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2012年11月27日 (火)

災害への対応-地域知ることが出発点

11月15日付け静岡新聞「時評」に下記記事を寄稿しました。繰り返し主張していることで、まさにタイトル通りの内容です。

地域を知るにはどうしたらよいか? 先日刊行した「防災に役立つ地域の調べ方講座」 http://goo.gl/Ua0Qq は私なりの解の一つですが、さらに何をしていったらよいのかを考えていきたいと思っています。

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時評=災害への対応-地域知ることが出発点

 地域や個人で防災について考えたり,取り組んだりする際,様々な方法が考えられるが,すべての取り組みのスタートラインは,「自分の居住地域・活動地域の災害に対する特性を知ること」だと筆者は考えている.

 災害は「素因」と「誘因」の組み合わせで発生する,という説明の仕方がある.ここで素因とは,それぞれの土地が持っている災害に関わる性質のことで,たとえば,地形,気候などの自然素因や,人口,産業構造といった社会素因が挙げられる.誘因とは,地震,豪雨,津波など,被害(災害)を発生させる直接的な引き金となる現象のことである.誘因だけでは災害にはならない.たとえば,砂漠の無人地帯で巨大地震が発生しても社会的には何の被害も生じず,「災害」にはならない.その地震と同程度,もしくはより弱い地震であっても,「人口が密集している」といった「素因」が存在する土地で発生すれば「災害」となる.

 

災害を軽減するためには,「素因」と「誘因」双方の予測,つまり「いつ,どこで,どんなことが起こるか」を予測することが重要となる.しかし,特に「誘因」,すなわち「いつ」を予測することが大変難しい.地震予知が困難であることは最近も議論になっているところであり,台風など気象現象の予測も,精度が向上しつつあるとは言え,完全ではない.一方「素因」,つまり「(いつかはわからないが),どこで,どんなことが起きそうか」を知ることは,「誘因」の予測に比べれば可能性がある.「素因」を知るための代表的な資料がハザードマップだが,他にも「素因」を知るための様々な資料が整備されつつある.限られた経験や,独りよがりな観察にもとづくのではなく,これらの資料を活用することも大変重要である.今月刊行となった拙著「防災に役立つ地域の調べ方講座」(古今書院)は,このような取り組みに役立つことを目指して著したものである.

 

災害への対応方法は,災害の種類によって大きく異なる.地震に備えるためのノウハウが,水害に対してはかえって危険な結果をもたらすといったこともあり得る.まずは,「身の回りではどのような災害が起こりそうか」を具体的に理解することが重要である.その上で「ではどうするか」を考える段階となるが,これは人それぞれで事情も異なるものであり,各自で考えなければならない.

2012年11月 6日 (火)

「防災に役立つ地域の調べ方講座」著者割引購入方法の紹介

すでにご紹介(https://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-bce4.html)しましたように,このたび下記の本を刊行することになりました.

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「防災に役立つ地域の調べ方講座」
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牛山素行著
A5判 並製本 108ページ
ISBN978-4-7722-7115-8
定価2200円(税込2310円)
11月12日に全国配本(書店店頭には中旬頃から並びます)

http://www.kokon.co.jp/book/b146826.html

【目次】

第1章     基礎知識
第2章     対象地域の地理・歴史・人口を調べる
第3章     対象地域の自然条件を調べる
第4章     対象地域の自然災害を調べる
第5章     現地で調べる

文末の注文フォームで古今書院にメールで注文すると、著者紹介特価(15%引・送料無料/定価2310円税込→特価1963円税込)になりますので、よろしければご利用ください。

★7月に、『豪雨の災害情報学 増補版』も刊行しました。
http://www.kokon.co.jp/book/b146815.html

こちらも同様に割引になります。合わせご検討ください。
定価3780円→著者紹介特価3024円

【注文フォーム】該当部分をコピーしてお使いください。
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メール送信先:古今書院 担当 関 
seki*kokon.co.jp (*を@に変えてください)

メールタイトル:本の注文(著者紹介)

メール本文
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1. この情報を知った媒体名を記載ください。

2. 送付先
 お名前:●●●●●(ふりがな)
  郵便番号:●●●- ●●●●
  住所:●●●●●●●●●●
  電話番号:●●●●●●●●
 *公費購入などで書類に指定があるときは、具体的にご指示ください
  (宛先、日付の有無など)

3. 注文の書名・冊数
『防災に役立つ 地域の調べ方講座』 ■冊
『豪雨の災害情報学 増補版』    ■冊
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2012年11月 5日 (月)

個人レベルの防災-「何が重要か」考え、備える

いささか古い記事ですが,2010年3月6日付け静岡新聞への寄稿記事です.当時,ブログに掲載していなかったことに気がつきましたので,あらためて掲載しました.

内容的には今見ても特に修正の必要はなさそうです.また,ここで挙げた問題については,何ら進歩していないようにも思われ,愕然とします.

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時評=個人レベルの防災-「何が重要か」考え、備える

 台風が接近しているときなどに,「今私たちにできる備えは?」という取材をメディアから受けることがある.このようなときに筆者は,
「流れのある水は怖いので,近づかないこと」
「余裕があれば早期避難,状況が激しくなったら少しでも安全な場所へ退避するなど,次善の策を」
などとコメントする.要するに,「気をつけて行動しよう」と言いたいのである.

 

しかし,これが必ずしも評判が良くないようで,「すぐにできる手立て」に人気があるようだ.たとえば,「避難袋にこういうものを入れておくといい」とか,「簡単にできる土嚢の作り方」とか,「家の回りはこうしておこう」とか,「水の中を避難するときはこれを持って」といったところだろうか.災害に対して身近なところで目に見える「なにか」をすることが,「身近な防災対策」だというイメージが強く持たれているのではなかろうか.無論,こういった「対策」がすべて無駄だとは思えないが,必ずしも最優先事項として推奨できるとも思えない.

 最も重要な個人レベルの防災対策は,生命を守ることだろう.冷静に考えてみよう.避難袋は自分の生命を守ってくれるだろうか.何か装備をしてまで,洪水の中を無理して避難することが,本当に生命の安全を確保するために必要なことだろうか.無論,それらが重要な場合もある.しかし生命の安全を図るために必要なことは,災害の種類,周囲の状況によって全く異なり,人それぞれの事情によっても大きな差がある.「防災知識」として一般化することは大変難しいことなのである.

 では,私たちはどのように「備え」ておけばよいのだろうか.まずは,「ここではどういうことが起こりそうか」を理解し,その上で,「自分はどのように困り,どのようになりたくないか」を考えることではなかろうか.どうなったら困るかは人によって異なる.マニュアルやハウツーに振り回されず,自分の置かれる状況をイメージして,自分にとって必要な準備をしておくことが重要だろう.

 いざ本番の災害時に我々は必ずしも冷静な判断ができるとは限らない.自分にとって何が重要なことかを,日常の,状況が平静なうちに少しでも良いから考えておきたい.それこそが,「個人でできる日頃からの備え」だと筆者は考える.マニュアル化された,小手先の「誰でもできそうな簡単な防災対策」で満足してしまうことは避けなければならない.

2012年11月 3日 (土)

「防災に役立つ地域の調べ方講座」刊行の背景

このたび古今書院から「防災に役立つ地域の調べ方講座」という本を出すことになりました. http://www.kokon.co.jp/h7115.htm 全国配本は11月中旬頃の見込み.近日中に著者割引に関する情報を流しますが,刊行に先立って,本書刊行の背景について説明しておきたいと思います.同書の「あとがき」をそのまま掲示します.

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 2011年3月11日は,筆者にとって一生忘れることができない日になった.筆者は14時46分地震発生の瞬間を,出先から大学に戻ろうと車に乗り込んだところで迎えた.はじめは,車が少し揺れ,大型車でも通ったのかなと思った.しかし,その揺れは異様に長く続き,遠いところでかなり規模の大きな地震が起きたのではないかと気がつき,カーラジオのスイッチを入れた.番組はすでに地震報道に切り替わっており,宮城県で震度6強,すぐに震度7が伝えられ,さらに(後に大きな問題となる)大津波警報で宮城県6m,岩手県・福島県で3mが伝えられた.「6m」が出たことで,これは想定宮城沖より大きなものが来たのではと思いつつ車を大学に向けて走らせた.その車中で,津波第一波として大船渡で0.2mという観測値が報じられるのを聞いた.「だめだーっ,そんな小さい数字を伝えるなーっ」と車内で1人叫んだことを覚えている.大学に戻ってネット,テレビを見るが,最初は大きな動きは見えない.しかし,15時15分頃だったと思うが,NHKの映像で,見覚えのある岩手県釜石市の高架道路下の防潮堤を津波が軽々と乗り越えて市街地に遡上していくのが見え,想定宮城沖連動型どころではない,とてつもない事態が発生しつつあることを悟った.

 筆者は2005~2009年の間,岩手県立大に在職していたが,当時から継続的に調査に入っていたフィールドが岩手県陸前高田市気仙町地区だった.この地区がいったいどうなったのかが気がかりだったが,当初は全く情報が無かった.しかし,12日未明になって陸前高田市中心部の低地が完全に津波に飲まれる動画がNHKで伝えられた.自分が偉そうに防災ワークショップなぞをやった集落,そこで確認した津波避難場所,それらが致命的な津波に襲われ,おそらく消滅したであろうことが想像され,結果的に自分は人の命を奪うことに荷担したのではないかと,眼前が暗くなる思いがした.発災後,最初に現地入りの機会を得たのは3月29日.真っ先に陸前高田市に向かった.気仙川沿いの道を南下し,竹駒駅付近から「そんな場所から見えるはずがない広田湾」が見えた時の気持ちは忘れられない.気仙町は,本当に「街」としては消滅していた.

 本書は2011年1月頃,刊行に向けて本格的な作業に入っていた.しかし,そのさなかで東日本大震災を迎えた.これまでに経験したことがない規模の災害,それに伴う調査研究,多数の取材や照会への対応,無論,日常業務も減ることはない.本書の刊行に向けた作業は一時停滞せざるを得なかった.また,「演習」の「作例」として陸前高田市を取り上げていることも気にかかった.津波で文字通り消滅してしまった街.それを防災のためのテキストの作例として取り上げてよいものなのか,ためらわれた.

 東日本大震災の死者・行方不明者は約1万9千人,明治以降の日本の自然災害としては関東大震災,明治三陸津波に次ぐ規模の人的被害であり,広域,巨大災害であることは間違いない.災害,防災に関わる実に様々な現象,問題が発生,確認された.しかしながら,たびたびの現地調査や,データ解析を通じて,この災害の外力や被害の規模が大きいことは間違いないが,災害や防災に関わる考え方,取り組み方,そこで生じる問題の基本的な構造は従来考えられてきたことから大きく逸脱していないと,筆者は考えるようになった.また,よく似た地域で発生した同様な災害である明治三陸津波の犠牲者のデータと見比べると,東日本大震災では,「津波の影響を受けた地域の人口に対する犠牲者の比率」が,明らかに下回っていることもわかってきた(牛山・横幕,2012).これは,明治三陸津波以降に日本社会が取り組んできた様々な防災対策が,けっして無意味なものではなかったことを示唆している.

 

本書第1章でも述べたように,自然災害は,誘因が素因に作用して発生する.誘因を事前に知ることは難しいが,素因は災害前の平時に,長い時間をかけて丁寧に理解することが可能である.その意味で,地域防災に関するすべてのスタートラインはその地域の素因を知ることであり,その重要性は東日本大震災を経ても変わることはないと筆者は考える.このような営みは,「けっして無意味ではなかった様々な防災対策」のひとつではなかろうか.ならば,本書の刊行を止めてはならないと思うようになり,震災から約1年を経た2012年2月,本書の再編集作業が始まった.作例として岩手県陸前高田市を取り上げることについては,すでに震災被災地の災害前の姿を記録する様々な刊行物や,ネット上の資料整備が進んでいることもあり,むしろ失われた街の姿を後世に記録するという意義があるのではないかと考え,原稿をほぼそのまま生かす形で収録することとした.

 東日本大震災を経た現在,日本において災害,防災に対する関心は非常に高まっている.しかし,この状態が長くは続かないことも考えられる.人の関心の高低とは関係なく,自然災害は我々の前に姿を現してくる.長く,地道な取り組みが必要である.本書が,その一助となれば幸いである.

2012年11月 2日 (金)

第二回「土砂災害への警戒の呼びかけに関する検討会」についての感想

10/31におこなわれた「土砂災害への警戒の呼びかけに関する検討会」について,委員として参加した立場から,個人的な感想を挙げます.

まず,この検討会の性質ですが,国土交通省水管理・国土保全局砂防部と気象庁予報部が事務局となって開催されているもので,「気象庁(だけ)の検討会」ではありません.また,この場で何かの方針を「決定」する場ではありません.

第2回の検討会で提案された主要事項として,土砂災害に関する気象情報を,5段階の「レベル」で表現しては,という案件が挙げられます.検討会のページ http://goo.gl/WXOye の資料6 http://goo.gl/AIq4y 2-3ページが関係箇所となります.

気象情報の「レベル化」は,たとえば「大雨警報」と「土砂災害警戒情報」とでどちらが状況的深刻度が高いかよく分からないとか,「経験したことのない大雨」という情報を英訳できない(汎用的な表現で言い換えられない),といった課題への対応策のひとつとして,私は有りだと考えています.

ただし,具体論に入ると課題は山積と感じます.「レベル化」の利点は,たとえば「レベル3」と言っただけで状況の深刻度がおよそ理解できるという点にあると思いますが,そのためには,ハザードが違っても「レベル3」の意味が大体そろっている必要があります.

「レベル化」がすでに行われているのは,河川水位情報と,火山関係情報です.火山とでは,現象の性質があまりに異なるので整合を取ることが難しいかもしれませんが,同じ雨起因の情報である河川については,十分整合を取る必要があると思います.

たとえば,河川の場合「レベル4」(氾濫危険情報)が出された場合の住民側の推奨行動は「避難完了」ですが,今回の提案では土砂においては「避難指示」となっており,整合しません.この点については私も席上で発言しました.

レベル4とレベル5は,何らかの形で土砂災害が「発生」したことを意味する情報であると提案されています.比較的頻発する土砂災害警戒情報の発表よりも深刻な状況であることを告げる情報を志向しており,このこと自体は私は意味があると思っています.ただし,「発生」情報は,そもそも発生をどう覚知するかなどの課題もあります.このあたりはもう少し議論が必要なところと感じました.

「レベル化」は土砂災害についてだけ議論しても始まらない部分もあると思います.「防災気象情報の改善に関する検討会」 http://goo.gl/gtJYp での議論が始まっているので,土砂検討会の議論はこの検討会へつないでいくものになるのでは,と思っています.

そもそも「レベル化」することが防災情報として有効なのか?,という課題もあります.これについては,情報の受け手の認識などに関する基礎調査を踏まえて考えた方がよい,という議論が,土砂,気象情報双方の検討会ですでに出ています(このあたり,議事概要を深読みください).

「レベル化」の有効性や,各種気象情報に対する認識などについての基礎調査は,少なくとも私自身は年度内に実施することを計画しています.その結果も踏まえて「防災気象情報の改善に関する検討会」の場での議論に参加させていただければと思っています.

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