防災メール(含掲示板等)は無駄なのか
宮崎市では,いわゆる「防災メール」事業が不要なものとして仕分けられてしまったそうです.
宮崎市:初の事業仕分け 21事業中17事業、「不要」か「見直し必要」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100919-00000233-mailo-l45
筆者は,防災メールや防災掲示板など,「IT系技術を使えば災害時に情報を双方向でやりとりして,こんなことまでできちゃうっっっ」的な「技術開発」「提言」に,一般論としては懐疑的です.ただし,防災メール等が全く無駄なものではなく,その機能を発揮しうる場面も大いにあるとも確信しています.
まず,防災メール(掲示板等も含む)は「緊急時」は不得意なメディアだと思います.防災メールは緊急情報(災害前に危険を知らせる情報)伝達メディアのイメージが強いですが,防災メール自体は単に伝達手段であり,出す情報を用意できなければ防災メールを整備したところで地域防災力が上がるわけではありません.
また,メールは災害時に強いという思い込みがありますが,音声通話に比べればまだましという意味であり,災害時でも普段と全く同様に使えるわけではありません.
牛山素行,2005年8月16日宮城県沖の地震時の住民による情報利用実態,日本災害情報学会第7回研究発表大会予稿集,pp.107-112,2005
http://disaster-i.net/notes/2005JSDIS.pdf
一方,防災メールは,災害警戒~災害発生の時期より,むしろ,災害発生後しばらく経った,救出・救援の時期以降に機能を発揮すると考えています.防災無線で流している情報を文字にして配信する,といった方法での活用事例が実際にあります.
つまり,防災メールは,他の防災情報伝達手段を代替するものではなく,相互に補完し合うメディアだと思います.災害情報伝達システムを強靱にする有力な方法の一つは,「冗長化」(複数の伝達経路を持つことなど)です.防災無線等のメディアに加えて防災メールを整備することはまさに「冗長化」です.語感から「無駄」という印象を持つかも知れませんが,それは誤読です.
牛山素行,平成18年7月豪雨による災害の特徴 -長野県における被害を中心として-,平成18年度河川災害に関するシンポジウム
http://www.disaster-i.net/notes/20070306kasen.pdf
災害時に,行政機関と市民の間でリアルタイムに「双方向情報交換」が整然と行われたというケースは,実際にはほとんど存在しませんが,ごく稀に実例はあります.それが,2005年台風14号災害時の宮崎市です.
牛山素行,2005年9月台風14号による豪雨災害の特徴,第24回日本自然災害学会学術講演会講演概要集,pp.105-106,2005
http://www.disaster-i.net/notes/2005JSNDS.pdf
いわゆる「先進地」,「災害経験地」で,その後がうまく続かない話しはいくらでもありますが,よりによってあの宮崎市で,と思うと,残念でなりません.