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2012年1月29日 (日)

「津波てんでんこ」の「定義」に,「正しい解釈」「間違った解釈」などないでしょう

「震災で人を助けて犠牲となった人の話を道徳教材とすることに対する違和感」の一部で書いていることですが,「津波テンデンコ」というキーワードが固定的な解釈で広まりつつあることにも私は違和感を持っています.

「防災には唯一絶対の正解というものがないことが多い」と,私はよく言っています.いろいろな正解があり,それらの中から何を選択するか,悩むことが多いのが防災というものではないか,と.しかし「正解」をほしがる人がよくいて話に困ることがあります.

「津波てんでんこといっても人を見捨てて逃げられない」と言う人に「いや,そんな風に思わなくていい,家族もきっと逃げているだろうという信頼関係を作っておくことが重要だ」,というのがたぶん片田さん(群馬大学教授)が最近言っている解釈.これには私は全く異論はありません.

ところが,ある講演会で「津波てんでんことはてんでに逃げることだというのは【間違い】だ.家族も逃げているという信頼関係を築くことだと考えるのが【正しい】」とおっしゃる講師がいました.

津波てんでんこの意味は,どこかで「これが正しい」と定義されたわけではありません.「てんでに逃げなければ家族や共同体が崩壊してしまうから,とにかく逃げなければならない」という冷徹な意味合いをもって語られることだってあるでしょう.

「てんでんこ」というのは家族を失ってしまった人に対して,「てんでんこだ,しかたねぇ」といたわる言葉だ,という話を聞いたこともあります.これも私は納得がいきました.

たとえば「大雨が降ってもこの山は絶対崩れない」といった,「明らかな間違い」というのはあり得ます.しかし,防災の場面では「正誤」という単純な評価軸を示すことができないケースが多いと思います.

ああでもない,こうでもない,というのは研究者の嫌われる特性です.しかし,防災の問題について白黒つけたがるところに水を差すのが,自分の役割だと勝手に考えています.ちなみに上記の講師の方には,その場でこの違和感を伝えました.

地域社会の中核だった人,地域の防災を担ってきた人が犠牲になってしまい,災害後のいろいろがうまく回らないといった実例を現在の三陸では見聞きします.防災の最優先事項は人的被害の軽減,そのためには危機管理もいいがまずは事前の対策が重要,と思います.

震災で人を助けて犠牲となった人の話を道徳教材とすることに対する違和感

震災で人を助けて犠牲となった人の話を道徳教材とすることに対する違和感
http://togetter.com/li/247772

というまとめを作ったところ,大変多くの参照をいただきました.1/29 10時現在,59586 view.自分が作ったまとめの参照が万の単位になったのは初めてです.「注目のまとめ」「今週人気のまとめ」の上位にも上がりました.

このまとめは,下記報道(ここでは時事を挙げますが,他にもいくつかほぼ同内容の記事あり)に対して私が考えたこととそれに関係するツイートです.私のこの問題に対する考えはまとめをご覧いただくとして,要するに

「震災における重要な教訓となる一事実であり,記録される必要があるが,災害時の【規範】とうけとめられるような,道徳教材として使われることには違和感がある」

ということです.最終的にどう受け止めるかは,それぞれの考え方だと思いますが.
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南三陸の「天使の声」教材に=無線で津波避難呼び掛け―埼玉

時事通信 1月28日(土)14時55分配信
 東日本大震災の大津波で、宮城県南三陸町の防災対策庁舎から無線で避難を呼び掛け続けた同町職員遠藤未希さん=当時(24)=を紹介する道徳用教材を埼玉県が作成する。県内の公立小中高約1230校に配布、4月から使用されるという。
 遠藤さんは危機管理課の職員として町役場に勤務。震災発生時には、同庁舎の放送室から防災無線で町民に避難を呼び掛けていたが、庁舎ごと大津波にのまれ、39人の職員とともに犠牲になった。
 新たに道徳用教材として作成されるのは約10ページの冊子。「天使の声」というタイトルで、そのうち2ページを割いて、「早く高台に逃げてください」と必死に町民に避難を呼び掛けた遠藤さんの放送内容や、防災無線のおかげで助かった町民の声などを紹介する。
 震災後、町民らが遠藤さんの放送を「天使の声」とたたえていると聞き、タイトルにしたという。
 県教育局生徒指導課の佐藤直樹主幹は「震災で人のために尽くした姿は外国からも改めて称賛されている。他人を思いやる心を育成したい」とコメント。一方で「決して自己犠牲を肯定する趣旨ではない。思いやりや責任感について考えてもらえれば」と話し、教え方などは各校の教諭に任せるという。

2012年1月28日 (土)

防災は様々な対策の積み重ね

1月20日付け静岡新聞「時評」欄に,当方のコラムが掲載されました.

私は,豪雨災害や津波災害を対象に,「自然災害による犠牲者はどのように生じているのか」という観点からの研究をここのところ力を入れて実施しています.

http://www.disaster-i.net/research4.html

東日本大震災の犠牲者数はあまりに多く,そこに「防災対策の効果」を言うことははばかられるものもありれます.しかし,何らかの効果は確かにあったと私は思います.なにがどう効果をもたらしたかを具体的に示すことは難しいですが,どのような状況だったのかという事実の記述は,今後きっちりと行っていきたいと思っています.

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時評 データで見る震災 -広く長期的な対策重要

 1月6日現在の警察庁資料によれば,東日本大震災に伴う死者は15844人,行方不明者は3450人に上っている.明治以降の日本の自然災害による犠牲者数として最も多い事例は1923年関東大震災による約10万5千人,次が1896年の明治三陸地震津波による21959人で,東日本大震災の死者・行方不明者数は明治以降3番目に大きな規模となった.関東大震災,明治三陸地震津波ともに1世紀近く前の現代とは様々な社会環境が異なる時代の災害だが,それらに匹敵する被害が生じてしまったことにまず衝撃を覚える.

 被害の集中した岩手県陸前高田市では死者・行方不明者数が1939人に達し(10月11日現在消防庁資料),これは同市の2005年の人口の7.85%に,また津波により浸水した地域の人口に対しては11.65%に当たる.およそ,10人に1人の割合で犠牲者が出たことになる. 

 岩手,宮城,福島3県の沿岸37市町村のうち,死者・行方不明者数の人口比5%以上が3市町村,1%以上は14市町村に上る.たとえば1995年の阪神・淡路大震災時の神戸市における死者の人口比が0.31%だったことを考えると,1%以上という値が近年の日本の自然災害としては桁外れに大きいことがわかる.

 しかしながら,この値は別の角度から見ることもできる.1896年明治三陸地震津波による犠牲者数の,津波による影響を受けた地域の人口に対する比を現在の市町村の単位で計算すると,最も高い値は岩手県釜石市の51.2%で,以下,岩泉町44.4%,田野畑村43.9%などとなり,岩手県沿岸部のほとんどの市町村で10%を越える.

 今回の震災で,多いところでは津波到達範囲居住者の10人に1人程度が犠牲になったことが大変な事態であることは間違いない.しかし,逆に10人の内9人までは生き延びたと見る事もでき,これは明治三陸地震津波に比べれば明らかに犠牲者の出る割合が低かったとも読み取れる.この理由はいろいろと考えられるが,三陸地方での長年にわたるハード,ソフト両面の防災対策の積み重ねがあった事は無視できないのではなかろうか. 

 防災対策には唯一最善の「正解」や「決定打」は存在しない.何か一つの方向だけに注目するのではなく,広く長期的な視点に立った取り組みが重要だろう.

2012年1月13日 (金)

防災フェロー養成講座・第2期受講生募集締め切りました

12月28日より受け付けていました,

ふじのくに防災フェロー養成講座
http://sakuya.ed.shizuoka.ac.jp/sbosai/fellow/index.html

第2期の受講生の志願書の受付は,本日1月13日午後の当センター到着分を持って締め切りました.

募集人員10名程度のところに,43名の応募をいただきました.今後,選考を進め,一次選考の結果は2月上旬頃に応募者本人宛郵送で通知します.

2012年1月10日 (火)

2/29中部地域災害科学研究集会のご案内

下記の要領で研究集会を実施します.防災関係の研究者,技術者,学生の皆様の研究発表,ご参加をお待ちしております.

名称:平成23年度中部地域災害科学研究集会
主催:自然災害研究協議会中部地区部会・静岡大学防災総合センター
開催日:2012年2月29日(水)
場所:静岡県地震防災センター会議室
    (静岡市葵区駒形通5丁目9番1号)

申し込み方法等につきましては,下記のHPをご覧ください.
http://www.disaster-i.net/event/20120229/

なお,この研究集会は学会と同等のもので,防災分野の研究者・技術者・学生等を対象としています.一般向けの講演会ではありませんのでご理解ください.

2012年1月 6日 (金)

陸前高田市・津波遡上開始時刻以後に浸水域に人や車の移動が確認できた位置

デジタルカメラ画像等をもとにした調査から得られた,津波遡上開始時刻以後に浸水域に人や車の移動が確認できた位置.市役所付近以外は1箇所当たり1,2人または1,2台.もちろんよく見えなかった箇所も多いです.
http://t.co/R8xC4NUL

注目されるのは【海岸近くの】低地部や国道45,340付近にほとんど車も人影も見られなかったこと.津波に対して特に危険性の高い範囲ではかなり積極的な避難が行われていたのではないかと伺えます.

甚大な人的被害が生じたことは確かですが,一方で避難もかなり積極的に行われていたように思います.「特に危険な箇所」がどの当たりかはかなり周知され,かなり多くの人はそれに対応したのではないでしょうか.これまでの蓄積の何もかもが無駄だったわけではないのでは.

誤解があるといけないので注記しておきますが,「陸前高田では津波到達時に道路の混雑・渋滞はなかった」などとは考えていません.特に一中,高田小などの高台方面に向かう道が渋滞していたとの証言を多く聞いています.これまで集めた画像ではそれらを確認できていないだけです.

画像・動画から確認された津波到達直前の陸前高田市内の主な状況

昨日,津波到達直前の陸前高田市の防災無線の内容を表にして示しましたが,次に,このほかの各種状況を時系列で表にしたものを示します.

この表は,津波到達直前に撮影された画像,動画を収集し,相互につきあわせるなどしてタイムスタンプを補正して作成したものです.画像約500枚,動画7点を用いています.±1分程度の誤差があると考えられます.

読み取れていることはもっと多くありますが,煩雑になりますので以下の表ではごく主なものに絞っています.

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14:46
 地震発生,三陸沖.大船渡市大船渡町:震度6弱.

14:49
 大津波警報:岩手,宮城,福島

14:50
 津波情報(予想される津波の高さに関する情報):岩手県3m,宮城県6m,福島県3m

15:09
 気仙大橋から海側.潮が引き,気仙川河口付近で河床が見える状態.

15:14
 津波情報(予想される津波の高さに関する情報):岩手県6m,宮城県10m以上,福島県6m.

15:23
 米崎漁港内に津波到達.

15:24
 高田松原第二球場陸閘付近で堤防越流開始.
 姉歯橋東詰に消防ポンプ車1台停車中,付近に4名程度の人.
 気仙大橋橋桁付近まで津波到達,橋上を走行する車2~3台.

15:25
 防災無線「松原水門においては,津波が越えております」
 気仙中学東側堤防は完全に越流し校庭は浸水.
 姉歯橋橋桁付近まで津波到達,橋付近に人影無し.

15:26
 市役所屋上方面から「津波が来てる」との叫び声.数十人規模の人が市民会館,市役所内に駆け足で移動.

15:27
 気仙町今泉地区で家屋が流失し始めたように見える.
 姉歯橋の全橋桁流失.

15:28
 陸前高田市役所付近に津波到達.ほぼ即時に市役所,市民会館とも3階まで浸水.
 気仙小学校付近に津波到達.
 気仙大橋が変形開始,30秒程度で流失.今泉地区の家屋ほとんど流失.
 高田松原の松林の本数が少なくなっているように見える.

15:29
 マイヤ高田店の3階まで津波到達,高田町全域浸水し押し波.
 高田松原の松林,キャピタル1000~気仙川河口の間ほぼ無くなる.
 東浜街道の大船渡線跨線橋の上を津波が越えつつある.

15:31
 津波情報(予想される津波の高さに関する情報):岩手県10m以上,宮城県10m以上,福島県10m以上

15:33
 陸前高田市役所屋上に冠水痕跡,市役所周辺は押し波.
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2012年1月 5日 (木)

津波到達直前の陸前高田市防災無線の内容・加筆版

5月に,

陸前高田市・津波到達直前の防災無線の内容とその時間を推定
http://goo.gl/6ac3H

という資料を挙げていますが,この表を改訂しました。これまで15:22~15:27のみだったものが15:11~15:27になりました。今回の改訂の根拠となったのは、この
http://www.youtube.com/watch?v=qe4xjezFi4A
動画です。この動画の存在は知っていたのですが、広田半島の先端部で撮られたもので、高田町付近の動画や画像との対照ができないのでこれまでよく見ていなかったのですが、途中に明確な余震の揺れ(たぶん15:15のM7.4余震、大船渡で震度3)が確認でき、撮影者の声による時刻の吹き込みとあわせて時刻の特定ができたので、利用することにしました。

なお、この動画では15:20頃以降の防災無線の音声を聞くことができません。広田半島内では、市役所付近に津波が到達する10分ほど前に、すでに防災無線が途絶していた可能性があります。
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15:11
 ただいま,大津波警報が発表されています.3mを,超える,大津波が予想されます.沿岸住民,海岸付近にいる人は直ちに高台に避難してください.市内海岸においても,津波が観測されています.沿岸住民,海岸付近にいる人は直ちに高台に避難してください.
15:13
 ただいま,大津波警報が発表されています.3mを,超える,大津波が予想されます.浸水区域にいる人は,直ちに高台に避難してください.
15:15    <15:13と同文>
15:17    <15:13と同文>
     <※15:18頃~15:22頃の間はデータ無し>
15:22
 ただいま大津波警報が発表されています.市内各地で津波が押し寄せています.沿岸住民,海岸付近にいる人は,直ちに高台に避難してください.ただいま大津波警報が発表されています.市内各地で津波が押し寄せています.
15:25
 松原地内において,水門を越えておりますので直ちに避難してください. (15秒中断) ただいま,大津波警報が発表されています.松原水門においては,津波が越えておりますので,すぐに避難してください.
15:26
 津波が水門を越えております.住民は直ちに避難してください.津波による,津波により,堤防から,津波が越えています.住民は直ちに避難してください.ただいま,気仙川において,津波が越えております,ただいま,気仙川において,津波が越えています,浸水地域にいる人は,直ちに高台に避難してください.ただいま,大津波警報が発表されております,松原水門及び気仙川において津波が越えておりますので,ただちに高台へ避難をしてください.浸水地域にいる人は直ちに避難をお願いします.
15:27
 ただいま,津波が押し寄せております・・・・
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15:17頃までの放送は定型文的な内容ですが、15:22頃から緊迫感が強くなり、15:25頃からは表現にも乱れが出てきています。

(言うまでもないとは思いますが)陸前高田市は、津波で市役所がほぼなくなりましたので、津波来襲時の防災無線の放送内容の記録は残っていません。

2012年1月 4日 (水)

新年のご挨拶

謹んで,新年のご挨拶を申し上げます.

「デジタル化が進んでいないけど数値データが残されている時代(明治中頃~昭和40年代くらい)」のことを調べるのが私は好きで,それらの時代の気象データ,新聞記事などを見ることがよくあります.

印象的なのは,1945年8月の気象観測データ.気象台などの公的観測所はもちろんのこと,個人などに観測を委託していた観測所においても,8月15日の観測データは当たり前のように記録されています.16日以降も,9月以降も同様.

「それこそ正常化の偏見」とか言う人もいるかもしれませんが,私は,国家が無くなるかもしれないという状況の中で,多くの人々が粛々と職務をこなしていたことに敬服します.

1945年の日本が置かれた状況と,2012年のそれとは,どちらが危機的であるといった比較ができるものではないとは思います.しかし,置かれた状況の中で,一人一人が,それぞれの「役割」を果たすことは,今も昔も変わらぬ意味があることだと私は思います.

本日より本格的に新年が始動します.「自分ならではの仕事」とは何か,どうすればそれができるかを考えていきたいと思っています.

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