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2016年5月13日 (金)

自力避難困難者の支援-助ける側の安全 第一

だいぶ時間が経ってしまいましたが,4月13日付け静岡新聞「時評」欄に掲載された筆者の寄稿記事です.「避難を支援する=助けに行く」ととらえる事には強い違和感を覚えます.何よりも重要なのは「支援する人」も含めた各自の安全確保だと思います.

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時評=自力避難困難者の支援-助ける側の安全 第一
 
 災害時の「避難」を考える上で,自力避難が難しい人の支援は大きな課題となっている.近年の災害対策基本法改正で,高齢者,障害者,乳幼児など「自ら避難することが困難な者であってその円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要するもの」は「避難行動要支援者」と呼ばれ,行政機関による名簿作成が行われることになった.要支援者支援が必要なことは言うまでもないが,「避難を支援する=助けに行く」ととらえる事には,筆者は強い違和感を覚える.
 
 たとえば,地震災害は地震発生の瞬間に最も危険性が高まるタイプであり,「支援」は,状況が少し落ち着いてから要支援者の安否を確認に行く,といったスタイルが想定される.危険がある程度去った事後の活動が中心である.
 
 一方,風水害や津波災害など危険性が次第に高まっていくタイプの災害では,事前の活動の余地がある.しかし,危険性が高まる前に「助けに行く」活動を完了することはかなり難しい.
 
 「AさんがBさんを支援する」といった計画自体はよいが,これを「AさんがBさんを必ず助けに行く」ことととらえてしまうと,助かることが可能だったAさんまでが犠牲になってしまうことにもつながりかねない.
 
 「要支援者を見捨てるのか」「最後の1人まで見逃すな」といったご意見もあろう.しかし我々は東日本大震災で,消防団員254人,民生委員56人,警察官50人が死亡(消防庁資料など)したという,悲しく厳しい現実を見てしまった.すべてが「要支援者を助けるための犠牲者」とは言えないが,「支援する人」が多数亡くなったことは重く受け止めなければならない.
 
 まず何よりも重要なのは「支援する人」も含めた各自の安全確保である.2006年に全国社会福祉協議会が刊行した「民生委員・児童委員発 災害時一人も見逃さない運動実践の手引」にも「危険な状態の中で要援護者の救援を委員自らが行なうということではありません」とある.災害対策基本法でも「災害応急対策に従事する者の安全の確保に十分に配慮して、災害応急対策を実施しなければならない」とある.
 
 「命をかけて助けに行くことが基本」であってはならない.また,安全確保策は極力制度化しておく必要がある.「支援する人は各自の判断で退避」では「自分の判断で見捨ててしまった」と悔いを残すことになりかねない.簡単なことではないが,理想(形式)に陥らず,現実的な対策の検討が重要だろう.
 

2016年5月 2日 (月)

平成28年熊本地震に伴う死者・行方不明者について・5/2現在メモ

5月1日までに得られた報道記事,各種地理情報等などを元に熊本地震の死者・行方不明者について整理中.公表されている直接死者数は49人,行方不明者1人.全員の遭難位置を町丁目程度まで確認,内8割はより詳細に確認.4/21時点でも集計したが,以下その後得た情報をもとに再集計した.

推定原因別に集計.8割が「倒壊」(構造物倒壊,部材落下,家具転倒など).中越は「その他(ショック死など)」を関連死と見なすかで構成比が変わる.岩手宮城だけが別で,中越,中越沖,熊本とも,比率的には倒壊が主を占める傾向は同様か. pic.twitter.com/yzYnBFcBdu

熊本地震の死者・行方不明者を遭難場所別にみると,屋内が9割以上.中越,中越沖も屋内は8割前後で,概ね同傾向.岩手宮城が別であるのも原因別構成比と同様. pic.twitter.com/2Akb9S2yxX

犠牲者の年代構成については4/21の集計 goo.gl/NzPywi と変わらない.

発生位置を原因現象別に分布図で.埼玉大学谷謙二研究室公開の「Google Maps APIv3を使ったジオコーディングと地図化」 http://goo.gl/2DW854 により作成.背景は国土地理院の色別標高図.

倒壊は広い範囲,土砂は南阿蘇の山間部のみ.益城町付近では台地と低地の境界付近に被害が集中のようにも見えるが,この付近では低地にほとんど家屋がなく,地形との関係かどうかは不明瞭. pic.twitter.com/l1JQa0Dqfx

2016年5月 1日 (日)

平成28年熊本地震に伴う土砂災害関係死者・行方不明者について・5/1現在メモ

 熊本地震において,土砂災害で亡くなった方は9人.場所は大別するといずれも南阿蘇村内の立野地区(2人),河陽地区の高野台団地(5人),長野地区の宿泊施設(2人)の3箇所となる.また,南阿蘇村の阿蘇大橋付近で斜面崩壊に巻き込まれたとみられる人が1人おり,5月1日現在行方不明のままである.

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 立野地区の被災現場は古くからの集落で,被災世帯は少なくとも1967年の空中写真で現在位置にほぼ同じ形状の建物が確認できる.土石流危険渓流の範囲内ではないが数十m程度の位置で範囲近傍にあり,土砂災害警戒区域内に位置する.図は熊本県土砂災害情報マップより.図中「431-1-001-5」の文字の付近(あえて詳述しません)が被災世帯の場所で,イエローゾーンの範囲内.

 
 高野台団地の被災世帯は,空中写真からは1997~2003年の間に建設されたと推定される.土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域の指定範囲ではない.長野地区の被災した宿泊施設は,空中写真からは2003~2004年の間に建設されたと推定される.この場所も土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域の指定範囲ではない.
 
 4月30日付け毎日新聞によると,「熊本県によると、高野台団地と火の鳥温泉周辺の斜面は傾斜が30度未満で、過去に地滑りが起きた形跡がなく、土石流を起こしやすい地形でもないことから、警戒区域の指定を見送っていた」とのことで,土砂災害警戒区域の指定対象外の場所だったようである.
 
 土砂災害警戒区域等は有効な情報ではあるけど,その対象とならない場所でも土砂災害が起こることは,他の災害同様,当然あり得ることで,「見逃し」を少なくするための技術開発がさらに必要なことは当然のことである.しかし,立野地区の被災世帯に見るように,地震起因の土砂災害であっても,全く予想もつかないようなところで発生するケースばかりではない.既存の土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域といった情報は,地震による土砂災害の発生箇所を警戒する上でも有効だと思われる.

 豪雨災害についての調査ではあるけど,私の調査では土砂災害の犠牲者の9割前後は,土砂災害危険箇所の範囲内もしくはその近傍で発生している. http://goo.gl/Y3yLbJ 範囲外の場所での被害も生じることは当然あり得るが,大局的には有効な情報として活用すべきと思う.なおこの調査で土砂災害危険箇所「範囲外」と判別された犠牲者が比較的多かった事例の一つが,2012年九州北部豪雨の阿蘇市である.豪雨起因の土砂災害も含め,火山地帯の土砂災害警戒区域等指定にはさらに工夫が必要かもしれない.ただし,技術的な方法論については,専門外なので詳述できない.
 
 また,阿蘇大橋付近の斜面崩壊のように,住家等がない場所では地形的に土砂災害の可能性があっても土砂災害警戒区域等の指定対象となりにくいことも注意が必要.土砂災害警戒区域等ではないから,山間部であっても安全な場所という訳ではない.ハザードマップを見るだけではなく,土砂災害関係部署から情報を得て考えていくことが重要だろう.

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