防災気象講演会
本日10月27日,静岡地方気象台,静岡県,静岡大学防災総合センターの共催による「防災気象講演会」が,静岡県地震防災センターを会場に行われました.
http://www.jma-net.go.jp/shizuoka/20091027kouenkai.pdf
牛山は講師として出席し,「最近の豪雨災害に学ぶこと」のタイトルで講演を行ってきました.
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本日10月27日,静岡地方気象台,静岡県,静岡大学防災総合センターの共催による「防災気象講演会」が,静岡県地震防災センターを会場に行われました.
http://www.jma-net.go.jp/shizuoka/20091027kouenkai.pdf
牛山は講師として出席し,「最近の豪雨災害に学ぶこと」のタイトルで講演を行ってきました.
このほど,内閣府の主催により, 「大雨災害における避難のあり方等検討会」が発足しました.
http://www.bousai.go.jp/oshirase/h21/091023kisya.pdf
牛山は,同検討会の委員を仰せつかり,10月26日に第一回の検討会が行われ,出席しました.討議の内容は後日議事録として公表されるとのことですので本稿では紹介を控えます.今後どのような議論がなされるのか,強い関心を抱いています.
本日の日本災害情報学会にて,同学会の2009年廣井賞を授与いただきました.廣井賞とは,同学会が故廣井脩初代会長(前東京大学大学院教授)の志を継ぐ記念事業として,災害情報の分野で功績のあった個人・団体を表彰するもので,いわゆる学会賞です.
日本災害情報学会 廣井賞
http://www.jasdis.gr.jp/16hiroi_prize/index.html
会場で配布された受賞理由を挙げさせていただきます.
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【学術的功績部門】
■牛山素行氏(静岡大学防災総合センター准教授)
授賞理由
牛山素行氏は、災害情報を用いた風水害の被害軽減に関する実証的研究に、これまで一貫して取り組んでこられました。そして、現実的課題として、情報システムが整備されていてもそれだけでは活用が進まないこと、地域のハザードマップや防災ワークショップなどによるリスク認知にも難しさがあること、またソフト対策による犠牲者軽減効果の客観的検証など、災害情報分野の学術研究において顕著な功績をあげていると認められる。
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廣井先生は,我が国の災害情報学の世界の偉大な先駆者です.その先生のお名前を刻んだ賞をいただいたことは,非常に名誉なことであり,恐懼しているところでございます.今後ますます研鑽に励み,「災害情報の活用による被害軽減」を目指した調査研究を進めていきたいと考えております.今後とも,ご指導,ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします.
日本災害情報学会第11回研究発表大会が,今週末の10月24日(土),25日(日)に,静岡市内で開催されます.
日本災害情報学会
http://www.jasdis.gr.jp/
当方からは2件の発表を行います.
牛山素行・小山真人・村越真・林能成・長谷川孝博,2009年8月11日駿河湾の地震後の調査にみられる「備え」の実情,日本災害情報学会第11回研究発表大会予稿集
http://disaster-i.net/notes/2009JSDIS.pdf
高柳夕芳・牛山素行,2004~2008年の豪雨災害による人的被害の原因分析,日本災害情報学会第11回研究発表大会予稿集
http://disaster-i.net/notes/2009JSDIS_takayanagi.pdf
また,この大会で牛山は実行委員会副委員長を仰せつかっており,大会運営にも携わらせていただくことになっております.本大会は,会員以外の方でも(参加費が会員\2000->非会員\4000と高くなりますが)ご自由にご参加できます.ご関心をお持ちの方は,ぜひお立ち寄りください.
地表面に降った降水が、浸透、流出したり、蒸発したりせず、そのまま地表面に溜まったとした場合の水の深さをmm(ミリメートル)単位で計測したものを降水量といいます。最も簡単な方法,あるいは考え方としては、入口からそこまでの形が変化しない容器(たとえば茶筒)を地表面に置き、雨を貯め、貯まった水の深さをはかることによって観測することができます。貯まった水の「量」を測るものではありませんから,容器の大きさによって観測値が変わったりする事はありません。雪などの固形降水の場合は、それを溶かしてできた水の深さを測ります.
雨量という言葉もよく使われますし,間違った言葉ではありません.専門分野によっては雨量という言葉の方が一般的である事もあります.厳密に考えるのであれば,降水量という場合は,雪などの固体降水の形で降ってきたものも含めたものであり,雨量というのは液体の水で降ってきたもののみを指す事になります.雨なのか雪なのかわからない観測値が含まれている場合は,降水量と言った方が適切でしょう.例えば,明らかに冬は雪が降る札幌で,「年雨量は**mm」と言うのは適切ではなく,「年降水量は**mm」と言うのが適切です.
これも覚え書きです.
現在発表される気象に関する注意報・警報では,「今のところ注意報だけれど,今後警報になる可能性がある」場合には,その旨があらかじめ発表されるようになっています.
たとえば,10月7日19時35分に静岡地方気象台から発表された情報の一部を挙げます.
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平成21年10月 7日19時35分 静岡地方気象台発表
富士山南東 [発表]雷,高潮注意報 [継続]大雨,強風,波浪,洪水注意報
特記事項 8日未明までに大雨警報に切り替える可能性がある
土砂災害注意 浸水注意
8日明け方までに暴風警報に切り替える可能性がある
8日明け方までに波浪警報に切り替える可能性がある
8日未明までに洪水警報に切り替える可能性がある
高潮 8日6時頃から8日9時頃まで ピークは8日8時頃
最大潮位 内浦 TP上 1.2メートル
土砂災害 7日夜遅くから8日昼過ぎまで
浸水 8日未明から8日昼前まで 雨のピークは8日明け方
1時間最大雨量 50ミリ
風 8日未明から8日夜のはじめ頃にかけて 以後も続く 北東の風のち西の風 ピークは8日明け方
最大風速 陸上 20メートル 海上 25メートル
波 7日夜遅くから8日夜のはじめ頃にかけて 以後も続く ピークは8日朝
波高 7メートル
洪水 8日未明から8日昼前まで
付加事項 竜巻 うねり
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静岡県の「富士山南東」地区(御殿場市,三島市,沼津市など)は,この時点で雷,高潮注意報が新たに発表され,大雨,強風,波浪,洪水注意報が引き続き発表されている,という内容になっています.この地区ではこの時点では警報は発表されていないわけですが,「特記事項」として,今後,だいたいいつ頃に,警報に切り替えられる可能性があるという情報が挙げられています.
「まだ注意報だから大丈夫だと思っていた.警報になりそうなときはあらかじめ知らせて欲しい」という意見を聞くことがあります.
★そのニーズはすでに満たされています★
無論,現象の変化が急激で,本当に急に警報発表となる場合もありますから,常にこのような発表形態になるとは限りません.しかし,情報が進歩していることも確かです.情報が足りない足りないと嘆く前に,探してみましょう.聞いてみましょう.
高潮とは,台風などの発達した低気圧が海岸付近に接近した際,風によって海水が陸側(湾側)に吹き寄せられたり,気圧の低下により海水面が上昇したりすることによってもたらされる現象です.
気象庁による高潮の解説
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/4-1.html
目に見える形態としては,津波のように,海水面全体が高くなり,陸上に洪水のように押し寄せるものとなります.単なる浸水ではなく,激しい流れを伴うことが多いため,同程度の面積が浸水したとしても,河川の洪水より構造物などに被害がもたらされやすくなります.
今回の台風2009年18号では,東海地方で高潮の発生の危険性があり,一時愛知県などに高潮警報が出ていました.8日9時時点で,静岡県遠州南には高潮警報が出ています.
浜松 市にある舞阪潮位観測所(気象庁)の潮位観測記録を,気象庁webより引用します.左が観測値で,赤線が観測された潮位,青線が天文潮位,すなわち台風等の影響がない場合の潮位です.7日18時頃から観測潮位が天文潮位を上回り始め,8日6~7時頃にピークを迎えていることがわかります.これが高潮です.右図は潮位偏差,つまり天文潮位と観測潮位の差で,台風によってもたらされた潮位の上昇の大きさに当たります.潮位偏差のピークは6~7時頃ですが,天文潮位のピーク,つまり満潮時刻はこれより若干後(8:23)になっています.満潮と,潮位偏差のピークが重なれば,実際の潮位はさらに高くなることになります.
高潮に関する潮位の呼びかけは,高潮警報として,8日0時45分に発表されました.実際の表現は以下の通り.
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平成21年10月 8日00時45分 静岡地方気象台発表
中部南」大雨,洪水,暴風,波浪警報」雷,高潮注意報」
中部北」大雨,暴風警報」雷,洪水注意報」
伊豆」大雨,洪水,暴風,波浪警報」雷,高潮注意報」
東部」大雨,洪水,暴風,波浪警報」雷,高潮注意報」
遠州北」大雨,暴風警報」雷,洪水注意報」
遠州南」大雨,洪水,暴風,波浪,高潮警報」雷注意報」
((遠州南では、8日朝の満潮時を中心に高潮に警戒して下さい。県内では、8日朝にかけて非常に激しい雨による浸水害に、また、8日昼前にかけて、土砂災害、暴風、高波に警戒して下さい。))
遠州南 [発表]高潮警報 [継続]大雨,洪水,暴風,波浪警報 雷注意報
特記事項 土砂災害警戒 浸水警戒
高潮 8日6時頃から8日12時頃まで ピークは8日9時頃
最大潮位 舞阪 TP上 1.4メートル
土砂災害 8日昼前まで
浸水 8日朝まで 雨のピークは8日明け方
1時間最大雨量 60ミリ
洪水 8日朝まで
風 8日昼前まで 東の風のち南西の風 ピークは8日明け方
最大風速 陸上 20メートル 海上 30メートル
波 8日夕方まで ピークは8日朝
波高 11メートル
付加事項 うねり 竜巻
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また,満潮時刻などの情報は,「気象情報」として7日から発表されていました.具体的な表現の一例は以下の通り.
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平成21年 台風第18号に関する静岡県気象情報 第7号
平成21年10月7日23時15分 静岡地方気象台発表
(見出し)
台風第18号は非常に強い勢力を保ったまま、8日明け方から朝にかけて静岡県に最も接近するため、暴風、高波、低地の浸水、河川の増水、土砂災害、高潮、竜巻などの激しい突風に警戒して下さい。
(本文)
<中略>
[高潮の予想]
県内では、台風の接近する8日には、満潮時刻を中心に高潮に注意・警戒
が必要です。
8日の満潮時刻は、
清水港 7時56分、御前崎 8時00分
内浦 7時53分、石廊崎 7時57分
舞阪 8時23分
先の記事で,台風の「激しさ」は,中心付近の最大風速にもとづく「強さ」と,風速15m/s以上の強風域の半径にもとづく「大きさ」で表現されることを紹介しました.
「強さ」の階級は,分類名称なし→強い→非常に強い→猛烈な,の4段階.「大きさ」は,分類名称なし→大型→超大型,の3段階です.以前は強さの階級に「弱い」,「並の」が,大きさの階級に「小型」や「中型」があり,文字通りの階級表現になっていました.しかし,これらの呼称は警戒心を弱めるといったことを言う人たちがおり,「わかりにくいので」使わないことになり,強そうな表現だけが残っているのです.
この階級表現の仕方には私は賛同しかねますが,ともあれ,客観的に現象の激しさを示す指標は,このように厳然とあるのです.にもかかわらず,それを捨てて,(比較対象の不明瞭な)「最大級」などという,いくらでも乱発できる感覚的表現を用いることに,私は憤りを感じます.情報を感覚的に適当に簡略化することが「わかりやすい災害情報の伝達」だとは私には思えません.
感覚的な情報ではなく,どこで,どのようなことが起こりつつあるのかという,客観的事実を,たとえどんなに「わからない,わからない」と拒絶されようとも,粘り強く伝え続けることが重要だと思います.
7日23時現在,大雨警報,洪水警報などが,関東以西の各地に発表されています.三重県では土砂災害警戒情報も出されています.比較的発表頻度が低い警報として,高潮警報が愛知県に出されているのがやや注意を引きます.全国アメダス観測所では,統計期間20年以上の観測所で各種記録を更新している箇所はありません.
台風接近時の報道を見るたびに思うことなのですが,
「暴風域の『赤い円』ばかりが強調されるのはなんとかならないものか」
,と思います.全く同じ事を2年ほど前にも書いていますが.
https://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_f5f9.html
2年前の記事をさらに再掲しますが,
●暴風域=豪雨域ではありません●
●豪雨域は台風の中心よりずっとはなれています●
これらは,今回の台風の特徴ではなく,台風が日本列島付近に近づいた場合は,多くの場合このような状況が見られます.
10月7日21時の台風の位置と,同時刻の解析雨量(レーダーによって観測した雨量を地上観測所のデータで補正した雨量)の図,気象衛星画像を,気象庁webより引用します.
台風の中心は四国沖にあります.「赤い円」は四国や紀伊半島南部にかかろうとしているところです.一方,多雨域は四国付近には見られず,紀伊半島東側に見られます.雨域自体も,中心から同心円状に広がっているのではなくて,台風の中心の北東側に広がっているのが一目瞭然です.気象レーダーは,陸から離れた海上の降雨を十分とらえ切れない場合がありますが,衛星画像で見ても,発達した雲域(白色度の高い箇所)は「赤い円」の中にあるのではなく,それより北東側にあることがはっきりとわかります.
率直に言いますが,
「台風の中心がまだ遠くにあるから大丈夫だ」
という認識は改めるべき認識です.今は,レーダーもあるし,地上観測網も充実しているし,衛星画像だってあるのです.「台風の中心位置」などという,極言すれば「30年くらい前に有力だった災害情報」に依存するのではなく,今,どこで,との程度の雨が降っているのか,どの程度の風が吹いているのかという,「現代の災害情報」を元にした事実を把握しましょう.
これもメディア取材を受けて気になったことです.
「台風が接近しています.私たちにできる備えは?」という質問をよく受けます.例によって私は,
「流れのある水は怖いので,近づかないこと」
「余裕があれば早期避難,状況が激しくなったら少しでも安全な場所へ対比するなど,次善の策を」
などとコメントします.しかし,これが必ずしも評判が良くないようです.なにか,「すぐにできる手立て」が人気があるようです.たとえば,「避難袋にこういうものを入れておくといい」とか,「簡単にできる土嚢の作り方」とか,「家の回りはこうしておこう」とか,「避難するときはこういう装備で」とか.
どうも,災害に対して身近なところで目に見える「なにか」をしておくことが,「身近な防災対策」だというイメージが強く持たれているように感じます.こういった「対策」は,すべて無駄だとも言いませんが,率直に言って,些末な事項だと思います.また,一般化できる話でもないと思います.
最も重要な個人レベルの防災対策は,生命を守ることでしょう.また,できるならば財産も守れればよいというところでしょう.そのためには,「ここではどういうことが起こりそうか」をまず理解し,その上で,「自分はどのように困り,どのようになりたくないか」を考えることしょう.どうなったら困るかは人によって違います.自分の置かれる状況をイメージして,自分にとって必要な準備をしておくことが重要でしょう.
土嚢を見たこともないような人が,浸水が心配で今から土嚢の作り方をネットで調べたりするヒマがあるのなら,水に浸かったら困るものを高いところに移して,浸水の危険がないところに早く避難しましょう.とにかく不安で,避難袋に入れるものをあれこれ考えているヒマがあったら,とにかく身の回りのものを持って,早く洪水・土砂災害の危険がなさそうなところに逃れましょう.
自分にとって何が重要なことかは,状況が平静なうちに少し冷静になって考えれば,ある程度わかると思います.小手先の「誰でもできそうな簡単な防災対策」は,よっぽど暇と余裕があるときにやればよいことではないでしょうか.
昨日あたりからメディアの取材を受けていて気になったことをメモしておきます.
まず,「最大級の台風」.これに類した言葉がメディアに踊っています.気象現象の「激しさ」は,単一の指標では示すことができず,「激しく見せよう」と思えばいくらでも見せることができます.
台風の「激しさ」を示す一般的な指標としては,気象庁が定義している,「大きさ」と「強さ」があります.「大きさ」は風速15m/sの半径,つまり,強い風の吹いている範囲の広さです.「強さ」は中心付近の風の強さです.詳しくは気象庁web内の,
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/1-3.html
にあります.このほかに中心気圧という指標もあり,これが低ければ,激しい台風となる傾向があります.
台風に伴って,激しい雨が降ることが多いですが,雨の激しさは台風の「強さ」「大きさ」あるいは「中心気圧」と必ずしも直結しません.また,「強く」て「大きい」台風が必ずしも「大きな被害」をもたらすとも限りません.あるいは,中心気圧の低い台風が,大きな被害をもたらすとも限りません.
現在接近中の台風2009年18号は,10月7日19時現在で,「大きさ」は特に分類なし,つまり,「大型」でも「超大型」でもありません.「強さ」は「非常に強い」で,「分類なし」「強い」「非常に強い」「猛烈な」という現在の分類中では,強い方から2番目です.こう言うとあまり激しくなさそうですが,では,何が「最大級」かというと,中心気圧が,今の時点ではやや低いことです.
1945年以降で,上陸時の中心気圧の低かった台風のリストが,
http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/ranking/air_pressure.html
にありますが,ここにある上位10位の台風の中心気圧が945hPaです.で,7日19時現在の台風2009年18号の中心気圧が945hPaなので,現時点で上位10位に匹敵していることになります.おそらく,ここから「最大級」という呼称が出てきたのだと思います.「最大級」かもしれませんが,けっして「最大」とは言えないでしょう.上陸時には中心示度が下がるかもしれませんから,そうなれば,10位に匹敵しないことになります.また,そもそも統計期間は1945年以降の65年余りです.
筆者は,ことさらに「たいした台風ではない」と言っているのではありません.警告的な表現としては,激しい台風が接近していることを知らせるために,いろいろな言い方があってもいいと思います.しかし,「最大級の台風」が,「今まで経験したこともないようなスゴイ台風」ととられ,仮にそれによる被害が比較的軽微ですんだ場合,「今まで経験したこともないようなスゴイ台風」だったのにこの程度の被害か,たいしたことないな,と誤解されることを懸念しているのです.
台風が激しい気象現象であることにかわりはありません.軽視,油断せず,慎重な行動をとることが大切でしょう.
昨日10月6日のテレビ朝日「報道ステーション」に出演させていただきました.内容は,豪雨災害時の避難行動や情報活用などについてのコメントです.
収録された素材を編集していただいたもので,かつ私は実際には放映を見ていないので最終的にはどのような内容になったのかは確認していません.
なお,私のコメントと挟んで,「浸水した中を避難するときは棒を持って,長靴は危険なので運動靴で」といった「防災知識」が紹介されたようですが,この「防災知識」は私が推奨したものではありません.私の立場としては,「棒を持って運動靴で浸水した中を避難しましょう」というメッセージになりかねないという懸念を持っています.
強調しておきますが,知識として最も重要なことは,
「流れのある水の中を無理して歩かない,車で突っ込まない」
です.棒を持ってとか運動靴でとかいうのは,二の次,三の次の知識です.
どうも,このような「すぐに誰でもできそうな簡単な防災対策」というのが人気を集める傾向があると感じています.非常持ち出し品の用意,避難場所や避難経路の確認などが代表例です.それらの「対策」「ミニ知識」は,それぞれ「ウソ」というわけではありません.しかし,「それぞれの人にとって本当に重要な対策・知識」であるかどうかは,疑問であることも少なくないと思います.この手のいうなれば小手先の「対策」で満足せず,災害に見舞われた際の自分の姿を冷静にイメージし,その場所で,自分にとって必要な対策とは何かを考えることが重要だと思います.
紹介が遅れましたが,9月24日付朝日新聞朝刊の全国面「オピニオン」欄に当方の記事が載りました.以下に引用します.
寄稿のような文体ですが,実際には取材を受けて構成していただいたものです.繰り返し主張しているところではありますが,要は,「使える情報は大いに充実した.しかし災害情報はあるだけでは機能しない.どう使うか,使う体制作りが重要だ」という話です.
では,どうする?,です,問題は.ここが模索中です.「防災に熱心な個人」を育成してもあまり効果的ではないだろうし,ましてや国民全般の意識を底上げしようというのも,理念としてはともかく,現実的ではない,というところまでは考えがまとまっています.その先が,今まさに私の課題です.
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(私の視点)自治体と水害 専任の防災担当を育てよう 牛山素行
降雨や川の水位などの情報を得ていても、自治体の避難勧告が遅れることがある。山口県防府市では老人ホームのお年寄りが土石流で生き埋めになり、兵庫県佐用町では川があふれて避難途中の人が多数犠牲になった。どこに問題があるのか。
水害や土砂災害の対策として、ダムや堤防強化などのハード対策に加え、最近国や自治体が力を入れているのが、気象情報や川の水位情報を集めて住民を避難させたりするソフト対策だ。気象庁は全国1300地点で観測、国土交通省は河川の1900地点で水位を観測、インターネットで流す体制が整っている。防災情報は住民に利用されない限り災害を減らせないが、情報を提供する側も利用する側も、膨大な情報を手にしただけで「減災」できたような錯覚に陥っているのではないか。
災害対策基本法では、避難勧告をはじめ、住民に情報を伝える責務が市町村に集中している。国や都道府県から膨大な情報を得て、住民にいつ、何を、どう伝えるかを判断するには専門的な知識と熟練がいるのに人材が決定的に不足している。
昨年、全国の市町村の防災担当者にアンケートをした。水位などの情報を日頃から見ていると答えたのは3割、見たことはあるも含めると8割に達した。ところが、専任の防災担当者がいない自治体が約3割、1人というのが2割あった。専任の職員が複数いる大きな自治体でも担当者は普通2~3年で代わり、知識を蓄えるのは難しい。国や都道府県が自らも含め、エキスパートを育てることが緊急の課題だ。
アンケートでは、避難勧告について、約7割が「空振りになっても良いので出すべきだ」と答えたが、現実にはためらいがちだ。専門家がいないこともあるが、空振りに対する批判への懸念、避難所開設などに伴う費用を市町村が負担しなければならないことなども要因となっているようだ。避難勧告を躊躇(ちゅうちょ)すべきではないが、国や都道府県がこうした費用を補助できないものだろうか。災害対策基本法は、避難勧告の権限を市町村長だけに与え、都道府県は情報提供にとどまっているが、緊急時には市町村に勧告するよう指導したり、自ら勧告できたりするよう改正してもいい。
さらに大事なことは、住民が情報を受け取り、どう行動するかだ。02年に水害にあった岩手県の旧2町村で行った調査では、避難勧告を受けて避難した人は2割しかなかった。一方で、勧告が出るまでは避難しなくていいと思いこんでいる人も多い。佐用町役場自身が被災し、救助どころでなかったように、行政任せにすることはかえって危険だ。
どこが危険かを地図で示したハザードマップ、雨量や水位などの情報の整備とともに、情報提供者・利用者双方が災害情報を生かすため、それぞれの地域で専門的な知識を持つ技術者に加わってもらいながら防災ワークショップを開いて話し合い、理解を進めてほしい。
去る9月29日~30日,京都大学において第28回日本自然災害学会学術講演会が開催されました.当方からは下記2件の発表を行いました.
牛山素行,2009年7月21日山口県で発生した豪雨災害の特徴,第28回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.33-34
http://disaster-i.net/notes/2009JSNDS.pdf
太田好乃・牛山素行,市町村役場における豪雨災害情報の利活用状況について,第28回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.123-124
http://disaster-i.net/notes/2009JSNDS_ohta.pdf
自然災害学会における,自然科学系研究者の影は,さらに一層薄くなった観がありました.災害科学は総合科学であり,文理双方の領域の研究者が取り組んでいく必要があります.「文」側からアプローチする人の増加は喜ばしいことですが,かといって「理」側が退場していくのでは何にもなりません.何か打開策はないものか,真剣に考える必要がありそうです.
9月23日付産経新聞(全国社会面)に当方の調査結果の一部が紹介されています.以下に引用します.
災害対策,ことに個人レベルの対策やソフト対策は,その「効果」を示すことが極めて困難です.それらが重要ではないということはありませんが,イメージに流されるのではなく,冷静な見方が必要だと思います.
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東海地震「過信は禁物」
東海地震が「あす起きてもおかしくない」と指摘されて30年以上が経過した静岡県。8月11日の駿河湾地震の被害は死者1人、重軽傷者311人などにとどまり、「備えが進んでいたため被害が少なかった」との指摘もある。ただ、地震の規模がマグニチュード(M)6・5とそれほど大きくなかったことや、発生時間が早朝だったことが幸いした面もあり、関係者は「過信は禁物」と警鐘を鳴らしている。
「今回の地震は主な揺れの周期が短く、屋根瓦に特徴的な被害が出たのではないか」。19日に静岡県地震防災センター(静岡市葵区)で開かれた緊急報告会で、静岡大防災総合センターの小山真人教授は、今回の地震では周期が1~2秒で住宅に大きな被害をもたらす「キラーパルス」と呼ばれる揺れが弱かったため、住宅本体の損壊が少ない一方で、屋根瓦に被害が集中した可能性が高いことを報告した。
また県危機情報室の岩田孝仁室長は、「東海地震で想定される震度6強~7の揺れは先月の地震とはレベルが違う。住宅の耐震化も重要で、改めて東海地震に真剣に立ち向かう対策をお願いしたい」と訴えた。
静岡大の牛山素行准教授はインターネット調査の結果をもとに「静岡県民の“備え”の実施率は、他地域に比べて飛び抜けて高いというわけではない」との分析を示した。今回実施される林能成准教授らによる学術的な調査によって、静岡県民の備えの実態と有効性が明らかになり、今後へ向けた指針となることが期待されている。