2017/10/26三重県多気町付近現地踏査雑感
2017年台風21号災害で,人的被害には至らなかったが,個人的に少し注目されたのが,三重県多気町長谷地区の土砂災害.台風を警戒して避難した人が集まっていた公民館が土砂災害に見舞われたものの,犠牲者は生じなかったというケース.10月26日に現地踏査した.
被災した公民館を下流側と,建物のすぐ上流側から見る.木造平屋建てとみられるが,上流側の壁は大きく損壊し,瓦屋根が倒れ込んでいる.屋内にも土砂や流木が流入している.「半壊」とも報道されているが,最終的には全壊の判定となるかもしれないと思うような被害状況だった.
これについて,10月25日付け朝日新聞(三重面)は次のように伝えている.
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公民館に避難した住民らによると、22日は夕方から土砂降りの雨で、小学生を含め13人が避難していた。異変があったのは午後10時すぎ。停電とほぼ同時に、ドアから赤い泥が流れ込んだ。地響きとともに「ドーン」「ガラガラ」という雷のような音や、「バキバキ」という音がした。住民は「早う逃げや」などと声をかけ合い、近くの民家に逃げた。3、4分の間隔で衝撃が2回襲ったという。1971年にも付近で土砂崩れがあったため、住民は異常な物音がしないか警戒していたという。逵昭夫・自主防災会長(73)は「過去の教訓があるから逃げられた」。
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被害状況や,この記事の内容から考えると,「土砂災害の前兆現象」を察知し,緊急的な避難に成功して難を逃れた事例,ととれなくもない.人的被害が生じなかったことは幸いだと思う.
しかし,「多気町防災マップ(平成26年)」を見ると,この長谷公民館の位置は急傾斜地崩壊危険箇所の範囲内にあり,土石流危険区域のほぼ「縁」に当たっていることがわかる.長谷公民館は「第一次避難所」とされている.このハザードマップによれば多気町における第一次避難所とは,「小規模災害時に開設する一時的に避難するための避難所」とのことで,「まずはじめに第一次避難所への避難を検討してください.災害の状況に応じて,危険がある場合は,町が優先して開設する第二次避難所等に避難してください」と解説されている.そして,長谷公民館は「急傾斜地崩壊危険箇所」であり,災害に対して危険がある可能性があることも表記されている.
つまり,長谷公民館が土砂災害に見舞われたことは,「想定外」とか,「あるはずがない」ことではなく,十分ありうることだったと言える.実際に発生したのは,ハザードマップで直接想定されていた急傾斜地の崩壊ではなく,土石流危険渓流ともなっていなかった公民館北西のちいさな沢からの土砂流出だが,公民館周辺に複数の土砂災害危険箇所が示されていたことから考えると,発生した事象が「想定外」とは言えないと思われる.下の写真は,崩壊源東部を見上げたものと,上流側から公民館方面を望んだもの.
したがって,あえて厳しく考えれば,風水害の危険性がある際に,この公民館に「避難」することは,必ずしも適切ではないことは予見可能であり,少なくとも「成功例」と考える事は適切でないように思う.
無論,こうした中山間地で「確実に安全な避難所,避難場所」を,徒歩でも移動が困難でない近隣の位置に確保することは非常に困難を伴う.この公民館に避難していたことが「誤ったことだった」とは言えないと思う.不測の事態がないか警戒していたなど,可能な範囲での対応は取っていたとも思う.しかし,今回土砂流出の速度がたまたまゆっくりであったことに救われている面もあると思う.土砂災害の「前兆現象」とよく言われるが,あれは「前兆現象」と言うよりは「発生情報」である.土石流等の速度(数十km/h)を考えると,覚知したとしても,残された時間は秒単位でしかない.「前兆があったら行動」では手遅れとなる危険性が高いと思う.
反感を持たれるだろうとは思うが,それでやはりあえて言いたいが,これは「防災意識を高く持った共助の効果」というよりは,「偶然」の結果だと思う,ただし,ではどうすればよかったのかという「正解」もない.何を重視するか,最終的には各自が考えるしかないと思う.
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