているのは,外力の大きさだけである.1998/7/26の13時~15時の2時間降水量は,神戸海洋気象台(神戸市中央区):2.5mm,AMeDAS六甲山:6mm,AMeDAS芦屋:0mmなど,長峰山(国交省所管・都賀川流域内):8mm,永峰(同):5mmなどとなっており,豪雨の範囲がよりせまく,規模も小さかったように思われる.
このような事実を見ると何ともやりきれない気持ちになる.過去に起こった災害について,われわれはより積極的に学んで行くことの重要性を,重ねて指摘していくしかない.
7月30日付産経新聞の,
【Re:社会部】地震に「実のある備え」を
という記事に,当方のコメントが紹介されています.web上の記事にはないようですので,引用しておきます.
<前略>
6月の岩手・宮城内陸地震では、宿泊客や釣り人、工事作業員など、自宅以外での被災者が非常に目立ちました。「震災対策は家の中ばかりを考えがち。この地震を、外出時の危険を再認識する教訓にすべきだ」という、岩手県立大の牛山素行准教授(災害情報学)の話が印象に残っています。
<後略>
28日の都賀川での災害でもそうですが,一般的な視点とは異なる視点が,災害研究,災害対策には重要なのではないかと思っています.
7月31日午後,28日の豪雨により人的被害が発生した神戸市東灘区の都賀川を踏査してきました.写真については数日中に整理します.
阪神大石駅で下車し,上流側に向かって歩いていきましたが,第一印象は「これは深い」というものでした.確かに河床は整然としたせせらぎが形成され,水に近づきやすくなってはいますが,両岸はほとんど垂直に近い4m前後の護岸(石積みが主体)が続き,所々で計測したところ,護岸の傾斜は70度前後でした.「壁に囲まれた空間」という印象を覚え,やはりここは「川の中」であるという感じがしました.
今回の災害時,この川は溢れたわけではありませんから,これは「洪水災害」とは言えません.しかし,川の中に人がいた,という社会的素因があったため,災害になったものと言えます.踏査時も,周辺にお住まいの方と思われる方がかなり多く散策されており,都市の中で,重要な役割を持つ空間であることは確かです.このような「場」と人がどのようなつきあっていくのか,考えなければいけないと感じました.
写真:遭難現場の篠原橋付近