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2014年6月12日 (木)

土砂災害時の避難で「前兆現象」に頼ることは危うい

土砂災害からの避難を考える上で,「前兆現象」に頼るのはとても怖い.前兆現象がそもそも発生しない,発生しても気がつかない,気がついても時間的に間に合わない,といった可能性が少なくないからである.「前兆現象」がもてはやされるのは,この「情報」が,「本当に被害が出そうなところだけ避難させたい・したい」という欲求をかなえてくれそうな期待が持たれるからではなかろうか.

はっきり言って,土砂災害発生場所を,時間・場所ともにピンポイントで予測することはきわめて困難である.ただし「起こりうる場所」は地形からかなりわかるので,豪雨時にはそういう場所で特に警戒する,という対応だけでも「市内全域」に比べたら警戒すべき場所をかなり絞り込むことは可能である.

土砂災害が「起こりうる場所」は,土砂災害警戒区域,同特別警戒区域,急傾斜地崩壊危険区域,土石流危険渓流などとして公表されていて,各種ハザードマップにも表示されていることが多い.人が死ぬような現象の発生場所を,時間・場所とも正確に予測して,そこだけ避難勧告,なんてことは現状絶対にできない.だから,現状で使える情報を列挙してこれらを活用してくれないだろうか,というのが内閣府「ガイドライン」の趣旨だと理解している.

避難の呼びかけにしても「避難勧告出す・出さない」の二択でなくて,避難準備情報→避難勧告→避難指示と,少なくとも3段階の情報を活用しようよ,というのも「ガイドライン」の趣旨.避難準備情報は「要援護者とその支援者のためだけの情報」ではないことも強調したいところである.避難の呼びかけに段階をつけることによって,いきなり「市内全域避難勧告」を避けられないかな,と個人的には期待している.

土砂災害の前兆については,国交省がいい調査をしている.土砂災害警戒避難に関わる前兆現象情報検討会(平成17年度) http://goo.gl/ULykJk この調査結果がどこかの学会で報告されたのを聞いた記憶があるが,ふわふわした話をよくぞここまで,と関心したことを覚えている.

この調査では,H16,17年の土砂災害のうち,前兆現象・現象発生時刻を確認できた事例として,土石流52件,がけ崩れ12件が挙げられている.これら事例から,「前兆現象としてどんなものがあるか」はよく整理されている.注意すべきは,この52+12=64件の分母がよくわからない,というところ.H16,17年の土砂災害発生件数が報告書に明示されていないが,1.はじめにの記述から類推すると少なくとも2800件以上となる.調査方法がよくわからないので断言できないが,2年間で2800件以上の土砂災害があって,その中ではっきりした前兆現象をつかむことができたのは64件,とも読み取れる.かなり苦労して探しても,実例は多くない,と読み取るべきものだろう.

土砂災害の前兆現象というものは現に存在するので,「前兆現象を覚知したのに何もしなかった」といったことは避けなければならない.その意味で,前兆現象について周知を図ることは当然必要であろう.一方,「土砂災害には前兆現象があるものだ」という思い込みも避けなければならない.「前兆現象を確認していないので避難は呼びかけない」などといったことになると,話がずれてきている.

個人的には,「怖いくらいの大雨」,「あまり見たことのないくらいの川の増水」でも,十分「土砂災害の前兆現象」だとおもう.「川の増水に気をとられていて土砂災害を注意していなかった」という「よくある話」はその意味でとても悲しい.日本で,山と川がある場所にその地域としては多量の雨が降って,(内水だけじゃなくて河川からあふれるくらいの)洪水だけが発生して山は一切崩れない,なんて状況は,ちょっと想像がつかない.斜面がある場所では河川洪水と土砂災害はほぼセットだと考えて,対応する必要があるだろう.

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