すでに実現していることをもっと生かそう
以下は,10月に発行された日本災害情報学会ニュースレターNo.35に寄稿したものです.
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●すでに実現していることをもっと生かそう
豪雨災害に限らないが,災害後の「教訓」としてよく語られるのが,「情報不足」に類する話題である.このような「教訓」あるいは「ニーズ」をもとに災害情報の充実が図られてゆく,というのがセオリーのようになっているが,「ニーズ」として語られているものの中に,すでに実現したり,解決しているはずの問題が少なくないことに無力感を感じる.
典型例は「山の方の雨の降り方が分からないので対応がとれなかった」といった趣旨の話である.もはや,地上雨量観測所のデータに限っても,平地から山間部まで多数の観測所が設置され,そのほとんどがリアルタイム公開されている.レーダーのデータを含めればさらに情報は増え,山の雨量が分からないというのはもはや過去の話である.
「川の水位は分かるが,これからどう変化するのか見通しがつかない」といった話も聞く.しかし,いまや洪水予報対象河川は増える一方で,それらの河川では,何時頃,どの程度の水位まで達するといった情報が詳細に発表されている.
「注意報で油断していたら警報になった.警報になりそうなときはあらかじめ知らせて欲しい」といった意見も聞く.これもすでに実現している.そもそも「警報」は,単に「××地方に警報発表」という情報ではない.必ず「文章情報」がつき,予想される状況などの補足説明がなされ,特に重要な場合は警報とは別に「気象情報」としてさらに詳しい情報が発表される.これらの情報の中で,警報になりそうな場合はその旨予告することや,過去の豪雨に匹敵する雨であるなどの情報を加えるなど,情報の充実は著しく図られている.
無論,これらの情報を,住民全員が理解することを目指すのは現実的ではない.しかし,せめて,防災対応に当たる立場の人達は十分に理解してもらいたい.豪雨災害情報に関して「すでに実現していること」はたくさんあり,そのことを情報提供者側は自信を持ってアピールして欲しい.災害情報は整備しただけでは役に立たない.整備された災害情報をよく知り,自信を持って活用できる人材を,息長く,粘り強く育成していくことこそが,「教訓を生かす」ことではないだろうか.
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