2011年台風第12号による人的被害の特徴
11/19の自然災害学会での発表内容の概要です.予稿と図などがだいぶ変わったので書きあらためました.
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台風2011年12号は日本付近で極めて遅い動きをしたため,紀伊半島を中心に豪雨が長時間継続した.一連の降雨により,全国の気象庁AMeDAS観測所で1976年以降最大値を更新した観測所(統計期間10年以上)は,1時間降水量が11箇所,24時間降水量50箇所,72時間降水量50箇所となった.1時間降水量は,4日に和歌山県新宮で記録された132.5mmが最大だが,更新箇所数も比較的少なく,値も極端に大きなものは記録されなかった.一方72時間降水量は広域で更新となり,奈良県上北山では9/4に最大で1650mmに達し,AMeDAS全地点・全記録の最大値1322mmを大きく上回り,これに近い値が奈良県風屋,三重県宮川でも記録された.72時間降水量については,AMeDAS全地点・全記録の上位10位記録の多くが本事例のものになる可能性がある.長時間降水量が極めて大きかったことが特徴である.
10/5現在の消防庁資料によれば,台風12号による全国の死者は73名,行方不明者19名,計92名である.これは1980年代以降では,昭和57年7月豪雨(345名),昭和58年7月豪雨(117名),2004年台風23号(98名)に次いで4番目の規模となる.和歌山県の死者行方不明者53名は,1県の人的被害としては1983年7月の島根県の107名以来最大で,1県・1事例で50名以上となるのは1980年代2事例,1970年代6事例(うち1事例は犠牲者のほとんどが船舶遭難者)に過ぎず,近年の豪雨災害としては極度に大きな被害と言える.
原因別の死者・行方不明者数を集計すると,54%が「土砂」で,土砂災害による犠牲者が多いことが特徴である.十津川村野尻では村営住宅2棟が流され7人が死亡・行方不明となった.ほぼ同一地点で7人以上遭難というのは,2004年以降では2009年8月の兵庫県佐用町本郷での9人遭難のみで,集中的な遭難事例である.この地点では,被災住家対岸の沢から土砂が流出し,多量の水が流れる河川に突入して津波のような段波が生じたものと見られている.五條市大塔町宇井地区でも類似の現象が起きたと見られ,斜面崩壊や土石流などの一般的な土砂災害とは様相が異なる遭難形態とみられる.また,20名前後が遭難した那智勝浦町井関付近では,土石流の流出も見られるが,谷底平野全体を激しい洪水流が流下した痕跡が認められ,洪水と土砂災害の混合的な状況だったように思われる.
遭難場所は65%が屋内となっており,近年の豪雨災害の傾向(屋外遭難者が多数派)と異なる結果となった.遭難時刻は未明(0~6時)が52%を占め,これも近年の豪雨災害の傾向(昼間の遭難者が多数派)とは異なる.自宅での遭難者が多かったことから,早期避難が行われていれば犠牲者を軽減できた可能性のあった事例と言える.当たり前のように思えるかも知れないが,実はこのような事例は近年では多くない.
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以下は主な図.
遭難者の発生場所分布図.これはオリジナルがこちら. http://goo.gl/Gq81e http://t.co/Ssx8KYVR
遭難場所別死者・行方不明者数.屋内の比率が非常に高く,近年の豪雨災害としては異例. http://t.co/bJe5MzW5
避難行動の有無.約1割が何らかの避難行動をとっていた.これは近年の豪雨災害と同傾向.指定避難場所での遭難者はいないが,自主避難先での遭難者がいる. http://t.co/ZAsau3jC
時間帯別遭難者数.未明(0-6時)が約半数.近年の豪雨災害では「未明」の比率は最も低く,今回の特異な傾向. http://t.co/z75GFTul