「平成29年7月九州北部豪雨」現地調査速報会(東京・日本気象協会)
- 日時:平成29年8月7日(月) 13:00~15:00 (開場12:30)
- 場所:一般財団法人日本気象協会 第1・2会議室(東京都豊島区東池袋3-1-1 サンシャイン60・55階)
- 定員:先着50名程度
- 参加費:無料
- 気象メカニズムの解説、現地調査結果の報告(仮) (日本気象協会 30分程度)
- 平成29年7月九州北部豪雨による人的被害発生状況・発生場所の特徴(静岡大学防災総合センター牛山素行教授 60分程度)
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福岡県東峰村宝珠山.位置図→ https://goo.gl/UiKihx 2017年7月15日踏査.日田彦山線筑前岩屋駅のすぐ北(というより場内)の土砂災害現場.土石流と言っていいだろう.谷の上流方で少なくとも2世帯分が基礎もろとも流失,写真手前左側の合流部対岸側で1世帯が基礎のみ残して流失.こうした典型的な土石流災害現場も少なくない.
朝倉市杷木星丸地区.位置図→ https://goo.gl/NsWvjV 2017年7月16日踏査.山地河川洪水により,この写真の範囲周辺だけで住家が少なくとも14世帯分流失.洪水によるこれだけの住家流失は珍しく,例えば平野部での堤防決壊に伴う洪水ではあるが,2015年常総市のケースでは全部で9世帯.山地河川洪水で集中的な被害が生じた2016年台風10号による岩手県岩泉町安家地区では11世帯.両事例とも,他には集中的な流失地区は見られなかったが,2017年7月九州北部豪雨では,こうした集中的な流失が1地区ではないことが特徴.
7月8日午後,福岡県朝倉市内の豪雨災害被災地を現地踏査.移動区間は朝倉市比良松付近から同市杷木林田付近までの国道386号線沿い及び周辺の山麓部.以下,現地を見ての雑感.短時間での印象なので不正確な点もありうる.
なお,主な写真と撮影位置図などは2017年7月8日福岡県朝倉市付近現地踏査写真に整理してある.
テレビ報道でもよく流れていた比良松中学校の建物の被害.治水地形分類図で見ると校舎敷地は台地上.河道の側岸浸食により建物の基礎地盤部分が流失した模様. pic.twitter.com/3RRU4J9aLo
比良松中学校付近では,橋の取り付け道路部が流失した被害も見られた.橋も損壊しているが,道路部分は完全に流失.橋が残っているために,誤って車が転落するなどの被害に繋がりやすい形態.2016年北海道の豪雨では3箇所で3人が同形態で死亡している. pic.twitter.com/qSN3RdJxHS
筑後川右岸側では,各支流から大量の洪水流が流れ込み,低地部全体を流下したような印象.水だけでなく,多量の土砂が運ばれて堆積している.低地部に堆積している土砂の粒径は細かく,レキと言えるようなものはほとんど見られない(当たり前だけど).
朝倉市山田地区.洪水流により家屋が流失し,人的被害が生じた付近.氾濫平野部分全体を洪水流が流れている.上流でため池が決壊したが,その下流にもう一つため池がありそれは決壊していない. pic.twitter.com/uP5XT8HeUp
山田地区の家屋流失とため池決壊の関係はよくわからないが,豪雨によるため池決壊自体は珍しいことではない.写真は2013年7月の豪雨による山口県萩市須佐でのため池決壊事例. pic.twitter.com/ACbGZamD0a
ただし,豪雨時のため池決壊近傍での家屋流失による人的被害事例は少なく,2004年以降では2004年10月台風23号豪雨時の,兵庫県洲本市上内膳での1箇所2人があるくらいか. pic.twitter.com/38rO6xPO90
朝倉市山田地区のため池決壊現場.並んで大小2つのため池があり,いずれも決壊している模様.goo.gl/nizkSN なお,この地点の下流側に別のため池があり,これは決壊していない.
朝倉市杷木林田付近では,河道の位置が大きく変わり,水田だった部分が河道に.これ自体は珍しくはないが,河道だった部分に地盤高(河床ではない)+1~2mの土砂が堆積し完全に埋め尽くされていたのがあまり見ない光景だった. goo.gl/UEMqzP pic.twitter.com/gFbmk52axw
杷木林田の河道位置が変わりはじめた地点 goo.gl/smdusM これまでの河道や道路の部分にうずたかく土砂が堆積し,今まさに自然堤防を形成する河川の活動が生じたのだ,と感じさせられた.もっともこれは,防災上はどうでもよい話とは思うが.私は『地学的知識』をみんなが持つことが,防災(被害軽減)に直結する一丁目1番地だとは思っていないので. pic.twitter.com/DRgBI3xIES
河道位置が変わった朝倉市杷木林田付近で家屋流失したらしい箇所 goo.gl/smEVvP 家屋周辺に土砂は1-2mほど堆積しているが堆積しただけでは家屋倒壊となりにくい(継続使用は困難かもしれないが).家屋流失は新たな河道となった箇所に限られそう. pic.twitter.com/Mt7D8f6Fny
見た範囲では氾濫平野部が浸水し,台地上は洪水の影響をほとんど受けていない.ただし治水地形分類図で扇状地と描かれている部分も浸水しているケースが見られた印象.基本的には地形的に起こりうるところで起こりうる現象が起こっている.
地形が被害に影響している例.杷木インター付近の国道386号 goo.gl/TwUwKq 道路は手前の台地側から氾濫平野に向かって下っており,氾濫平野部分で浸水や土砂の堆積が生じているようにみえる. pic.twitter.com/qmAX8oVS1c
洪水ハザードマップ整備が進みにくい山地の中小河川での災害危険性を知る上では,地形分類図(というか中学理科社会の地形の知識?)が有効であることをあらためて感じた.地形分類図は見方に難しいところがあり,災害情報として万人に「使ってください」とは言いにくいけど.
ちょっとわかりにくい写真だが,杷木インター付近の北側斜面では,斜面の至る所で崩壊が生じているような場所もあった.ただし,こういった状況が朝倉市一帯に見られているわけではない.より山間部の状況は不明.崩壊面積は広いが浅い崩壊がほとんどのような印象.このあたりは今後出てくる航空写真で明瞭になるでしょう. pic.twitter.com/BgB6FsX6jc
現地を見てあらためて,山地河川の洪水は怖いなと.去年の岩泉と共通する印象.もっとしつこく「山地河川の洪水は怖いよ,豪雨時に山地河川の脇からは少しでも離れようよ」ともっとしつこく言っておけばよかった,と悔やんだ.写真は2016年台風10号災害時の岩手県岩泉町安家地区. pic.twitter.com/BI6zuHiYyr
ハザードマッブで浸水想定区域や土砂災害警戒区域と示されていない場合でも「川と同じくらいの高さにある場所」は,浸水などの被害を受け得る.「川と同じくらいの高さ」とは普段の水面の高さではなくて,水面に向かってへこみはじめたところの高さのこと.絵が下手ですみません. pic.twitter.com/wMBVgCfKjR
7/1~5の九州北部のアメダスデータによる1時間降水量の最大値の分布.×が1976年以降最大値(統計期間10年以上)を更新した地点.更新地点は朝倉(福岡県)のみ. pic.twitter.com/zs5oq13pDN
7/1~5の九州北部のアメダスデータによる3時間降水量の最大値の分布.×が1976年以降最大値(統計期間10年以上)を更新した地点.こちらは更新地点は朝倉(福岡県)と日田(大分県)の2箇所. pic.twitter.com/2ynHlyJELg
7/1~5の九州北部のアメダスデータによる72時間降水量の最大値の分布.×が1976年以降最大値(統計期間10年以上)を更新した地点.更新地点は朝倉(福岡県)のみ.1,3時間の更新状況からも,激しい雨が生じた範囲が局所的だったことがよくわかる. pic.twitter.com/NruLWh2vLz
ツイートした主なものを記録としてあげておきます.
まだ降水継続中だけど,ひとまず5日24時時点の降水量記録を少し整理.7/3~5のAMeDAS朝倉の降水量推移.20mm/h以上の強い雨が9時間継続.これだけ多いとあまり意味ないけど,前方集中型の降雨波形.1976年以降の最大72時間降水量を大幅に超過. pic.twitter.com/V4ViWKNL8b
7/5のAMeDAS朝倉の降水量と過去記録との比較.すべての降雨継続時間の降水量が1976年以降最大を大幅超過.どのような角度で見ても「最近数十年間で最大規模の大雨」と言っていい降り方.ただし,全国の最大記録には及んでいない.(図添付忘れ再掲) pic.twitter.com/POjK3csVb3
AMeDAS朝倉の東方約8km(朝倉市黒川字北小路6500,標高220m)にある福岡県所管「北小路(きたしょうじ)公民館」の7/3~5のの降水量推移.強い雨の継続時間は朝倉と同様だが,80mm以上の猛烈な雨が6時間観測.24時間は803mmに. pic.twitter.com/NymILW3En9
北小路公民館は過去の統計値が整備されてないので,AMeDASのように過去の記録と直接対比できない.ただ,AMeDAS朝倉より山間部ではあるけど,メッシュ気候値では年降水量平年値は朝倉付近1860,北小路付近2020で,それほど大きく異なる場所というわけではなさそう.
で,7/5の北小路公民館の降水量と過去記録との比較.同地点の過去記録と比較ができないのだが,12時間降水量以下ではAMeDAS全地点の1976年最大値に近く,12時間は上回っている.直接比較はできないが,これは確かに記録的な大雨だと思う.48,72時間は大きくない.抑制的に言い過ぎてあまりわかりにくいかな.全AMeDAS1300箇所の1時間~12時間降水量の最大(最悪)な値に近い値を,今回一観測所だけで記録して,12時間は更新しているわけで,めったに「これは大雨だ」と思わない私から見ても大雨だと思う.ただし,範囲はごく狭かったようだ. pic.twitter.com/doPb8L64KJ
九州北部のAMeDASの24時間降水量の1976年以降最大値.このあたりの山間部で24時間500mmくらいだとそれほど驚かないけど800mmはさすがに多い. pic.twitter.com/jiFhL0PGyI
2017年6月29日から30日にかけて,長崎県・壱岐島(全域壱岐市)付近で豪雨が発生した.島嶼部における実質的な大雨特別警報と言える「50年に一度の大雨」の情報や,記録的短時間大雨情報,土砂災害警戒情報が発表された本格的な大雨だった.
まず,これら情報の気象庁web画面を記録としてメモしておく. pic.twitter.com/XuBLKF8bzF
AMeDAS芦辺の1時間降水量と72時間降水量の推移.先行降雨がほぼ無い中で雨脚が急激に強まった形.降り始めが特に強かった. pic.twitter.com/HmQi2zX49G
AMeDAS芦辺の降水継続時間毎の降水量を,1977年の観測開始以降の最大値と比較.1~35時間は既往最大を更新しており,かなり怖いパターン.ただし48,72時間はそれほど大きくない.全国の最大値と比べれば大きくない. pic.twitter.com/3HOcb7UfqM
今回の豪雨による壱岐市の被害は,今のところ特に大きなものは確認されていない.長崎県の6月30日11時資料 goo.gl/Eesnyt だと,人的被害はなく,家屋被害は床下が「3箇所」.珍しい表現だが3棟と読み替えていいだろうか.
壱岐島での直近の風水害としては,1999年6月29日の梅雨前線豪雨によるものがある.旧芦辺町で斜面崩壊により1人が亡くなっている.総務省消防庁資料では,長崎県内で全壊7棟,半壊2棟,床上浸水45棟,内訳が不詳だが,6月30日西日本新聞記事などから判断すると,被害は主に壱岐島だったらしい.今回の被害はまだ変動する可能性があるが,1999年6月29日の豪雨時よりは被害規模は小さい可能性がある. pic.twitter.com/cruT0KYK0g
1999年6月29日のAMeDAS芦辺の降水継続時間毎の降水量を,2017年6月30日の記録と比較.1時間降水量は同等だが,他の継続時間ではいずれも今回の方が上回っている. pic.twitter.com/h667zMGXy1
1999年6月29日のAMeDAS芦辺の1時間降水量と72時間降水量の推移.このときは2日ほど前にもまとまった降雨があったことは2017年と異なっている. pic.twitter.com/4F6NRWNkCX
降水量の記録で見ると,今回の方が1999年6月29日より激しかったように思われる.それに対して被害は少なかったように思われる.人的被害だけでなく家屋被害も少ないので,避難等ソフト対策の効果,とは言いがたい.ではなぜか,というのはかなり難しく,多分調べてもなんとも言えなさそう.
ところで壱岐島では,1997年10月14日に竜巻による死者1人も生じている. pic.twitter.com/LdyDcuBYsb
竜巻の死者はごく稀で,気象庁の一覧 goo.gl/RwTthu でざっと見ると1990年代以降では1997/10/14壱岐の例のほかは,2012/5/6常総市1人,2011/11/18徳之島町3人,2006/11/7佐呂間町9人,2006/9/17延岡市3人のみである.
なお,1990年代前半以前の壱岐島での風水害事例については,手元ではよくわからない.