静岡新聞のコラム「時評」に寄稿
静岡新聞に「時評」というコラムがあります.このたび,同欄に寄稿させていだく機会をいただきました.今後数ヶ月に1回寄稿させていただくことになりそうです.第1回の記事が,8月5日付朝刊に掲載されました.以下に引用します.
ちょっと取っつきにくい内容かもしれませんが,「防災のセンセイ」という存在に対して,世間から誤解があるなあ,という気がしていましたので,そのあたりを綴ってみました.
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「防災の専門家」
「防災の専門家」という言葉から,どのような人物像を思い浮かべるだろうか.「災害に対する日頃の備えを指導してくれそうだ」と思う人もいるかもしれない.あるいは,「地震や土砂崩れなどのメカニズムを説明してくれるだろう」というイメージを持つ人もいるかもしれない.「防災」という概念には非常に幅広い内容が含まれており,様々な立場からの「専門家」が存在する.
筆者は学生時代から一貫して防災・災害をキーワードとして調査研究を行ってきた,「防災についての研究者」である.しかし,一口に防災・災害と言っても,地震と豪雨とでは,原因となる自然現象について理解するための専門的基礎知識がかなり異なり,それぞれ別の「専門家」が存在する.
筆者は主に豪雨による災害を対象として,情報による被害軽減をはかるあり方などについての研究を専門としている.したがって,「今回の豪雨災害をもたらした雨の降り方はこのような特徴がある」とか,「豪雨災害による犠牲者の発生の仕方にはこのような傾向がある」といったことについては専門的立場からコメントができる.しかし,たとえば「避難所の運営方法」とか,「災害で負傷した人の救出方法」などについてアドバイスを求められても,専門的なコメントをしたり,実技指導したりすることは不可能である.
また,そもそも「研究者」は,災害を引き起こす自然現象のメカニズムや,災害に関わる社会的な現象の特徴などを「調べる」ことは得意とするが,被害を軽減するための制度作りとか,訓練の企画指導などを「実行すること」は必ずしも得意ではない.逆に,「研究者」とは違う立場の人で,こういった活動を「実行すること」を得意とする「専門家」も存在する.あるいは,たとえば建設技術者,医師,消防関係者など,防災に関わる専門的な知識・技能をもとに,実務的な業務を行っている「専門家」もいる.
「防災」という概念を構成する「専門的基礎知識・経験」は非常に多岐にわたっており,すべての分野に精通した「専門家」はほぼ存在し得ない.しかし,防災に関わる何らかの特定分野に精通した「専門家」あるいは「技術者」は,我々の身近な地域にも存在する.災害に立ち向かうためには,様々な専門的基礎知識が必要である.地域にいる様々な「専門家」が,それぞれの得意分野を生かし,役割を分担しあって取り組んでいくことが重要だろう.
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