2011年7月新潟・福島豪雨による遭難者(死者・行方不明者)は,8/9現在で死者4名,行方不明者2名,計6名となっています.これら遭難者について,おもに報道記事を元に遭難状況を集計しました.これは,筆者が最近7年ほど行っている同様な調査の一環です.調査方法やこれまでの論文などについては
http://disaster-i.net/research4.html
に示してあります.
今回の遭難者が発生した箇所のおおよその位置を下図の赤マークで示します.
http://goo.gl/VZ83z
位置はアドレスマッチングで自動判定したもので,正確ではありません.この場所で遭難したことを意味しません.点の情報になってしまいますが,あくまでも地名から判定したおおよその位置です.地名でいうと,十日町市(2名),小千谷市,三条市,田上町,只見町の各市町村に渡っています.
年齢は67,63,25,64,63,93となっており,65歳以上が2名,60歳以上だと5名となり,高齢者への偏りがあるのは近年の災害の傾向と同様です.
原因別に分類すると(分類法は上記http://goo.gl/k2V6S 参照),「洪水」が5名,「河川」が1名となり,「土砂」,「強風」,「その他」は確認できませんでした.
総数が6名と比較的少ないので,傾向というほどのことは言えませんが,「洪水」が遭難者のほとんどを占めていることは近年の豪雨災害ではあまり見られないことで,今回の災害の特徴と言っていいかもしれません.
遭難者のうち,十日町市で遭難した67歳男性,三条市で遭難した25歳男性は車で移動中に河川に転落しています.車や徒歩で移動中の遭難者は,近年の豪雨災害の犠牲者の1/4程度を占めており,多く見られる遭難形態です.
十日町市で遭難した93歳女性は,家族とともに徒歩で避難しようと移動していたところ洪水に流された模様です.避難途中の遭難者は,近年の豪雨災害の犠牲者の1割弱存在します.2009年8月の兵庫県佐用町での豪雨災害時に多く発生した形態ですが,今回も生じてしまったことは残念です.
只見町で遭難した63歳男性と小千谷市で遭難した63歳男性は,いずれも増水した河川付近で土嚢積み作業をしていたところ,川に転落して流された模様です.この遭難形態は,筆者が集計している2004年以降の豪雨災害による犠牲者399名の中でははじめてみられたものです.「土嚢積み作業中に遭難」という携帯は時折見られますが,これまでの集計で見られたのはいずれも「土嚢積みをしていたところ,土石流や土砂崩れに巻き込まれて遭難」というものでした.つまり,水を警戒していたら土砂に襲われたということでした.しかし,今回は,まさに,水を警戒していて,水に襲われたものです.今回の洪水流の激しさを示す例かも知れません.
田上町で遭難した64歳男性は,「田んぼの様子を見に行く」と出かけ,川に転落したものです.このような,「自らの意志で能動的に危険に接近した」遭難者を筆者は「能動的犠牲者」と分類しています.この形態は非常に多く,全犠牲者の1/3程度を占めますが,こんかいはこの遭難者1名のみでした.
今回の豪雨による遭難者は,近年の豪雨災害事例と比べても比較的少ない数にとどまっています.このような場合,上記「能動的犠牲者」が多く見られる事がよくあります.たとえば,本事例の約1週間前の台風6号による遭難者3名は全員が「能動的犠牲者」でした.しかし本事例ではこのような遭難者が1名にとどまり,土砂による犠牲者がなく洪水による犠牲者がほとんどだったことは非常に特徴的です.土嚢積み中に洪水流に流される,避難途中に流されるといった,比較的発生例の少ない遭難形態が見られたことも特徴的です.遭難者数が比較的少ないことであまり注目されていないのかも知れませんが,いろいろな示唆,教訓の含まれる事例だと思います.