災害は忘れられるもの-共通の教訓探り残そう
2012年5月12日付け静岡新聞「時評」に寄稿した記事を紹介します.
http://goo.gl/ieQcm に書いたことがベースとなっています.
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災害は忘れられるもの-共通の教訓探り残そう
東日本大震災について,「忘れない」,「語り継ぐ」といった言葉がよく使われている.災害の教訓を忘れず,語り継ぐことが重要であることは言うまでもない.しかし,それが極めて困難なことであるのも現実だ.
たとえば理科年表を見ると明治以降の日本で犠牲者が千人以上となった自然災害は少なくとも21回あるが,これらの発生年月日と犠牲者数だけを一覧表にして,それぞれの災害名や被災場所を記入せよと言われた場合,いくつ答えられるだろうか.筆者自身も,すべての正解を挙げられる自信はない.
災害発生日を記念日として「語り継ぎ」のきっかけとするやり方もある.たとえば,9月1日(関東大震災,犠牲者約10万5千人),1月17日(阪神・淡路大震災,同6436人)は毎年様々な行事,報道がなされており,今後は東日本大震災の3月11日も同様に記憶にとどめられるだろう.しかし,明治以降2番目に大きな犠牲者をもたらした明治三陸地震津波(犠牲者約2万2千人)の6月15日を記憶している人がどれだけいるだろうか.戦後の気象災害で最大の犠牲者5098人をもたらした伊勢湾台風(1959年9月26~27日)はどうだろう.静岡県に目を転ずると,犠牲者が多かった自然災害としては,1958年9月26~28日の狩野川台風(県内だけでも犠牲者1040人),1930年11月26日の北伊豆地震(同272人)などがあるが,これらの災害は多くの人に記憶されているだろうか.
無論,これ以外にも多くの災害が発生している.人的被害は大きくなくても,防災上重要な教訓を残すような災害事例も少なくない.残念なことだが,日本という国は,世界的視点で見ても,地震,津波,豪雨,火山など,自然災害を引き起こす様々な現象が頻繁に起こりやすい自然環境下に立地しているのである.これだけ多くの自然災害のひとつひとつを,忘れず,語り継ぎ続けることは極めて困難なことと言わざるを得ない.
災害の経験や教訓は,基本的には忘れられていくものだということを前提として考えた方がいいのかもしれない.なにもかもを教訓として読み取ろうとするのではなく,共通する重要な事項を探ることも重要だろう.さらに,目先の事例にばかり目を向けるのではなく,過去にどんな災害があったのか,歴史をひもとくこともこころがけたい.
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