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2011年10月31日 (月)

日本災害情報学会第13回研究発表大会

日本災害情報学会第13回研究発表大会(プログラムは http://goo.gl/je4Uu)の会場からのツィートを中心にまとめました.学会終了後の議論展開も含んでいます.

http://togetter.com/li/206772

なお,牛山は下記タイトルで発表しています.

牛山素行・横幕早季,タイムスタンプデータによる津波到達直前の陸前高田市内の状況推定,日本災害情報学会第13回研究発表大会予稿集,pp.297-300,2011
予稿 http://goo.gl/sdOLz
スライド http://goo.gl/qIPv8

2011年10月23日 (日)

台風2011年12号による死者・行方不明者の特徴-第2回現地踏査を踏まえて-

10/20~22の間,台風2011年12号により被害を受けた紀伊半島南部の和歌山県新宮市,那智勝浦町,奈良県十津川村,三重県紀宝町付近を現地踏査してきました.今回は,人的被害(死者・行方不明者)が発生した箇所の確認が主な目的です.

今回の現地踏査とそれに先立つ資料収集により,台風12号による遭難者で,遭難状況が皆目わからない人はごくわずかになりました.原因外力別遭難者数を下記に示します.

http://goo.gl/ofOW8

分類方針についてはhttp://goo.gl/ofOW8 をご覧ください.

今回の災害では,土砂災害起因の遭難者が半数となっています.これは,近年の日本の豪雨災害では,土砂災害による遭難者の比率は1/3程度なので,今回は土砂災害による遭難者の比率がやや高い事例と言えます.ほとんどが土砂災害による犠牲者,と言うほどではなく,洪水による犠牲者も少なくありません.

今回の災害では,洪水か土砂災害のどちらに分類すればよいか判断に迷う事例がかなりありました.十津川村野尻の村営住宅が流されて8名が遭難したケース

http://goo.gl/qzGxx (写真・これより10枚)

がそのひとつです.ここでは,十津川の支流から流出した土石流が十津川に突入した際に,津波状の段波が生じ,平時の水面からの比高が20mの位置にあった住宅を押し流したとみられています.災害直後の写真を見ても,流された住家付近に土砂の堆積はほとんどみられず,ここでの遭難者を直接襲ったのは土砂ではなく洪水流だったことが伺えます.その意味では「洪水」による犠牲者と考えることもできます.

しかし,この洪水流は河川の水位が上昇して生じたものではなく,一般的な洪水とはやや異なる現象のように思えます.特に,防災対策として考えると,洪水対策のための技術(堤防構築,河道断面の確保,浸水想定区域から高所への住居移転など)は,この現象の抑止にはあまり寄与しないと考えられます.これだけの土砂流出に対しては難しい面が多いですが,強いて言えば,土砂災害対策技術の方がこの現場での被害軽減には関係がありそうです.

このため,今回の集計では,十津川村野尻の遭難者は「土砂」に分類しました.

十津川村長殿
http://goo.gl/fJvzh

での遭難者3名については,遭難状況についての詳しい説明を知りませんが,「高所にある住家が土砂に覆われておらず,完全に流失している」という形態は野尻の現場とよく似ているため,同様に「土砂」に分類しました.

五條市大塔町宇井地区での被害についてはもう少し資料を集めたいところですが,野尻,長殿に近い,もしくはより直接的に土砂の影響を受けたのではないかと考えています.

那智勝浦町那智川流域の遭難者も,判断が難しいケースです.那智勝浦町井関のうち,「西山」「金山」地区
http://goo.gl/zuTyH

の遭難者については,土石流による遭難と判断できますが,「岩本」地区
http://goo.gl/0l3qU

での遭難者が判断が難しいケースです.岩本地区付近にも直径1m以上の巨礫は堆積していますが,人的被害が生じた家屋は,河道近くにあって流失したり,2階近くまで浸水した上に激しく損壊しているなど,洪水流による影響を強く受けたように見えます.付近の勾配は1~2度程度で土石流が流下するような勾配ではなく,地形分類的にも谷底平野,つまり洪水によって形成されてた地形です.また,これらの被害は,一般的な洪水災害対策,たとえば巨大な堤防が存在したら防ぐことが期待された(そういうものを作った方がいいという話ではありません)被害と思われますので,ここでの被害は「洪水」に分類しました.

つまり,台風12号による遭難者の分類では,「土砂」による遭難者が多くなってはいますが,このうち少なくとも11名は,「土砂流出に起因する洪水流」によって生じた可能性があります.単に「土砂災害による犠牲者が多かった」という理解では説明できないことに注意が必要です.

2011年10月13日 (木)

こういう話を聞くと悲しい

昨日読んだ大変悲しい記事.9/15付読売新聞より.台風12号災害時の那智勝浦での話です.

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 3日夜、降り続く雨が気になった主婦(59)は、県が災害情報を配信する携帯メールを何度も見て、地区には避難指示が出ていないのを確認し、自宅1階で夫と就寝。娘2人は別室にいた。
 4日午前1時過ぎに目覚めて廊下に出ると、玄関に水が入って靴が浮いていた。すぐに引くと思って、いったん横になったが、同2時頃、布団に水が染みこんできた。「起きて」と叫んで家族を起こした。停電で暗い中、40分ほどすると壁とガラスが音を立てて割れ、泥水がどっと流入。「上がれ、上がれ」。4人で2階に逃げ、夜を明かした。
 主婦は「1階の家具に残った跡で、水が首より上に来たとわかり、ぞっとした。避難指示があれば間違いなく逃げていた」と話す。
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ここでは,災害発生を心配して,防災メールを確認するという形で,能動的な情報収集行動がとられています.しかし,「避難指示が出ていない」ということが「逃げなくてよい,安全である」という,「安心情報」として受け止められていたように記事からは読み取れます.

「避難勧告・指示が出ていない」という状況,情報は,「安全である」という情報を直接的につたえるものではありません.しかし,暗示的に「安全である」と解釈されてしまうことはあり得ます.こういった情報の伝わり方をメタメッセージという場合もあるようです.

避難勧告が出ていないから逃げなくてよいということではない,ということを,どう伝えていけばいいか.難しい問題です.

2011年10月12日 (水)

10/13のNHK「クローズアップ現代」に出演

10月13日(木)のNHKテレビ・クローズアップ現代「避難の情報が伝わらない 検証 台風12・15号」に生出演することになりました.

「避難」がキーワードになっていますが,大変難しい問題です.うまく話ができるかどうか.

2011年10月 4日 (火)

牛山のコメント・研究成果が掲載された報道記事等(7/13~10/1)

新聞・雑誌

  • 大震災から4ヶ月 行方不明5200人 1日1700人減った石巻,サンデー毎日,2011年7月24日号
  • 津波ハザードマップ:8割未作成 対策遅れる九州・山口--沿岸市町村調査,毎日新聞(西部朝刊),2011年7月17日
  • 陸前高田市の津波到達時刻を調査 静岡大牛山准教授,岩手日報,2011年7月20日
  • 岩手県大船渡市の公民館館長震災録 県内の識者2人が分析,中日新聞(東海本社),2011年7月31日
  • 県が夜間防災講座 企業担当者ら対策学ぶ-静岡,静岡新聞,2011年8月3日
  • 解説・主張しずおか=土砂災害と避難-判断に難しさ 県内山間地、備え怠るな(佐藤章弘/天竜支局),静岡新聞,2011年08月05日
  • [スキャナー]台風12号 紀伊半島 弱い地盤直撃,読売新聞(全国),2011年9月5日
  • 山間部、避難発令難しく 近年目立つ記録的大雨,共同通信(岩手日報,信濃毎日新聞他地方紙各紙に掲載),2011年9月5日
  • 孤立対策、山間部で後手 台風12号 【大阪】,朝日新聞,2011年9月7日
  • 2万集落が孤立の危険性 非常時の通信、整備進まず,朝日新聞,2011年9月7日
  • 4日未明の大雨 深層崩壊へ一気 「避難判断 変化の前に」,産経新聞,2011年9月7日
  • 豪雨による深層崩壊、県内も警戒を 専門家「危険な場所把握して」 /静岡県,朝日新聞(静岡),2011年9月10日
  • 豪雨時の情報収集学ぶ 災害発生から1年経過で講演会-小山,静岡新聞,2011年9月17日
  • 小山豪雨で避難2割 被害防止、確実性に課題 昨年9月の勧告地域などアンケート-町と静岡大牛山研究室,静岡新聞,2011年9月30日
  • 台風被害の教訓、町民300人が学ぶ 小山で講演会 /静岡県,朝日新聞(静岡),2011年9月17日
  • 「避難せず」7割 小山町豪雨1年 町民アンケート=静岡,読売新聞(静岡),2011年9月17日
  • 台風15号 避難対象 最大規模に 名古屋、一時110万人,読売新聞(全国),2011年9月21日
  • (防災心)生死を分ける訓練:4 「命を救う訓練」とは? 識者に聞く /東海・共通,朝日新聞(愛知),2011年9月22日
  • 台風 避難勧告 対応二分 出さぬ静岡 出した浜松=静岡,読売新聞(静岡),2011年9月23日
  • 発令いつ・どうやって 台風で名古屋109万人勧告・指示、避難4600人【名古屋】,朝日新聞,2011年9月23日
  • [検証・紀伊水害](上)「避難を」町長自ら警鐘(連載),読売新聞(全国),2011年10月1日
  • 豪雨被害、高台に集中 「状況に応じて避難を」,共同通信,2011年9月30日
  • 地域の危険箇所の理解を 静岡大の牛山素行准教授,共同通信,2011年9月30日

テレビ

  • 台風6号による静岡市内の斜面崩壊・ヘリからのコメント,SBS静岡放送「SBSイブニングeye」,2011年7月27日
  • 台風12号災害についての解説,フジテレビ「知りたがり!」,2011年9月6日
  • 台風12号災害についてのコメント,フジテレビ「とくだね」,2011年9月7日
  • 台風12号災害について・現地からのコメント,SBS静岡放送「SBSイブニングeye」,2011年9月7日
  • 台風12号災害についてのコメント,テレビ朝日「報道ステーション」,2011年9月7日
  • 津波警報の改善についてのコメント,静岡朝日テレビ「とびっきりしずおか」,2011年9月8日
  • 台風12号災害についての解説,NHKスペシャル「緊急報告 記録的豪雨の衝撃」,2011年9月9日
  • 情報局「もし静岡に大型台風が直撃したら…」,静岡朝日テレビ「とびっきりしずおか」,2011年9月12日
  • 台風15号災害についてのコメント,フジテレビ「知りたがり!」,2011年9月21日
  • 台風15号災害についてのコメント,SBS静岡放送「SBSイブニングeye」,2011年9月28日

2011年10月 3日 (月)

自然災害学会で発表予定の予稿2件公開

11月の自然災害学会の予稿を2件公開します.

東日本大震災に伴う死者・行方不明者の特徴
http://goo.gl/F5mcl

これまでにも出している資料ですが,9月時点の図をもとに2ページにまとめたものです.学会当日は11月時点の図を使うことになるでしょう.

2011年台風12号による豪雨災害の特徴
http://goo.gl/geu3u

ブログなどに挙げている資料や記述を中心に2ページにまとめたもの.こちらも11月までには図などはだいぶ変わりそうです.

2011年10月 2日 (日)

紀伊半島豪雨1ヶ月・当方コメントの共同通信記事2件

9/30付けで共同通信から配信された下記記事2件は,どこの新聞社でも採用にならなかったみたいです.昔はYahooニュースに共同通信記事が載っていたのでネット配信は広くされていたのですが,今はそれもありませんから,すっかり埋没になります.

結構丁寧に取材していただいたので残念です.記事を下記に引用します.

五條市宇井地区は現地を見ていませんが,通常の洪水や斜面崩壊,土石流といった現象とは少し様相が異なる状況のようで,その意味では「想定外」と言えます.しかし,実際に起きた現象そのものを想定していたわけではないものの,急傾斜地崩壊危険箇所にはなっており,土砂災害があり得る場所であったことも確かです.非常に難しい所ですが,やはり,すべての基本はそれぞれの地域の災害リスクを理解することだと思います.

2件目の一問一答記事は,当方の意図が特に誤りなくまとめられています.それが当たり前と思うかも知れませんが,新聞記事に載る「コメント」は発言者の言葉そのものではないことが大半です.

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豪雨被害、高台に集中 「状況に応じて避難を」
2011.09.30 共同通信

 紀伊半島豪雨で大規模な土砂崩れに見舞われ、死者・行方不明者11人を出した奈良県五條市の宇井地区では、高台の自宅にとどまった人に被害が集中する一方、熊野川沿いの集落では多くの住民が声を掛け合って避難し無事だった。専門家は「高台は必ずしも安全ではない」と指摘。固定観念にとらわれず、状況に応じて避難することの重要性を強調している。
 同地区は千メートル級の山々に囲まれ、1級河川の熊野川が目の前を流れる集落。38世帯のうち約30世帯は川よりも約30メートル高い旧国道沿いに、残りは川沿いの低い土地に住む。
 上流には国が管理するダムがあり、雨が降るたびに住民は放流を経験してきた。川沿いに住む自治会長の上田史孝(うえだ・ふみたか)さん(65)は「(放流の)サイレンが聞こえたら、川沿いの人たちに呼び掛けて早く避難してきた」と話す。台風が来る前に自主避難した30代の女性も「親から川の水がどこまでなら大丈夫でどこから危険か、いつも言われて育った」と振り返る。
 その一方で、地元住民によると、高台の住民の一部は朝食の支度で家に戻り、土砂崩れの被害に遭った。前日まで豪雨による災害を警戒し避難していたが、雨が弱くなったため帰宅したという。土砂崩れの前に、行方不明になった住民らが高台で集まって会話をしている様子も目撃されている。
 地元消防団の男性は「高台なら大丈夫と思ったのだろう。もっと強く避難を呼び掛ければよかった」と無念さをにじませた。
 静岡大防災総合センターの牛山素行(うしやま・もとゆき)准教授(災害情報学)は「近くに川が流れる地域では洪水などに意識がいきがちだが、同時に土砂災害の危険性があることも考えるべきだ」と指摘している。
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地域の危険箇所の理解を 静岡大の牛山素行准教授
2011.09.30 共同通信

 紀伊半島豪雨では避難指示や避難勧告を出さなかった行政側の対応の是非が問われた。住民はどう自分の身を守ればいいのか。豪雨災害に詳しい静岡大防災総合センターの牛山素行准教授に聞いた。
 -今回の災害の特徴は。
 72時間の降雨量が地域気象観測システム(アメダス)で過去30年で最大だった。奈良県十津川村野尻の村営住宅が流されたのは、川になだれ込んだ土砂で川の水が盛り上がり津波が起きたためだが、想定外の現象だ。和歌山県の那智川流域は大河川と違い、谷底平野の地形で洪水の勢いが早くなって下流に押し寄せ被害が拡大した。
 -避難指示や避難勧告を出す難しさは。
 今回の犠牲者の半数は土砂災害が原因。洪水は水位が目安になるが、土砂災害の場合には見極めが難しい。市町村側は対象範囲を絞りきれず「おおかみ少年」と非難される恐れもあってためらいが生じるのではないか。
 -市町村はどう対応すべきか。
 避難発令で市町村がすべて背負い込む必要はない。国や県が持っている情報を生かす。非常時に相談しても連携できるよう、日ごろから情報交換をする場を持つことが重要だ。住民には、ハザードマップだけでなく、複数の手段で危険箇所を知らせるべきだ。
 -住民側はどう行動したらいいのか。
 避難指示や避難勧告は強制力がなく、最終的には個人の判断になるが、普段から自分の住んでいるところのどこに土砂崩れなどが起きる危険があるのかをよく理解しておくことが必要だ。
 -人命に危害を与える恐れのある土砂災害警戒区域の指定が進まない。
 (被害の大きかった)和歌山県那智勝浦町や新宮市では全域で指定されていない。居住地にどういう影響があるのか分かりやすく伝えるものなので、指定をさらに進めるべきだ。
  ×  ×
 うしやま・もとゆき 1968年長野県生まれ。静岡大防災総合センター副センター長。研究分野は災害情報の伝達や避難行動。

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