災害科学的基礎を持った防災実務者の養成
ここしばらくブログの更新が滞りました.その主たる原因は,5月下旬に,当方が中心になって申請していた科学技術振興調整費「災害科学的基礎を持った防災実務者の養成」が採択内示され,各種事務的処理に忙殺されてしまったためです.
このプロジェクトに関しては今後追々ご紹介していきますが,本年度から開始して5年間,予算的にも大型のプロジェクトです.
このプロジェクトは,主に社会人を対象とした人材育成プロジェクトです.静岡県では,県により「静岡県防災士」の養成講座が開催されていますが,この講座の修了者を主な対象とし,1年半をかけて講義,演習を受講していただき,後半では卒業研究的なものをとりまとめ,学会などの場で,専門家に向けて発表してもらうことを考えています.
防災に関する人材育成にも様々なあり方があり,静岡県では県を中心に既にいろいろな種類の取り組みが行われています.従って本プロジェクトでは,全般的な人材育成ではなく,対象や目的を絞った構成を考えています.
まず,どのような「防災」を対象とするかですが,災害ライフサイクル(事前・事中・事後)のうち,「事前」の対策を主な対象と考えています.近年,「防災=危機管理=発災対応」といったイメージがよく抱かれているように感じられます.それは必ずしも間違いではないと思いますが,それがすべてではないと思います.「危機管理=発災対応」を研修する機会は既に多くあります.我々は,「事前の対策」に主体的に当たれる人材の育成を試みたいと考えています.
特に「事前の対策」を考える上では,「経験談」,「マニュアル」,「ノウハウ,ハウツー」,「訓練」といったものが十分機能せず,応用力といいますか,知的基礎体力が重要になってくると思います.とはいえ,限られた養成期間では,幅広い災害科学の体系を一から伝えることは現実的ではありません.また,一昔前のように,ハザード(地震・台風など)のメカニズムを教えることが「防災教育」であるという考え方も必ずしも適切なものではないと思います.このプロジェクトでは,「災害に関わる科学的情報を読み解ける」ということを目標にしたいと考えています.例えば,ハザードマップに表記された数値や等値線を鵜呑みにするのではなく,かといっていい加減ではなく,幅を持った情報として読み取れる,といったことです.
また,受講者層としては,行政機関や防災関係企業において「業務として防災に関わっている実務者」を想定しています.業務,仕事として防災に関わっている方々は,その業務内容が多くの人々に影響を与えるものであり,こういった人材こそが「中核的な防災人材」であると我々は考えています.防災に関わる人材育成というと,「防災に熱心な市民リーダー」,「災害ボランティア」などがイメージされがちですが,本プロジェクトではこれらの人材層は対象としてあまり考えていません.
無論,そういった人材が不要であると考えているわけではありませんが,静岡県においてはそういった人材育成は既に幅広く行われていますので,本プロジェクトでは対象を別の方向に絞りたいと考えています.
この講座の受講者は,災害科学という専門領域の入り口に立つ一学徒(学生)として扱われます.したがって,「防災に関わる地道な活動を熱心にやっている」こと自体はなんら評価の対象となりません.また,研究成果をとりまとめ,発表する過程では,自らの取り組みを全面的に否定されるといった経験をすることがごく普通にあるでしょう.調査研究するということは,「意見」「主張」をまとめることではありません.先行研究を踏まえ,客観的なデータを整理して,何らかの結論を導き出すことが基本です.
本講座の修了者には,静岡大学・静岡県からなんらかの称号が授与される予定です.たただしこの称号は,学士・修士等の学則上の称号ではなく,また何らかの権限を付与される資格でもありません.本講座の経験を,修了者の所属組織における防災実務に生かしていただくことが我々の願いです.「○○称号をせっかく取ったのに,××は私をなぜ使わないんだ!」というアプローチスタイルを我々は推奨しません.
このプロジェクトのポリシーには,反発を覚える方も多いことと思います.しかし,我々はあえて,この取り組みに挑戦してみたいと考えています.
受講者の募集時期や,選考方法(希望者全員を受け入れることは難しいので何らかの方法で選考します),具体的な講座の内容などはまだまだ未定であり,これから数ヶ月かけて議論していく予定です.本ブログでも,追々紹介していくつもりです.
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