「アンケート」を軽く考えている人が良くいるように思います
以下は,最近刊行された,「社会と調査」第6号にエッセイとして掲載させていただいた原稿です.
最近に始まったことではありませんが,いろいろな意味で,「アンケート」というものを軽く考えている人を(特に理工系バックグラウンドの人の中で)よく見かけます.震災を経てまたそういう場面を目にしそうな気がします.
専門家として,社会に向けて「アンケート調査結果」を公表するならば,その方法論を踏まえた上で,その内容に責任を負えるものを出すべきだと私は考えます.無論,「アンケート」には様々な問題があり,その限界や注意点を合わせて明記することは必要です.
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「アンケートでもとって」
筆者は,豪雨災害や津波災害を主な対象として,災害時の避難行動,情報の活用による被害軽減などについての調査研究を行っている.もとは農学部・林学の出身で,「人」を対象とした調査研究の基礎教育はあまり受けていないのだが,現在の仕事は災害に関わる「人」を対象としたものが多くなっている.
防災に関わる分野で「人」を対象とした調査研究が行われる場面は多々ある.災害発生時の住民の避難行動調査,何らかの対象地における住民の災害に対する意識の調査などはその典型例であろう.防災研究分野は1995年の阪神・淡路大震災をターニングポイントとして,それまでの理工学的研究者・技術者中心だった世界から,人文・社会科学系分野も含む幅広い研究者・技術者の活躍が目立つようになってきた.まさに学際的な分野である.前述のように,防災に関わる調査研究で「人」を対象としたテーマが取り上げられる機会は多く,防災関連学会等でこのような報告を目にする機会が少なくない.しかし,様々なバックグラウンドを持つ報告者が多いゆえか,時として「人」を対象とした調査(社会調査)としては,方法論などがいささかどうかと思われる場面を目にすることがある.あくまでもデフォルメされた例とご理解いただきたいが,たとえば,回答数数百件のグループと,十件程度のグループの回答構成比を(0.1%単位で)議論するケースとか,逆に数人に対するインタビュー調査に対して,人数が少ないということだけを持って無意味なものと決めつけるといった場面に遭遇することもある.また,調査研究や地域防災等のプロジェクト初期に,「まずアンケートでもとって実態を調べましょう」といった話を聞くこともある.少し厳しい見方かも知れないが,社会調査的な手法が「誰にでもすぐできる簡単なことだ」などと,軽視されているのではないかと考えさせられる.
調査票調査も聴取調査も,それぞれに多様な方法論があり,方法論に対する理解が不十分に行われた調査は,その結果への信頼性が損なわれることになる.その構造自体は,理工学的フィールドワークにおいて,機器を用いて行う観測や,試料を採取しての分析などと同様で,「アンケートは簡単でだれにもでき」,「観測は十分な知識と訓練が必要」といった差はないはずである.
筆者は理工系分野から,「人」を対象とした調査研究の分野に参入していく中で,現地での様々な失敗や,異分野の研究者からの手厳しい指摘から多くのことを気づかされてきた.バックグラウンドの枠を超えた活発な議論がますます盛んになることを通じて,地域の防災に資する成果が生まれることを願っている.