土砂災害警戒情報の性質と,気象情報の空間分解能について
筆者は,土砂災害警戒情報は「市町村全体で土砂災害の危険がある」と言っているわけではなく,「市町村内で(地形的に)土砂災害の可能性がある場所で発生する危険が高まっている」事を意味する情報と考えています.したがって,土砂災害警戒情報が出たから,全市民対象に避難勧告を出すことは明確に間違っています.避難した方がよいのは土砂災害警戒区域などにいる人です.
また,土砂災害警戒情報のような動的情報だけが災害情報ではなく,ハザードマップなどの静的情報と組み合わせて運用されるよう「日頃からの備え」が重要です.避難袋を作ることばかりが「備え」ではありません.
実は土砂災害警戒情報は基本的に降水量だけを元に計算されている指標なので,単に土砂災害に対して注意を促すばかりでなく,「当該地域にとって(ただの大雨警報の水準よりさらに)激しい雨」が降っていることを示すいい指標にもなります.
この種の情報をどう使うか?,が今日的な課題です.出された情報を全国民1人1人が完全に理解し,活用できることを目指すのは少々難しいと思います.情報を仲介して活用する人が必要と考えます.そういう人は集落に1人くらいいれば理想ですが,最低でも市町村に1人いてくれるだけでも意味があると思います.
土砂災害警戒情報が市町村単位では粗すぎるから集落単位で危険度を示せ,という「ニーズ」を必ずと言っていいほど聞きます.しかし私はこれに対応することに否定的です.降水量データの空間分解能が最小でも1kmメッシュであり,それを数十mに刻んでも所詮内挿です.内挿されたデータが「精密・正確なデータ」でないことは,この種のデータの扱いに慣れている人ならよくわかることですが,すべての人に共通して理解されているとは考えられません.数値やら指標やらが出て来ればそれが「正確な値」として受け取られても仕方がありません.
空間的な精度として,集落単位の危険度の差を示せるほどの精度がないのに,やたらと細かい危険度分布をだして「きめ細かい避難」とやらをやることがいい方向だとは思えません.
ただ,一律に市町村を単位にしているのはさすがに広すぎる場合もあると思いますので,イメージとしては,昭和合併前の町村くらいのスケール(あるいは5~10kmメッシュ単位くらい)で出した方がいいのでは,とは思います.土砂災害警戒情報の空間分解能を,「情報の運用上の都合」で決めることは適切ではありません.情報が持っている精度にもとづいて考えるべきです.その意味で,昭和合併前の町村(5~10kmメッシュくらい)くらいが最小単位だと思います.なお,現在でもあまりに大きすぎる市町村は,警報も土砂災害警戒情報も分割して出されているケースがあります.すぐ思いつくところでは,仙台市,静岡市,浜松市がそうです.
解析雨量のように格子(メッシュ)で示された情報は,最小格子まで拡大して読み取るような使い方は適切ではありません.特定メッシュに示された値は,少なくともその周囲8メッシュのいずれかの値であったとしてもおかしくありません.以下は解析雨量についてのイメージ図です.中央のメッシュが50mmを示していますが,実際に50mm程度の雨が降っているのがこの周囲8メッシュのいずれかである可能性は十分あります. http://twitpic.com/5c56ha
« 東日本大震災に伴う死者・行方不明者の推移 6月上旬時点 | トップページ | 東日本大震災による死者-年代構成の特徴- »
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 2021年 新年のご挨拶(2021.01.01)
- 水害時 避難イコール避難所Go! だけ,ではない(2020.04.07)
- 時評=災害教訓に学ぶ難しさ 多くの事例収集重要(2019.09.30)
- 時評=大雨の際の避難行動 流れる水に近づくな(2019.07.31)
- 「大雨警戒レベル」に関する補足的なメモ(2019.06.03)