2013年10月16日伊豆大島豪雨災害についての雑感
2013年10月17日大島町現地踏査写真
http://goo.gl/gV3MWF
今回の大島町での対応に関しての私の雑感.災害発生前に「避難勧告」が出ていなかったこと自体は「よくあること」で、強く批判する気持ちにはなれない.ただ、警報、土砂警に加え、23時台に大島付近に特化した府県気象情報が出て、記録雨が出て、都や気象庁からのホットラインも来て、という状況下で、避難や特に危険な状況であることを告げる情報が一切出ていなかったことは「残念」と言わざるを得ない.
「夜間の(かつ暴風雨のでの)無理な避難は被害を拡大することを恐れた」という認識自体はおかしくない.私自身、各地で強く言っていることでもある.しかし、だから避難にかかわる情報を一切出さないというのは何か違うと思う.自治体側はいろいろな状況を考慮し、ためらい、勧告を出さない、という判断に至った、このことはよい.しかし、何も情報が出ないと、情報を受け取る側に「避難勧告が出ていないのだから役所は安全宣言を出している」と解釈されても仕方がない.情報なしでは、情報を出す側の危機感は伝わらない.
「避難=避難所へ移動」ではないということも最近は強くいわれているところ.だから「避難してください」ではなくて「身の安全を図ってください」というフレーズが使われている.避難所に行くこととに限定せず、身に迫る危険から少しでものがれてください、というのが本来の避難勧告等の意味.
「身の安全確保」の具体的方法は外力の種類や現地の地形等によって話が変わる.具体例の一つとして「建物の二階に退避もあり」もよく言われていて、私も言っている.注意しなければならないのは、これは浸水災害に限定した話だということ.土砂災害では木造家屋は持たないので推奨できない.土砂災害の場合は、土石流等が流下する谷筋や谷の出口から、直角方向の少しでも高所に移動する、というのが切迫状況下での次善(ベストでなくベター)の対応策.
また、避難行動の呼びかけは避難勧告だけではないこともよく認識されてほしいところ.避難勧告のハードルが高いことは確か.しかし、その前段階として避難準備情報を出すとか、「避難所を開けましたよ」という情報を出すだけでも、緊張感は伝えることができる.
実際にはいろいろな事情で避難の呼びかけをためらうということは本当によくわかる.「なぜ避難勧告を出さなかったんだ!」と叫ぶ「市民」は、同じ口で「何もないのに避難勧告なんか出して、休業補償しろ」とか言ったりする.だから、私は単純に行政批判をするのは嫌だ.ただ、避難勧告とは言わないまでも、「早めに何らかの避難の呼びかけ」という取り組み自体は、実際にできている自治体だって少なくないのだから、せめてそのあたりまでは足並みがそろってほしいな、とは思う.
特別警報のやり方の見直しの話が強く出てきている.また、「直近の目立つ事例に引きずられたパッチあて的制度いじり」がはじまるのか、と暗い気持ちになる.でももう仕方ないのかもね.
避難勧告を出す権限を市町村以外のところに、の話も出てきている.しかし、この話は3年ほど前にさんざん議論したところだと思うのだけどな.私はもともと「市町村だけに避難勧告を出す権限を持たせているのは酷だ.何らかの方法で国や県に一部でも委譲したほうがいいのでは」と思っていた.しかし、避難勧告についての議論を聞いて、「避難勧告の権限移譲」は、やる気にない自治体を喜ばせるだけで、むしろ積極的に取り組んでいる自治体をスポイルする弊害の方が大きい、と考えるようになった.
理想論ではあるけど、すべての自治体の防災担当職員のレベルアップが、問題解決の一番確実に方法ではないかと考えている.本学で行っている「ふじのくに防災フェロー養成講座」はそのための試行の一つ.
あえて前向きに考えると、特別警報や避難勧告についての「見直し」が政府筋から強く示唆されていること自体は悪くないかもしれないとも思う.特別警報は避難行動と現実には密接にかかわる制度なのに、避難に関しては権限もノウハウも持たない気象庁に、その検討の責が負わされていたのは歯がゆい思いがしていた.省庁間の連携で特別警報&避難についての議論が行われるのだとすれば、意義はあると思う.ただし、拙速な議論にならないといいな、とは思う.
「避難勧告を出しても避難しない人が少なくない」という現実もある.これはもう制度とは別次元の話だと思う.能動的に避難しないことを選択した人、それはそれぞれの判断で、差支えないのでは、と思う.また、「避難所に行かない=避難していない」ではない、ということも注意が必要.私の調査では、避難所避難者数の数倍単位で、「実質的な意味で避難していたもしくは避難の必要がなかった」人がいる、という結果も断片的だが出ている.
昨日、大島町元町神達地区を見ての印象.集落の建物が根こそぎ流失していた.住家付近が深く侵食されているわけではなく、1m以上など厚く土砂が堆積しているわけでもないけど、建物は基礎を残して無くなっている感じ.神達地区付近でも、土砂は基本的には谷状の地形に沿って流下している.ただし、谷といってももともと深く侵食が進んでいるわけではなく、周囲の尾根部との比高は数m程度か、という印象.これでは「土石流の流下方向から直角に逃げる」といってもかなり難しかっただろう、と暗澹たる気持ちに.
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