9月2日付東京新聞で,当方の調査結果とコメントが紹介されました.
避難行動を支援する方法論はたくさんあります.しかし,問題は,その方法論を誰が使うか,使い手の中に,災害に関する専門知識を持った人材をどう組み込んでいくかというところだと思います.方法論がいくら良くても,素人だけで使ったのでは,かえって危険な対策を立ててしまうことも懸念されます.
なお,これは以下で紹介されている方法論を否定する意味ではありません.いろいろな方法論が提案され,進歩していくことは当然必要です.人材がどう関わるか,というテーマは,私自身まだいい答えが見いだせていません.
以下に記事を引用します.
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電子地図使って避難支援
この夏、豪雨災害や地震災害が続いた。災害時、高齢者や障害者ら要援護者の避難が課題だ。障害者の自立を支援する社会福祉法人「AJU自立の家」(名古屋市)は、電子地図を活用した避難支援システムを開発、注目が集まっている。 (飯田克志)
「二〇〇〇年の東海豪雨で、多くの仲間が被災して、要援護者の支援の必要性をあらためて痛感した」
AJUで防災企画を担当している水谷真さんはこう振り返る。多数の人的被害も出た東海豪雨では、障害のあるメンバーが自宅に取り残され、仲間が救助に駆け付けた。避難所で障害者が利用できるトイレがないなど、災害弱者支援の課題を実体験した。
段ボールを利用した間仕切りを開発するなど避難所の運営改善に取り組み、〇七年に起きた能登半島地震、新潟県中越沖地震では、現地で要援護者らの支援を行った。
要援護者支援で国は〇六年、自治体による要援護者名簿の作成などガイドラインを策定した。だが、「自治体の名簿整備率はまだ低い」(水谷さん)。
AJUは今春、名簿の整備や活用を促すため、要援護者の住所などの情報と、地図をコンピューター上でつなぐ地理情報システム(GIS)を活用した避難支援システムを開発した。
同システムの特徴は(1)住宅地図データを利用し、住所や氏名の検索で現住地の地図を表示(2)建物の倒壊危険地域など防災情報を地図と重ねて表示(3)ノートパソコン対応で避難所でも利用可能-など。避難ルートも書き込め、要援護者や支援者、避難所の位置関係も一目で分かり、十七市町村が導入した。
そのひとつ、静岡県富士市は、障害者だけでなく要介護の高齢者も含め約二万人分の要援護者情報を網羅するマップ整備に取り組んでいる。
ただ課題もある。静岡大学などが七月にまとめた豪雨災害に関するハザードマップの調査によると、回答のあった千二百四十四市町村の72%が、同マップを作成していた。
だが作成後、住民向け説明会や講習会などを実施したのは42%。避難勧告を出した市町村では、実際にマップを参考に避難誘導などを行った自治体は45%。有効活用されているとはいえない状況だ。
同大の牛山素行准教授(災害情報学)は「課題にどう対応するか、行政、住民が専門家も交え検討することが大切」と指摘する。
「作りっぱなし」問題は、AJUも認識。開発したシステムには情報項目の更新や追加ができる機能を設けている。地元で当事者や行政、地域住民、災害ボランティアが参加した図上訓練や、避難ルートを歩いて点検するタウンウオッチングも実施。災害時に“使える”支援マップ作りを進めている。
要援護者支援の重要情報となる名簿作りは個人情報保護法が壁になり進めにくくなっているが、要援護者本人が防災マップづくりに加わることで、名簿の整備も進められる。
さらに、インターネット上の誰でも利用できる地図データを利用して、自治会などコミュニティー単位で支援マップをネット上に作れるGISも開発している。
水谷さんは「当事者の視点から今後も、防災について発信、参加していきたい」と話している。