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2013年11月18日 (月)

「特別警報」とはなにか-地域特性知り行動を

10月17日付け静岡新聞に掲載された筆者の寄稿記事です.この新聞が配られていた朝,まさにそのときに,伊豆大島で豪雨災害が発生していました.

寄稿の内容は,「伊豆大島後」の今の視点で見てもそれほど不適切とは言えないと思っていますが,なんとも後味の悪い気持ちは否めません.

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時評=「特別警報」とは何か-地域特性知り行動を

8月30日から気象庁は特別警報という新たな情報を発表するようになった.特別警報は,それぞれの地域にとって数十年に1度しか起きないような重大な災害の発生の危険性が著しく高まっている時に発表される情報である.

火山,津波などについては従来の情報のうち特に厳しい情報(たとえば大津波警報)が特別警報と位置づけられた.一方,大雨などの気象現象に関しては,特に厳しい状況を明示的に伝える情報があまりなかったため,大雨特別警報のように新たな情報が新設された.ここでは大雨特別警報を例に,特別警報という情報について考えてみたい.

大雨特別警報は,広範囲で既にかなり大量の雨が降った,あるいは今後さらに激しく降ると予想されることを告げる情報である.したがって特別警報を聞いてから初めて行動を起こすのでは,既に手遅れである可能性も高い.大雨の際,特別警報が出る前に大雨警報,土砂災害警戒情報など様々な気象情報が発表される.主な河川では,はん濫危険情報,はん濫注意情報など,洪水発生の危険を告げる情報も発表される.これらの情報が出た段階で行動を起こすことが基本である.

ここで言う「行動」とは必ずしも「避難所へ行く」であるとは限らない.安全を確保するための行動のあり方は,発生する災害の種類や状況,地域の地形などによって異なる.地域の災害特性を日頃からよく知っておくことが重要だ.特別警報の制度ができても,従来からある大雨警報などの基準が下げられたわけではない.例えば,大雨警報が出たらこうする,といった計画がすでにできているのであれば,それを変更する必要性は全くない.特別警報が出るのは極めて異常な場合であるので,特別警報が出るのを待って何かをする,という計画をあらかじめ立てておくことは,そもそも話としておかしい.

9月16日には,滋賀県・京都府・福井県内に大雨特別警報が発表された.特別警報の制度ができて初の発表となったが,制度運用開始前にも今年は7月28日に山口県・島根県,8月9日に秋田県・岩手県,8月24日に島根県に,大雨特別警報に相当する大雨が発生した.「数十年に1度の大雨」が一年の間に何度も起こることはおかしなことではない.「数十年に1度の大雨」とは,「その地域にとって数十年に1度」という意味であり,「日本全国で数十年に1度」という意味ではないからである.

特別警報以外にも,様々な防災気象情報が整備されており,これらは,気象庁ホームページをはじめ,各種の気象情報サイトで参照することができる.あらかじめ登録しておくことで,自分の地域に警報が出たことをメールで知らせてくれるサービスも広がりつつある.どのような気象情報があるのか,探索してみてはいかがだろうか.

2013年11月14日 (木)

伊豆大島豪雨災害による死者・行方不明者の特徴

2013年10月16日に発生した台風26号に伴う豪雨による,東京都大島町(伊豆大島)での死者・行方不明者(以下では両者を併せて「犠牲者」と呼称)の特徴について,11月上旬時点での行政資料,報道,筆者現地調査情報などを元に整理した.

11月11日消防庁発表の資料によれば,台風26号による全国の人的被害は,死者39人,行方不明者4人,計43人である.全国の犠牲者43人は,2011年台風12号による犠牲者98人以来の規模である.全国の犠牲者が43人以上に上る風水害事例は,1990年代以降では7事例(うち1事例は海難事故)生じており,3~4年に1回程度発生する規模の事例と言える.

犠牲者のうち40人は東京都で生じており,うち39人が東京都大島町での犠牲者である.一つの市町村で一事例における犠牲者が39人以上となった事例は,平成5年8月豪雨時の鹿児島市48人(鹿児島市地域防災計画)以来のことである.1980年代以降では、他に昭和57年7月豪雨時の長崎市262人(長崎地方気象台)しか例がない.以下では,大島町の犠牲者39人についてその傾向を論ずる.

大島町の犠牲者39人を原因外力別に分類すると,全員が土砂災害による犠牲者であった.筆者の2004~2011年の豪雨災害犠牲者514人についての集計(牛山・横幕,2013)によれば,近年の豪雨災害による原因外力別犠牲者数(以下では「近年の犠牲者」と呼称する)は土砂災害が最も多く37%を占めるが,本事例は極端に土砂災害に偏っている.

他の観点から見ても,本事例の犠牲者の特徴は,極めて一様であると言える.遭難場所は全員が「屋内」であり,全員が「自宅・勤務先付近」で遭難している(用務で宿泊施設にいた者が2人で他は全員自宅).近年の犠牲者は屋内が42%であり,全般的な傾向とは異なるが,土砂災害の場合は81%が屋内であり,土砂災害犠牲者が全員であることを考えると,特異な傾向ではない.

自らの判断で危険な場所に接近したことによって遭難した者を筆者は「能動的犠牲者」と分類しており,近年の犠牲者の30%とかなりの割合を占めるが,本事例ではこのような犠牲者は一人も存在しない.

なんらかの避難行動を取ったにもかかわらず遭難した者が,近年の犠牲者では11%存在するが,本事例では,避難行動を取った犠牲者は一人も確認できていない.

年代別に見ると,65歳以上の高齢者が21人(54%)と過半数を占めている.近年の犠牲者では65歳以上が56%であり,高齢者に被害が集中している傾向は,近年の犠牲者と変わらない.

11月1日の筆者による現地踏査,10月17日撮影の国土地理院による空中写真,ゼンリン住宅地図をもとに,土石流到達範囲以内にある住家(住宅地図で個人名が書いてある建物)を対象に,被害程度を外観から以下の2種類に判別した.

・倒壊:建っていた位置から流失しているまたは原形をとどめず倒伏している
・非倒壊:程度の大小を問わず損壊しているが建っていた位置に建物が現存している

ここでいう「倒壊」は,罹災証明などで用いる「全壊」のうち,特に被害程度の激しい状態と考えて良い.以下では「倒壊」世帯に限定して被害状況を記述する.これは,「倒壊」世帯はそこに人が所在すれば犠牲が生じた可能性が高い状況だったと考えられるためである.「倒壊」世帯の分布と,在住者の被害を図にしたのが下図である.

3 神達地区

神達地区では,情報が得られた「倒壊」15世帯のすべてで犠牲者が生じており,災害発生時にこれらの世帯に所在していたと推定される32人のうち,生存者 はわずか5人であった.「倒壊」のうち7世帯については詳細不明だが,うち2世帯程度では3人が所在し,2人が犠牲者となった可能性が高い.現在得られて いる情報では,この地区で何らかの避難行動を行っていたのは,1世帯で小学生の子どもを台風を懸念して他地区の親戚宅にあずけた例(両親は自宅に戻り父親 は行方不明,母親は重傷)が確認されているのみで,他には何らかの避難行動が取られていた形跡が確認できない.

4 元町地区

元町地区では,情報が得られた「倒壊」8世帯のうち4世帯で犠牲者が生じており,災害発生時にこれらの世帯に所在していたと推定される9人のうち,生存者はわずか2人であった.元町地区では,「倒壊」3世帯には被災時に住民が所在していなかったことが確認されている.3世帯とも世帯主は用務で家を離れており,家族も親戚宅や都内に所在していた.うち少なくとも1世帯は,台風を懸念して他地区の親戚に避難していた可能性が高い.

被害の大きかった神達,元町地区では,ほとんど積極的な避難行動が取られておらず,「倒壊」世帯に災害発生時に所在した住民の8割が死亡・行方不明となる,大きな被害が生じた.

[引用文献]
牛山素行・横幕早季:発生場所別に見た近年の豪雨災害による犠牲者の特徴,災害情報,,No.11, pp.81-89,2013.


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