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2012年3月31日 (土)

中央防災会議「南海トラフの巨大地震モデル検討会」による報告に思う

3月31日,中央防災会議「南海トラフの巨大地震モデル検討会」が,「南海トラフの巨大地震による震度分布・津波高について(第一次報告)」という資料を発表しました.

南海トラフの巨大地震モデル検討会
http://goo.gl/BfbKv

筆者の専門である災害情報としてとらえ,この報告に示された情報を読む立場から考えたことを書き留めておきます.なお筆者は地震・津波のメカニズムについては専門ではありませんので,この報告による地震,津波の推定方法や推定結果そのものについては論評できません.

まずこの報告の立場ですが,昨年9月に公表された,中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」報告に示された「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべきである」という考え方にもとづき,特に津波については「発生頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす最大クラスの津波」を想定したものです.

この報告で示されている地震による強い揺れの範囲は,従来の想定より広域にわたっており,津波の高さも広く,高くなっています.しかし,だからといって,

×「この報告で想定されている規模の地震・津波の発生が切迫している」
×「日本付近で発生しうる災害の規模が従来よりも大きくなった」

といった事実はありません.私の解釈・言葉で言い換えると,「従来具体的に検討していなかった,より規模の大きな現象についても考えてみよう」というのがこの報告の趣旨かと思いますので,従来の想定よりも大きな値が出た(というよりは「出した」)ことは当然のことであり,報告の趣旨に沿ったものと考えます.

また,従来の「想定」より規模が大きな値が発表されたからといって,

×「従来の想定が間違っていて,新たな想定が正しい」

ということはありません.いかなる「被害想定」についても言えることですが,想定は,様々な条件設定の上に計算されます.地震・津波の場合,「どのような地震が起きるか」という条件設定を想定することが難しく,かつ,条件の決め方次第で結果(震度や津波高)が大きく変わってしまうものです.このため,「想定されたとおりの現象」が起きると考えてもらっては困ります.防災計画をたてる上では,何らかの目安を設けないと計画することができませんので,「想定」を行います.「想定」はこのための基礎資料であって,「次に起こる災害の姿を正確に予想するもの」ではありません.

防災計画を考えていく上では,「想定」に対してすぐに完璧に備えることはできません.時間も,費用などの資源も限られていますから,優先順位をつけなければなりません.「想定」は,この優先順位をつけるために活用される情報となります.

今回の報告では,津波の規模として「津波高」が示されています.「津波高」は,異なる定義の値が混同して使われることがあり,報告の中では余り明確に書いてないのですが,一般的な意味としては,「海岸線付近の平常潮位と津波到達時の潮位(海水面の高さ)の差」です.
気象庁webの図
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq26.html
今回の報告における「津波高」もおそらくこれを指していると思われます.従って,よく混同される「津波の遡上高」(陸上に津波が侵入した際に到達した地点の標高)ではありません.

一般に,広く平野が広がっている地形のところでは,津波が陸上に侵入するに従って勢いが減衰しますので,「津波高」は「遡上高」より高くなります.つまり,平野部の場合は「津波高20m」といっても,津波が標高20mのところまで達すると受け止めることは適切ではありません(もっと低いところにとどまる可能性が高い).ただし,海岸に山が迫っているような地形のところでは,津波の勢いがすぐに減衰しないので,「津波高」より「遡上高」の方が高くなり,場合によっては数倍程度高くなることもあります.「津波高」の意味が,地形によってかなり異なることに注意が必要です.

今回公表されたのは「発生頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす最大クラスの津波」です.この規模の現象を防潮堤等のハード対策で防ぎきることは,コスト的な問題,施設を設置する場所の問題などからほとんど不可能です.「避難」に期待が持たれそうですが,東海以西の場合津波到達時間に余裕がないこともあり,避難にもかなりの困難があります.中長期的には,危険な場所に住まないなどの土地利用の対策も重要になるでしょう.このクラスの津波にどう備えるかは,全国民に共通するような正解はありません.個人個人が,それぞれの必要性に応じて考えることです.

まず重要なのは,自分の居住地,活動地が,地震,津波,洪水などの災害に対してどのような地域特性を持っている場所かを知ることが重要です.今後,津波による浸水域などが公表されてきますが,あまりそれらの情報を細かく読みすぎることも禁物です.「ここまでが危険,ここからは安全」といった明確な線引きはできません.「こことあそこを比べれば,相対的にはここの方が危険」といったくらいの情報として読み取るものです.

災害に関する地域特性として最も明快かつ重要な情報は「地形」であり,その最も単純な指標は標高です.津波に関しては,海に近いところ,標高が低いところがより危険性が高いところになります.「*m以下が危険」という線は引けません.あくまでも相対的な話です.

津波にばかり関心が向くことにも注意が必要です.多くの場合,津波は地震に伴って発生します.いくら津波の避難訓練を一生懸命やっても,地震で生き残れなければ避難すらできません.建物が壊れて道をふさげば,スムースな避難もできません.津波防災の第一歩は耐震化です.

2012年3月26日 (月)

私が対応できる講演

webにも書いていることですが,
http://www.disaster-i.net/contact.html
覚え書きとしてブログにも書いておきます.

牛山は,行政機関,企業,各種団体等の主催する講演会等における講演,話題提供に協力させていただいております.これらのご依頼に関しましては,当方の業務の都合がつく範囲内で承っております.当方で対応できる講演の話題としては下記のようなものがあります.

  • 地域の自然の特徴を知ることが防災上重要であるという話題
  • 豪雨災害や津波災害に関する避難や防災上の基本的な考え方
  • 豪雨災害によってどのような人的被害が発生しているか
  • さまざまな災害情報とその利活用に関する諸課題
  • 最近の我が国の豪雨災害・津波災害の実例紹介

恐縮ですが,以下のような話題は専門が異なりますので対応ができません.

  • 地震災害についての話題
  • 地震,津波,火山などのメカニズムや将来予測に関する話題
  • 原子力災害に関する話題
  • 災害が起きたときにどう行動したらよいか,備蓄,防災グッズといった,防災に関わるハウツー・ノウハウ的な話題
  • 災害時の企業の事業継続(BCP)についての話題

なお,講演開催地の個別的な災害危険性の評価(××市の××地区は●●災害に対して危険である,等)に関する話題提供には,準備時間の制約から対応が難しくなっております.「この講演に行くと××市で起きる災害について教えてもらえる」といった講演には対応できませんのでご理解いただきたく存じます.

平成23年7月新潟・福島豪雨による災害の特徴

下記文献を公開しました.

牛山素行・横幕早季,2012:平成23年7月新潟・福島豪雨による災害の特徴,自然災害科学,Vol.30,No.4,pp.455-462.
http://www.disaster-i.net/notes/2012JSNDS30-4.pdf

だいぶ時機を失しているのですが,刊行物の都合により今の発行となりました.昨年7月末の新潟・福島豪雨についての初期的な解析結果をとりまとめたものです.「おわりに」を抜粋します.

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 2011年豪雨は,よく似た地域で発生した2004年豪雨に比べ,短時間降水量,長時間降水量,豪雨域の広がりなど,様々な観点から見ても規模の激しい豪雨であったと見なされる.しかし,8月上旬時点での資料によれば,2011年豪雨の被害は2004年豪雨に比べ,人的被害,家屋被害とも少ない傾向が見られる.特に人的被害が少なかったことについて,2004年豪雨を教訓とした避難対応が効果をもたらしたといった趣旨の報道もなされている(例えば8月1日付読売新聞).ただし,浸水家屋数も少なかったことから,単に避難行動などのソフト対策が効果を発揮したというより,堤防整備等により市街地への洪水流の侵入が軽減されるなど,ハード対策との相乗効果である可能性も高い.単純に成功例として評価するのではなく,避難行動が実際に適切に行われていたのかといった観点からの検証が今後必要だろう.
 死者・行方不明者は数としては近年の日本の豪雨災害事例と比較しても多くはなかった.しかし,土嚢積み作業中に洪水によって流されるという,近年全く見られなかった被害形態が複数確認されたことや,近年注意が喚起されていた,避難途中の遭難者が生じたことなど,今後に向けた課題と思われる点も見られた.人的被害の発生状況については,今後筆者自身も検証を進める予定である.

2012年3月12日 (月)

袋井市の津波対策施設と御前崎の津波避難タワー

昨日3月11日に訪問した袋井市の津波対策施設と,御前崎の津波避難タワーの写真を整理しました. http://goo.gl/photos/ql50fTa4zo 

外階段を建設して津波避難ビルに指定されたコニカミノルタケミカル.中を見学させていただきました.かなりいろいろ考えられている.この写真から7枚→ http://goo.gl/photos/bsmIfvBAar

袋井市湊 津波避難用高台(盛土)建設候補地 http://goo.gl/photos/1WFRzUV6wp

御前崎市津波避難タワーの「利用上の注意」.かなりコワイことが書いてありますよ. http://goo.gl/photos/vXllp4HssP

避難タワーから100mほどのところには斜面があり,その後方は標高40m以上の高台.多分いろいろ考えてのこととは思うけど,避難階段整備が先のような気もしなくもないが・・・ http://goo.gl/photos/kJtO7im1IQ

2012年3月 5日 (月)

「災害は忘れられるもの」を前提に考えていかないと

3月3日は昭和三陸地震津波(死者・行方不明者3064人)の発生した日です.ツイッター上ではいくつか言及している人がいましたが,マスメディア上での取り上げはほぼ皆無.大きな被害が出た災害でも「わすれない」ことは難しいもの.災害は「忘れられるもの」だということを前提に,いろいろな対策を取る必要があるのではないでしょうか.

牛山のツイートを中心にまとめました.

http://togetter.com/li/267478

2012年3月 2日 (金)

東日本大震災の人的被害に関する解析

東日本大震災による人的被害について,当方では継続的な集計を続けています.2月上旬現在の集計結果を,一昨日の自然災害科学中部地区研究集会にて発表しました.

牛山素行・横幕早季,東日本大震災に伴う死者・行方不明者の特徴(2012年2月現在),平成23年度自然災害科学中部地区研究集会,pp.21-22,2012

予稿集
http://goo.gl/7K3mN

スライド
http://goo.gl/yj7Ez

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