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2010年4月14日 (水)

チリ地震津波の避難に関する内閣府調査

2月28日のチリ地震津波時の避難行動に関する,内閣府・消防庁による住民対象調査の結果が公表されました.

チリ中部沿岸を震源とする地震による津波避難に関する緊急住民アンケート調査結果について
http://www.bousai.go.jp/oshirase/h22/100413-1kisya.pdf

対象は大津波警報が出た青森,岩手,宮城の沿岸市町村で,避難勧告・指示が出された地域に在住の住民です.

指定避難場所への避難も含め,何らかの形で避難したとの回答が37.5%でした.これは,当方で行ったネット調査の結果ともおおむね同様で,大津波警報の出た地域では,数パーセントではなく,数十パーセントのオーダーで実質的な意味での避難行動をとっていた人がいたことが伺えます.

2010年2月28日のチリ地震津波に関するアンケート 報告書
http://disaster-i.net/notes/100316report.pdf

多くのメディアはこの結果をもとに,「避難者が少なかった」という論調で見出しがついています.たとえば,「チリ大地震津波勧告 避難率、4割を切る」(産経新聞),「津波に6割避難せず…内閣府など調査」(毎日新聞)など.確かに,これだけ時間的余裕があり,さまざまな対応オプションが選択可能な状況であったことを考えますと,過半数が避難行動を起こしていないということは望ましいことではありません.

ただ,先に消防庁から発表された避難所避難を中心とした「公的に把握された避難率」は,青森4.1%,岩手12.2%,宮城6.5%でした.「避難場所にいた人の数倍規模で実質的な避難行動をとっていた人がいた」という,先に当方が公表した報告書で指摘した傾向があらためて確認されたことになります.また,豪雨災害などの避難率を考え合わせると,避難率4割というのは,かなり高い率だとも言えます.むしろ,よくここまで逃げてくれた,もう少し増やすにはどうしたらいいか,というとらえ方をすべきではないかと考えます.

少し気になる点は,今回の調査結果の報告書の論調が,「避難勧告の対象範囲が広すぎたことが反省点だ」といったようにも読み取れる点です.

沿岸各地では,津波による浸水想定区域が公表されています.避難勧告の対象地区は,この津波浸水想定区域をもとに決められたケースが多いようです.津波浸水想定区域は,その想定を行った際に用いられた最大規模の津波(あくまでもそのシミュレーションを行った際に用いた最大の想定外力であって当該地域で起こりうる最大の津波というわけではない)による浸水の範囲を示すことが多いです.従って,今回予報された3mの津波に対しては,対象範囲が広すぎた,過剰だった,というのがこの報告書の論旨のように読み取れます.

しかし,これは結果論だと思います.結果的に3mの津波は観測されませんでしたが,現地の地形や,外力の条件によっては,予報より大きな規模の津波が到達する可能性は十分にあり得ます.十分な余裕を持って危険なエリアから待避することが大原則です.

報告書は,「この規模の津波予報の時はここまでの人が避難」といった,段階的な避難計画を策定することを求めているようにも読み取れます.それは正論だとは思いますが,災害時の対応行動計画を精緻化しても,受け取る人間の側が十分対応できないことを筆者は懸念します.ますます,「情報依存,情報待ち」の人を増やすだけではないでしょうか.

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