新年のご挨拶
謹んで,新年のご挨拶を申し上げます.
2008年は,2007年に引き続き,豪雨災害に関しては,比較的大きな被害が生じないままに経過しました.「ゲリラ豪雨」なる語が飛び交いましたので,このようなことを書きますと信用ならないヤツだと思われるかもしれませんが,被害,降水量記録双方のデータを見る限りでは,そのように判断せざるを得ません.
左図は,気象庁年報などをもとに筆者が集計した,1971年以降の雨に起因する災害による被害(死者・行方不明者数,全壊・流失・全焼家屋数,床上浸水家屋数)の経年変化です.死者・行方不明者数は実数軸,家屋被害は対数軸です.近年の日本の豪雨災害による被害で,比較的被害が少ない年の被害の量は,人的被害50名未満,全壊家屋数100棟未満,床上浸水20000棟未満くらいであることがわかります.
2008年の豪雨による被害の量はこのデータと同質のデータからはまだ得られていません.暫定的なものとして,平成20年版消防白書では,平成20年1月から10月までの風水害による被害として,死者・行方不明者18人,全壊14棟,床上浸水3475棟などとなっています.これは主要な4災害による被害のみですので,年間の総計はこれより大きな値となることは確かですが,それぞれ一桁大きくなるようなことはないと思われます.このことから見る限り,先に書いたように「比較的大きな被害が生じない」年だったと言わざるを得ません.
「災害情報の活用によって被害が低く抑えられた」のでしょうか.全壊家屋数や床上浸水家屋数は情報の活用によって軽減できるようなものではありませんから,これらの値も同時に少ないわけですから,残念ながらそういうことも言えません.
降水量記録の面からも激しい年とは言い難い状況です.こちらも不完全な情報で,8月末までの記録ですが,全国約1300カ所の気象庁AMeDAS観測所のうち,20年以上の統計値が得られる観測所で,降水量記録の最大値を更新した観測所数は1時間降水量38箇所,2時間降水量38箇所,24時間降水量7箇所,48時間降水量7箇所,72時間降水量6箇所でした.9月以降あまり大きな記録は出ていませんので,いずれの時間についても増えるのは数カ所程度にとどまるはずです(今月中には確定値を出します).左図に見るように,最近10年ほどの間と比べ,これらの記録はかなり少ない値となりそうです.
無論,AMeDAS観測所で把握できないような局所的な豪雨があったとか,10分降水量などより短時間の降水量がすごかったとかいった事象はあった可能性があります.しかし,少なくともいたるところで被害を生じるような豪雨が次々と発生したというようなことはないと言えそうです.
いつも書くことですが,「こんな現象(あるいは被害)はたいしたことがないんだ」という趣旨の主張をしたいのではありません.ただ,目先のことにばかり振り回されるのは賢明ではないだろうと考えます.過去に学ぶべきことはたくさんあります.できないこともたくさんありますが,できることもたくさんあるはずです.できることを防災に生かしていく.それが今年も私の指針になっていくと思います.
それではみなさま,今年もよろしくお願いいたします.
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