名古屋市で100万人規模の避難勧告が出たことについての考察
台風15号の接近に伴い,名古屋市避難勧告100万,浜松市21万など,都市部で多数の避難勧告が出されました.名古屋市の避難勧告の対象世帯数については,公式発表資料が次々に消されていくので保存できていませんが,9/22産経新聞によると下記の状況とのこと.
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名古屋市が最初に避難勧告を出したのは20日午前11時20分。市内を流れる天白川が警戒水域に達したため、流域住民ら約20万人を対象とした。さらに同55分には庄内川でも氾濫の兆候がみられたため、勧告対象地域を一気に拡大。午後3時にはさらに約7万9千人に避難を指示。20日夜には避難勧告・指示を合わせると、対象者は108万人超に上った。
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また,これもいつものことですが,実際に避難した人はごくわずかでした.同じ産経記事によると,「市によると、避難を呼びかけた約100万人超のうち、実際に屋外に避難し、市が把握できたのは4565人」とのこと.単純計算すると,避難勧告対象者数に対する避難者数の割合は,0.004%となります.
対象者が多いことと,避難率が低いことが,メディア上でいろいろ議論になっています.ただ,簡単に判断できる問題ではありません.
まず,人口密集地に避難勧告を出したのだから,対象者数が増えること自体は当たり前です.数が多いということ自体は批判の対象にはならないと思います.
名古屋市という大都市の中を流れる庄内川という一級河川が避難判断水位,はん濫危険水位を超え,実際に一部で越流まで発生したのだから,避難勧告を出したこと自体も批判されることではなさそうです.
精査していませんが,たとえば名古屋市守山区では,瀬古・二城・鳥羽見・白沢の各学区が「避難指示」,守山・西城・志段味西・志段味東・吉根の各学区が「避難勧告」だったようです.ただしこれは9/21午後の名古屋市webから判断したもので,情報が次々に上書きして消されているので,本当にこの通りかどうかは分かりません.
守山区の洪水ハザードマップhttp://goo.gl/QiJCx を見たところ,浸水深が深く想定されているところでは避難指示に,そうでないところは避難勧告にしていたように読み取れます.詰まり,時折ある,混乱状態の中で「市内全域避難勧告」としたといった状況ではなさそうに思えます.
避難対象者に見合う避難所が用意されていなかったという批判がありますが,同意できません.危険が迫っているときは,避難場所の確保ができていなくても,「とにかくできれば逃げてくれ」というメッセージを出すことは必要で,「避難所を開設しなければ避難勧告は出せない」ということはないはずです.
「狼少年」をおそれて,という件は,確かにそういう側面もあるけど,年に何回も同じ場所に避難勧告が出されるような状況ならともかく,普通は何年かに一度の避難勧告なのだから,過度に神経質になることもないように思います.
なんらかの基準,あるいはデータにもとづいて,大規模な避難勧告を出したのならば,事後的に「こういった状況下で,こういった情報を元に我々はこう判断した」という説明を避難勧告を出した側がすることも重要だとおもいます.報道を見ると,今回の名古屋市はそういう努力もしているように見えます(でも報道発表資料には何も今回の災害の件が載っていない).
「被害が出た範囲だけ避難勧告」ということが現実には難しいことも,事実として提示することが必要だと思います.「こういう経緯でこう判断した」という事実に基づく情報を示すことは「言い訳」ではないと思います.避難勧告を出した経緯についての情報が提示されれば,それはまさに今後避難勧告を出す立場の自治体にとって貴重な「教訓」になるでしょう.
避難率が低い事もメディアでは問題視されています.しかし,指定避難場所の避難者だけで避難者数は評価できません.マンションなどの高層階にとどまっていた人も洪水災害ならば実質的には避難者となります.避難所ではない浸水の可能性が少ない場所に移動した人もいると予想されます.これは思いつきではなく,昨年のチリ地震津波の避難行動の調査結果 http://goo.gl/pRTAh (PDF) から類推できます.
指定避難場所に行くことが最善とは限らない,という話はここのところかなりよく言われるようになってきた感じがします.ならばどこへ行くか? これはいざ豪雨になってから考えるのではなく,平時に居住地の災害特性を理解した上で各自がイメージしておくことだと思います.
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