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2012年5月31日 (木)

陸前高田・気仙沼における津波人的被害の特徴

現在,東日本大震災に伴う人的被害の傾向についての調査を進めていますが,本日,下記2件の資料を公開しました.

●陸前高田市における人的被害の特徴(速報・改訂)

http://goo.gl/PPM0a

陸前高田の資料は2月末に公開したものの改訂版です.今回新たに,津波の規模と犠牲者率の関係について検討しました.主な結果を挙げると以下となります.

  • 犠牲者は,高田町,気仙町に集中しており,広田町,小友町などでは相対的に少ない.
  • 犠牲者数100人以上の500mメッシュが4メッシュ,犠牲者率10%以上が12メッシュ,20%以上が6メッシュ確認され,最大29%だった.
  • おおむね海岸近くで平均津波浸水深さが大きく,人口密度の高いメッシュで犠牲者率が高いという,比較的単純な傾向が読み取れる.
  • 陸前高田市では,海岸近くの低地にもともと定住人口が少なく,海岸近くの低地(想定浸水深が深い)場所で犠牲者率が低い(あるいは高い)といった傾向は読み取れない.

●気仙沼市における人的被害の特徴(速報)

http://goo.gl/I54Wf

気仙沼の資料は今回新たに公開したものです.気仙沼では,犠牲者の居住地住所とともに,ご遺体が発見された場所の情報が得られましたので,これを元にした集計を行っています.主な結果を挙げると以下となります.

  • 犠牲者は,気仙沼市中心部(特に南気仙沼駅周辺),鹿折地区,松岩地区,波路上地区などで目立ち,唐桑,大島,本吉などでは相対的に少ない.
  • 陸前高田市で見られたような犠牲者数100人以上の500mメッシュは確認できず,犠牲者率も陸前高田市のような20%以上は存在せず,最大14%で10%以上が3メッシュだった(陸前高田市では12メッシュ,最大29%).気仙沼市では犠牲者数自体は多いが,陸前高田市と比べると特定地区に集中しなかった可能性がある.
  • おおむね海岸近くで平均津波浸水深さが大きいメッシュで犠牲者率が高いという,比較的単純な傾向が読み取れる.
  • 犠牲者の発見場所は,「居住地敷地内」が11.6%で,0.5km以内と合わせると47.2%と,自宅近傍で発見された犠牲者がかなり多い.遠方での発見者には津波により流された者も含まれることを考慮すると,気仙沼市の犠牲者のうち,過半数程度が,津波到達時に自宅付近にいた者である可能性がある.

2012年5月27日 (日)

昭和58年日本海中部地震津波から29年

1983年5月26日,秋田県沖を震源とするM7.7の地震(昭和58年日本海中部地震)が発生し,北日本日本海側が津波に見舞われました.全国の死者は104名で,うち100名までが津波による犠牲者でした.

大きな災害が起こると,その災害を「忘れない」「語り継ぐ」といったことがよく言われますが,なかなか難しいものです.今年は,大きな災害の発生日に注目して【災害暦】というツイートを続けていますが,かなり大きな災害でも報道では特に取り上げられないことが多いと感じていました.

しかし,日本海中部地震に関する報道はさすがに何件か確認できました.ただし,地元秋田魁新報が慰霊祭を含め直接的な内容の記事をいくつか伝えていたのに対して,全国紙はおもに「日本海中部地震の日にちなんだ防災訓練が行われた」という記事のみにとどまるという傾向が見られました.

●秋田魁新報

社説:県民防災の日 次の巨大地震に備えを|さきがけonTheWeb http://www.sakigake.jp/p/editorial/news.jsp?kc=20120526az

13人の津波犠牲者を慰霊、合川小 日本海中部地震、26日で29年|さきがけonTheWeb
http://www.sakigake.jp/p/akita/national.jsp?kc=20120526b

北斗星(5月26日付)|さきがけonTheWeb http://www.sakigake.jp/p/column/hokuto.jsp?kc=20120526ax
 日本海中部地震津波で遭難した合川南小学校の1児童を生前に取材していた記者の方の記憶が書かれている.

日本海中部地震の記憶、次の世代に 八峰町教委が体験談集配布|さきがけonTheWeb
http://www.sakigake.jp/p/akita/topics.jsp?kc=20120523h

●他のメディア

秋田 津波29年で被害児童慰霊祭 NHKニュース
http://nhk.jp/N41m6SOF

日本海中部地震:被害児童の慰霊祭 津波犠牲を悼み献花−−北秋田・合川小 /秋田 (毎日新聞)
http://goo.gl/tBGu8

震度6強想定 災害訓練で連携の改善点確認 : 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://goo.gl/3ienS

想定様々 防災訓練(朝日新聞・秋田)
http://goo.gl/qEcqb

防災情報による津波災害の人的被害軽減に関する実証的研究, 自然災害科学,Vol.23, No.3, pp.433-442,2004. http://goo.gl/kRizx 日本海中部地震津波,北海道南西沖地震津波による犠牲者に関する牛山の論文.

2012年5月14日 (月)

災害は忘れられるもの-共通の教訓探り残そう

2012年5月12日付け静岡新聞「時評」に寄稿した記事を紹介します.

http://goo.gl/ieQcm に書いたことがベースとなっています.

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災害は忘れられるもの-共通の教訓探り残そう

 東日本大震災について,「忘れない」,「語り継ぐ」といった言葉がよく使われている.災害の教訓を忘れず,語り継ぐことが重要であることは言うまでもない.しかし,それが極めて困難なことであるのも現実だ.

 

たとえば理科年表を見ると明治以降の日本で犠牲者が千人以上となった自然災害は少なくとも21回あるが,これらの発生年月日と犠牲者数だけを一覧表にして,それぞれの災害名や被災場所を記入せよと言われた場合,いくつ答えられるだろうか.筆者自身も,すべての正解を挙げられる自信はない.

 

災害発生日を記念日として「語り継ぎ」のきっかけとするやり方もある.たとえば,9月1日(関東大震災,犠牲者約10万5千人),1月17日(阪神・淡路大震災,同6436人)は毎年様々な行事,報道がなされており,今後は東日本大震災の3月11日も同様に記憶にとどめられるだろう.しかし,明治以降2番目に大きな犠牲者をもたらした明治三陸地震津波(犠牲者約2万2千人)の6月15日を記憶している人がどれだけいるだろうか.戦後の気象災害で最大の犠牲者5098人をもたらした伊勢湾台風(1959年9月26~27日)はどうだろう.静岡県に目を転ずると,犠牲者が多かった自然災害としては,1958年9月26~28日の狩野川台風(県内だけでも犠牲者1040人),1930年11月26日の北伊豆地震(同272人)などがあるが,これらの災害は多くの人に記憶されているだろうか.

 

無論,これ以外にも多くの災害が発生している.人的被害は大きくなくても,防災上重要な教訓を残すような災害事例も少なくない.残念なことだが,日本という国は,世界的視点で見ても,地震,津波,豪雨,火山など,自然災害を引き起こす様々な現象が頻繁に起こりやすい自然環境下に立地しているのである.これだけ多くの自然災害のひとつひとつを,忘れず,語り継ぎ続けることは極めて困難なことと言わざるを得ない.

 

災害の経験や教訓は,基本的には忘れられていくものだということを前提として考えた方がいいのかもしれない.なにもかもを教訓として読み取ろうとするのではなく,共通する重要な事項を探ることも重要だろう.さらに,目先の事例にばかり目を向けるのではなく,過去にどんな災害があったのか,歴史をひもとくこともこころがけたい.

2012年5月 4日 (金)

2012年5月2日~3日にかけての伊豆地方の豪雨ツイートまとめ

2日21時現在,AMeDAS天城山の24時間降水量が489mm.これは同地点の1976年以降2位の値を更新.最大値(627mm)の更新は可能性が低そうだけど,かなり大きな値であることは確か.1991年以降だと最大値となる.

2137伊豆地方の4市町に土砂災害警戒情報.これだけ降ればまあ当然.短時間の降水量がものすごく強いわけではなく,だらだら降り続けている状況.ここで短時間の強雨があると嫌な感じ.

AMeDAS天城山は,今のペース(1時間降水量30mm以上)であと3時間ほど降り続くと,24時間降水量の1976年以降最大値を更新する可能性も出てきた.

今のところ,かなり大きな24時間降水量になっているのがAMeDAS天城山に限られている.伊豆半島南東山間部の県雨量観測所では累加雨量300~400位になっているところがあるが,今のところは特別に大きいとまでは言えない.ただしこれから数時間の降り方で話は変わってくる.

ただし,伊豆半島南東部は,過去にたびたび土砂災害に見舞われ,人的被害を生じている.たとえば1976/7/11には下田,河津などで死者15人.この時AMeDAS稲取で日降水量466,天城山423.

最近,防災気象情報として「×年の××豪雨に匹敵する」という表現がイイ,という話が(気象庁から)出てきているけど,それはこういう感じで過去の災害と気象記録を合わせて提示することがイイ,という話だと思う.でも,難しいですよね.

今挙げたように,1976/7/11の天城山は日466mm.12日も104mmなので2日で570mm.で,この時は確かに近傍で目立った被害が出ている.降水量,特に山間部の観測所の記録と平地の被害を関係づけるのは結構難しい.

基本的に,(その地域にとって)たくさんの降雨があれば,雨による災害(洪水・土砂災害)が発生します.これが基本原則.どこそこで何ミリ降ったら必ずこうなる,といったきれいな関係はないけど,傾向としてはたくさん降れば災害は起きます.

ちなみに,AMeDAS天城山の24時間降水量1976年以降最大値627mmが記録された1983/8/17前後は静岡県では広域的に豪雨に見舞われ,全県での被害が死者0,全壊1,半壊15,床上浸水180.

結局,3時00分現在,静岡県:天城山で24時間降水量が過去最大値を更新.627.0(1983/08/17) →627.5.統計開始1976年.ということになった.

AMeDAS天城山の24時間降水量の最大は04時の649mm,72時間は今も増加中で,0850現在784.5.72時間約790というとものすごい記録のように見えるけど,AMeDAS全地点で見ればこれまでに少なくとも70回以上記録がある.

今回の伊豆地方での豪雨に伴う顕著な被害は今のところ報道では確認できない.静岡県からは「5月2日から3日の大雨による被害状況(第1報)」 http://goo.gl/kQsSX が出てるけど,ここでも特別に大きな被害は見られない.

静岡県の最終報.5月2日から3日の大雨による被害状況(第3報) http://goo.gl/yVqyR 人的被害無し,全壊,半壊,浸水家屋無し,一部損壊1棟.避難勧告も避難準備情報も出なかったようだ.

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