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2012年1月28日 (土)

防災は様々な対策の積み重ね

1月20日付け静岡新聞「時評」欄に,当方のコラムが掲載されました.

私は,豪雨災害や津波災害を対象に,「自然災害による犠牲者はどのように生じているのか」という観点からの研究をここのところ力を入れて実施しています.

http://www.disaster-i.net/research4.html

東日本大震災の犠牲者数はあまりに多く,そこに「防災対策の効果」を言うことははばかられるものもありれます.しかし,何らかの効果は確かにあったと私は思います.なにがどう効果をもたらしたかを具体的に示すことは難しいですが,どのような状況だったのかという事実の記述は,今後きっちりと行っていきたいと思っています.

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時評 データで見る震災 -広く長期的な対策重要

 1月6日現在の警察庁資料によれば,東日本大震災に伴う死者は15844人,行方不明者は3450人に上っている.明治以降の日本の自然災害による犠牲者数として最も多い事例は1923年関東大震災による約10万5千人,次が1896年の明治三陸地震津波による21959人で,東日本大震災の死者・行方不明者数は明治以降3番目に大きな規模となった.関東大震災,明治三陸地震津波ともに1世紀近く前の現代とは様々な社会環境が異なる時代の災害だが,それらに匹敵する被害が生じてしまったことにまず衝撃を覚える.

 被害の集中した岩手県陸前高田市では死者・行方不明者数が1939人に達し(10月11日現在消防庁資料),これは同市の2005年の人口の7.85%に,また津波により浸水した地域の人口に対しては11.65%に当たる.およそ,10人に1人の割合で犠牲者が出たことになる. 

 岩手,宮城,福島3県の沿岸37市町村のうち,死者・行方不明者数の人口比5%以上が3市町村,1%以上は14市町村に上る.たとえば1995年の阪神・淡路大震災時の神戸市における死者の人口比が0.31%だったことを考えると,1%以上という値が近年の日本の自然災害としては桁外れに大きいことがわかる.

 しかしながら,この値は別の角度から見ることもできる.1896年明治三陸地震津波による犠牲者数の,津波による影響を受けた地域の人口に対する比を現在の市町村の単位で計算すると,最も高い値は岩手県釜石市の51.2%で,以下,岩泉町44.4%,田野畑村43.9%などとなり,岩手県沿岸部のほとんどの市町村で10%を越える.

 今回の震災で,多いところでは津波到達範囲居住者の10人に1人程度が犠牲になったことが大変な事態であることは間違いない.しかし,逆に10人の内9人までは生き延びたと見る事もでき,これは明治三陸地震津波に比べれば明らかに犠牲者の出る割合が低かったとも読み取れる.この理由はいろいろと考えられるが,三陸地方での長年にわたるハード,ソフト両面の防災対策の積み重ねがあった事は無視できないのではなかろうか. 

 防災対策には唯一最善の「正解」や「決定打」は存在しない.何か一つの方向だけに注目するのではなく,広く長期的な視点に立った取り組みが重要だろう.

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