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2013年6月24日 (月)

災害は防げます.防げないのはハザードです.

6月20日付け静岡新聞に下記寄稿をしました.

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時評=災害は防げるか-事前の対策が効果的

「災害を防ぐことはできない、だから『防災』ではなく、災害が起こった後の対応をしっかりやって被害を減らす、すなわち『減災』を目指すべきだ」といった話を聞くことがある。「話」なのでいろいろな言い回し方があると思うが、上記の通りだとすれば、私には賛同できない考え方である。

まずそもそも「災害」という言葉が曖昧に使われているのではないか。災害とは、自然の大きな力(これをハザードとも言う)が人間社会に作用した結果として生じる被害のことである。たとえば地震や台風は、ハザードであって、災害ではない。ハザードを防いだり、消滅させたりすることは不可能、もしくはきわめて困難である。しかし、ハザードによってもたらされる被害は、ハザードが作用する人間社会の側の状況次第で、減らしたり、場合によってはなくしたりすることも可能である。すなわち、「災害は防ぐことができる」はずである。無論、どのような対策を講じても、あらゆる災害を完全に消滅させることはできないが、「防ぐことができない」などということはない。本来,「減災」という言葉が使われるようになったのは,「防災」という言葉が、「対策をすれば災害をゼロにできる」という誤解を生みやすいので、少しでも被害を減らすことを考える事が重要という意味からである.

災害が起こった後の対応、すなわち狭義の「危機管理」が重要であることは間違いない。しかし、「災害は防げないから危機管理で対応」というのもおかしい。危機管理によって期待される効果は、「被害の拡大を防ぐ」ことである。災害後の危機管理をいくら完璧に行ったとしても、ハザードが作用したそのときに生じる被害を減らすことはできない。地震を例に取れば、地震発生後に、避難所の居住環境の悪化で亡くなる犠牲者などは事後の「危機管理」のあり方次第で減らすことが期待できる。しかし、地震の揺れによって倒壊した建物の下敷きとなって即死状態で亡くなるような犠牲者(阪神・淡路大震災ではこのタイプの犠牲者が全体の9割)は、事後の「危機管理」では減らすことができない。このような犠牲者を減らす為には、建物の耐震化を進めること、すなわち事前の防災対策が効果的である。

災害は防ぐことができる。防ぐためには「起こったときにどうするか」にばかり目を向けるのではなく、「起こらないようにするためにできること」を重ねておくことが必要である。
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さらに言うならば,わたしは「減災」も好きではありません.ましてや「耐災」とは.「防災」の何がいけないのでしょう.災害が無くせると誤解される,とい うことですが,それは誤解を生じないように説明すればいいことだと思います.災害を全くなくしてしまう「滅災」とか言っているわけではないのですから.で も,調べてみたら「滅災」という言葉も一部で使われているのですね.もうめちゃくちゃではないでしょうか・・・

私は誇りを持って「防災研究者」をやっています.

2013年6月 4日 (火)

袋井市「命山」設計変更について

津波避難用「命山」高さ下げる 袋井市が方針 中日新聞
http://goo.gl/v20SZ

袋井市が命山の高さを2m下げる判断をしたのは,「シミュレーション結果が低かったから」ではありません.設計当時には高さを決めるための十分な情報がなかったため,限定的な情報から極端に安全側に立って高さを決めた.袋井市はその後増えた情報を参考に,避難場所としての利便性(収容力の増大や,登坂の容易性など)も考慮して高さを変更.報じられていないだけで,袋井市は当然それくらい考えてました.

もともとの12m(命山天端の標高)という高さは,東日本大震災時の仙台平野での津波痕跡実測値にもとづく海岸線からの距離と浸水深の関係を元に,現地の津波浸水深を標高で約8mと想定し,そこに盛土に津波が当たっての堰上げ高と余裕高合わせて約4mを足して決めたものです.この想定は,ほぼ無堤の仙台平野の実測値をもとにしています.袋井市の海岸には10m前後の砂丘がある上に,津波を起こす波源域が東日本よりは狭いと考えられるので,この想定がかなり過大である可能性が高いとの意見は,袋井市津波被害軽減対策委員会でも当初からありました.情報がもっとあれば見直すことは不合理ではないと私は思っています.

今回の変更は,国の示した想定結果がこうなったから変更した,というものではありません.そもそも国の想定では,命山建設地付近の想定津波浸水深はゼロ.津波到達しない.これをもとに変更するのであれば,命山計画自体を取りやめとすることになってしまう.

袋井市では,市独自に津波シミュレーションを実施しました.外力としての地震・津波の規模は国の想定と同様だけど,「地震発生とともに10mの砂丘が一瞬にして消滅する」という極端な条件で計算ししました.つまり,砂丘が存在しなかったらどういう津波が入るかを調べたものです.単に「計算を細かくした」のではありません.この結果では,命山建設地付近の想定津波浸水深は1~2m程度(標高換算すると3~5m程度).かなり極端な想定をしてこの結果だから,想定に固執するならば,命山の高さはもっと低くしても良いわけで,10mでもかなり安全側に立っていることになります.

無論,「想定外に備える」を突き詰めるのならば10mも12mも絶対に安全とは言えません.建設する以上なにか目安を設けなければ建設できないので,一つの目安として10mを採ったに過ぎません.絶対安全と言えるボーダーはないのだから,「最善を尽くす」のが第一,ということはかわりません.

「標高5m以下の地域を津波避難対象地域,としましたけど,こんなこまかな数字は,何の意味もないんですよ.低いところを目安として決めただけ」と,去年の袋井市の講演会で話したら,会場がざわざわした.この手の説明は,講演でも,袋井市津波被害軽減対策委員会でも重ねてしているところ.

「(巨大な)想定」をどう読むか,どう使うか,という話は,今全国の防災の現場で本当にみんなが困っている課題.講演,報道,委員会,地域の現場くらいしか私の出る幕はないけど,可能な限りの機会を使って自分の思うところを伝えていきたいし,研究成果にもしていきたいと思っています.

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