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2012年11月 5日 (月)

個人レベルの防災-「何が重要か」考え、備える

いささか古い記事ですが,2010年3月6日付け静岡新聞への寄稿記事です.当時,ブログに掲載していなかったことに気がつきましたので,あらためて掲載しました.

内容的には今見ても特に修正の必要はなさそうです.また,ここで挙げた問題については,何ら進歩していないようにも思われ,愕然とします.

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時評=個人レベルの防災-「何が重要か」考え、備える

 台風が接近しているときなどに,「今私たちにできる備えは?」という取材をメディアから受けることがある.このようなときに筆者は,
「流れのある水は怖いので,近づかないこと」
「余裕があれば早期避難,状況が激しくなったら少しでも安全な場所へ退避するなど,次善の策を」
などとコメントする.要するに,「気をつけて行動しよう」と言いたいのである.

 

しかし,これが必ずしも評判が良くないようで,「すぐにできる手立て」に人気があるようだ.たとえば,「避難袋にこういうものを入れておくといい」とか,「簡単にできる土嚢の作り方」とか,「家の回りはこうしておこう」とか,「水の中を避難するときはこれを持って」といったところだろうか.災害に対して身近なところで目に見える「なにか」をすることが,「身近な防災対策」だというイメージが強く持たれているのではなかろうか.無論,こういった「対策」がすべて無駄だとは思えないが,必ずしも最優先事項として推奨できるとも思えない.

 最も重要な個人レベルの防災対策は,生命を守ることだろう.冷静に考えてみよう.避難袋は自分の生命を守ってくれるだろうか.何か装備をしてまで,洪水の中を無理して避難することが,本当に生命の安全を確保するために必要なことだろうか.無論,それらが重要な場合もある.しかし生命の安全を図るために必要なことは,災害の種類,周囲の状況によって全く異なり,人それぞれの事情によっても大きな差がある.「防災知識」として一般化することは大変難しいことなのである.

 では,私たちはどのように「備え」ておけばよいのだろうか.まずは,「ここではどういうことが起こりそうか」を理解し,その上で,「自分はどのように困り,どのようになりたくないか」を考えることではなかろうか.どうなったら困るかは人によって異なる.マニュアルやハウツーに振り回されず,自分の置かれる状況をイメージして,自分にとって必要な準備をしておくことが重要だろう.

 いざ本番の災害時に我々は必ずしも冷静な判断ができるとは限らない.自分にとって何が重要なことかを,日常の,状況が平静なうちに少しでも良いから考えておきたい.それこそが,「個人でできる日頃からの備え」だと筆者は考える.マニュアル化された,小手先の「誰でもできそうな簡単な防災対策」で満足してしまうことは避けなければならない.

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