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2008年9月29日 (月)

自然災害学会を終えて

9/25~26に九州大学で日本自然災害学会学術講演会が行われ,出席してきました.

9月8日付本欄
https://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post-d5fe.html

でご紹介しましたように,今回は当研究室の学生2名(学部4年と学部3年)が発表を行いました.2名とも初めての経験ながら,大変立派に発表をこなしておりました.このうち,太田好乃さんは,優れた発表に対して贈られる「自然災害学会学術発表優秀賞」を受賞しました.太田さんの受賞に対し,心よりお祝いを申し上げたいと思います.

最近の自然災害学会では,自然現象と社会現象の融合した結果である「災害」という現象そのものに焦点を当てた研究が増えてきて,大変おもしろく思っているのですが,反面,心なしか伝統的な自然現象(hazard)そのものに関する研究発表がだいぶ少なくなっているような印象を持ちました.自然災害学会は,様々な専門性を持つ人が参加していることが最大の魅力ですから,その多様性が失われないよう願っています.

2008年9月22日 (月)

「豪雨の災害情報学」刊行

このたび,古今書院から「豪雨の災害情報学」という本を出すことになりました.

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書  名:豪雨の災害情報学

著   者:牛山素行(岩手県立大学)
発 行 所:古今書院  http://www.kokon.co.jp/
 *トップページのカバーをクリックすると、内容紹介に入れます。
発 行 日:2008年10月10日
本体価格:\3,500(税込 \3,675)
図書符号:ISBN 978-4-7722-3114-5
備  考:A5判 180ページ
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牛山がこれまでに行ってきた豪雨災害に関する研究の中から,主なものを取り上げ,整理したものです.

  • ・過去の災害事例にもっと目を向けよう
  • ・災害情報は整備しただけでは使われず,生かされない
  • ・災害情報による減災効果は残念ながら限定的

など,牛山が日頃から強調していることの背景となった調査結果を紹介しています.内容は,これまでに学術論文などで発表した原稿を整理したものが中心となっていますが,状況が変わっているものは書きあらためるなどしています.特に第1章は,牛山が考える「豪雨災害情報」という概念を紹介するために,書き下ろしたものです.

少々お値段が高くなりまして恐縮ですが,以下の方法で注文すると,著者の紹介ということで,著者割引(2割引)+ 送料無料 (税込 \2,940) で購入できます.

【申込方法】 
この本の編集担当の 関 秀明 さんまでメールにて御連絡下さい.メールの件名は「豪雨の災害情報学 注文」としてください.

seki@kokon.co.jp

割引条件は、著者の紹介かつ以下の注文フォームを利用した場合に限ります.

-----【注文フォーム】-----
 1. この情報を知った媒体名を以下から選んでください
  (a)disaster-i.net(牛山のホームページ)
  (b)disaster-i.net News・ある自然災害科学研究者の活動(牛山のメールマガジン)
  (c)豪雨災害と防災情報を研究するdisaster-i.net別館(牛山のブログ)
  (d)各種メーリングリスト[ML名                 ]
  (e)牛山個人からの紹介

 2. 送付先
  郵便番号:
  住所:
  電話番号:
    ※メール便にて届きます

 3. 注文の書名・冊数
  『豪雨の災害情報学』    冊
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・注文受付時に返信メールが届きます。
・代金は、本に同封されてくる郵便振替用紙で後払いになります。1週間以内に古今書院様に送金願います。

●『豪雨の災害情報学』目次

第1章 豪雨災害と災害情報に関する基礎的概念
 1.1 自然災害の構造
 1.1.1 HazardとDisaster
 1.1.2 素因と誘因
 1.1.3 災害のライフサイクル
1.2 防災の構造
 1.2.1 防災・減災
 1.2.2 ハード防災とソフト防災
 1.2.3 ハード防災とソフト防災の決定的相違
1.3 災害情報の基礎的概念
 1.3.1 災害情報と災害情報学
 1.3.2 情報の位置付けと災害情報
 1.3.3 情報の価値と災害情報
 1.3.4 災害情報の価値は相対的かつ個別的
 1.3.5 災害情報の価値は組織化によって増大する
 1.3.6 災害情報の価値は周知によって低下する
1.4 豪雨災害情報
 1.4.1 豪雨災害と豪雨災害情報
 1.4.2 観測値・統計などの情報
 1.4.3 警告的な情報(warning)
 1.4.4 災害の素因や災害への対応に関わる情報
 1.4.5 人の知識や経験に関わる情報
 1.4.6 情報伝達システム
1.5 まとめ
第2章 73年前にもあった豪雨
2.1 1999年広島豪雨災害
 2.1.1 概要
 2.1.2 降水量の特徴
 2.1.3 被害の特徴
2.2 広島市周辺における降水量の経年変動
 2.2.1 検討の方針
 2.2.2 利用資料についての検討
 2.2.3 暖候期降水量の経年変動
 2.2.4 豪雨の発生傾向
2.3 既往豪雨災害記録からの豪雨事例の抽出
2.4 本章のまとめ
2.5 補足
第3章 認知されない・使われないリアルタイム水文情報
3.1 2002年頃の豪雨災害情報を巡る情勢
3.2 2002年台風6号豪雨災害
 3.2.1 総観気象の概要
 3.2.2 降水量の特徴
 3.2.3 全国の被害概要
 3.2.4 岩手県東山町付近の浸水災害
3.3 市町村におけるリアルタイム雨量・水位情報の利用に関する調査
 3.3.1 調査手法
 3.3.2 雨量・水位等の情報取得・利用状況
 3.3.3 土砂災害危険度表示システムの認知
3.4 岩手県東山町・川崎村における住民の防災行動に関する調査
 3.4.1 調査手法
 3.4.2 住民の水害経験
 3.4.3 避難の状況
 3.4.4 家財の保全行動
 3.4.5 リアルタイム雨量・水位情報の利用実態
 3.4.6 雨量・水位情報の取得と被害軽減行動
 3.4.7 ハザードマップに対する評価
3.5 本章のまとめ
第4章 リアルタイム水文情報の具体的活用例を初確認
4.1 2003年7月19日~21日の九州における豪雨災害
 4.1.1 概要
 4.1.2 降水量の特徴
 4.1.3 7月19日九州北部の豪雨
 4.1.4 7月20日熊本県南部付近の豪雨
 4.1.5 全国の被害状況
 4.1.6 福岡県内の被害状況
 4.1.7 熊本県水俣市における被害状況
4.2 リアルタイム雨量・水位情報を活用した減災例
 4.2.1 福岡市博多駅前のホテルにおける防災対応
 4.2.2 福岡市防災対策ホームページ
 4.2.3 水俣市の事例との対比
4.3 本章のまとめ
第5章 情報による減災効果の限界
5.1 本災害の概要と人的被害原因解析の意義
5.2 2004年台風23号による豪雨災害
 5.2.1 総観気象状態の概要
 5.2.2 10月20~21日の降水量の特徴
 5.2.3 被害状況
5.3 人的被害の特徴と災害情報による減災効果の推定
 5.3.1 調査手法
 5.3.2 死者・行方不明者発生場所の特定
 5.3.3 死者・行方不明者の発生原因
 5.3.4 死者・行方不明者発生原因と年代・性別・被災場所
 5.3.5 防災情報による減災の可能性
5.4 本章のまとめ
第6章 避難により人的被害はまぬがれたが
6.1 本災害の概要と日之影町の事例に着目する意味
6.2 2005年台風14号および前線による豪雨災害
 6.2.1 総観気象状態の特徴
 6.2.2 降水量の特徴
 6.2.3 被害の概要
 6.2.4 人的被害の特徴
 6.2.5 機能した宮崎市災害掲示板
6.3 宮崎県日之影町における被害軽減とその背景
 6.3.1 調査手法
 6.3.2 日之影町御影地区の被災状況
 6.3.3 降水量と大雨警報・記録的短時間大雨情報
 6.3.4 大雨警報[重要変更]
 6.3.5 水位情報
 6.3.6 災害対策本部設置と避難勧告
 6.3.7 避難行動と消防団の活動
 6.3.8 ハザードマップ等の整備状況
 6.3.9 集落の歴史と災害経験
6.3.10 その他の特記事項
6.4 本章のまとめ
第7章 災害情報研究のこれから
7.1 ハード対策とソフト対策の構造的相違をまず意識しよう
7.2 災害情報は公開しただけでは効果を発揮しない
7.3 災害情報は認知されただけでは活用されない
7.4 「分かりやすい情報」・「高精度な情報」が減災に直結しない
7.5 災害情報によって軽減できる被害は限られる
7.6 ますます重要になる「限界の説明」
7.7 長い眼でみることの重要性
7.8 災害情報という「防災対策」はじつにやっかいな代物
7.9 では「災害情報」はどこへ行くべきか

2008年9月18日 (木)

防災教育に関するアンケートの報告書公開

岩手県内の全小,中,高校を対象に実施した,防災教育などに関するアンケート調査の結果概要を報告書として公開いたしました.

岩手県における初等・中等教育段階での防災教育の実施状況について
http://disaster-i.net/notes/080827report.pdf

この調査は,岩手県大船渡地方振興局との共同調査として実施したものです.主な注目点を以下に示します.

  • 地域に関わる自然災害についての紹介や学習を,教科教育・総合的学習の時間・特別活動などの場で実施しているか尋ねたところ,「津波災害」は実施率35.8%,「将来発生が予想される災害」同36.3%,「台風災害」同25.6%と,必ずしも高くなかった.
  • 「内陸」「沿岸」で実施率を比較すると,ほとんどの項目で沿岸が高かったが,最も高い「津波災害」でも55.2%と半数強程度だった.
  • 「総合的な学習の時間や特別活動などの教科教育以外の時間に取り上げる題材・テーマとして,『自然災害』や『防災』は,他の様々な題材と比較すると,どの程度の重要性があると思いますか」に対しては,「非常に重要性が高い」と「重要性はやや高い」を合わせても37.8%にとどまった.
  • 防災教育の重要性に関する認識でも,「非常に重要性が高い」と「重要性はやや高い」の合計が,沿岸57.7%,内陸27.8%と,内陸と沿岸で明瞭な差が見られた.

2008年9月16日 (火)

おおむね復旧

9/12から停電のため停止していた当方の「リアルタイム豪雨表示システム」は,9/16 08時現在,おおむね復旧しました.

72時間降水量については,あと1日程度エラー表示が残ります.

2008年9月15日 (月)

中日新聞で報道されました

平成20年8月末豪雨に関する当方のコメントが,9月11日付中日新聞に掲載されました.

<寸断された情報・下> 頼れぬ行政 地域に対応を丸投げ
http://www.chunichi.co.jp/article/feature/ntok0065/list/CK2008091102000243.html

関係箇所を引用します.

 結局、頼れるのは行政ではなく、自分と地域の力しかないのか。災害情報学が専門の岩手県立大の牛山素行准教授(40)は「住民側にも普段からの備えが必要」とした上で疑問を投げかける。「直接住民の安全にかかわるような被災状況の把握や対応などを『自助・共助』の名の下に、行政は都合よく丸投げしてはいないか」
 豪雨を教訓に、行政が河川改修や通信機器の整備などハード面に手を付けていったとしても、最後に鍵を握るのは人間でしかない。

あまり真意が伝わらなさそうな表現になっていますが,仕方のないところでしょうか.筆者は「丸投げしている行政機関」を批判する意図は全くありません.「行政は頼りにならないから自助,共助が大切」とは思いません.「防災は行政の仕事」から「防災は地域で」といった,極端な方向転換に疑問を抱いているものです.

「自助・共助とは,どこでも,誰でも,簡単にできて,効果の大きい防災対策」といったイメージを持って,過去の特定の災害事例(阪神大震災など)「のみ」の教訓をもとに,現代の技術・情報や地域性を無視したマニュアル的な「ぼうさいへのとりくみ」をすることに強い懸念を抱いています.

ハード対策,ソフト対策,いずれも万能ではありません.しかし,ハード対策に限界があるからといって,いきなり,「自助・共助」と称して,「だれでも,簡単にできる対策」にばかり奔るのは,いかがなものでしょうか.

現代は,整備された災害情報がいろいろとあります.災害情報といっても,リアルタイム雨量のような動的情報ばかりでなく,ハザードマップに代表される「個々の地域の災害素因を表す情報」,いわば静的情報も重要です.すでにある情報を生かさずに,「自助,共助」ばかりを強調するのは,「竹槍戦術」のようにおもえてなりません.

2008年9月12日 (金)

リアルタイム豪雨表示システムの一時停止

当方にて管理しております,

リアルタイム豪雨表示システム
http://www.disaster-i.net/rain/

は,学内停電のため9/12 20時頃から,9/15午後くらいまでの間,運用を停止します.9/16頃までは,表示にエラーが残ります.

2008年9月 9日 (火)

朝日新聞などで報道されました

少し前の記事ですが,9月1日付朝日新聞(名古屋)の,「集中豪雨、愛知で急増 時間50ミリ以上、この10年に49地点」という記事中で,8/28-29の豪雨災害関係の当方のコメントが掲載されました.関係箇所を引用します.

岩手県立大学の牛山素行准教授(災害情報学)は「自分がどのような場所に住んでいて、どのような危険があるのかを把握することが重要。危険がわかれば、浸水マップなどの情報を活用して備えることが必要だ」と話している。

意味が通らないわけではないのですが,後半の語順がちょっと逆で,ハザードマップ等のすでに整備されている災害素因に関する情報を生かして,「自分がどのような場所に住んでいて、どのような危険があるのかを把握することが重要」というのが私の考えです.

もう1件,これはさらに前の記事ですが,8月9日付南日本新聞(本社:鹿児島)に,「鹿県内首長ら、災害対応学ぶ/鹿児島市で研修会」というタイトルで,当方が行った講演の紹介記事が載りました.関係箇所を引用しておきます.

岩手県立大学の牛山素行准教授は「普段から雨量などの情報システムを理解しておかなければならない」とソフト対策の重要性を訴えた。



2008年9月 8日 (月)

自然災害学会

9月25~26日の間,九州大学を会場として,日本自然災害学会学術講演会が開催されます.

第27回日本自然災害学会学術講演会およびオープン・フォーラムのご案内http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsnds/contents/20080924/index.html

牛山自身は発表しませんが,当方の学生から,以下の2件の口頭発表が行われます.講演予稿集原稿を公開いたします.

吉田亜里紗・牛山素行,津波経験地域における中高生および大人の災害意識の違いについて
http://disaster-i.net/notes/2008JSNDS_yoshida.pdf

太田好乃・牛山素行,平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震による人的被害の特徴
http://disaster-i.net/notes/2008JSNDS_ohta.pdf

1件目は,昨年から取り組んできた岩手県陸前高田市気仙地区での住民対象調査の結果を整理したものです.2件目は本年6月に発生した岩手・宮城内陸地震の際の人的被害について,1984年長野県西部地震や2004年新潟県中越地震と対比した結果です.

2008年9月 6日 (土)

8月末豪雨・降水量関係の図を追加

「平成20(2008)年8月末豪雨による災害に関するメモ」に,降水量関係の分布図,グラフを追加しました.

降水量基礎データ
http://disaster-i.net/disaster/20080829/pre1.html

2000年東海豪雨時の分布図やハイエトグラフも合わせて示しています.2000年東海豪雨のすごさをあらためて思い起こさせられました.

2008年9月 2日 (火)

規模評価の難しい今回の豪雨による浸水被害

今回の豪雨(平成20年8月末豪雨)による全国の浸水被害は,9月2日17時30分現在の総務省消防庁資料によれば,床上浸水1465棟,床下浸水7126棟とのことです.うち,愛知県は同1020棟,2755棟です.なおこのほかに,名古屋市で床上浸水1147世帯,床下浸水7575世帯がある旨が注記されており,これらは合算されていません.多くの場合,世帯数=棟数にはならず,都市部ほどその傾向がありますから単純に合算はできません.愛知県庁で公表されている資料ではこれとは違った値も記載されており,まだ大きく変動する可能性(増えることもあれば減ることもある)もあります.今回の豪雨による浸水被害の規模評価は,少々難しそうです.

仮に消防庁の資料をもとに床上浸水の棟数と世帯数を合算すると,約2000棟となります.愛知県では,床上浸水2000棟以上の事例が1971年以降5事例あり,おおむね10年に1回程度発生していることになります.

愛知県の主要豪雨災害記録 1971-2006
http://disaster-i.net/disaster/20080829/saigai.html

下記は,上の表にも載っている1991年の愛知での豪雨被害があった後の1991年9月下旬の朝日新聞記事の見出し抜粋です.我々は,目先のことにばかりとらわれず,時空間的に長い目で災害に接していくしかない.そんな気がしてなりません.

未明の警報、遅れた対応 東海の豪雨災害 【名古屋】
濁流、住宅街のむ 大雨で東海地方に被害 【名古屋】
水位情報を防災に使えず 春日井市の内津川の堤防決壊 【名古屋】
7000余戸が浸水 名古屋の大雨被害 【名古屋】
「水防システムを徹底」 内津川水害で愛知・鈴木知事 【名古屋】

人的被害発生現場についてのコメント

岡崎市内の人的被害発生現場についてのコメントを整理しました.

岡崎市城北町の人的被害発生現場
http://disaster-i.net/disaster/20080829/okazaki1.html
岡崎市伊賀町の人的被害発生現場
http://disaster-i.net/disaster/20080829/okazaki2.html

岡崎市内の被災地現地踏査写真を公開

9月1日に愛知県岡崎市の伊賀川流域の浸水などの被災地を現地踏査してきました.写真を以下に公開します.なお,気象庁により今回の降雨イベントに名前がつきましたので,ページタイトルを「平成20(2008)年8月末豪雨による災害に関するメモ」に変更しました.

平成20(2008)年8月末豪雨による災害に関するメモ
http://disaster-i.net/disaster/20080829/
2008/9/1 愛知県岡崎市伊賀川付近現地踏査 (アルバム+地図)
http://disaster-i.net/photo/080901/080901p.htm

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