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2014年9月21日 (日)

広島豪雨災害による犠牲者の特徴・序報

広島豪雨時の犠牲者に関する調査を継続している.

近年の風水害では,犠牲者の年代構成が高齢者に偏在しており,今回の広島豪雨災害でも同様.その意味でNHKが報じた「土砂災害犠牲 60代以上半数超」は間違いではない.しかし,「広島豪雨災害ではこれまでの災害と異なり(あるいはこれまで以上に)高齢者の犠牲者の比率が多かった」といったことはない.

私が行っている調査 goo.gl/ofOW8 によれば,2004-2013年の風水害による犠牲者に占める65歳以上の割合は56%.人口構成比では2割強なので,高齢者に犠牲者が偏在していることは間違いではない. pic.twitter.com/vaxWBm48fU

一方,広島豪雨災害では,65歳以上の方の割合は41%.人口構成比と比較する多いが,2004-2013年の犠牲者全体と比べると低い.非高齢者の犠牲者率が高かったことが,広島豪雨災害の犠牲者に関する大きな特徴の一つと考えられる. pic.twitter.com/wB9jhCaB1F

広島豪雨災害時の犠牲者を,2004-2013年の風水害による犠牲者と比較した際に見られる他の特徴を挙げると,

  1. ほぼ全員「土砂」の犠牲者
  2. 遭難場所は「屋内」がほとんど
  3. 能動的犠牲者がほぼいない
  4. 避難行動有りの犠牲者が少ない

などとなる.これら特徴のうち,2),3),4)は2004-2013年の土砂災害犠牲者の一般的な傾向と同様である.ほぼ全員が土砂災害犠牲者であることを考えると,広島豪雨災害による犠牲者の特徴には,あまり特異な傾向は見られないと言っていい.唯一特徴的なのが「非高齢者の犠牲者率が一般的な傾向と比べやや高い」ことである.

これらについて詳しくは,来週23-25日に鹿児島大学において行われる日本自然災害学会 goo.gl/4BG7dZ の25日17:20-緊急に開催予定の「広島県土砂災害緊急調査報告会」にて発表する予定である.

報告で使用したスライド

http://www.disaster-i.net/notes/2014jsnds_sp.pdf

2014年9月15日 (月)

広島市内の死者・行方不明者の発生位置を推定

平成26年8月豪雨に伴う,広島市内の死者・行方不明者の発生位置を推定しました.新聞報道,空中写真,住宅地図などを元に推定したもので,完全に正確というものではなく,今後修正される可能性がかなりあります.この版では,死者・行方不明者74名中,72名まで位置を推定しています.
 
今回の死者・行方不明者のほとんどは自宅で遭難したものと推定されますが,数名は自宅外の屋外等で遭難しており,これらの犠牲者についても,およその遭難位置を推定しています.屋外遭難者の発生位置については,いずれも,数百m程度の誤差があると思われます.
 
作図に当たっては,埼玉大学教育学部谷研究室提供のGeocoding and Mapping http://ktgis.net/gcode/index.php を利用させていただきました.
 
特に八木・緑井地区においては,山地と山麓斜面(沖積錐)の境界部,いわゆる「谷の出口」付近に犠牲者が集中していることがわかります.
 
他の図との重ね合わせは,余裕がなくできません.今後,犠牲者の遭難状況などについての集計を進める予定です.
 
2_2全体図

3八木地区周辺拡大図

2014年9月13日 (土)

広島市検証部会・毎日新聞報道より

9月11日に開催された広島市の「8.20豪雨災害における避難対策等検証部会」について,議事録等は出ていませんが,各メディアで報道されています.毎日新聞の報道が,一番バランスがよいと感じたのですが,ネットでは公開されていないようですので,下記に引用します.

内容についてのコメントは避けておきます.
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広島土砂災害:細密な予測、不活用指摘 「何があったか整理を」--市の初動検証部会 /広島
 
 広島市北部を襲った土砂災害から3週間が経過した11日、広島市役所で初めて開かれた市の初動対応を検証する検証部会(座長=土田孝・広島大大学院教授)。出席者によると、会合では細密な雨量予測など最新のシステムの不活用などを指摘する声が挙がった。一方で、未明時の短時間に降った豪雨による災害だったことから「未然に防げたかどうかは、今後詳しい検証が必要」との意見が出された。
 
 出席メンバーによると、非公開で行われた会合では、気象庁が自治体に提供している最新の雨量予測システムが利用されていなかったと指摘する声があった。一方で、「いろんな情報が増えすぎて活用しきれないという事態も全国に共通する課題だ」「細密な予測を使っていたら防げたかとは一概には言えない」などという意見も寄せられたという。
 
 発生直前の8月19日夜に避難勧告を出す前段階として、避難準備情報にあたる住民への自主避難の呼びかけを評価するメンバーもいた。牛山素行・静岡大教授(災害情報学)は会議終了後、「普段とちょっと違うというメッセージを発信していた。情報を出して市民がどう受け止めるかも課題。何があったかを整理することが大切だ」と語った。
 
 また安佐北区自主防災会連合会の竹原敏章会長(70)は、一部地域の自主防災会のみに市から注意勧告の連絡があったことに疑問を呈したといい、「消防や行政だけに頼るわけにはいかない。地域でも防災担当者を育成し、自分の命は自分で守るという自主防災の意識を高めたい」と話した。
 
(2014年9月12日付毎日新聞より) 

2014年9月 9日 (火)

防災人材育成カリキュラムとハザード教育

9月8日,内閣府主催の「防災スペシャリスト養成研修」 http://goo.gl/iyU4aK で「風水害メカニズム」という講義を行いました.牛山が風水害メカニズムを教えられるのか,というご批判はありそうですが・・・
 
ハザード関係(地震,気象などのメカニズム)が専門の方が防災スペシャリスト養成研修 http://goo.gl/iyU4aK のカリキュラムを見ると,違和感があるかもしれません.ハザード(自然科学的な話)がほとんどないじゃないか,という.
 
しかし,この研修のカリキュラムを考える過程の,内閣府「防災スペシャリスト養成研修」企画検討会 http://goo.gl/9X0V1v でもいろいろな議論があって,今後カリキュラムが見直されても,たぶんハザードの話は減ることはあっても,増えることはないと思います.防災の実務的な研修の場において,限られた時間内でどの話題を取り上げるかとなると,自然科学的な話の重要度は必ずしも高くない,ということになることは否定できません.
 
無論,ハザードがまるきり軽視されているわけではなく,ハザード(自然科学的な話)については,e-ラーニングで代替しやすいのでは,という見方もあります.受講者を集めての講義の時間はどうしても限られるわけで,代替手段があるのならば,まあ,やむを得ないかなと思っています.
 
講義内容などについていろいろ意見は分かれるかもしれませんが,「防災スペシャリスト養成研修」という形で,国自身が自治体等の防災実務者をトレーニングする機会を構築したことはとても意義があると思っています.
 
静岡大学で行っている防災フェロー養成講座 http://goo.gl/bGJ6e も,防災実務者を主対象としています.この講座では,ハザード寄りの話の方がどちらかというと多くなっています.防災フェロー養成講座で,自然科学的な話が多いことは,受講生には必ずしも不評ではないのですが,こうしたプロジェクトを評価する側の,防災を専門としない方々からは著しく評判が悪いのが実情です.「防災人材育成は理系の座学なんかやっていないでもっと実践的なことをやるべし」などといったご批判をいただきます.防災フェロー養成講座では,地学の野外巡検とか,地震計を使っての計測実習とか,社会調査演習とか,地域調査演習とかをやっているのですが,そういうのはみんな「非実践的な座学」のように受け止められてしまうようです.
 
防災教育(人材育成)に,ハザード・自然科学の話はほんのちょっとでいい,という考え方の正否は何とも言えませんが,「社会」に近い側の考え方はどちらかと言えばそれに近いらしい,というのが現実なのかな,と思います.「防災のためには国民全員が自然科学的基礎を養うべきだ」などとどなっても,社会は受け入れてはくれないでしょう.どうしたらよいのか,いろいろな試行錯誤が必要だと思います.
 
内閣府「防災スペシャリスト養成研修」も,けっしてこの研修カリキュラムだけに統合されていくべしという話になっているわけではありません.研修主体などによってそれぞれ特色を持った研修があることは悪い話ではありません.いろいろな機会を用意することが重要だと思います.
 

2014年9月 6日 (土)

奈良県の土砂災害危険個所を参照する方法

奈良県で講演するに当たって参考にするために,奈良県の土砂災害危険個所を参照しようとしたのだが,これがなかなか手ごわい.以下,見えるようにするまでの顛末をメモしておく.
 
まず,国交省の「各都道府県が公開している土砂災害危険箇所と土砂災害警戒区域」 http://goo.gl/4T6B0 から奈良県の位置をクリックすると http://www1.nara-saboinfo.jp/ だが,Chromeでは一瞬で奈良県トップに連れて行かれてしまう.
 
まあこういうときはIEで見るのが吉なのでIEで接続すると,奈良県トップページに連れて行かれることはなくなり,現在の土砂災害危険度情報や雨量や,土砂災害危険個所図を重ねてみることができるらしきページが表示される.しかし,あくまでも「らしきページ」で,文字や画像やボックスがガチャガチャ重なり合っていて操作ができない.危険個所を表示するらしき「レイヤ選択」というところを操作しても何も変化しない.
 
これは相当な手ごわさだ,と困惑したが,親切な方が教えてくれた.このページは古いIEにしか対応していないとのこと.解決策は,メニューバー「ツール」から「互換表示設定」を選択→「追加するWebサイト」に http://www1.nara-saboinfo.jp/ と入力.以上.すると,おおっ,正常に表示された!
 
こういう現象を見て,「行政は情報を公開する気がない」と憤られる向きもあると思うけど,お金や技術や人手を動かしにくい世界(それは社会がそれを望んだ結果ですしね)ではこういうことはどうしても起こりうる.問題は分かっていても手が出ない,ということも.
 
でもやっぱり,「使えるものは一昔前に比べればずっと増えた」ことは間違いない.あるものは最大限使っていきたい,との気持ちを新たにした.
 

2014年9月 5日 (金)

NHK名古屋「豪雨・台風からどう身を守るか」 出演感想

NHK名古屋局制作・東海北陸スペシャル「豪雨・台風からどう身を守るか」 http://goo.gl/McP0XP に出演.私の話は別として,ビデオ紹介された本巣市などの事例がなかなか面白く,東海以外の地域で流れないのがもったいない感じだった.なかなか興味深い番組だったので出演の感想をメモ.
 
本巣市の台風12号接近時の対応事例は,早期に市内に広く避難準備情報を出し,その後,確実に孤立化しそうにな地区が出た時点で地域を絞った早めの避難指示.勧告等の基準に固執せず(ここが特にいい),いろいろな情勢を基に決断し,避難指示を受けた住民もスムースに周囲に伝えていた.
 
福井市蔵作の2004年福井豪雨時の対応事例は,住民が異様な豪雨に早く気が付き,近くの川の様子を確認(ここは見方によっては少し危ういが),川が尋常でないことをトリガーに,自主的に避難を呼びかけた.この事例は,「におい」とかの「前兆ならぬ発生情報」でなく,豪雨と川の増水という「単純明快な前兆」をつかんだところに感服.川が尋常でない程度に増水している時は土砂災害だって起こるものと考えていい.
 
蔵作の場合は,2004年からさらに5年ほど前の豪雨災害の記憶が生きたらしい.直近の経験をもとに,素因を理解していたと解釈できる.経験だけには頼れないが,経緯はともかく素因を知り,怖れを持っていたことは大変重要.
 
そもそも2004年当時だと,洪水も土砂も,ハザードマップは今ほどは作成されていなかった.今なら素因の理解にハザードマップ「も」使える.この十数年で「できることはすごく多くなった」ことを改めて実感.「今までのやり方が通用しない」どころではない.我々の社会が「通用させていない」だけではないか.
 
そうそう,本巣も,福井も,「快晴の屋外でヘルメットをかぶった防災に熱心なリーダーの方」が登場したりせず,ごく普通の方が淡々と語っていたことが特に好感を持った.

2014年9月 3日 (水)

市区町村の防災に関するアンケート 緊急集計速報

静岡大学防災総合センター牛山研究室が実施した,「市区町村の防災に関するアンケート 緊急集計速報」を, http://goo.gl/E6Az2 中のPDF http://goo.gl/dmYeDJ に公開しました.

 
このアンケート調査は,今年5月に全国市区町村の防災担当者を対象に実施し,7月に回答を締め切って解析を進めていたものですが,平成26年8月豪雨の発生を踏まえ,土砂災害警戒区域や避難勧告など,本災害と関係の深い一部の設問についてのみ,緊急に集計・公表することとしました. 主な結果は以下の通りです.
  • 土砂災害警戒区域等の情報が有効活用されていない面がある
    • 警戒区域指定が完了してないところが半数
    • 地形的には考えにくい「イエローのみ」が20%も.情報としての質の低下
    • 避難勧告等の対象世帯を決める際,土砂災害警戒区域等の考慮を具体的に計画していないところが45%
    • 避難場所の指定に土砂災害警戒区域等を考慮していないところが28%
  • 近年推奨されている防災対応に前向きな回答が全体では多数派
    • 避難勧告時に土砂災害警戒区域等を考慮53%
    • 避難場所指定に土砂災害警戒区域等を考慮72%
    • 避難勧告等は「空振り」に終わってもよいから積極的に出す85%
    • 夜間であっても避難勧告等・避難指示を出した方がよい91%
    • 避難所開設完了してなくても,避難勧告等を出した方がよい74%
  • 小規模自治体が厳しい状況に置かれている
    • 多くの防災対応で,小規模自治体ほど消極的な傾向
    • 防災担当の専任職員は「0人」が30%,1人以下が45%.「村」では「0人」が67%.「町」でも半数近く(45%)が「0人」
    • 専任職員が,体系的防災研修に全く参加していないところが26%.「町」や「村」では4割以上
なお,報道発表後に見直したところ,集計結果中の「体系的防災研修への参加種類数」は,報道発表版では,防災専任職員0人の自治体からの回答も含めていたことがわかりました.公開版ではこの図を差し替えています.この結果,報道では「専任の職員がいても防災関係の研修に参加していないところも29%」となっていますが,公開版では26%となっています.これは私の方の不手際です.論旨に影響を与えるほどの差ではないですが,念のため.
 
なお,この調査は,「市町村は情報をろくに活用せずけしからん」という趣旨で公表したものでなく,人数など極めて厳しい環境下で防災業務に当たっている市区町村の実情を,具体的なデータを元に多くの人に知ってもらいたいという意図で公開したものです.
 
研究者によるこうした調査結果は,本来少なくとも学会発表,できれば査読論文を通して公表されるべきもの,とは思いますが,防災のような社会と密接に関わる問題では,いろいろな意味で「時期」もあります.スマートなやり方ではないですが,報道公開という形で公表しました.
 

2014年9月 1日 (月)

【気象情報アーカイブ】8/20 01:49 大雨と落雷に関する広島県気象情報 第2号

大雨と落雷に関する広島県気象情報 第2号
平成26年 8月20日01時49分 広島地方気象台発表
(見出し)
広島県では、雷を伴った非常に激しい雨が降っています。20日明け方まで、土砂災害、浸水害、河川の増水やはん濫に警戒してください。
(本文)
 広島・呉、芸北では、土砂災害警戒情報を発表している市町があります。土砂災害に厳重に警戒してください。
 
 広島県では、日本海に停滞する前線に向かって、南から暖かく湿った空気が流れ込み、大気の状態が非常に不安定となっています。このため、広島県では、広島・呉や芸北を中心に雷を伴った非常に激しい雨が降っています。
 20日明け方まで、土砂災害や浸水害、河川の増水やはん濫に警戒してください。 
<雨の予想>
20日に予想される1時間降水量は、多い所で
南部、北部ともに70ミリ 
20日00時から21日00時までの24時間降水量は、多い所で
南部、北部ともに120ミリ
 
<防災事項>
 土砂災害、浸水害、河川の増水やはん濫、落雷、突風
 今後、気象台の発表する警報や注意報、気象情報などに留意してください。
 次の「大雨と落雷に関する広島県気象情報」は、20日05時30分頃発表の予定です。

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