長時間降水量「だけ」が大きい状況
ここ数日,西日本を中心としてまとまった雨となっています.7月15日13時現在のデータでは,7月14日から15日の間に,全国のAMeDAS観測所(統計期間20年以上)で,1979年以降最大値を更新した観測所は,1時間降水量1箇所,24時間降水量2箇所,72時間降水量10箇所となっています.つまり,長時間降水量については記録更新(当該地点としては激しい量の降雨)がやや目立ったものの,短時間降水量はそれほどでもないということになります.
少し見方を変えて,1時間降水量50mm以上は,7/13~7/15の間に全国の16観測所で18回(つまり2箇所では50mm以上が2回観測された)観測されましたが,このうち,50mm以上を記録した際に,72時間降水量の1979年以降最大値が同時に更新されていた観測所は,7月15日朝の山口県秋吉台,豊田の2箇所.24時間降水量の最大値が更新されていた観測所はありませんでした.つまり,短時間降水量が激しく,かつ長時間降水量も大きな記録が生じていた観測所はほとんど確認できなかったことになります.
7月15日正午頃の時点では,消防庁から全国の被害集計は発表されていません.降水量記録から,被害が出そうな県を調べてみたところ,福岡県では,15日10時35分の資料で,死者不明者0人,住家全壊3棟,半壊0棟,床上浸水85棟とのこと.広島県では15日10時の資料で,死者不明者4名,全壊2棟,半壊2棟,床上浸水約69棟.山口県はまだまとまった資料が出てきていませんが,報道されている範囲内では,死者不明者はなく,床上浸水が100棟以上との情報もあります.今後,被害の値は増える可能性もありますが,今のところは,毎年複数回発生している規模の被害と見ていいのではないかと考えています.
豪雨による災害は,洪水,土砂災害いずれにおいてもそうですが,長時間降水量の値が大きいだけでは大きな被害には結び付きにくいものです.逆に,短時間降水量だけが激しくても大きな災害には結びつきにくい傾向にあります.被害の規模がそれほど大きなものになっていないのは,このような雨の降り方と関係しているもののようにも思えます.
繰り返し強調しておきますが,「たいした雨ではないから大丈夫」と言っているのではありません.ここしばらく雨が続き,長時間の降水量は比較的大きくなっています.たまたま,短時間降水量がそれほど激しくない(あるいは短時間降水量が激しかった地点では長時間降水量が大きくなっておらず)状況であることから,致命的かつ大規模な災害に結びついていないに過ぎません.非常に危ない橋を渡っている状況下にあることは間違いありません.
左図は全国AMeDAS観測所で,日降水量200mm以上が記録された回数を年ごとに示したものです.この図に見るように,2008年,2009年と,まとまった雨が降る日数が「記録的に少ない年」が続きました.ひょっとすると「日本には梅雨というものがあって,たくさんの雨が広域で降ることは珍しくないんだ」ということが忘れ去られたのかも知れません(本気で言っているのではありませんが,一部報道への皮肉です).しかし,梅雨末期にはこのような長雨と,長雨の後の短時間の豪雨という現象がよく起こるものなのです.長雨が続いていることはけっしていい状況ではありません.まだしばらく,要注意であることは間違いありません.
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