平成27年9月関東・東北豪雨に伴う犠牲者の発見場所現地踏査
洪水4人のうち,鬼怒川関係の犠牲者は2人.常総市三坂の鬼怒川破堤に直接起因すると推測される犠牲者は1人,破堤現場近傍の家屋で,家屋自体は損壊したが流失はしていない.鬼怒川関係のもう1人は,三坂より上流側の越流氾濫による可能性の方が高そうな人が1人.あとの2人はそれぞれ別の小河川の氾濫(栃木県栃木市,茨城県境町)によるものと推測される.
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洪水4人のうち,鬼怒川関係の犠牲者は2人.常総市三坂の鬼怒川破堤に直接起因すると推測される犠牲者は1人,破堤現場近傍の家屋で,家屋自体は損壊したが流失はしていない.鬼怒川関係のもう1人は,三坂より上流側の越流氾濫による可能性の方が高そうな人が1人.あとの2人はそれぞれ別の小河川の氾濫(栃木県栃木市,茨城県境町)によるものと推測される.
以下,9月21日までに収集した資料に基づく,平成27年9月関東・東北豪雨に伴う犠牲者の特徴を述べる.ただし,本事例の犠牲者総数が8人であるので,過去の事例と比較した傾向についてあまり明確なことは言えない.あくまでも参考のためのメモである.
各種資料をもとに,平成27年9月関東・東北豪雨にともなう死者8人の発生位置を町丁目程度で推定.栃木,茨城ではやや広い範囲に分布し,宮城では特定箇所付近に限定されている. pic.twitter.com/bVLks10I2p
当方での分類法 goo.gl/ofOW8 にもとづき,原因外力別に犠牲者を分類すると,洪水6人,河川1人,土砂1人.2004-2014年の犠牲者全体では土砂49%,洪水18%,河川19%なので,洪水犠牲者の比率がやや多かった可能性がある.
なお,洪水犠牲者6人以上の事例は,2004-2014年の間に4事例,ただし他は各12,30,22,26人で,本事例とは値にかなり差もあり,本事例の洪水犠牲者が格別に多いとまでは言えない.
犠牲者の年代を見ると,65歳以上2人,65歳未満6人で,非高齢者の方が多い.2004-2014年の犠牲者全体では65歳以上が54%を占めるので,一般的な傾向とやや異なる可能性がある.
犠牲者遭難場所は屋外7人,屋内1人.2004-2014年犠牲者全体では屋外48%,屋内51%なので,屋外犠牲者がやや多かった可能性がある.なお,2004-2014年犠牲者全体では洪水・河川の犠牲者では屋外が多数なので,今回の事例では洪水犠牲者の多い事を考えると,これは特異な傾向とは言えない.
なんらかの避難行動をとったと思われる犠牲者は確認できなかった.2004-2014年の犠牲者全体では避難行動をとっていたものが9%なので,本事例で避難行動をとっていた犠牲者が確認できなかったことは特異な傾向とは言えない.
犠牲者の遭難時間帯は,夜間(18-06時)2人,昼間(06-18時)5人,不明1人.2004-2014年の犠牲者全体では夜間50%,昼間44%,不明6%なので,昼間の犠牲者がやや多かった可能性がある.
9月18日消防庁資料による,台風18号による大雨等による県別死者・行方不明者数.宮城,茨城,栃木で死者計8人(不明者は0)が生じた.死者・行方不明者8人以上の風水害は2005-2014の10年間のうち8年で生じている. pic.twitter.com/XFSCUPvExL
9月18日消防庁資料による,台風18号による大雨等による県別の全壊・半壊・一部破損・床上浸水家屋数の合計.これらの合計としているのは,一般的に,床上浸水から全壊・半壊に事後判定替えされるケースがかなりあるため. pic.twitter.com/RksKXbsbRc
9月18日消防庁による全壊・半壊・一部破損・床上浸水家屋数の全国合計は7277棟.2005-2014年でこれらが7300棟以上の事例は,2005年台風14号(15078棟),2006年台風13号(12083棟,ほとんどは暴風による一部破損),2011年台風12号(9508棟).台風18号による大雨等による全国の家屋の被害規模は,最近10年間と比較すると,数年に1回程度発生する規模と言えそうである.
9月18日消防庁による全壊・半壊・一部破損・床上浸水家屋数,この合計値が比較的多かった宮城県の市町村別数.宮城県ではこれら合計値が1000棟以上の市町村はなく,大崎市(205棟),大和町(122棟)などの値が多い. pic.twitter.com/uWkS6cN20V
9月18日消防庁による全壊・半壊・一部破損・床上浸水家屋数,栃木県,茨城県.常総市(4400棟)が飛び抜けて多い.他は小山市(932棟),栃木市(396棟),鹿沼市(328棟),境町(213棟)が100棟以上. pic.twitter.com/KMCR3KIDvv
2005年以降で全壊・半壊・一部破損・床上浸水家屋数が多かった2005年台風14号,2006年台風13号,2011年台風12号のなかで,1市町村で今回の常総市の4400棟を超える事例は確認できない.ただ,今回の値はまだ変動(減少または増加)する可能性があるので,これ以上は言及しない.
ただし,全壊・半壊・一部破損・床上浸水家屋数4400棟というのがこれまでに起こったこともない規模ということでは全くない.たとえば手元の資料では概数だが2004年台風23号の豊岡市約5000棟(兵庫県資料),2004年台風16号の高松市約6000棟(国土交通省資料)など.
2000年東海豪雨時の名古屋市だけの値がすぐ出てこないけど,消防庁資料によれば愛知県全体では全壊・半壊・一部破損・床上浸水家屋数の合計が26770棟.9/18現在の茨城県の値の5倍以上.
常総市で「15人」と発表され続けた行方不明者数が一気に0人となったことは,まずはよかった.災害直後に発表される死者数や行方不明者数がかなり変化すること自体は当方の調査 http://goo.gl/ADB9mn からもわかるように一般的なことであり,このことを批判することは適切だとは思わない.
行方不明者の氏名を公表するか否かについては,様々な議論があり,これについて9/15付毎日が詳しく報じている→ <行方不明者>揺れる名前公表…個人情報保護か人命優先か goo.gl/WHztPd
行方不明者の氏名を公表することにより「その人はここにいます」という情報が得られることは確かに期待できる.しかし「行方不明者と発表されたから,ほぼ絶望的だろう」と,周囲に受け止められてしまうことも否定できないだろう.
「行方不明者はあくまでも死亡が確認されたわけではない,死者として扱ってほしくない」という声は強くあり,私もその声には共感する.公表は嫌だという人がいるのであれば,一般への公表をすべきとは思わない.
行方不明者の氏名等の情報は,公的機関間では共有してほしいと思う.今回それが十分行われていたかどうかはわからないが,少なくとも「行方不明者の氏名が公表されなかった」ということだけを持って,批判することは適切ではないと思う.
一方,9/15付毎日は,茨城県が14日午後に行方不明者の消息をほぼ確認していながら,15日午前の会議まで公表も,関係機関への伝達も行わなかったと報じている.→<関東・東北豪雨>常総最後の不明…実は虚偽通報で実在せず goo.gl/XQakBh
私は,詳しい情報もない段階から,災害時の行政対応を批判することは,厳に謹んでいる.そんなことをしても問題の解決につながらないと考えるためだ.しかし,9/15付毎日が言うように,茨城県が行方不明者の消息把握という情報を「緊急性がない」と判断して,関係機関にすら伝達を一日延ばしにしたのが報じられている通りの事実なんだとすれば,いくらなんでもあまりな対応ではないかと思う.
災害時の人的被害という情報は,メディア(おそらく「社会」も)等の関心は極めて高い.各種の公的制度の適用にも人的被害規模は関係してくるし,後世その災害が語られるときに真っ先に挙げられるのも人的被害の数字である.それだけ「重い情報」なんだと思う.
行方不明者がいると発表されている以上は関係機関や関係者は捜索を続けるのが一般的であり,その数などの情報は,その捜索態勢にも大きな影響を与えるだろう.さまざまな人を動かす基幹となる情報だとも思う.それを「あとからでもいい」とはなんとも.
あれこれ理屈を書いたけど,率直に言えば,「みんな無事だとわかったのなら,なんで少しでも早く知らせてくれなかったんだい」という個人的な感情である.
なお,この件について特定の職員個人を攻めることは適切でないと思う.自治体で防災行政を担当する職員は,災害について体系的な教育等を受けた人が担当しているわけではいことがふつうである.本件担当者が具体的にどのようなバックグラウンドの人たちだったかは不明だが,こうした「全くの素人が防災業務を担当することが多い」という構造自体をどうにかしていくことは重要ではないかと思う.
常総市の行方不明者が減ったことから,9/15付消防庁資料によれば今回の災害による死者・行方不明者数は7人となった.これは毎年数回程度発生している災害の人的被害規模といっていい.一方床上浸水は7093棟と,現時点の数字でもだいぶ大きい.
今回は浸水被害の割に人的被害が少ないようにも思えるが,洪水が中心の事例ではこうした例はみられる.たとえば国直轄河川ではないが市街地での破堤氾濫が発生した2000年東海豪雨時の愛知県では床上浸水が26531棟(消防庁資料)に上ったが,死者は7人だった.
まだ数字は動く可能性があるが,引き続き本災害による人的被害の状況について,当方では注視したいと考えている.
今回の災害で最大の個人的関心事は,行方不明の方がどこでどのように生じてしまったのか.特に常総市で,発災から丸5日近く,ほぼ「行方不明」しか伝わってこなかったことはやや深刻な事態であると考えていた.結果的に「15人」と発表され続けた行方不明者は全員の無事が確認され,これは喜ばしい結果となった.このことの是非は別途考えるとして,ここではまず近年の日本の災害時における,発災後に発表される死者・行方不明者数の増減傾向について簡単にまとめておく.
近年の日本においては,公的に発表される自然災害の死者・行方不明者数の合計は,発災直後は次第に増加し,ある時点でピークを迎えてその後は減少し(関連死は別),やがて確定値に至ることが一般的である.そのピークまでの期間は近年の風水害では2,3日程度が多い.
東日本大震災は近年の災害としては特殊で,発表される死者(直接死)・行方不明者数のピークは発災から約1か月後だった. goo.gl/W1fZB1 2015年9月現在は,このピーク時から1万人前後減少している.死者数は次第に増えていくが,それ以上に行方不明者数が減少しているのである.
当方では風水害時の人的被害について調査を進めているが goo.gl/ofOW8 今回のような洪水災害では,土砂災害などと比べて行方不明となった方の消息判明が遅れるといった傾向があるかどうかは調べていない.ただ,これまでの調査から,明らかにそういう傾向があるという感触があるわけでもない.
今回の災害では,発災数日後に死亡が確認された人で,公的機関が行方不明者と把握していなかった人もいたことが報じられている(9月13日時事通信など).当方の調査では,1人暮らしの方などが行方不明になったと判明しないことがあること goo.gl/TC46NG を確認しており,事例としてないわけではないが,多くはない.
2015/9/13の現地踏査写真から.常総市三坂町の破堤地点から南南西約0.5km.浸水痕跡は0.1m程度で,泥水が流れた痕跡はあるが,何らかの構造物の損壊などは見られない. pic.twitter.com/zkhYWLtOhb
常総市三坂町の破堤地点から南約0.2km.0.5m前後の砂の堆積がみられ,フェンスやブロック塀が一部損壊しているが,建物自体は大きな損壊は見られない. pic.twitter.com/CamfD0xsRR
常総市三坂町の破堤地点から南約0.2kmより近いところでは,建物の基礎の流失が一部みられる.写真奥の建物の手前にあった住家は流失している. pic.twitter.com/XatfGKxaKn
常総市三坂町の破堤地点付近.おおきな落堀が形成されている.この撮影範囲内に2世帯分の住家があったが,流失している. pic.twitter.com/45FSTwT8cl
常総市三坂町の破堤地点の北方.中央の家屋は基礎付近の地盤がかなり流失しているが,何とか変形にとどまっている. pic.twitter.com/GWb00piRqO
常総市三坂町の破堤地点の東方.この範囲内に5世帯分の住家があり,すべて流失している.白い建物以外の家屋は,他の場所から流れたもの. pic.twitter.com/XMRWYBYGqs
常総市三坂町上三坂地区では,世帯数にして9世帯程度の住家が流失したと思われる.明瞭に変形している住家が3世帯程度.これらより破堤地点から遠方には住家が少ないこともあり,流失家屋ははっきりとは確認できなかった.
なお,常総市三坂町上三坂地区の破堤地点付近で,当日いた人数人に話を聞いた範囲内では,この付近で,破堤前の時点で,道路を激しく水が流れるなどして,身動きが取れないような状況は見られなかった,ということだった.
また,上三坂地区で流失した世帯や,流失はしなかったものの床上浸水程度の被害を受けた世帯内で,破堤前の時点で地区外への避難行動をとっていた世帯もあったことが,聞き取りから示唆された.
「なぜ避難しない人が多いのか」と問われるが,明快な解は難しい.避難等についてどのように考えられているか,については当方でも少し調べている.
「大雨特別警報に対する洪水浸水想定区域付近の住民の認識」 goo.gl/rMv2BJ
この調査 goo.gl/rMv2BJ では洪水の浸水想定区域住民のみ対象だが,居住地が浸水災害の危険性があると考える人は2,3割で,危険性があると考える人でも大雨特別警報が出たときに自家用車移動といった対応を取ると思う人は6割程度などの結果が得られている.
まず,地域の災害特性があまりよく知られていないことがわかるが,自分の住む地域の危険性を理解している人でも,積極的な対応行動をとるのはなかなか難しいことも示唆される.
9/7~9のAMeDAS鹿沼の降水量推移.9日になって次第に雨脚が強まっている.最大1時間降水量は9日24時現在で49.0mmとそれほど大きな値でないが,あくまでも今のところ. pic.twitter.com/tDGzwsjaSZ
9/7~9のAMeDAS鹿沼の降水量の過去の記録との比較.4時間~72時間降水量が1976年以降最大となっているが,1~3時間降水量は過去の記録に及んでいないのが,今のところの特徴.でもこれは十分怖い降り方と思う. pic.twitter.com/oLAliMqHHa
鬼怒川の破堤箇所の近傍AMeDASは茨城県下妻でよいかな.降水量推移をみると,72時間降水量は200mmそこそこ,1時間降水量も48が1回あるけど他は20mm以下であまり強くない.過去の記録と比べても特に大きな値ではない. pic.twitter.com/z2VnxjaQAy
破堤箇所付近の雨だけを見ていれば,それほどすごい雨が降ったというイメージは持たれなかったかもしれない.
9/6~10のアメダスデータによる3時間降水量と48時間降水量のそれぞれ最大値の分布.×が1976年以降最大値を更新した地点(暫定図).48の方が更新地点が広がっている.当たり前だが,値の大きいところで更新というわけではない. pic.twitter.com/0SW42AHAJ2
鬼怒川破堤関連情報の時系列をメモ.
2015年9月1日長崎県対馬での海難事故時前後の気象情報をメモしておきます.