「災害情報」の不足-利用者側も探索努力
3月6日付け静岡新聞に,下記記事を寄稿しました.
特に豪雨災害時における「情報が不足している!」という「課題」の指摘とやらは,もはやいい加減にしていただきたい,というのが率直な気持ちです.完璧ではありませんが,使える情報はたくさんあります.
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時評=「災害情報」の不足-利用者側も探索努力
災害時の教訓としてしばしば聞くのが「情報不足」を指摘する声である.たとえば,「山の方でどんな雨が降っているか把握できなかった」とか,「もっと詳しく細かい情報が欲しかった」といった声である.
「情報不足」を改善するためには,新しい情報を作る,情報を詳細にするなどが考えられがちだが,このやり方が必ずしも「わかりやすい情報」にはつながらない.たとえば,現在気象警報は市町村単位で発表されるが,2010年以前は「中部南」「遠州北」のように,複数市町村をまとめた地域単位で発表されていた.市町村単位の方が空間的に細かく警報を出せる利点があることは間違いない.しかし,テレビのテロップのように文字で伝えることを考えるとどうだろうか.以前は「中部南に大雨警報」と伝えればよかったが,市町村単位だと個々の市町村名を長く羅列しなければならない.情報を詳細にすることは,情報の量を増やすことであり,情報の量が増えれば,情報処理能力を高める必要がある.最末端で情報を処理するのは我々人間だが,人間の能力は急に高められるものではない.情報を詳細にするのであれば,情報利用者である我々自身にも相応の覚悟が必要になる.
もっと根本的な問題として,「不足している」と指摘された情報が,単に情報利用者に認知されていなかっただけで,実際には存在している,といったケースも珍しくない.先に挙げた「山の方でどんな雨が降っているか把握できなかった」という声は,豪雨災害の後にしばしば聞くが,率直に言って事実誤認である.雨量の観測所としてはまず気象庁アメダス観測所が全国に約1300か所展開されており,このほか国土交通省,都道府県などにより数千か所の観測所が展開されている.山岳部にまで観測所が置かれ,その観測値の多くが国土交通省「川の防災情報」などのホームページで参照可能である.雨量は観測所の雨量計だけでなく,気象レーダーによって遠隔的にも観測されており,観測所の観測値と補い合い,全国を1km格子に区切った格子ごとの雨量が公表されている.「山の中の雨量がわからない」という時代は,我が国においては完全に終わっている.無論,何もかもがわかっているわけではなく,本当に「不足している情報」も少なくないが,すでにある情報も多い.
災害に関する「情報不足」の解決策は,単に今ある情報をさらに増やせばよいというものではない.まずは,行政機関自身は無論のこと,我々住民も,身の回りにどのような災害情報が整備されているのかを探索することが必要ではなかろうか.
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