10/20~22の間,台風2011年12号により被害を受けた紀伊半島南部の和歌山県新宮市,那智勝浦町,奈良県十津川村,三重県紀宝町付近を現地踏査してきました.今回は,人的被害(死者・行方不明者)が発生した箇所の確認が主な目的です.
今回の現地踏査とそれに先立つ資料収集により,台風12号による遭難者で,遭難状況が皆目わからない人はごくわずかになりました.原因外力別遭難者数を下記に示します.
http://goo.gl/ofOW8
分類方針についてはhttp://goo.gl/ofOW8 をご覧ください.
今回の災害では,土砂災害起因の遭難者が半数となっています.これは,近年の日本の豪雨災害では,土砂災害による遭難者の比率は1/3程度なので,今回は土砂災害による遭難者の比率がやや高い事例と言えます.ほとんどが土砂災害による犠牲者,と言うほどではなく,洪水による犠牲者も少なくありません.
今回の災害では,洪水か土砂災害のどちらに分類すればよいか判断に迷う事例がかなりありました.十津川村野尻の村営住宅が流されて8名が遭難したケース
http://goo.gl/qzGxx (写真・これより10枚)
がそのひとつです.ここでは,十津川の支流から流出した土石流が十津川に突入した際に,津波状の段波が生じ,平時の水面からの比高が20mの位置にあった住宅を押し流したとみられています.災害直後の写真を見ても,流された住家付近に土砂の堆積はほとんどみられず,ここでの遭難者を直接襲ったのは土砂ではなく洪水流だったことが伺えます.その意味では「洪水」による犠牲者と考えることもできます.
しかし,この洪水流は河川の水位が上昇して生じたものではなく,一般的な洪水とはやや異なる現象のように思えます.特に,防災対策として考えると,洪水対策のための技術(堤防構築,河道断面の確保,浸水想定区域から高所への住居移転など)は,この現象の抑止にはあまり寄与しないと考えられます.これだけの土砂流出に対しては難しい面が多いですが,強いて言えば,土砂災害対策技術の方がこの現場での被害軽減には関係がありそうです.
このため,今回の集計では,十津川村野尻の遭難者は「土砂」に分類しました.
十津川村長殿
http://goo.gl/fJvzh
での遭難者3名については,遭難状況についての詳しい説明を知りませんが,「高所にある住家が土砂に覆われておらず,完全に流失している」という形態は野尻の現場とよく似ているため,同様に「土砂」に分類しました.
五條市大塔町宇井地区での被害についてはもう少し資料を集めたいところですが,野尻,長殿に近い,もしくはより直接的に土砂の影響を受けたのではないかと考えています.
那智勝浦町那智川流域の遭難者も,判断が難しいケースです.那智勝浦町井関のうち,「西山」「金山」地区
http://goo.gl/zuTyH
の遭難者については,土石流による遭難と判断できますが,「岩本」地区
http://goo.gl/0l3qU
での遭難者が判断が難しいケースです.岩本地区付近にも直径1m以上の巨礫は堆積していますが,人的被害が生じた家屋は,河道近くにあって流失したり,2階近くまで浸水した上に激しく損壊しているなど,洪水流による影響を強く受けたように見えます.付近の勾配は1~2度程度で土石流が流下するような勾配ではなく,地形分類的にも谷底平野,つまり洪水によって形成されてた地形です.また,これらの被害は,一般的な洪水災害対策,たとえば巨大な堤防が存在したら防ぐことが期待された(そういうものを作った方がいいという話ではありません)被害と思われますので,ここでの被害は「洪水」に分類しました.
つまり,台風12号による遭難者の分類では,「土砂」による遭難者が多くなってはいますが,このうち少なくとも11名は,「土砂流出に起因する洪水流」によって生じた可能性があります.単に「土砂災害による犠牲者が多かった」という理解では説明できないことに注意が必要です.